お前と俺の境界線

トレーニングルームで、向きになってセフィロスとやりあって、折角アンジールが止めようとしてくれたのに無視して、結果軽い怪我を負う羽目になった。
そう、軽い怪我の筈だった。だが、幾日か経過しても治りが悪くて、輸血が必要だとホランダーに言われた。出血なんか殆んどしてないのに、輸血が必要だなんてお笑い草だ。明らかにおかしいとホランダーに詰め寄ると、俺は人間ではないのだと言われた。俄かには信じ難い話で、でも、揶揄っている様子でもなく真剣そのものといった風情で打ち明けられ、疑心暗鬼ながら話を聞くしかなかった。
俺は神羅の人体実験による成果として産み出された存在で、俺が1stに容易く成れた程の優れた戦闘力や魔力を有していたのは、実験の際に移植されたジェノバ細胞のおかげらしい。ふざけた話だ。
更にふざけた事に、ジェノバ細胞のコピー能力の所為で劣化までしているのだと教えられ、傷口を見せられた。皮膚が変質して色を失ない、それは傷口周辺にまで範囲を拡大しつつあった。
アンジールの血を輸血すれば、とりあえずは劣化を抑えられると思う、そう言われた。但し、それは一時凌ぎにしかならないだろうとの見解付きだった。

◇◆◇

俺が医務室で目を覚ますとアンジールがベッドの端で両腕を枕にして顔だけ伏せて眠っていた。俺の為に輸血用血液を提供した後、律儀にもずっと傍に付いていてくれたらしい。アンジールの事だから、俺の容態が悪化してからずっと禄に寝ていないのだろう。
眠るアンジールの髪をそっと撫でようと手を伸ばす。が、触れる直前になって躊躇われて、結局手を引っ込めた。
俺は、人間ではないのだ。
例え親友で幼馴染みといえども、気軽に触れてはいけない気がした。
今、俺とアンジールの間には、目に見えない境界線がある。
人間とモンスターという、明確な境界線が──
不意に目頭が熱くなってアンジールを起こさないよう手で顔を覆い、声を抑えて嗚咽を漏らす。もう何事も無かったかのように、ただの幼馴染みや親友として付き合って行く事は出来ない。
アンジールは普通の人間で、だからアンジールの血液を輸血する事に因って普通の人間に近付く。劣化が抑えられる。当時、そのように理解していた俺は、アンジールとは近いうちに完全な別離が訪れるであろう事を覚悟していた。

end
2009/1/1