遠慮も容赦も無い

幼い頃、バノーラの工場の地下に作った秘密基地。
子供の頃の密やかな思い出。ただただ、無邪気で純粋無垢な夢を見、追い掛けていられたあの頃。

「こんなところにいたのか?」
バノーラの地下にあるかつての秘密基地跡でアンジールを見つけて、思わず声を掛けた。子供の頃の、しかもジェネシスだけの秘密基地などアンジールが関心を持つとは思えなかったから、一体こんな場所で何をやっているのかと不思議だった。
アンジールの視線は、机の上に置いてあったかなり古い、まだ子供だった時分の雑誌の切り抜き記事に注がれていたようだ。それが目的という訳ではなく、たまたま目に留まったのだろう。それはごく小さな記事ではあったが、バノーラ村の住民、それもまだ子供のジェネシスが雑誌のインタビューを受けるという事自体が、小さな村ではセンセーショナルな出来事で当時はかなり話題となっていた。だからアンジールも当然、その記事を見るのは初めてでは無いと思う。
「随分、懐かしいものを見てるな」
今更、こんな古い記事をまじまじと見られても恥ずかしいだけだ。ジェネシスは苦笑を浮かべて適当に流そうとした。
だが、それとは対称的にアンジールは眉間に皺を寄せ不快そうな表情を露にした。
「何が気に入らない?」
ジェネシスは、片手を延ばしアンジールの眉間の皺を撫でながら、率直に聞く。
「いや── お前は、子供の頃から英雄の話ばかりしていたと思い出して、な。『LOVELESS』より聞かされたかも知れない」
溜め息混じりに零すアンジールに、ジェネシスは少し呆れて苦笑を洩らす。
「まさか、今更妬いているのか?」
「かもな……」
今までは、ジェネシスを友人としてしか意識していなかったから湧かなかった感情。馬鹿馬鹿しいとは思うが、今になってジェネシスはセフィロスの方が好きなのではないかと疑ってしまう。
ジェネシスは明るいオレンジレッドの髪をふわりと揺らすと、僅かに唇が触れるだけの極々軽いキスをした。
「英雄になら、こんな事だって許さないさ」
微笑を湛えてアンジールの碧玉を見詰める。
「じゃあ、俺にはどこまで許してくれるんだ?」
不意に、アンジールはジェネシスの細顎を掴むと無理矢理口付けた。
アンジールの舌はジェネシスの口許をこじ開けると強引に侵入し、口内を乱暴に荒らす。
「……んっ!」
ジェネシスは、苦しそうに眉を顰めると、よろけそうな身体をアンジールに縋りついて支える。
絡めた舌ごと強く吸い上げてからアンジールは唇を離すと、間髪入れず白い首筋に噛みつく。更に体勢を崩すジェネシスを堅い岩壁に押し付けて、コートの下に両手を差し入れ服の上から身体をまさぐる。やがて、乱れた服の裾から今度は直接素肌に触れる。脇の下辺りから腹筋に指を滑らせ、もう片方の手で胸の突起を摘むと艶めいた声が洩れるのを、再度口付けて黙らせる。
流石に苦しくなったのか、ジェネシスは少し身を捩らせて唇を外すと、抗議の声を上げる。
「アンジール……背中が──
ジェネシスの身体が押し付けられている岩肌は、ごつごつと堅く、革のコート越しであっても多少痛い。
「翼を出せ──
予期せぬアンジールの言葉にジェネシスは目をみはる。
翼をクッション代わりにしろ、という事らしい。
渋々ながらも言われた通りに、片翼を出してみせる。大きな光沢のある黒い翼。風を切る音と共に、周囲には黒い羽根が幾つかふわりと舞う。
「綺麗だ── 。まるで、元々お前に生えていたみたいに美しい。似合ってる」
アンジールは、翼に顔を寄せ軽く唇を落としながら感嘆の声を漏らす。
「そんな事を言われても、嬉しくない」
ジェネシスは、ぷいと不服そうに顔を逸らす。
「そう、拗ねるな。俺は、この姿のお前も好きなんだ」
アンジールは、宥めるようにその柔らかな赤髪を撫でてやり、その白皙の頬に口付ける。
再び、ジェネシスを岩壁に押し付けて、ベルトのバックルを外し始めると、ジェネシスも自ら脱ぐのを手伝い始めた。お陰で、容易く下半身が露になる。
アンジールは屈んで、ジェネシスの熱を口中に含むと、時折溢れた唾液を掬ってジェネシスの後孔にも指を忍ばせる。前と後を同時に責められて、その強い快楽にジェネシスの脚は震え、背後の岩壁に寄り掛っていないと上手く立ってもいられない。
「あっ! ……くっ……」
アンジールの追撃は止まず、膝から力が抜けて遂には立ち続ける事も叶わず、到頭その場にへたり込む。すると、そのままその場に横たえられて。今度は後孔から指を抜き、直接アンジールが己自身をあてがってくる。
「はあっ……アンジール」
アンジールの熱がゆっくりじわじわと侵蝕するかのようにジェネシスの裡を満たしていく、その感覚が堪らない。
「んん……もっと──
ほぼ無意識にジェネシスは強請っていた。
応えるようにアンジールは、一気に腰を進め深い所に侵入してくる。
「ン……やだ!」
先程までは、「もっと」と強請っていた癖に、少し強い刺激を与えてやっただけで、直ぐに拒絶の意を示す。そんなジェネシスが愛しくて堪らない。もっと、もっと追い詰めたくなる。
アンジールは、ジェネシスの裡から自身を引き抜いて、洞窟の堅い床からジェネシスを引き上げるように起こしてやると、壁に向かって立たせる。
そして、今度は背後から己を突き立ててやった。
「くっ……ぅ!」
身を捩るジェネシスを、逃れられないように背中に生えた片翼を掴んで動きを制限する。
片翼を抑えられて苦しいのに、アンジールから与えられる律動はジェネシスを快楽へと導く。
「あぁ……んっ! アンジール」
辺りには、黒い羽根が無数に舞い散り、アンジールの心の裡を象徴するかのように降り積もる。
それは、ほんの少しの嫉妬。
ほんの少しの不安。
ほんの少しの焦り。
心の裡にちらりほらりと落ちる黒い影がアンジールを駆り立て、ジェネシスを容赦なく責め立てる。
── 自分にこれから生えてくる翼もこんな風に黒いのだろうか。
これからの自分達の未来を暗示するような漆黒の翼。
それでも、ジェネシスの背中にいただくそれは、美しく愛おしい。
愛してる── アンジールは、ジェネシスに聞こえない程度に小さく呟いて、ジェネシスが果てるまで執拗に穿ち追い立てた。
正直、自分自身の快楽など、どうでも良かった。
ただジェネシスを貪りたかった。ただジェネシスを欲望の渦の底に沈めたかった。
遠慮も容赦もなく、ただひたすら自分の裡に渦巻くどす昏い欲望にまみれさせたかった。
「嫌だっ! アンジール、もう……」
ジェネシスの嘆願も聞かずに何度も何度も果てさせた。体内の欲望を全て吐き出させるかの如くに。

散々イかされてぐったりとしたジェネシスを、優しくその腕の中に包みこむように抱く。
ジェネシスは、アンジールを責める事もせず、右手をゆっくりと伸ばしアンジールの頬をそっと撫でる。
「嫌……だったか?」
「嫌なんかじゃないさ」
ジェネシスは、何でもない事のように軽い口調で言ってから、「でも、次からは少し加減してくれ」と、苦笑を洩らした。

end
2009/1/1