エロスとタナトス

俺達は、生かし合い殺し合っていた。

生と死。
自己保存と自己破壊。
生ヘと向かう本能と死ヘと向かう本能。

本能を充たそうとするのは人間が背負い続けるさがだ。

「はぁ……あぁっ、セフィ……ロス」
セフィロスに貫かれて善がり声を上げる。額には汗が滲み、セフィロスの腰に脚を絡み付け、どんな微細な感覚も逃したくなくて全身で快楽を受け止めようと必死だった。
「もっと……だ。まだ、足り……ない……」
呆れる程に貪欲に求めてしまう。性の悦びは、生の喜びに通ずる。セックスの享楽に脚の先から頭の天辺まで存分に充たされている、この刹那だけが生きている実感を得られる貴重な玉響たまゆら。こんな喜びを与えてくれるのはセフィロスだけだった。
死と隣合わせの仕事をしているからこそ、こうして自分が生きている事を確認したかったのかも知れない。
俺が求めれば求める程に、セフィロスは応えるように俺を侵蝕した。何もかも喰らい尽すように貪欲に。そのまま喰い殺されてもおかしくない程に激しく。
いつも、生と同時に死を感じた。だが、恐怖は感じなかった。寧ろ、そのまま、この充足した快楽にまみれたまま死ねたなら、と夢想した。
エロスとタナトス。
自己保存本能と自己破壊本能。
二つを同時に充たすセフィロスとのセックスに、俺は重度のアドレナリン・ジャンキーのように溺れていた。

セフィロスも俺も、同じミッションに携わる事はまれだったから、逢える時間も限られていた。
それでも僅かにでも時間が合えば、極力逢う時間を作った。逢う為、と言うよりは、セックスをする為と言っても過言ではない。
好意や恋愛感情といったものが全く無いという訳ではなかったが、俺達にとってはセックスに比べると最早感情など下俗的なものでしかなかった。生と死の狭間をたゆたう行為の方が遙かに高尚であるのは、自明の理であろう。
ある日、セックスの最中にセフィロスがこんな事を言った。
「クク、まるで喰い殺さんばかりだな……」
俺があまりにも、深く強くセフィロスを求めすぎた所為だろうか。でも、お互いに同じように感じているという事が寧ろ嬉しかった。
── 俺達は、同じ感覚を共有しているのだ。
俺を組み敷き、腰を動かすセフィロスは、俺が吐精する頃合いを見計らって俺の体内から自身を引き出すと、俺の腹の上に白濁した熱を吐き出す。俺の腹の上で混ざり合う二人分の精液。
別個体の雄の精液を混ぜ合わせると、互いの精子が互いを殺し合い瞬く間に死滅する。
命の根源。生命の原材料を、お互いに吐き出させては殺し合う、非生産で無益な行為。
だが、どんなに虚しくとも、俺達にとってはこれが生を確認する為の重要な行為であり、止める事は出来なかった。

純粋な恋愛感情が発展した故の付き合いではなかった為、俺達の間には時折齟齬が生じた。
生と死の境界線に引きずり込まれるようなセフィロスとのセックスは、精神的な負担が大きく受け入れ難い時もあった。特に、こちらが他の事── 例えば、難易度の高いミッションの前などで── 余裕が無い時は、とてもセックスの相手などしていられない。
だが、セフィロスはこちらの都合などはお構いなしに、求めたい時に求めてきた。英雄には相手の意思を尊重するなどという思考自体が欠落しているのだろう。いや、そもそも明確な恋愛感情の介在しない付き合いだったから、相手の気持ちを推し量ったり慮ったりする必要など端から必要なかったのだ。
だが、こちらだってやりたくない時に求められても応える気にはなれない。
そして、セフィロスも拒否されて素直に引き下がるような相手ではなかった。
「嫌だ!!」
必死に足掻いて応戦しても、抗って逃走をはかっても、英雄は容赦なかった。
時にはベッドの上に、時にはソファの上に、時には固い床の上に組み敷いて、俺の身体の自由を奪った。
無理矢理に俺の身体を暴き、中心を肉塊で貫く。それは、鋭利なナイフで内蔵を刺し貫く行為と同義であった。
勿論、快感など微塵も感じられない。ただ苦しく、苦痛だけを伴う行為。最早、セックスと呼べるものではなく、一方的な暴力。
死だけを感じる行為。
この擬似的な臨死体験を何度味わされた事か。
恐らく、この時セフィロスが感じていたのは、まさに生の喜びであったのではないかと思う。
俺を組み敷き陵辱を与え、思うがままに支配するセフィロスの表情は歓喜に満ちていた。

対抗するように、俺も一方的にセフィロスを求めた事がある。
その気がないセフィロスを無理矢理勃たせて、組み敷いてその上に跨ってやった。
己れの快楽の為だけにに腰を振り、快感を得る行為はまた格別だった。
セフィロスが感じているかどうかとか、余計な事には気を回さずに自分の悦楽にだけ集中出来る。
俺の快楽の為に強引に使われた形のセフィロスは、何も感じ入るものすらないような無表情な顔で俺を見上げていた。
人間性を無視するという意味では、セフィロスもこの一方的な行為に因って死を感じただろう。

どんな形であれ、どんな場合であれ、セフィロスとの駆け引きのようなセックスが好きだった。
ある意味どんな愛情よりも深い、執念にも似た感情で、俺達は繋がっていたのかも知れない。


俺が神羅を裏切って何もかもを捨てた後も、俺達のこの関係性は普遍であるという妙な確信と揺るぎない自信があった。
ニブルの魔晄炉で久しぶりにセフィロスと対面した時も──
「お前の細胞を分けてくれ」
セフィロスから細胞をもらえなければ、自分が死ぬかも知れない状況。
俺は細胞を分け与えて貰えると思っていた。セフィロスなら、俺を生かしてくれると、そう思ったのだ。
「朽ち果てろ」
セフィロスは、細胞を分け与えるでもなく、ひと思いに殺すでもなく、ただ俺を突き放した。
細胞を与えるのは拒否したが、そのまま俺を見逃した。同時に、その場では手を掛けなかったが、俺を見殺した。
ニブルの魔晄炉に身を落とし、儚く命を散らすその直前。
セフィロスは、最期まで俺を生かして殺したのだ。

どうせ、お前が死ぬのなら、この手で殺してやりたかった。
お前がそうしたように、俺も最後までお前と殺し合い、生かし合いたかった。
俺を殺しに来るのは、お前だと疑わなかった。
お前が死ぬ時は、俺が殺す時だと信じていた。

最後まで、お前と生と死の駆け引きをしたかった。
あの不毛な儀式が連綿と続く事を願っていた。
お前と究極にエロスとタナトスを満たし合うのが、俺の望みだった。

現在いま、お前は生も死もないところに存在しているのだろうか?

水牢に片足を浸しながら、想いを巡らすのはセフィロスの事ばかりだ。
無様にも生き延びてしまった俺は、お前がる場所に行く事すら叶わない。
遠い未来でのお前との邂逅に、僅かな期待を抱くのみ。
いつか、互いに目覚めて、再び相見あいまみえたその時には、今度こそ二人きりで生と死の舞踏を──

end
2009/9/12