-鳥籠-
── いつも、想う……
何時かお前には、翼が生えて翔んでいってしまうのではないかと……
子供の頃からずっと一緒にいたから
ずっと一緒には居られないと分かっていても
想像できない……
離れたくない
考えたくない
離したくない
言葉で、約束で、口付けで……
お前を縛り付ける
◇◆◇
ソファに深く腰掛けて無心に本を読む、その横顔を何気無く見つめる。
ジェネシスは、緑の多い俺の部屋へ、文句を言いながらもよくやって来ては本を読んでいた。
不意に、本から目線を外してこちらを窺う。
「どうした? アンジール」
柔らかい笑みを湛えて。
誘われるようにゆっくりと近付いて、唇を触れ合わせる。舌で唇をなぞれば、応える様に僅かに開く。
この間のように、自ら強請る様な事はしない。やはり、あの時は熱で浮かされていただけなのだろう。
あの時── セフィロスが一緒だった事が心の裡に僅かに翳を落とす。
思い出すと、不快になる。
その不快さが緩やかな口付けを無意識に激しいものへと変貌させる。
「……ん……!」
ジェネシスの手元から本が滑り落ち、床の上で重い音を立てた。
人付き合いが苦手だと思っていた幼馴染みは、それでも何時の間にやらセフィロスと親しくなったようで、最近一緒に居るところを良く見掛ける。
大概は、『LOVELESS』を読んでやっているだけのようだが、何と言うか……。セフィロスと知り合ってからのジェネシスは、どこか艶っぽさを増したような気がする。
「ジェネ……シス」
名を密やかに囁きながら、ゆっくりとジェネシスの身をソファの上に押し倒し、更に深い口付けを交わす。
続けてその柔らかい頬に押し付けるように唇を当て、その白い首筋を頸動脈に沿って舌を這わせて舐め上げる。耳の裏に辿り着いた時には、流石に艶声を洩らした。
ジェネシスは、抵抗しようとはしない。きっと、俺が求めれば応じるのだろう。瞼を伏せて睫毛を震わせ身を固くしながらも。恐らくは、きっと── 。
だが、やはり、そんな状態のジェネシスを見て、アンジールはそれ以上の事を求める気には為れず、優しくその柔かな赤毛を撫でてやってから、身体を離した。
本当ならこの身を奪いたい。言葉や約束や口付けだけではなく、この身を奪って身体ごと縛り付けたい。
だが、そんな激情でもって身を奪う事は、ジェネシスを傷付けてしまいそうで躊躇われた。
アンジールが求めるのならば、この身を任せてもいい。ジェネシスはそう思っていたが、それ以上の事を求められる事は無く。
求めてこないという事は、求められていないという事。なんとはなく漠然とそう感じていた。
◇◆◇
麗らかなある晴れた日の午後。
ぽかぽかとした陽気に身を任せるように、うっかりとすっかりと、読み掛けの本を抱えたまま屋上のベンチでうたた寝をしている。そんなジェネシスを発見してしまい、つい横に腰掛け、まじまじと寝顔を見詰める。セフィロスは、見ているだけでは飽きたらず、陽に透けて金色に輝く柔らかそうな赤毛をそっと撫でた。
「── ぅん……」
僅かに声を漏らして身動ぎし、セフィロスの肩に胸に寄り掛り、身を預けてくる。更に優しく髪を梳くように撫でる。
「……アン……ジール」
セフィロスの胸元に頭を埋めるようにして、呟く。
その言葉に過剰に反応して、セフィロスは思わずジェネシスの襟首を掴む。と、そのまま強引に引き寄せ唇を奪った。
「── !?」
突然の事に状況が把握出来ず、ジェネシスは言葉も出ない。
「アンジールじゃなくて悪かったな── 」
「……セフィ……ロス?」
どうして英雄が目の前に居るのかさえ分からない。自分がうたた寝をしていた事さえ分かってない。分からないままに、咥内を思うがままに荒らされて、くらくらとした眩暈に襲われる。頭がはっきりしないまま、気が付けばベンチの上に横たえるように押し倒されてしまう。
ようやく僅かに唇を離され、甘みを含んだ吐息を洩らすと、その吐息を吸い込むように再び口付けられる。繰り返し与えられる官能に脳髄の奥が痺れていく。
── 足りない。
歯列をなぞり、上顎に舌を滑らせ、強要するように舌を絡ませ合い、口端に溢れた唾液も舐め取って呑み込んで── 。
それでも、足りない。
飽くことなく俺はジェネシスを欲している。
この朱い金糸雀を俺だけのモノにしたい。鳥籠に閉じ込めて所有したい。鳥籠に閉じ込めて何処にも出したくない。
いっそ、このまま、この場で犯してやろうか── ?
一旦、顔を退いて口付けを休むと、ジェネシスの手が伸びてきて、セフィロスの顔を引き寄せ更なる口付けを求める。
「セフィ、ロス……セフィ……ロス── 」
啄むような口付けの合間に、囈言のように名を繰り返し呼ぶ。
お互いに酔いしれて、やめられない。止められない。
更なる悦楽を求めてお互いの舌を絡ませ合う、ただそれだけの行為に没頭し、溺れていく。
── 静寂を破り、鳴り響く携帯の着信音。
セフィロスは、美しい柳眉をひそめ、面倒臭そうに携帯端末を取り出し電話に出る。
「俺だ── ああ、そうか。……分かった。今、行く」
セフィロスは、短い会話を終えると静かに携帯端末を閉じた。
「残念だったな。お楽しみは、ここまでだ」
ジェネシスの濡れた唇を親指で嬲ると口角を上げ、告げた。
「── 任務が入った」
英雄に置き去りにされたジェネシスは、未だ状況の把握が出来ぬままに、ベンチに仰向けに横たわったまま、茫然と突き抜けるように碧い空を眺めていた。
end
2008/3/22