あの約束
幼馴染みのジェネシスは子供の頃から神羅のソルジャーに憧れていた。いや正確にはソルジャーというよりは英雄セフィロスに憧れていたのだろうが。正直神羅にもソルジャーにも英雄にも関心がなかった俺には、そこら辺の細かいところはどうでも良かった。
ジェネシスはリンゴを育てるのが好きだったし、バカリンゴを使ったジュースなんかも子供ながらに考案したりして、てっきり実家を継ぐものなのかと思っていた。そうしたら、やっぱりソルジャーになりたいらしくて、神羅からソルジャーに成るための募集要綱だのパンフレットだの、そんな物を色々と取り寄せて眺めては、俺に神羅カンパニーのスゴさやらソルジャーへの憧れなんかを良く語ってみせた。
俺はというと、どうしても母親のジリアンを一人残してバノーラ村を出て働くなんて事は、やはり考えられず。自然が好きだし、植物の世話をするのも好きだったし、バノーラ村でリンゴやリンゴ以外の農作物なんかを育てながら、貧しくても母親と二人でのんびりと暮らせれば良いと、そう思っていた。大体、自分にはミッドガルなんて大都会で暮らすこと自体が想像出来なかった。
実は、ジェネシスがソルジャーへの夢を語る時。暗に俺も一緒に……と、誘いたいのだという事は分かっていた。でも、俺はそういう訳でソルジャーになる事もバノーラ村を出る事も考えられなかったから、ジェネシスの気持ちには気が付かない振りをしていた。
ある時、ジェネシスの家に遊びに行った時。例によって、ジェネシスは神羅カンパニーのパンフレットなどを取り出して、色々と語り始めた。多分、ジェネシスには俺とは違ってミッドガルという都会の生活への憧れもあるのだろう。俺は何度見ても鋼鉄の塊だけで構成された、緑の無いあの街に住みたいとは思えなかったが。
ジェネシスの語りを適当に聞き流しながら、パンフレットを戯れにパラパラと捲ってみる。
ソルジャーについてのページがふと目に止まった。ソルジャーになってあなたも英雄セフィロスのように世界で活躍しましょう、みたいなページだ。
そのページには、ソルジャーに与えられる特典などについても色々と載っていた。生活場所は、神羅の設備が良く整った宿舎があるから安心だとか、ソルジャーのクラスが上がれば更に良い住居が提供されるらしい事。そして、ソルジャーになると様々な支給品が与えられる事。ソルジャーとして必要な物が── 例えば、武器やら防具やら制服の類が支給されるのは当然の事だろう。だが、その案内に書いてあった支給品には、日用品から趣味で使う様な物まで、ありとあらゆる物が含まれていた。生活の場所が与えられて、日常必需品まで支給されるのなら、全く金が掛らずに生活出来るのではないのだろうか?
俺は、唖然とした。
それと同時に、急にソルジャーへの興味が湧き上がった。
母親を一人残して村を出るのは、やはり心配と言えば心配だったが、自分の生活に全く金が掛らないのならば、ソルジャーとしての給料は殆んど全て仕送りに充てる事が出来る。身体の悪かった父を支えて苦労して俺を育ててくれたジリアンに楽な生活をさせてやる事が出来る。
「俺もソルジャーの試験を受けてみようかな」
思わずそう呟くと、ジェネシスの顔がぱあっと明るくなって、嬉しそうに俺にしがみついてくる。
「そうしようよ。アンジールも一緒に……ソルジャー試験、受けよう!」
俺の顔を覗き込んで、そう言った。
そして、一緒にソルジャーになって、二人で英雄セフィロスみたいに世界のあちらこちらで活躍するんだ、と。
遠い日に、二人で語りあった、あの約束。
end
2008/5/13