ウイークポイント

見たい。見たくない。
曝きたい。曝かれたくない。

普段、一般人からは到底想像も付かない世界に生きている神羅のソルジャー。そのクラス1stともなると日常と非日常の乖離が大きい。とんでもない事が日常だったり、逆になんでもないような事が非日常だったりする。
特に神羅の英雄セフィロスともなると、そのギャップの激しさに親友であり恋人でもあるジェネシスさえ時折眩暈を覚えるほどだ。
今日も何とはなしにセフィロスの部屋を訪ねたところ、いつもならソファに踏ん反り返って新聞や広報誌等をチェックしているか、或いはデスクの上にノートパソコンを広げて報告書やデータなどを打ち込んでいるか……といったところが相場なのだが、そもそもリビングにセフィロスの姿が見当たらない。
しかし、どこからか物音がするし、彼の気配も感じる。不可思議に思って辺りを見回すと、キッチンにセフィロスが立っていた。
「なっ、何をしているんだ、セフィロス!?」
「何と云われても……コーヒーを淹れようとしているだけだが?」
慌てて追求するジェネシスに、セフィロスはいつもと変わらぬ落ち着いた口調で返す。
セフィロスにとってキッチンに立ってコーヒーを淹れるぐらいの事は、一人の時ならば日常的にやっている事だ。寧ろ、子供の頃から神羅のソルジャーとして一人前に働いていたセフィロスには、親代わりのような人は居ても四六時中側にいて面倒を見てくれるような人は居なかったので、結果として身の回りの世話は殆ど自分でこなしていた。
つまり、裕福な家庭で何不自由なく過ごしてきたお坊ちゃんなジェネシスなんかよりも、ずっと独り暮し生活は長い。故に、キッチンに立つぐらいの事で、いちいち口を挟まれるいわれは無いのだが。
「いや、コーヒーなんか俺が淹れるから、お前はリビングで待っててくれ!」
それが、どのようにジェネシスの脳内で変換されるのか、キッチンを退散するよう懇願されるのだから、せない。まるでセフィロスの方が台所仕事が不得手であるかのような言い草である。
どうやらジェネシスにとって神羅の英雄がキッチンに立つなどというのは、天変地異に等しい大事おおごとらしい。コーヒーを淹れる程度の事でこれだけ騒ぐのだから、もし普通に調理などしていた暁には如何ほどの拒絶反応を見せるのやら。
半ば呆れつつ、ここで下手に逆らってもややこしい事態になるのは目に見えていたので、セフィロスは大人しくキッチンを明け渡してリビングに移動した。ジェネシスがやってくれるというならば、その方が手っ取り早いし彼の淹れるコーヒーは手順がきっちりしているだけあって味も良い。彼は鬱陶しいほど繊細なぶん手抜きなどはしないのだ。
思わぬ空き時間が出来たセフィロスは、リビングのソファに腰掛けるとまだ目を通していない新聞を選び取り、目の前に広げる。
神羅カンパニーは全ての情報を正しくマスコミに伝える訳ではないので、どうしても事実と新聞記事では齟齬が生じる。プロパガンダや敵軍を眩ますためのフェイクも多い。いわゆる神羅お得意の情報操作だ。
だから、自分の関わった事案が対外的にはどういった事情で伝わっているのかを常に確認しておく必要がある。うっかりマスコミには伝えていない真実を部外者に話してしまわないように。そして、マスコミ情報しか知らない人物とも円滑に会話が出来るように── だ。
新聞にざっと目を通し終わったところで、ジェネシスが極上の薫りをくゆらせたコーヒーを運んでくる。毎回給仕を頼みたくなるほどの、絶妙のタイミングだ。
感心しつつも、自分達はこういう何気ないところでも相性が良いのだろうか? そんな胡乱な考えが一瞬頭を過ぎって、僅かに笑みが零れる。
「希望的観測だな」
「何が、だ?」
「いや、こっちの話だ」
つい洩らしてしまった呟きに対するジェネシスの問い掛けを適当にかわし、淹れてもらったコーヒーを一口すする。深煎りの上品なアロマが鼻孔をくすぐり心地好い。
二脚分のカップをテーブルにセットし終えると、ジェネシスもセフィロスの隣に座した。セフィロスの方からジェネシスに近付こうとすると距離を置かれる事が多いのだが、自分から近付く分には構わないのか。ゆったりとソファに腰掛けるジェネシスには警戒心の欠片もなく、それどころか心持ちセフィロスの方に寄り掛かるような体勢で体重を掛けてくる。
