Halcion -Reloaded-
深遠の闇が夜の帳に落ちる。
ブリーフィングルームでミッションの完了を入力して、今や非常灯だけが仄めくソルジャーフロアの廊下を、かつりこつりと黒い革靴で床面を確認するかのようにゆっくりと歩を進める。
薄暗いフロアで何故かトレーニングルームの扉だけが浮かぶ様に明るい。訝しんで見ると、使用中を示すランプが点灯している。不思議に思って中に入ってみると、良く見知った顔が居た。
気怠さとパジャマだけを纏ってぼんやりと、操作パネルの上をゆっくりと手を滑らせ、トレーニングルーム内に次々とあちらこちらの風景を映し出している。
「何をやっているんだ、ジェネシス」
「セフィロス── ? ああ、今帰ってきたのか、こんな時間までご苦労な事だ……。英雄は大変だな」
皮肉めいた事を言いながらもその口調は淡々として、感情が籠もっていない。
「お前こそ、こんな時間に何をやっている?」
セフィロスがそばまで寄って行って尋ねると、ジェネシスは眠れないんだと、呟いた。
「医務室に行って、睡眠導入剤でも貰ってくればいいだろう?」
「もう、とっくに飲んでる。効かないんだ……」
ジェネシスは切なげな溜め息を洩らしながらその長い睫毛を伏せる。眠気の為かふらふらとふらついて、セフィロスに身体を預ける様に寄り掛かると、その肩に頭を乗せた。態となのか無自覚なのか、両腕をセフィロスの利き腕に絡ませてくると、しがみついて離そうとしない。
「充分、眠たそうに見えるが……」
「眠たくても、眠れないんだ。それに……どうせ、眠りに落ちても、深く眠れない内に目が覚める── 」
その顔にはありありと諦めの表情が浮かんでいた。
利き腕に絡みつくジェネシスの腕を外して、その身体をこちらに向かせる。その顔に手を添えて、ゆっくりと上向かせて。少しぼんやりと不思議そうな表情で見詰めてくる、その唇に軽く口付けを落とす。
「眠らせてやろうか?」
甘く囁いて、誘惑する。
案外にも、ジェネシスは大人しくセフィロスの部屋まで付いてきて、ベッドに横たえてやってもまだ大人しくしていた。自分の置かれている状況下が分かっていないのか、理解した上で従っているのか。
欲情を誘う肢体。煽情的な眼差し。水面を思わせる碧い水晶体。さらりとした柔らかな赤髪。白磁の肌に朱を落とす艶めかしい唇。
以前から、一度抱いてみたいと思っていた。
眠らせてやろうなんて言うのは、ベッドへ連れ込む為の口実に過ぎない。
慎重に少しずつボタンを外し、パジャマをはだけさせていく。露わになっていく素肌は、ソルジャーのものとは思えないほど白い。知らず、セフィロスの口元が緩む。
胸元にキスを落とすと瞬間その箇所が朱に色付く。ひとつ、ふたつ。キスを落としながら上昇し、喉元にも吸い付く。
「ん……」
僅かに艶声を洩らす口許が目に付いて、ついでに唇にもキスをしてやる。
時折、遠慮がちに嬌声を洩らして、時には自分からキスを強請って。ジェネシスは、思っていたよりも素直で従順だった。
はっと目を覚まして、辺りを見渡す。見知らぬ天井、見覚えのないカーテン、馴染みのないベッド。
身を起こして自分の身体を確認すると、着ていたはずのパジャマは無く、周囲に脱ぎ散らかされていた。
清々しい爽快感、目も眩むほどの覚醒感。
ジェネシスは、久方ぶりに得られた熟睡に陶酔して、吐息を洩らす。
