Next-Door
「1stに昇格したんだってな、おめでとう」
ソルジャー司令室で1st昇格の辞令を受けて、エレベーターでソルジャーフロアへ戻ってきたジェネシスに、アンジールは開口一番そう告げた。
「本気で言ってるのか?」
ジェネシスは僅かに眉間に皺を寄せ、あからさまに不機嫌そうに答えた。
「どうした? ようやく憧れのセフィロスと同じ1stになれたんじゃないか。嬉しくないのか?」
「お前が……一緒じゃないのに……」
俯くジェネシスの表情は僅かに翳りを見せる。今回の昇格試験で1stに昇格出来なかったアンジールには、何と返事をしてやれば良いのか分からなかった。ジェネシスは、消え入りそうな声で続ける。
「1stと2ndじゃ、きっと任務だってバラバラだ。会える時間だって少なくなる……」
アンジールは辺りをさっと見回して誰も居ない事を確認すると、失意に落ち込む恋人の肩をそっと抱き寄せた。ジェネシスは、抱き寄せられるままにアンジールに身体を密着させると、アンジールの襟首を掴み下から顔を覗き込むようにして言った。
「お前も早く1stになれ! 俺を……一人にするな」
「分かった。約束しよう。……だから、暫くの間は我慢してくれ」
そんな遣り取りがあったのは、もう一年近くも前の事。
あれから、数ヵ月後にはアンジールも無事1stへの昇格を果たし、問題は解決したかに思えた。── が、現実はそう甘くはなかった。
アンジールがミッションを終え、ブリーフィングルームに顔を出すと、まるでアンジールの帰りを待っていたかのように席に着いていたジェネシスが立ち上がって、アンジールの身体に身を寄せてきた。
「── わざわざ、待っていたのか?」
静かな声でアンジールが問い掛ける。
「だって、同じ1stになったのに……前より全然逢えなくなった」
1st同士で組む様な任務は思いの外少ない。1st単独か2ndや3rdを伴う様な任務が多いからだ。
「こういう仕事なんだ。我慢しろ」
アンジールは、宥めるようにジェネシスの頭髪や背中をゆっくりと撫でてやる。
「仕事だから、仕方がないのは分かってる。でも……」
ジェネシスは言い置いて、ほんの少しアンジールの肩に頭を乗せる。
「もっと、一緒に居たい」
珍しく素直に、ともすれば弱音とも受け取れる様な甘えの言葉を吐かれて、却ってアンジールは胸が苦しくなった。そして、うっかりと呟いてしまったのだ。
「── せめて、2ndの頃みたいに部屋が同室だったら……な」
今現在、二人の居室は別々である。しかも、部屋の位置はそれぞれが1stに昇格した時に空いていた部屋へランダムに入れられた為、離れているどころかフロアさえも違っていた。部屋が離れているとそれだけで、意外なほど会える時間は少なくなる。
「同室……?」
その言葉にジェネシスは、ぴくりと反応した。どことなく光明を見い出したようなジェネシスの表情に、アンジールは慌てて付け加える。
「さすがに1stで同室は、無理だがな」
僅かに差した光を直ぐに失なったジェネシスに、アンジールも罪悪感を覚えたがこればっかりは仕方がない。諦めて我慢してもらうより他ないのだ。
◇◆◇
数日後。
久しぶりの休暇で、アンジールがのんびりと自室の観葉植物の世話をしていると、隣の部屋からガタゴトと、何やら賑やかしい音がする。
何時もなら隣室の音など特に気にも留めないのだが、その時は何故だか無性に気になって、自室のドアを開け隣の様子を窺ってみた。
隣室のドアは、開け放たれたままになっている。
そこへ、荷物を抱え運び込もうとしている人物は、どう見ても良く見知った赤髪の幼馴染みだった。
「ジェネシス!?」
思わずフロアに響く様な声を出してしまい、アンジールは慌てて声を抑える。
「……何を、やっているんだ?」
「見て分からないのか?」
ジェネシスは、不遜な笑みを湛えて言葉を返す。
「引っ越しに決まっているだろう?」
「引っ越し── !?」
「そうだ。お前も少しは手伝え、相棒」
アンジールは、そのままなし崩し的に引っ越しの手伝いをさせられてしまった。とは言っても、ジェネシスの荷物はそれ程多くはなかったので(少なくともアンジールの部屋にある観葉植物のような大きな荷物は無かった)、荷物を全て運び入れるのにあまり時間は掛らなかった。引っ越しの際に処分してしまった物も大分あるようだ。
兎にも角にも一段落が付いて、ジェネシスの部屋はまだ片付いていないので、とりあえずアンジールの部屋で一息つく事にした。
「一体、なんで急に引っ越しなんて……っていうか、私室の変更なんて簡単に出来るのか?」
アンジールは、二人分の紅茶を煎れ、それに林檎のジャム入りのポットを添えてテーブルに置くと、どっかりと疲れた様子でソファに腰掛ける。
「勿論、ラザードに頼み込んだに決まってる。代わりに、難易度の高いミッションを幾つかやらされたがな」
言いながら、ジェネシスは隣室との間の壁をどかっと蹴り、面白くなさそうな顔で続ける。
「本当はこの壁も取っ払いたかったんだが、ラザードにそれだけは止めてくれと、懇願された」
「当たり前だ── 。全く、お前は……」
アンジールが額を片手で抑えて溜め息を洩らすと、ジェネシスはアンジールの隣に腰掛けて問う。その声は、どことなく弾んでいた。
「呆れただろう?」
「ああ……呆れたな」
即座に溜め息混じりの返事が返ってくる。ジェネシスは、座る位置を少しずらし相変わらず頭を抱えたままの幼馴染みに身を寄せると、そっと耳元に唇を寄せて囁いた。
「諦めろ。── 呆れる程、好きなんだ」
囁きと共に、アンジールの頬に軽く唇で触れる。
アンジールは、ジェネシスの肩に手を掛けなかば強引に引き寄せると、頬に触れた唇を無理矢理自分の唇の方へ移動させる。
「分かってる」
そう、低く呟きながら── 。
end
2008/9/16