そっと目線を動かしジェネシスの端正な横顔を窺う。手ずから淹れたコーヒーをゆっくり口元に運ぶと満足げな笑みを浮かべている。きっと、納得のいく味わいだったのだろう。実家の生業なりわいが生産関係なだけあって、ジェネシスは味覚や食に対するこだわりが強いようだ。カップをテーブルに戻すと、味蕾に残る余韻を反芻するかのように目を閉じる。
「そんなに、俺が淹れたコーヒーでは不服か?」
セフィロスは真の理由を解っていながら、敢えて意地悪を言う。
「ばっ……ち、違う!!」
「だが、俺が淹れようとしていたのを引き止めてまで、自分で淹れたかったんだろう? 確かにお前が淹れてくれたコーヒーは美味い。しかし……」
「そうじゃない、セフィロス!」
自分の淹れたコーヒーの抽出加減が上出来でご機嫌だったところに、その行動が却ってセフィロスを不機嫌にさせてしまったかと慌てるジェネシス。
いや、違うんだ、英雄がキッチンに立つところが見たくなかっただけなんだと言い訳を捲し立てる。こういう時に冷静に対処しきれないところが、またセフィロスの嗜虐心を煽るのだが。この英雄が如何に貪欲であるかを、ジェネシスは未だに理解していないらしい。
「お前はそうやって見たくないと云うが、俺は普段ひとりの時は普通にキッチンに立っているぞ」
「それは── !」
分かってはいるが納得はしたくないジェネシスは言葉に詰まる。
「俺の……普段のいつも通りの姿を『見たくない』と云うんだな? 俺はお前になら素の姿を見せても良いと思っているし、俺もお前の素の姿を見たいと思っているのに──
「…………」
完全に言葉に窮し、セフィロスから離れようと無意識にソファの上をじりじりと横移動するジェネシス。それを更に追い詰めるように躙り寄るセフィロス。透かさず身を引こうと及び腰になっているジェネシスの肩を掴むと、しっかりと押さえ付けた。強引にソファの背もたれに身体を押しつけ固定すると、これ以上言い訳は聞きたくないとばかりに唇で唇をふさぐ。
「んっ……ふ」
さらさらとした銀の髪がジェネシスの頬をくすぐる。コーヒーの味が残る口付け。深くて濃い。
恋人なのに、距離の近さに動揺して鼓動が逸るのが恥ずかしくて、ジェネシスはますます萎縮してしまう。それに便乗する形で、セフィロスはあっさりジェネシスをソファの座面に押し倒した。
どうして、逆らえないのだろう?
セフィロスが好きだから?
いや、セフィロスが── 英雄そのものがジェネシスにとって最大のウイークポイントなのだ。逆らえるはずもない。
組み敷いたジェネシスに、英雄は容赦なく追撃の手を伸ばす。コートを広げ、シャツの裾を捲り、サスペンダーとベルトのバックルを外し、ジッパーも躊躇いなく下ろされていく。
その一連の攻勢にジェネシスの緊張は高まるばかり。何しろ普段からセフィロスの一挙手一投足が気になって仕方がないのに、その全てがジェネシスを暴こうという動機をもって動いているのだ。
レザーパンツも引きずり落ろされ、気が付けば下着まで剥ぎ取られ、ジェネシスの下半身は最早完全に無防備な状態に晒されている。
「は……ああっ」
セフィロスの左手が無造作にジェネシス自身を握り込む。扱かれれば嫌でも快感を覚えるのだが、ある意味急所を押さえられている所為か緊張が解ける事はない。与えられる感覚の中で、無理矢理快楽だけを選び取って逃避を試みるのがジェネシスなりのささやかな抵抗だった。
「うん……はあ、あっ!」
次第に大きくなる喘ぎ声。しなる身体。陰茎の先端を濡らす先走りを掬い取ると、セフィロスは先触れもなく後孔に指を突き立てる。
「あっ、んン!」
一段と身をしならせ逃れようとするジェネシス。だが、ジェネシスを腹の下に組み敷いているセフィロスは難無くジェネシスを押さえ込んだ。まるで少しの隙も許さないかのように間断なく、指などとは比べものにならない屹立したモノが後孔にあてがわれる。抵抗などは疾うに無意味で── 。無遠慮に差し込まれた固いペニスは、柔らかな肉壁にとってはナイフのような鋭さを持っていた。
「ああっ── いっ、つ……!」