ふと、隣を見るとセフィロスが眠っている。どうやら、此所はセフィロスの私室らしい。ベッドルームにまで入った事はないが、置いてある調度品の傾向が似ている。シーツごと抱え込む様にして膝を丸め、額に手を当てて考える。睡眠導入剤《ハルシオン》を飲んでうろついていた所為か記憶がところどころ吹っ飛んでしまっているが、そう言えば昨夜遅くにトレーニングルームでセフィロスに会って、眠らせてやろうと言われ、そのまま身を任せたのだった。
「良く眠れたか?」
いつの間にか目を覚ましたらしいセフィロスに声を掛けられる。
「── ああ。良く……眠れた」
片手で頭を支えながら、溜め息混じりに答えた。
ハルシオンを飲んでいた所為で、セックスの内容は実はあまり覚えていない。英雄でもセックスするんだ……とか、妙なところで感心していたのは覚えている。
── でも、本当に良く眠れた。
セフィロスにどういう意図があったのかは分からないが、今は素直に感謝したい。
このまま英雄に心酔して、恋心さえ抱いてしまいそうだ。
熟睡を得られた歓喜。ジェネシスにとって、まさしくそれが全てであった。
また、して欲しい。また、したいと言ったらしてくれるのだろうか? また、眠らせてくれるのだろうか? また、妙なる熟睡を── 。
自室に戻って来て、シャワーを浴びてさっぱりしたところでジェネシスは、肝心な事を聞いてこなかった自分に呆れて自己嫌悪に陥った。
── 眠りたい。眠れない。
あれから数週間。セフィロスを見掛けては、自分から声を掛ける事は叶わず、溜め息を吐く。
単純に、眠りたいのだ。セックスがしたい訳じゃない。下手に考えれば考えるほど、何と言って声を掛ければいいのか、分からなかった。
そんな焦れったい日々を一瞬で終わらせてくれたのも、やはり英雄セフィロスであった。
ソルジャーフロアのロビーで、ジェネシスが相変わらずの寝不足にぼんやりと座っていたら、英雄の方から声を掛けてきたのだ。
「……随分、眠そうだな。また、眠れないのか?」
「ああ── 」
ジェネシスは、髪を軽く掻き上げつつ下を向き欝欝と答えた。
「また、俺の部屋に来るか?」
その言葉に、はっと面を上げてセフィロスを見詰めると「眠りたいんだろう?」と、更に優しく問掛けられて、ジェネシスはこくこくと頷いていた。
それからは本当に遠慮無く、ジェネシスは自分が眠れない時、眠りたい時にセフィロスのもとを訪れた。
「眠れないんだ……」
ただそれだけを言えば、セフィロスは優しくベッドまで導いてくれる。容易く快楽を、快眠を与えてくれる。
ジェネシスは性欲ではなく、睡眠欲で以ってセフィロスを求めていた。
セフィロスもまた、違う理由でジェネシスを求めていた。
英雄と讃え称されるセフィロスに、普段から何かと対抗意識を燃やし、時には突っ掛ってくるジェネシスがセックスの時には酷く従順になる。
それが、いつもの反抗的な態度と相俟って、セフィロスの内なる征服欲や支配欲を満たすのには、最高の相手であった。
決して慈善事業や親切心からではない。いたって利己的な理由。
セフィロスは、性欲ではなく征服欲や支配欲で以ってジェネシスを求めていた。
肉欲でもなく、愛情でもなく、お互いを求め合う関係は下手に情欲が絡まない分、寧ろ上手く行っていた。
ただひとつの問題を除いては── 。
ジェネシスは、銀箔の薬袋を軽く引き千切って怠そうに中身を取り出す。蒼い楕円の錠剤。徐に口に含んで、がりりと歯で噛み砕いてからペットボトルを手に取り水ごと飲み込む。
こんなモノを飲んでも、真の安眠は得られない。分かってはいるが、今は気休めであってもコレを飲むしかないのだ。
