-ヘロイン-
神羅ビル内の複雑に入り組んだ通路、その外れで── 。
銀髪の英雄に突然手を取られ、引き擦り込まれる。壁に押し付けられて施される一方的な口付け。
吐息と共に洩れる、抗議の言葉。
「── こんな、コソコソするような真似……」
「俺は、別に堂々としてやっても構わないが?」
反対に詰め寄られて、顔を伏せる。頬にうっすらと朱を帯びている。
その顔が、表情が、余計にセフィロスを煽る。本人の意図せぬままに。
ジェネシスの頬骨を掴み、無理矢理上向かせる。薄暗い通路で猶ディープブルーに輝く眸。頬骨を掴む指に力を籠め、強引に口を割らせると、再度口付ける。
慎重に舌を忍ばせ、咥内を探索する。咥内への侵入に戸惑う様に身じろぐジェネシスの身体。空いた手で後頭部を支える。── 逃がさない。執拗に追い掛け、舌を絡ませる。
逃れられない官能。受け止め切れない追撃。飲み込み切れずに溢れた唾液が顎を伝う。
── 深みに、嵌る……
その口付けは、背徳の味。
悪い麻薬のように、ジェネシス自身を蝕んでいく。
分泌されるアドレナリン。
周囲の音は、今や耳に届かず、景色は曖昧に溶け、お互いの身体だけを感じる空間が形成されていく。
ふと、ジェネシスが体勢を崩す。上がる息、上気する頬、力の入らない脚。壁に寄り掛ってどうにか立っている。
「腰が抜けたか?」
「うるさい!」
頬に手を添え、顔を覗き込むと、濡れた眸で睨み付けてくる。
セフィロスの手を振り払うと、ふらふらとした足取りで壁を伝いながら歩き出す。危なっかしくて手を貸そうとも、拒否されて振り払われる。
「何をやってるんだ、ジェネシス」
二人の言い合う声を聞き咎めたらしい幼馴染みが姿を見せる。
「丁度いい。コイツを医務室にでも連れてってくれ」
ぞんざいにジェネシスをアンジールに押し付けると、英雄は去って行った。
ジェネシスの紅潮した頬を見て、アンジールは額に手を当てる。
「熱があるんじゃないのか?」
「……」
「ホランダーに診て貰おう」
「嫌だ!」
「── ジェネシス!」
「少し、横になりたい」
「……分かった」
アンジールは、ひとつ溜め息を吐くと了承し、空いている仮眠室を見つけるとジェネシスを寝かせてやった。
照明が落とされ、分厚いカーテンで窓が覆われた仮眠室。
熱の有無を確かめようと頬に手を触れる。その時、ジェネシスの手が、まるで、行くな、とでも言うようにアンジールの手を掴んだ。そのまま、口許まで引き寄せペロリと舌で舐める。その煽情的な仕草にぞくりとしたものが背中を駆け上がり、誘われるように口付けた。
唇を触れ合わせるだけの軽いキス。のつもりだったが、ジェネシスの舌がアンジールの唇を舐めてくる。ジェネシスの方からそんな風に求めてくるのは珍しい。
少し驚いて、ジェネシスの顔の横に手を付くと、改めて口付けを再開する。僅かに口許を緩め、舌を絡め軽く吸ってやる。具合の悪そうなジェネシスにあまり強い刺激を与えるのも躊躇われ、適当なところで切り上げようとするも、ジェネシスはアンジールの頬に手を添え、更に深い口付けを求めるように舌を動かしてくる。
「っ! ……ジェネシス?」
今一度、アンジールはジェネシスの額に手を当ててみる。
「本当に、熱があるんじゃないのか?」
無言で恨みがましそうな目で見上げてくるジェネシスを、何とか宥めようとする。
「とにかく、今は少し寝ろ」
額を撫でながら言って聞かせて、ようやくジェネシスは熱を帯びた双眸を瞼の裡に隠す。
「……もっと……」
ジェネシスが眠りに落ちる僅か前。酷く切なげな溜め息と共に吐かれた呟きに、しかしアンジールが気が付く事はなかった。
end
2008/3/8