小夜時雨
テーブルの上の黒い携帯端末が着信音と共にイルミネーションを煌めかせる。時は既に深夜近く、ジェネシスはとうに任務を終え宿舎に戻り寛いでいた。外には、その冷たさが部屋の中にまで伝わってきそうな雨が降っている。
ジェネシスは携帯端末の画面で幼馴染みの名前を確認してから、電話を取った。
「どうした? 相棒」
「── ジェネシス、これから……行ってもいいか?」
低くて馴染む声が耳に触れる。
「ああ、構わない」
短い会話を済ませて電話を切る。
今日の任務はどうだったかなど、野暮な事は聞かない。声の調子で解るからだ。
程なくして、インターホンの音が部屋に鳴り響く。ジェネシスは、すぐにドア口に向かうと幼馴染みを出迎えてやった。
アンジールは自室には寄らず、真っ直ぐに此所に来たのだろう、未だ制服のままだった。
黒い制服からは、雨と血の臭いが漂う。
「身体が冷えているな……」
ジェネシスが言い終わるかどうか、というタイミングでアンジールはジェネシスの身体に覆い被さるようにして、きつく抱き締めてきた。
アンジールの手がジェネシスの頬に触れ、顎を掴み上向かせる。黒い革の手袋も雨に濡れ冷たく湿っていた。
「── ぅん……」
行き成りの貪るようなキスに、ジェネシスは甘い吐息を洩らす。
「ジェネ……シス」
アンジールの唇は名を呼びながら、顎から頸動脈に沿って白い首筋を辿る。それに合わせてジェネシスの息も次第に乱れていく。
ベッドに行く間も惜しいかのように、アンジールはジェネシスの身体をリビングのソファに押し倒した。
革の手袋を外すと、切羽詰まった様子でジェネシスの着衣を乱し、白い素肌を露わにしていく。その白皙に朱を落としながら、両の手で腹筋や腰を弄る。ジェネシスは愛撫を受けながら、アンジールの少し水分を含んだぬばたまの髪を優しく梳いてやった。
「くっ……」
不意に胸の突起を啄まれ息を詰める。一方でアンジールの手は下着の中にまで忍び入ってくる。腰骨をなぞるようにしてそのまま下着ごとズボンを引き下ろすと、早くも後孔に指を滑らせてきた。
「あっ、つ── 」
苦痛に顔を歪める。まだ硬い蕾は、アンジールの侵入を許さない。
息を荒げたジェネシスは、自分の足の間で携帯用のローションを取り出し封を切るアンジールの姿を黙って見詰めていた。
自分でも性急に過ぎると思うが、アンジールにはもう抑えが利かなかった。手早く後孔を解ぐすと己れのモノを突き立てる。無理矢理肉壁を割って入り、ジェネシスの体内に完全に自身を沈める。
ようやくひとつになって、少し落ち着いたアンジールはジェネシスの目端に光る水分を軽く舐め取ってやった。
こんな風に強引に身体を繋いでも、自分の事を良く分かっているジェネシスは文句のひとつも言わない。ただ、黙って受け入れてくれる。
必要最低限しか衣服を脱いでいなかったアンジールは、ここでようやっと裸身になった。互いの体温を確認するかのように肌と肌で直接触れあう。雨に濡れて帰ってきたアンジールの身体はまだ冷えていたが、中心は熱く滾っている。
お互いの熱を感じ合う事が、お互いの熱を伝え合う事が、何よりも二人の心を満たす。
やがてアンジールは、ゆっくりと律動を開始した。
狭いソファの上では思うように身じろぎも出来ず、ジェネシスは簡単に最奥への侵入を許してしまう。
「ん……ぁあっ、アンジール……」
縋るように手を伸ばしてキスを強請る。
セックスの最中のキスは最高のエクスタシーをもたらす。二人とも夢中になって、互いを貪った。
甘えるように、誘うように、ジェネシスは更なる嬌声を上げ、両足をアンジールの腰に絡ませる。深く深く穿たれて、悲鳴を上げながらアンジールの背中に爪を立ててしがみつく。
ジェネシスの柔らかな赤髪にキスを落としながら梳いてやって、アンジール自身もジェネシスの身体に恍惚と酔いしれる。
内壁を擦り上げてくる肉塊に追い詰められて、脈動を捉えるように締め上げてくる内壁に陥落して、ジェネシスとアンジールはほぼ同時に果てた。
熱い白濁したものがジェネシスの裡に広がるのを感じて、アンジールは満足げにもう一度恋人の唇を貪る。
愛しい人。
この人がいなければ、自分は生きていけないと思う。
何もかもを許してくれる、何もかもを与えてくれる、大事な人。
幼馴染みで親友だった二人が身体を繋ぐようになったのは、二人が1stに昇格してからの事だ。
神羅カンパニーは、健全とは言い難い企業である。故に、その会社から指示される任務も健全とは言い難いものが多々あった。いわゆる、「汚い仕事」といった類のものだ。
クラス・2ndまでだと、そういった「汚い仕事」は先ず回って来ない為、会社の暗部を知らないソルジャー達も多い。だが、クラス・1stともなると自然そういった仕事が増え、嫌でも知る事になる。
汚い仕事は請けたくないなどと、綺麗事を並べて片付けてはいられない状況で、ジェネシスはそういうものだと割り切って任務を遂行してきた。
アンジールも同じく── だが、何事もなかったように……とは行かなかった。
今日のアンジールの任務は「汚い仕事」だった。
意に染まない、神羅と実質関わりのない罪の無い人々を巻き込む、後味の悪い反吐が出そうな、最低の任務。
そんな夜には、無性にジェネシスが欲しくなる。ジェネシスの体温を── 熱を感じて、自分の冷えきった身体を、凍えそうな心を、全身で温めて欲しい。
ジェネシスと身体を繋ぐ── それによって得られる体温だけが、アンジールにとっての唯一の癒しであった。
ジェネシスは、ソファの上から手を伸ばすと、テーブルの上のティッシュを引き寄せ数枚引き出す。
怠るそうに腹の上に広がる自分の精液を拭う。ソファも恐らく多少汚れてしまっただろうが、仕方がない。革張りなので、後で拭けば問題ないだろう。
ゆっくり身を起こすと、シャワーを浴びてくる、と簡潔に告げてバスルームに入って行った。
シャワーを適温に調整して、ゆったりと浴びる。
雨に打たれるように、シャワーを浴びながら思考を巡らす。
アンジールが傷付き、落ち込んでいる時に、こうして自分を求めてくれる事は嬉しい。
自分を抱く事で、アンジールの欠けた部分が補えるなら、喜んでこの身を提供しよう。
だけど、何故こんなにもアンジールを遠く感じるのか── 。
アンジールが求めてくれるのが、身体だけではないと理解しながら、身体でしかアンジールの昏くて深い空虚な部分を埋めてやる事が出来ない。
結局、自分にはアンジールを心で支えてやる事が出来ないのだ。
理由は解っている。
ジェネシスには、アンジールの苦悩に理解は示せても、共感は出来ない。
どんな任務でも、ジェネシスにとってはどれも等しく同列で、ただ黙々とこなしていくだけだ。
それでも── 。
「愛してる……アンジール」
ジェネシスは、濡れそぼった赤髪をくしゃりと乱暴に掻き上げ壁に寄り掛ると、冷たい夜の時雨が通り過ぎるのを待つように、溢れる涙が全て流されるまでシャワーを浴び続けた。
end
2009/3/8