ただひとつの問題。それは、ジェネシスが眠れない時に、必ずセフィロスがいるとは限らないという事。
「セフィロスが帰って来ないんだ」
「ああ、珍しく任務が長引いているらしいな」
ソルジャーフロアの廊下を歩きながら、ジェネシスとアンジール、幼馴染み二人で雑談を交わす。
「長引くなんておかしくないか? 英雄なら、予定より早く終わらせるべきだ」
苛々とした口調で無茶苦茶な理論を展開する幼馴染みにアンジールは苦笑を洩らして諭してやる。
「何もセフィロス一人で行ってる訳じゃない。予定が狂う事だってあるだろう?」
ブリーフィングルームに入り、ミッションをチェックする。セフィロスが現在従事しているミッションは、やはり他のソルジャーにトラブルがあって遅れが出ているらしい。が、既にトラブルは解消されているようだ。恐らく、一両日中には戻るだろう。
「俺達には、明日からミッションが入っているな」
何気なく言って幼馴染みを振り返ると、酷く不機嫌そうな顔でこちらを見ている。
「どうしたんだ?」
「── セフィロスは、今晩中に帰ってくると思うか?」
「うむ、微妙なところだな。順調にいけば、戻ってくると思うが……これ以上、全くトラブルが無いとは言い切れん」
正直な意見を述べると、ジェネシスは相変わらず難しそうな顔をしている。
この幼馴染みが昔から英雄を特別に慕っている事はアンジールには良く分かっていたが、それにしてもこのように帰りを待ちわびる様な仲だったろうか。
「どうした? 何か約束でもしてるのか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
ジェネシスは赤い髪を軽く掻き上げながら、深々と溜め息を吐く。
明日にはミッションが入っているなんて最悪だ。今日、セフィロスに会えなければ寝不足のままミッションに赴かなくてはならない。
部屋に居ても落ち着かなくて、神羅ビル内をうろうろとし遂にはエントランスの階段に腰掛けてセフィロスを待った。
その時の自分には、悲壮感さえ漂っていたのではないかと思う。真剣な眼差しでエントランスの自動ドアを見詰める。時折、黒い携帯端末で時刻を確認しながら溜め息を吐くのを繰り返す。やがて、自動ドアが開いて黒い革のコートと長い銀の髪が目に入った時には、思わず駆け寄ってしまっていた。
勿論、この時、その場にはセフィロスと共に任務に同行していた他のソルジャー達やたまたま通り掛かった神羅社員などもいたのだが、ジェネシスの眼中には入っていない。
セフィロスも何でもない事のように対応して、当たり前のように二人でエレベーターに同乗した。
今ではすっかり馴染みのあるものへと変化したベッドの上で、身体を絡ませ合う。
「ぅ……ん、セフィロス……」
吐息混じりに名前を呼んで、口付けを強請る。両腕をセフィロスの背中に廻して、しがみついて。ほんの少し心に過ぎる罪悪感。
「任務から戻ったばかりなのに、迷惑……だったか?」
「いや── 」
セフィロスは疲れなど微塵も見せぬ微笑を湛え、ジェネシスの柔らかい赤髪を掻き上げるように撫で付けてやる。
「俺は俺で、お前の身体を堪能している。── 気にするな」
セフィロスとしても、時偶こうして気兼ねなくジェネシスの身体を好きに出来るのが良いのだ。変に気を遣われると困る。
思うがままに散々穿ってやって果てさせてやると、ジェネシスは久々の熟睡に身を投じた。
翌日。
