Gift
クリスマスイヴの朝。
ベッドサイドの黒い携帯端末がメールの着信を知らせるイルミネーションと共に震えた。
ジェネシスは半身を起こすと、ベッドの中から手を伸ばしてサイドテーブルの携帯端末を確認する。送信元の名前は、出来れば今日は見たくない名前であった。
パタンと携帯端末を閉じて、ひとつ溜め息を吐く。
ミッションの予定が無い時に来るソルジャー統括、ラザードからのメールなど碌なものではない。
渋々ながら51階のソルジャー司令室を訪れると、統括であるラザードはまだ来ていなかったが、同じく統括に呼ばれたのであろう先客がスツールに座していた。
「お前も任務か?」
「ああ」
長い銀の髪が揺れ、低い声が返ってくる。聞き慣れてる所為かも知れないが、心地の好い声だとジェネシスは思う。
昨日までは、お互い任務は入っていなかった。つまりは、この瞬間、今日から明日に掛けてクリスマスを共に過ごすという二人の約束は御破算になったという事が、ほぼ確定してしまった。
「まさか、同じ任務……」
「いや、違うだろう。俺の任務は、プレジデント神羅の護衛だ。コスタ・デル・ソルくんだりまで付き合わされるらしい」
セフィロスの答えを聞いて、ジェネシスは顎に手を遣り小さく「なるほど」と、呟く。社長からの命令に対してのみ、英雄は1stの特権を利用しない事を知っているからだ。昨日までの予定には無かったという事は、突然思い立ったが故のスケジュール変更か。あの社長なら珍しくもない、良くある事だ。
「確かに、違う任務だな。俺の任地はウータイだ」
例え約束が御破算になったとしても、せめて同じ任務であれば……という思いがあったのだろう。かぶりを振り朱髪を揺らしながら、ジェネシスは残念そうに苦笑を零す。と、同時にセフィロスも不快そうに顔を顰めた。
「ウータイ? じゃあ、今日中には帰って来れないのか」
「今年中には、帰って来れるさ」
ジェネシスは両手を腰に添え、肩を竦めてみせる。ウータイへの任務は長期に渡るものが多い。移動だけでもそれなりの時間を要するからだ。
どうやらジェネシスの返答から察するにそれ程長期間ではないようだが、二、三日で片付くようなものでもなさそうだ。つまり、クリスマスを一緒に過ごせないどころか、一週間近くは会う事も叶わないという訳である。
そこへ慌ただしい様子で、ようやくラザードがやって来た。
「待たせてしまって済まないね。二人とも」
急な任務に、急な社長のスケジュール変更。ラザードも忙しいのだろう。彼の息は幾分上がっている。
「ジェネシスはミーティングがあるから、私と一緒にブリーフィングルームへ移動してくれ。セフィロスはもうすぐ此所にタークスが来るから、彼らと一緒に社長室へ行って欲しい」
簡潔に必要事項だけ伝えると、二人の返事も待たず慌てて踵を返す。そのラザードの背中に向かってジェネシスは声を掛けた。
「ラザード、俺も直ぐに行くから先に行っててくれ。まだ、少しセフィロスと話がしたいんだ」
ラザードは少しだけ振り返ると「分かった」と云って、乗ってきたエレベーターに再び乗り込んだ。彼等が親友である事を承知の上であろう。こういう多少の融通は利かせてくれる、話の解る良き上司なのだ。
「とは云っても、もうあまり時間は無いがな」
嘆息を洩らしながら、ジェネシスはゆっくりとした歩調でセフィロスの傍に近付く。
「ラザードを先に行かせてまで、お前が話したい事があるとは……珍しいな」
セフィロスはスツールに腰掛けたままジェネシスを見上げ、厭味っぽい口調で問う。この気の強い朱髪の恋人は、普段からつれないところがあるのだが、特に任務の前ともなるとそれが顕著になる。任務が決まると早くも意識がそちらへと向かい集中してしまう気質らしく、余計に素っ気なくなってしまうのだ。
「話がある訳じゃない。ただ、お前に渡したいものがあるんだ」
セフィロスの間近で立ち止まったジェネシスは、優雅な所作でセフィロスの肩に手を掛け自身の身を屈めると、細い銀の髪の合間から覗く額に柔らかく口付けを落とした。
「一緒に過ごせなくても、プレゼントくらいは渡しておかないとな」
セフィロスの翡翠を自身のアクアマリンで見詰め返し、軽く口端を上げて笑む。
「今のが、プレゼント── か?」
思いの外呆気ないプレゼントに、少し拍子抜けした声が出る。
「どうせ、俺以外のものなんか要らないんだろう? あんたは」
そう云うとジェネシスはさっと身を翻し、司令室のドア付近に移動した。そして、ドア縁りに手を掛けると、意地の悪い笑みを浮かべながらセフィロスを見詰める。その淡青色の瞳は、まるで全てを見透かしている様な深遠を漂わす。
ほんの少し、唇で触れられただけの額がやけに熱い。
セフィロスも英雄だのカリスマだの、果ては化け物とまで称される程の卓越した技量と器量の持ち主である。だが、ジェネシスはその英雄さえも魅了する天賦の才《Gift》の持ち主なのではないか。そんな胡乱な考えが瞬間、頭を過ぎった。
額へのキスなどと云う子供騙しもいいところのプレゼントにさえ納得し掛けている実情に、はっとして。
英雄は慌ててスツールから立ち上がり、背を向けて司令室から出て行こうとするジェネシスの名を呼ぶ。しかし、セフィロスが云わんとする事も、彼には全てお見通しだったらしい。
態とらしくも緩慢な動作はセフィロスを嘲るように焦らす。たっぷりと間を空けてから悠然と振り返り、朱髪を後ろから掻き上げると、彼は憎たらしい程に鮮やかな美しい微笑を湛えていた。それはまさに、英雄さえも魅了し陥落させる妖艶さで満ち溢れ、いっそ淫猥ですらある。
「帰ってきたら、残りのプレゼントもやるから、大人しく待っていろ」
意味有り気な言葉を残すと、ジェネシスはブリーフィングルームに向かうべく、タイミング良く到着したエレベーターに、乗っていたタークスと入れ替わる様にして乗り込んだ。
end
2009/12/24