極めてプライベートなヴィデオ
別に何か見たい番組があった訳ではなく。ただ何となく背景として映像が映し出されていたテレヴィ。
アンジールが部屋を訪ねてきた時点で消すべきだったのかも知れない。
リビングのソファでゆったりと座って、ジェネシスはミッションから帰還してきたアンジールを両手を拡げて迎えてやった。
何か飲むかと問うたが、暫くはこうしていたい、と云ってアンジールはジェネシスの隣に腰掛け寄り掛かる。意味も無く流れ続けるテレヴィの映像を何となく眺めながら、アンジールの重さを肩に感じる。
幸せを感じる重さ。それだけで安心する。決して無為ではない充足した時間。
肩に感じる重さが不意にバランスを崩したかと思うと、アンジールの顔がジェネシスのすぐ目の前に在って唇が触れる。長期のミッションに就いていたアンジールとは当然顔を合わせるのも久しぶりで、キスの感触も久しぶりだった。
何度か繰り返される口付けは、触れるだけのものからお互いの舌を絡ませ合うようなものへと変化していく。
その時ふと、それまで無意味に垂れ流されるだけだった映像が突如有意味なものへと変化してジェネシスの目に飛び込んできた。
たまたま彼が以前見たいと思っていた映画が始まったのだ。生憎上映期間中は任務で忙しくて、結局劇場へと足を運ぶ事は叶わなかった。
ジェネシスは無意識に目線をテレヴィの方に向けて画面に見入る。
「これは、お前が見たがっていたヤツか?」
「ああ」
ジェネシスの関心は既に映画へと移っていた為、若干返事もおざなりになってしまう。だが、アンジールだってジェネシスがどれ程この映画を見たがっていたか知っている。特に咎められる事もないだろう。そうジェネシスは思っていた。
本格的に映画鑑賞の体勢に入るため、ジェネシスはキスを切り上げてテレヴィの方へ身体の向きを修正する。既にお帰りのキスとしては充分な量を交わした筈だ。
だが、アンジールの方は未だ満足がいかなかったらしく、映画を見るジェネシスを邪魔するように彼の身体をまさぐり掛けてくる。
「はあ……やめ、んン」
久しぶりの感触に、ジェネシスも映画に集中したいのに官能に溶かされて負けそうになる。
「アンジール……ぅん」
キスに応じながらも映画もやはり気になって、少し距離を取ろうと思いジェネシスはアンジールの身体を軽く向こうへと押し遣った。
でも、それが却ってアンジールの気に障ったのか、離れるどころか反対にソファの上へと押し倒されてしまう。
ジェネシスも意地になってアンジールの腕の中から逃れようと、ソファから降りて膝立ちとなりテレヴィとソファの間に設置されているローテーブルの上に手を掛けた。
その時、突然テレヴィ画面が真っ暗になってしまう。アンジールがリモコンで電源を切ったのだ。
「なっ! アンジール、何も切る事はないだろう!?」
抗議の声を無視するかの如く、アンジールはジェネシスの身体を背後からまさぐり続ける。ラフな部屋着しか身に付けていないジェネシスの身体は侵略しやすい。
ローテーブルに両手を付いた状態でどうにか体勢を維持しようとするが、アンジールは全く意に介した様子は無い。無遠慮にジェネシスの下半身まで伸びてきたアンジールの手が、着々と衣類を脱がしていく。
「あっ! ふ……」
後ろからピアスを外していた耳元を舌でなぶられて、一気に力が抜けてしまう。今やテーブルに付いた両手で身体を支えるので精一杯だ。
両手が自由にならないため思うように抵抗出来ずにいると、あっという間に下半身を露わにされてしまう。更に、アンジールの無骨な指が遠慮なくジェネシスの秘部を探ってくる。
「待っ! い、嫌だ。アンジール」
不意にある事実に気が付いたジェネシスは、慌てて拒否の意を示した。だが、アンジールはジェネシスを暴こうと躊躇いなく中指を突き入れる。
くっと、洩れる言葉にもならない苦悶と羞恥が入り混じった声。その抑えた声が、却ってただの嬌声よりも淫猥に聞こえる。
眉をひそめてローテーブルに爪を立てて引っ掻く姿は、苦痛の為に戦慄いているのか、快楽の為に震えているのか。
「駄目……だ、アンジール」
今尚、赤毛を揺らして首を左右に振り嫌がってみせるジェネシスに、突き立てた中指を抜き去るとアンジールは遂に己の雄で以って後孔を貫いた。
それでも、ジェネシスの身体は強張り続けアンジール自身もすんなり入っていく事は出来ない。ゆっくり時間を掛けて、少しずつ根元まで埋ずめていく。
天の邪鬼なジェネシスは口では拒否の言葉を羅列していても、一度アンジールを受け入れれば素直に快楽に興じるのが常だ。
だが、今日はいつになく頑なだった。
どうにかジェネシスの内部へと侵入を果たしたが、未だにアンジールから逃れようと必死に身を捩っている。