アンジールがジェネシスの部屋を訪ねると、どうやら不在のようでノックをしても反応がない。任務の朝に不在である事に疑問を感じ、暫しその場に留どまっているとエレベーターの方角からジェネシスがやってきた。
「ジェネシス、準備は出来てるのか?」
「ん……これからする」
「これから── ?」
てっきり準備が済んだ上で何処かに出掛けていたと思ったのだが、違ったのか。
「悪い。── セフィロスの所に泊まったら、つい寝過ごした」
ジェネシスは呟くように言うと、自室の鍵を開け中に入っていった。ドアは開け放たれたままだったので、アンジールが室内を窺ってみると殆ど準備は出来ていたらしく既に用意されていた荷物を確認しながら纏めているジェネシスの姿が目に入る。
程なくして、身支度を終えたジェネシスが自室から出てきた。
「待たせたな。行こう、相棒」
「セフィロスの所に泊まった── ?」
先程、何か聞き捨てならない科白を耳にしたような気がして、思わず復唱して聞き返す。
「ああ、それがどうかしたか?」
昨日、あれだけ帰りを待ちわびていて、更に泊まった── 自分の行動の不自然さに、ジェネシスは自分で言って気が付いてはいないのだろうか? それとも、自分の知らぬ間にそういう仲に……。
アンジールは、かぶりを振って自分のよこしまな考えを払拭した。いや、普段がどうであっても親友なのだ。話が盛り上がって泊まる事くらいあるだろう。ただ、それが任務の前日というところがらしくないだけなのだ。
「いや、何でもない。── 行こう」
どうにか当たらず触らずの精神を持ち直し、アンジールはそれ以上深く幼馴染みに説明を求めず、任務の方に意識を集中させた。
後日。
アンジールは、自分が考えまいとした親友達の関係を、逆に同僚や後輩達から嫌というほど聞かされる羽目になる。
曰く、セフィロスとジェネシスは付き合っているのではないか── と。
聞けば、神羅ビルのエントランスで人目も憚らずに抱き合っていたらしい。しかも、それはどうやらジェネシスがセフィロスの部屋に泊まったと言っていた日の出来事のようだ。
「本当のところはどうなんだ、アンジール?」
二人の共通の友人であるアンジールなら何か知っているのではないかと、尋ねられる度に溜め息を吐いて頭を抱える。本当のところなど知りもしないし、知りたくもない。
噂は適当な尾ひれが付いて、まことしやかに社内に広がっていく。
何時しか当人達の耳にも入るようになってしまった。
「ふん、火のない所に煙は立たず── とは言うが、火種が無くとも盛大に煙が立つ事があるんだな、アンジール」
苦々しくそう言い放つ幼馴染みの顔は、笑顔ではあるが目だけが笑っていない。事の次第を知っているアンジールは、素直に同意出来ず曖昧に濁す。
「俺とセフィロスが付き合っているだなんて、どうやったらそんな風に思えるんだ?」
ジェネシスは険しい顔をすると、口元に手をやってガリと親指の爪を噛む。
「随分と苛ついているな……」
いつもなら下らない噂話など、一笑に付して終わらせてしまう癖にらしくない。
「……だって、あと三日もあるんだぞ」
どうやら実際幼馴染みの関心事は、別のところにあるらしい。俯いて憂い顔で溜め息を吐く。
「何が── だ?」
「セフィロスが帰ってくるまで、あと三日もあるんだ── !」
それなりに人気のあるリフレッシュフロアで、周囲に聞こえる程の声量で吐き出す幼馴染みに、アンジールは突っ込みを入れざるを得なかった。
「どう考えても、火種を起こしているのはお前だと思うんだがな。ジェネシス」
どうして、いつも居て欲しい時に居てくれないのか── ?
