虚構の星
どこか寂しそうな何か物足りないような、時折そんな瞳で幼馴染みがミッドガルの夜空を仰いでいるのをアンジールは知っていた。
いつものようにトレーニングルームで落ち合う約束をしていたある日のこと。
ジェネシスが室内に入った時、先に来ていたアンジールは既にコントロールパネルの前に陣取り、キーボードを叩いていた。
やがて、ジェネシスには見覚えのある風景がヴァーチャル空間に形成されていく。
「バノーラ……か」
アンジールの背後に近付いて、ぽつりと呟く。
「ああ、今日はちょっとお前と一緒に見たいものがあってな」
アンジールはコンソールの方を向いたまま、振り返らずに答える。
ジェネシスがアンジールに近付いて、触れ合う程の距離にまで来た時、次いでセフィロスが入室して来た。
英雄の姿を認めて、アンジールに寄り添い掛けていたジェネシスは慌てて、だが不自然ではないようゆっくりとアンジールから身を離す。その時、タイミング良くアンジールの声がトレーニングルームに響いた。
「セッティングが終わったぞ」
すると、バノーラを再現していた虚構の世界は太陽光を失ない、一気に夜となった。空には太陽の代わりに無数の星が瞬いている。
眠らぬ街ミッドガルでは、決して見る事の叶わない降って来そうな程の大量の星達。
ジェネシスは、少し呆れたような声音で発する。
「一緒に見たかったって……コレが?」
「ああ」
「……別に、わざわざココで見なくたって」
どんなに美しくとも、所詮は虚構の星だ。ミッションに赴けば、幾らでも任地で見る機会はある。
「だが、三人揃って見る機会は、なかなか無いだろ?」
「確かに、一人だと空を仰ぐ事も無い、かもな……」
不意にぽつりとセフィロスが呟く。
星は虚構でも、三人で見たという思い出は紛れもない真実だ。
思い出の共有は、心を繋ぐ鎖となる。それは何時の日か絆へと昇華されるだろう。
ジェネシスが黙って星を眺めていると、コンソールから離れたアンジールがいつの間にか隣に立っていた。
ふっと右手に宿る暖かい感触。極さり気ない最低限の挙動でアンジールの左手がジェネシスの右手を握る。
場には三人居るのに、密やかに行われる二人だけの秘め事。
だが、こんな“手を繋ぐ”など、幼馴染みの二人には子供の頃から何度も経験した行為だ。
しかし、ジェネシスは握られた右手に体温以上の熱を感じて、その熱が右手を通して体内に広がり全身が熱くなる。
── 離れたくない
── 離したくない
例え、この空間が虚構であっても、この温もりは、この想いは、確かな真実。
星が願いを叶えてくれるという伝承が本当ならば、ジェネシスが望む願いは只ひとつ。
虚構の星が叶えてくれる願いなど、如何程のものか、たかが知れている。それでも、祈る価値のある願いだった。祈らずにはいられなかった。
ジェネシスは星に願掛けをしながら、アンジールの手を握り返す。
応えるように無言で握り返されるのに、幼馴染みの願いも自分と同じであると確信する。
神羅を離れ、遠く独り天を仰いでは思い出す。
アンジールとあの日交わした言葉の無い約束。今でも変わる事のない想い。
約束の無い明日。
でも、最後に巡り会えればそれで良い。
例え袂を分かとうとも、例え道を違えようとも、この右手に残る熱は誰にも奪えない。
虚構であっても、三人で星を見たという事実を誰にも消す事が出来ないように。
end
2009/8/7