「や、だ、アンジー……。やめ── っ!」
ローテーブルに両手を付いて肢体を撓らせるジェネシスの姿は非道く官能的で艶めかしく、アンジールを煽る一方だったのだが、その反面拒絶の態度を示し続けるのが何とも焦れったい。
アンジールはジェネシスの後頭部を赤毛ごと鷲掴み、強引に背後から顔を寄せて問うた。
「映画鑑賞の邪魔をしたのを怒っているのか? それとも、俺とのセックスが嫌なのか?」
「はあ……違っ……。は、恥ず、かしい」
頬を鮮やかな朱に染めて伏せた睫毛を震わすジェネシスは、羞恥に耐え切れない様子で切なげに熱い吐息を洩らす。
「今更、何を恥ずかしがる?」
低い声で、わざと耳元近くで囁いてやる。幼馴染みで親友で、恋人と成ってからもお互い遠慮などしない関係を築いてきたというのに、一体何が恥ずかしいのか。
「だって……テレヴィ、が── 」
言われてアンジールもテレヴィ画面に目を向けるが、先程アンジールが勝手に電源を落とした時からテレヴィの液晶画面は暗く、何も映してはいない。
しかし、ジェネシスの言葉にアンジールは改めて液晶の画面を注視する。
電源を落とされ真っ暗になった大きな液晶画面は、全体が薄いガラスに覆われているため見事に鏡の役割を果たしていた。そこには思った以上にはっきりと、恥ずかしげに、それでも官能のあまり身を震わせるジェネシスの姿と、その背後から身を添わせるアンジールの姿が映っている。
ジェネシスがローテーブルに手を付いてほんの少しでも前方を見遣ると、どうしても乱れた自分の姿と、快楽に緩んだ表情と、ジェネシスを犯すアンジールの姿が目に飛び込んでしまう。
後背位で行われる行為は、いつもならお互いの顔など殆ど見る事が出来ない。見えないからこそ、セックスという行為に集中して存分に乱れる事が出来る。
だが、こうして最中の姿をまざまざと見せ付けられると、羞恥と共に経験したことのないゾクゾクとした快感が駆け上がる。脳内に多量のドーパミンが分泌され、最後の一欠片の理性さえ奪われてしまいそうだ。
「ポルノヴィデオでも見ながらやってると思って、愉しめば良い」
「悪趣味── っ!」
思わずジェネシスは悪態を吐く。
普通のポルノヴィデオなら兎も角として、他ならぬ自分自身の姿が、自身の痴態が映し出されたヴィデオで愉しめ、などとは悪趣味以外の何物でもない。
「だが、どんなポルノ女優よりも、お前は魅惑的だ。ジェネシス」
耳元に低い囁きを注ぎ込まれると、余計に脳の中枢神経が正常に機能しなくなる。
「はあっ……もう」
最早、アンジールとの媾合に感じているのか、目の前のテレヴィに曝け出される痴態に感じているのか。
まともな思考など疾うに失われて、快楽だけを吸収する憐れな肉塊へと成り果てていく。
「イキ、そう……。イ、ク── 」
テーブルに手を付いたジェネシスは、いっそう身体を仰け反らせ自然とアンジールのより深い侵入を求めていた。ジェネシスの熱い中心からは堪え切れなくなった迸りがぽたぽたと滴り落ちる。
「俺も……溶けそう、だ」
最大限の悦楽を得ようと一段と奥深いところに誘い込んでくるジェネシスに、アンジールも応えるように貪欲に喰らい付き深く深く穿った。
欲望を全て吐き出しきったジェネシスは、最早ローテーブルで身体を支える事も出来ずに、テーブル下周辺に敷いてあった毛足の長い白いラグの上に力無く横たわる。
セックスでは充分な満足を得た筈であるが、面白くなさそうな顔でアンジールを睨んでいる。
「すまん、俺が悪かった」
ジェネシスが何に対して不満を感じているのかは分からなかったが、自分が原因である事は間違いなさそうなので取り敢えず謝っておく。
「このラグ……買ったばかりなんだぞ!?」
「分かった。クリーニング代は俺が出すから」
それでも、まだジェネシスの眉間の皺は消えない。
「他には、何が不満なんだ?」
問い掛けながら近くに座り込むアンジールのソルジャーパンツの裾を仰向けに寝転がったまま掴むと、ジェネシスは小さく呟いた。
「映画……」
もともと見る予定でテレヴィを点けていた訳ではないのだから、どうでもいいと云えばどうでも良かったのだが、アンジールには分からないのをいい事にちゃっかりと抗議する。ジェネシスらしいとも云えるが、これは一応彼なりに甘えているのだ。
すると、アンジールは幼馴染みの柔らかい赤毛を優しく撫でてやってから、提案する。
「よし! 今度、二人で映画を見に行こう。リバイバルでも新作でも、お前が観たいのに付き合ってやるぞ」
その言葉を聞いて、ようやく気難しい恋人は眉間の皺を解いて満足そうな微笑を湛えてみせた。
end
2010/5/16