出来れば社長並みの権限を持って、何時でも何処でもセフィロスを呼び出したいくらいだ。
「俺に拘わらずに、他の奴とセックスすれば良いだろう?」
「嫌だ。セフィロス以外の奴に、気安く身体を触られたくない」
「クッ、我が儘な奴だな……」
言いながらセフィロスは、己の腰を前へと進める。
「あっ! ……ん……深……い── 」
「奥が、感じるんだろう?」
執拗に最奥を責められて、ジェネシスの右手は寄り処を求めるようにシーツの上をさ迷う。その手をセフィロスの左手が捉え、シーツの上に抑え付ける。片腕を固定された所為で身じろぎを制限され、セフィロスのより深い侵入を許してしまう。
「ぅ……はっ……ぁ……セフィ、ロス……」
ジェネシスは残りの手で縋るように自分を組み敷くセフィロスの身体に手を掛けるが、力が入らず縋りつく事さえ出来ない。その間も休みなく続けられる最奥ヘの律動。
「はぁ……もう……ダ、メ……」
「何が、駄目なんだ?」
ジェネシスは、固く眼を閉じて。
「イ……ク、ぁ……奥で、イッ……っ……ぁ、ぁあ!」
最奥で高められ果てさせられるという、最大限の悦楽を与えられ完全に理性を失ったジェネシスは、囈言のように呟きを洩らす。
「── セフィロス……はぁ……好き……」
セフィロスはその言葉を聞きながら、きつく締め付けてくる内壁に応えるように、ジェネシスの裡の奥深いところに熱を吐き出した。
「── 俺の事が好きだって?」
情事の後、セフィロスは揶揄うように声を掛ける。
「っ! ……あんなの、リップサービスに決まってるだろう!!」
言いながらもジェネシスは、誘うようにセフィロスの首へ両手を廻し引き寄せた。
「あんたなんか好きじゃない……。だけど、セフィロスじゃなきゃ駄目なんだ……」
引き寄せられ誘われるままに、セフィロスは口付ける。
「それを、『好き』って言うんじゃないのか?」
囁いて、舌を深く絡ませる。
「ふ……知らない……はぁ」
次第にジェネシスの息が荒くなり、再びベッドへとゆっくり身体が沈められる。
何時しか、お互いがお互いに、ただのセックスの相手としては割り切れない程に深みに嵌っている事に、どちらも未だ気が付いてはいなかった。
社内の噂など、全く気にも留めずに二人はこれまでと変わらず、お互いの欲を満たし合った。
呆れるほど周囲に関心が無く、時折人目を気にせぬ行動を取りがちな二人に、親友のアンジールだけが余計な肝を冷やした。
「ジェネシス、お前が英雄に心酔しているのは分かっているが、最近はちょっと度が過ぎるんじゃないのか? 暫く会えないくらいでそんなに苛ついて……」
寝不足の日々が── セフィロスに会えない日々が続いては、苛々と周囲に当たり散らすようなジェネシスを見兼ねてアンジールが説教する。
「だって── 眠れないんだ……!」
いくら幼馴染みといえども、流石にその言動の意味が理解出来ずに首を傾げる。
そんなアンジールを見て、やはり自分が少しセフィロスに依存しすぎているだけなのでは── と、思う。飽くまでも睡眠が目的ならセフィロスじゃなくてもいい筈だ。いい加減、他にセックスの相手を見付けるべきではないか。
「もう、いっそ、お前でも── 」
俯いて、縋りつく様にアンジールの胸元を掴んで切なげな吐息と共に吐き出す。
── でも……
どうしても、脳裏にあの銀の英雄の姿が浮かぶ。
セフィロス以外の相手なんて思い付かない。セフィロス以外に自分を満足させてくれる奴がいるとは思えない。
そして、何よりも、あの英雄以外に自分の乱れた姿など見せたくはなかった。
闊達で常に悠然と構え、常人には決して届かない高みにその身を置く貴き存在。只人とは違う次元を生きている。そんなセフィロスにだからこそ、他人には見せられない自分の姿も心置きなく見せる事が出来る。
セフィロスじゃなきゃ駄目なんだ── 。
── それを、『好き』って言うんじゃないのか?
