-烙印- 《AG》

アンジール、お前の手でこの俺を汚して欲しい──

アンジールの暖かい腕に包まれて、ジェネシスはここまできて漸く辿り着いた自分の本心を吐露する。
「アンジール、お前には迷惑かも知れないが、俺はお前が好きなんだ。── セフィロスよりも……ずっと」
迷惑という言葉と、セフィロスの事とが引っ掛かり、アンジールは表情を確認するためにジェネシスの顔を覗く。
「どうして、迷惑だと?」
「お前が今まで、ギリギリのところで俺との関係を踏みとどまっていたのは、そういう意思表示じゃないのか? ── 俺は、そう思っていた」
ジェネシスは、その柔らかい髪を僅かに揺らして。
「だから、俺も自分の気持ちを抑制してた。……セフィロスは、お前と違って真っ直ぐに俺を求めてくれた。そういうところに、多分惹かれたんだと思う」
向こうから素直に想いをぶつけられた方が、自分も受け入れやすかった。自分をどう思ってくれているのかはっきりしないアンジールよりも、いつしか自分からもセフィロスを求めてしまっていた。
しかし、幾ら求めて応えられても、幾ら惹かれて好きだと思っても、それ以上に結局自分はアンジールの事が好きで、セフィロスの想いには応え切れなかった。
自分の事を奪いたいとまで言ってくれたセフィロス。
自分から誘っても、抱いてくれなかったアンジール。
自分とアンジールの間には、ずっと見えない隔たりを感じていた。
「俺は── 。お前の方こそ、俺と関係を持つのを恐れていただろう?」
言われてジェネシスは、はっとした様におもてを上げる。
「俺が怖いか? ジェネシス」
言葉通りに、怯えた眸で自分を見詰めるジェネシスに問うた。ジェネシスの淡青色の眸が揺れる。
「怖いさ、アンジール── お前を、失う事が何よりも怖い……」
友人以上に、幼馴染み以上に、深く知り合い掛け替えのない存在となって、そうなってから失うのが恐ろしい。
「お前が好きだ、ジェネシス。全てを手に入れたい。だが──
アンジールは神妙な顔で、申し訳なさそうに宣告する。
「ずっと一緒にいるとは約束出来ない」
── 分かってる」
お互いの事を、解り過ぎるほど理解してるから、言われなくても分かっていた。恐らく、どちらも同じ様に考えていたのだ。ずっと、一緒には居られない── と。だから、どうしても一線を踏み越える事が出来なかった。

縛り付けて、閉じ込めて、何処にもやりたくないと思いながらも、ずっと一緒にいられる自信が無かった。お互いにその事実から目を逸らし続けて、認めたくなくて、自分の気持ちを誤魔化していた。

アンジールの腕の中で、相変わらずジェネシスは緊張した面持ちで少し震えて、でも大人しく瞼を閉じて身体を預けている。
アンジールは改めてジェネシスをきつく両腕で抱きしめて、そうして額にひとつキスを落としてからベッドへと導いた。

昨夜の余韻が残るしとねに再び足を踏み入れる。
お互いに相手の服を脱がし合った。確かめるように触れ合って、確認するように見詰め合う。
「もう、後戻り出来ないぞ」
アンジールの低い声が耳元で囁かれる。
「覚悟は、出来ている」
言いながら、自分には今まで覚悟が足りなかったのだと思う。アンジールを手に入れる覚悟が。アンジールを失う覚悟が。
今は全てを欲している。
不安も苦痛も苦悩も締念も。負の要素ごと、全てアンジールが欲しい。
アンジールを想う気持ちが全てを凌駕し払拭する。
アンジールは、改めてジェネシスの身体に触れた。もう以前のように強張ったりしていない。それどころか、力強い眸を真っ直ぐ自分に向けてくる。
それは、先日セフィロスに見せていた表情とも違い、アンジール自身も初めて見る顔だった。そう、まるで少年から大人へと変貌したかのように、自信に満ちた、それでいて慈しみを湛えた美しい表情。
自分だけに見せてくれる表情が増えた事に、アンジールは望外の喜びを感じ、嬉しさのあまり上手く加減が出来なかった。
初めての行為だと分かっているのに、優しくしてやることさえ出来ない。
禄に解さぬままに、ジェネシスの後孔に己れの欲望を突き立てる。
ジェネシスは眉間に皺を寄せ涙を幾筋か零しながら、それでも必死にアンジールに縋りつき。唇を噛み締め苦痛に耐えながらも、アンジールを受け入れてくれた。

アンジールの脇で穏やかな寝息を立てる幼馴染み。身を起こして今はもう恋人となった幼馴染みをじっと見詰めるアンジールの腕を、その乱れた柔らかい赤髪がくすぐる。
この貴く気高く美しい人を血液と精液とで以って穢して、貶めた。
この罪はきっと重い。
自分に下る罰は、一体どんな絶望だろう──

その時、アンジールには、その罪が、その罰が、ジェネシスにも降り掛るものだとは、思ってもみなかった。

end
2008/12/16