-Loveless- 《AG》
セフィロスは、手元に残された本をどうしたものかと思案したが、どう考えてもアイツが大切にしていた本で。返しに行ってやるべきだろう、と思う。
翌日、一旦、自室に持ち帰った『LOVELESS』を携えて、ジェネシスの部屋のドアをノックする。
部屋から出てきたジェネシスは、あまり寝ていないのか顔色が良くない。
「── 何しに来た?」
あからさまに不機嫌な声。
「コレを忘れて行ったろう」
『LOVELESS』を差し出すと、昨日のロビーでの事を思い出したのか、眉をひそめ重い溜め息を吐いて渋々といった様子で受け取る。大事な本であろうに、今はそれどころではないといった風情で乱雑に机の上に放り投げる。
「……アンジールと喧嘩したのか?」
「貴様の所為だ── 貴様が居なければ、俺とアンジールは上手く行っていた!」
唇を噛み締め、険しい顔でセフィロスを睨み付ける。
確かに、ジェネシスとアンジールの関係を薄々分かっていながら、ジェネシスにちょっかいを出していた自分は責められても仕方がないのだろう── と、セフィロスは思う。
「俺からアンジールに……取り成してやろうか?」
「取り成す!?」
ジェネシスは哄笑を上げて続ける。
「なんて言う気だ? 俺との事は、遊びだったとでも── !?」
セフィロスは、憤慨して思わずジェネシスの襟元を掴み上げる。
「遊びなんかじゃない! だが、お前は本気じゃなかったんだろう? アンジールがいたんだからな!!」
襟元を掴み上げる手にジェネシスは自分の手を掛けて、やんわりと外させる。そして、手は添えたまま口を開く。
「── 俺だって、遊びじゃなかった……」
ジェネシスは静かに絞り出すように言うと、その美しい碧い双眸を僅かに潤ませて、きりと目を見据えて訴えた。
「お前が── 好きなんだ、セフィロス」
◇◆◇
昨夜、ジェネシスはアンジールに抱かれる覚悟でベッドを共にした。
── 緊張していた。
外の、寒々しい強い風音ばかりが耳につき、アンジールの宥めるように囁く声も耳に入らなかった。
甘い口付けを施され、ゆっくりと着衣を脱がされ、無骨な手で恐らく細心の注意を払って行われた愛撫。だが、どんなに優しくされてもジェネシスの緊張は解けず、触れられる程に身を固くしてしまう。
「── やめよう」
アンジールは、大きく嘆息して言った。
「なっ!? どうし……て」
「俺は、お前をレイプしたい訳じゃないんだ」
「お、俺は、アンジールなら……構わない、本当に……」
ジェネシスは、慌てて縋るように訴える。
だが、アンジールは、どんなに優しくしてやっても、どんなに甘い言葉を囁いても、ジェネシスがセフィロスに見せたような表情を自分には決して見せてくれない事に絶望していた。
ジェネシスの顎を徐に掴み上げ、その碧玉の瞳を凝視して告げる。
「セフィロスが── 好きなんだろう?」
そうして、アンジールは立ち去り、ジェネシスは相変わらず寒々しい空気が漂う部屋に一人残されたのだ。
◇◆◇
ジェネシスの告白にセフィロスは条件反射的にジェネシスの身体を引き寄せ抱き寄せ、口付けていた。
唇と唇を合わせるだけのようなキスだったが、今まで交わした口付けで一番甘く感じた。
そのキスを拒む様に、ジェネシスはセフィロスの身体を両手で押し遣って身を離す。セフィロスはジェネシスの意図が掴めず、俯く彼のその柔らかな赤髪を撫でてやった。
「── 俺は、アンジールとの関係を終わりにしたくない」
セフィロスは、頭を撫でる手を止めて、ジェネシスが洩らした呟きを脳内で反芻した。
「── つまり、お前はどうしたいんだ?」
「分からない……から、自分でも困ってるんだ」
セフィロスは、呆気にとられて何と返答してやったら良いのか分からず言葉を詰まらす。と、徐にジェネシスはセフィロスの身体を避け、部屋を出ていこうとする。
「!? ジェネシス、何処に行くつもりだ?」
「アンジールに、会ってくる……」
制止しようとするセフィロスに、髪を掻き上げながら答えた。
「今、さっき、俺を好きだと言って、また違う男のところへ行くのか!?」
「── そばに居て欲しいのは、アンジールなんだ……」
ジェネシスは、悟り切った様な表情でセフィロスを見上げる。
バンッ── !!
と、セフィロスは吃驚する程の勢いで壁に拳を叩き付けた。それでも、壁に罅も入らなかった辺り、一応加減はしたらしい。
セフィロスはジェネシスを睨む様に一蔑すると、驚きのあまりその場に固まるジェネシスを無視し、無言で部屋を出ていった。
流石に怒らせてしまったのだと思う。だが、自分にとって一緒に居るのが自然な、相応な相手はやはりアンジールなのだ。憧れは所詮憧れに過ぎない。最近、必要以上に近付き過ぎてしまっただけ。勘違いしてはいけない。間違ってはいけない。本当に大事な人は誰なのかを……。
ノックの音がして、小さくドアが開きアンジールが顔を覗かせる。
「大丈夫か……ジェネシス? 今、凄い音がしたが……」
昨夜、あんな別れ方をしたのに心配して来てくれたのが嬉しくて、駆け寄って抱きついた。その胸に顔を埋めて、安堵を覚える。
「── セフィロスに……ちゃんと言った……」
「……うん?」
「セフィロスが好きだって……」
「ああ」
「でも、俺が一緒に居たいのは、アンジール……お前なんだ……」
「……ジェネシス」
「セフィロスにもちゃんとそう伝えた── 」
暫しの間、無言で見つめあう。
「セフィロスに……嫌われたかも知れない。でも、アンジールには── 嫌われたくないんだ……」
そう言ってジェネシスは、アンジールに縋るように口付けた。
その感情が愛というのかは知らない。だが、アンジールはジェネシスをその腕に抱かずにはいられなかった。
end
2008/7/2