不意にセフィロスの言葉が蘇って、知らず溜め息が零れる。認めたくはないが、ここまで依存してると当たらずとも遠からず── と言ったところだろう。
でも、本当に好きになってはいけないと心の奥底で警鐘が鳴り響く。
── 俺は、セフィロスとのセックスに、セフィロスの身体に溺れている
本当に好きになって、身も心もセフィロスに溺れてしまうのが怖かった。
── もう、終わりにしよう
いつもの様に、神羅ビルのエントランス付近の階段に腰掛けてセフィロスを待ちながら、ジェネシスは自分に言い聞かせる。この関係を続けてもいずれ行き詰まる。早く終わらせた方が良い。そして、初めから無かった事にしよう。
玄関の自動ドアが開いて、帰ってきた英雄と目が合う。真っ直ぐこちらへ向かってくるセフィロスに、ジェネシスはゆっくり立ち上がって迎え、見詰める。
「もう、終わりにしよう」
ジェネシスが口を開く前に、セフィロスの低い声が届く。セフィロスも自分と同じ想いでいたのか、或いは自分との関係に飽いたのか。どちらにしろ、既にそう決意していたジェネシスは、無言で頷き睫毛を伏せた。
セフィロスが階段を昇り、ジェネシスに近付き、横を通り過ぎる。その瞬間、不意にジェネシスは二の腕を掴まれ、そのまま引きずられるようにエレベーターに連れ込まれた。終わりにすると言った筈のセフィロスの行動が理解出来ず、驚きのあまり無言のまま見詰めると、強引にエレベーターの壁に押し付けられ口付けられる。終わりにする前に、最後の情事を楽しむつもりなのか。セフィロスのキスは、エレベーターが目的の階に到着するまで続いた。
到着したのはセフィロスの私室のある階で、当然、目的地はセフィロスの部屋だった。
部屋に入るなり強引にベッドへと押し倒され、ジェネシスは呆然とセフィロスを見上げる。と同時に、はっとして慌てて軽い抵抗の姿勢を見せる。セフィロスはどういうつもりなのか知らないが、ジェネシスは終わりにするならさっさと終わりにしてしまいたかった。こんなのは、却って未練が残る。
「終わりにするんじゃなかったのか?」
抵抗虚しく、あっさり自分を組み敷くセフィロスに非難の声を浴びせる。
一方、セフィロスはジェネシスの言葉がまるで耳に入っていないかのように、ゆっくりと慈しむように柔らかい明るめの栗毛にしなやかな指先を滑らせる。
「ああ、もう今までみたいな関係は、終わり── だ」
セフィロスは、魔晄を帯びた揺らめく眸で見詰め、静かに囁く。
「お前が……好きだ、ジェネシス」
「── セフィロス……」
ジェネシスは、思わず息を呑む。心臓がドクリと大きな鼓動を立てて、体温が上昇する。
「俺と付き合え、ちゃんと! 嫌だとは言わせない。俺じゃなきゃ、駄目なんだろう?」
口角を上げて、断定するように言うとセフィロスはゆっくり味わうような深い口付けを与えた。それに応えるように、セフィロスの背中に廻されるジェネシスの両腕が、更なる深いキスを誘う。
「あ……熱い……」
今までに何度も繰り返してきた筈の行為が、今までとはまるで違う感覚を与える。繋がっているところだけが研ぎ澄まされたように鋭敏で蕩けていく。
「熱くて……溶け……そう」
経験した事の無い享楽に、ジェネシスの視線は宙をさ迷い、自分の声とは思えない程の嬌声を上げた。セフィロスの背中にしがみつき爪を立てた。セフィロスの名を何度も呼びながら縋りついた。
何時までも、何時までも、ひとつになって溶け合っていたかった。
疲れ切って眠るジェネシスの寝顔を眺めて、セフィロスは穏やかな笑みを湛える。
最初は、軽い気持ちで持った関係だった。関係を続けるうちに、次第に深みへと嵌って溺れそうになってるのはジェネシスの方だと思っていた。
だが、気が付くと任務の最中でもジェネシスの事を考えている自分がいた。神羅ビルのエントランスで、ジェネシスが自分の帰りを待っているのが当たり前になっていた。帰ってきた時に、たまたまジェネシスが任務で不在だと訳もなく不快になった。ジェネシスに他の相手を作れと言って置きながら、実際にジェネシスが自分以外の相手を作ったら許せないと感じている自分がいた。不安になった。一刻も早く、自分だけのものにしてしまいたかった。
「囚われたのは、俺か、お前か?」
セフィロスは、小さく呟いて、目の前の少し乱れた淡い栗毛をそっと撫でた。
end
2009/1/17