強引に受け入れさせられたジェネシスの額には脂汗が滲む。呼吸も乱れ、片手は無意識なのか縋るようにセフィロスのコートの裾を摘んでいた。淡青色の瞳がセフィロスを見詰める。
切迫した状態のジェネシスを宥めすかすが如く、彼の紅潮した頬にそっと手が添えられる。
「俺は── お前の全てが見たい。余所行きの取り繕った顔も、気を許した警戒心のない顔も、嬉しい時、喜んでいる時、落ち込んでいる時、悲しんでいる時……」
セフィロスの口から流麗に澱みなく紡がれる言葉の数々が、どこか脅迫じみていて心が震える。
「セックスで陶酔に溺れ、完全に理性を失った顔も── !」
怒張した肉塊を柔らかい肉壁に擦りつけ、激しい抽挿を繰り返すことにより快楽を得ることを強要される。
僅かな苦痛と、それを遥かに凌駕する愉悦。
「いや、だ……セフィロス── !!」
聞き入れて貰えない事など解りきっている上での抵抗と拒否の言葉。そして、拒絶の態度とは裏腹に快楽の闇に落とし込まれていく虚しさと認めがたい歓喜。惨めでもあり恍惚でもあり。
肉体的な快楽もさることながら、かの英雄が自分に執着し、略奪しようと躍起になっている── という現実に、ジェネシスはこの上ないカタルシスを覚えずにはいられなかった。これも一種の征服欲と云えるのだろうか。
強く求められれば求められるほど痺れるような快楽が背中から這い上がる。たちまちジェネシスは昇り詰め、快感の淵に達した。
「ああっ、駄目……だ。もう── っ!」
表情を歪ませながら、身を捩る。その顔はまさしくセフィロスが求めた理性を失い快楽に溺れる表情だった。
耐えきれず白濁が溢れ拡がるのと同時に頭の中も皓白こうはくに染まる。体内、体外共に犯され侵されて、羞恥だとか後悔だとか呵責だとか、裡に吹き溜まっていた負の感情の何もかもが洗い流されてしまったかのように充足感だけがジェネシスを満たす。
脱力して両手足をだらりと伸ばし、ソファに身体を預け切る。その力無い身体のあちらこちら、腹筋やら二の腕やら、首筋やら太腿やら、衣服がはだけて垣間見える素肌を見付けてはキスを落としていくセフィロス。
見たくない。でも、見ていたい。
まるで、ジェネシスのことを大事な宝物のように慈しみ、優しく愛撫を続けるセフィロスの姿など見たくない。特定の誰かにだけ心を許し無益な奉仕を続ける英雄の姿など──
だけど、見ていたい。ジェネシスのことを特別に思っているのが嫌でも伝わってくる、指先まで細心の配慮がなされた繊細な指遣いと柔らかく啄むような口先を──
「セフィロス……」
名を呼びながら彼の顔の方に手を伸ばすと、その伸ばした手を掴まれて、その手の甲にも口付けを施される。そのままセフィロスはジェネシスの腕を握ると、ぐいと引っ張って起こし上げた。
顔が近くなる。反射的に瞼を伏せると、当然のように唇にキスが飛んでくる。目を閉じてキスを待ち構えていたかのような形となり些か不本意だったが、ジェネシスは大人しくキスを受け止めた。本音はジェネシスもキスを望んでいたから。
ゆるやかに警戒心が剥がれ、押し隠し続けた本心が表情にも顕れる。
「やっと、素のお前が見れた」
嬉しそうなセフィロスの声が癪に障って、ジェネシスは忌ま忌ましげに眉根を寄せる。でも、不機嫌な態度を長続きさせることは出来なくて、今度はジェネシスの方から愛おしそうにキスを送った。見られたくない。こんな素直な自分は見せたくないのに──
隠しきれない。セフィロスの前だと、何もかも曝け出したい衝動に駆られてしまう。全てを見せたくなってしまう。そして、きっと心の奥底ではジェネシス自身もそれを望んでいるのだ。
ソルジャー・クラス1stとしてはあるまじき致命的な弱点かも知れない。許されぬ渇望かも知れない。
だが、今は──
もっと見たい。もっと見られたい。
セフィロスの何もかもを知りたい。セフィロスに何もかもを知られたい。
セフィロスの首に両腕を廻し、強請るように何度もキスを交わす。もっと深い闇に陥るように。もっと昏い淵に嵌まり込むように。
「もっと、あんたが欲しい──
一番ジェネシスの奥深いところに燻っていた欲望が、ついにあられもなく剥き出しになり零れ落ちる。
その祈りにも似た欲望を叶えるべく、セフィロスは今一度ジェネシスをゆっくりとソファに押し倒した。

end
2013/2/2