JOKER

本心は晒け出したくない。
でも、素直になりたい。弱音を吐いてしまいたい。
強がっていたい。弱みは見せたくない。
矛盾する欲求を抱えて、自家中毒を起こしそうな夜。
唯一の解消法を求めて、セフィロスの部屋を訪れる。
「もう休むところだったんだが」
ドア口で開口一番に告げられる言葉。こういう時に限って、妙に冷たくあしらおうとしてくるのが憎々しい。
「なら、却って好都合だ」
態とらしくセフィロスに寄り掛かるようにして、その胸元に顔をうずめる。
「ジェネシス── ?」
やや要領を得ない様子の態度に苛つく。
俺は面を上げると、セフィロスのサイドに垂れる銀髪を掴んで無理矢理下向かせた。極々控えめに、唇を触れ合わせるだけの口付けを交わして見得を切る。
「これ以上、俺に誘わせるな」
察しの悪い奴は嫌いだ。これで分からなければ自室に帰ってしまおう。そう決意する。
流石にこの後は寝室にまで招き入れてくれたが、でなければ付き合い自体を考え直していたところだ。
英雄は周りがあれこれ気を遣ってくれるものだから、自分から相手の気持ちを察したりするのは不得手らしい。面倒臭い。

寝室に入れて貰った後は、早々にベッドに転がり込む。
部屋の主よりも先にふかふかの枕に顔を半分埋ずめて待つ間。セフィロスはその長い銀の髪をひとつに纏めていた。あんなに長いと、例えひとつに纏めたとしても邪魔になりそうな気がするが、俺が気にしても仕方がない。
俺が使っていた枕の半分にセフィロスが片手をついたので、俺の頭が傾いた。頭の向きを直すついでに見上げると、セフィロスの顔が近付いてくる。
厳粛たる面持ちで、俺は堂々と口付けを受け止めた。
これは、儀式なのだ。
唇を合わせながら、セフィロスの背中に手を廻すと一括りにされた髪の束がさらさらと背中の上を流れて心地好い。
セフィロスの指があちらこちらに触れ俺の身体を徐々に開き、セフィロスの唇が中心へと向かって俺の身体を辿っていく。
そうして身体を侵略されていく毎に細胞そのものが変質していくかのように身体が震える。細胞レヴェルで犯される屈辱と歓喜に陶酔と眩暈を覚えて思考が曖昧になっていく。
この日常から切り離され隔絶される感覚がこの上ない甘美をもたらすのだ。
「はあっ、う……ん」
無意識に漏れ出る声が自分のものではないようにさえ思え。気が付くとセフィロスの背中に廻した手に過剰に力を入れて縋り付いていた。
ベッドの上でなら、素直になれるから。
だから俺は素直になりたい時、セフィロスに対して儀式を求める。突き立てられて内部からも犯されて、後悔する程に理性を奪われるのが俺の望み。
もっと高めて、もっと乱して、いつもの俺を維持出来なくして欲しい。
日常の俺をどんなに逸脱しても言い訳が出来るから。
「……好き」
セフィロスの頭部を撫でつけながら熱の籠った眸で見詰めても。甘みを含んだ声音で普段なら決して見せない本音を吐き出しても。そのままセフィロスの顔を引き寄せて、飽きるまでキスを強請っても。
自身の躯の中枢にセフィロスの中心を感じる、ある種、奇異的とも云える状況が俺を常に在らざる状態に追い込んでいるだけなのだ。
あの声も、あの言葉も、あの仕草も。
あらゆる言動がこの歪んだ状態によって引き出された不本意なものでしかない。常態ではないのだから、何を言っても何をしても何があったとしても、俺の本意ではなかったのだと言い逃れ出来る。
セフィロスは俺の思惑を知ってか知らずか、執拗な程に俺を追い立て快楽の波に溺れそうになるまで俺を沈めてくれる。
だから、俺は安心して理性を失ない、仮面を外すのだ。
「ああっ……!」
あられもない姿を晒して、はしたなく嬌声を上げて、みっともなくしがみついて。
でも、これは今だけ。この場限りの醜態だから。
今だけは、この場だけは乱れる俺自身を赦せる。
セフィロスの存在だけを感じて、他は何も分からなくなる。他は何も要らなくなる。
俺にとっての切り札。とっておきの特別。
この世で唯一、俺を解き放つ事の出来る鍵。
永遠なんて要らない。今、この場だけ、この刹那が欲しい。
あんたは英雄だから、俺一人のものにはならない。ならなくていい。
ただこの刹那、俺を曝いて、全てを受け止めて。
されば、俺もあんたに全てを捧げるだろう。

気が付けば、俺は枕の上に突っ伏してうつぶせで眠っていた。どうやら気を失っていたらしい。
限界以上に追い込まれたのか。ベッドの上で俺は憮然とした。
全てをさらけ出してすっきりしたはずが、逆に何もかも呑み込まれてしまったようで気に食わない。
セフィロスがこの場に居ないことも更に腹立たしい。
奴を捜して裸のままリビングに行くと、流れる水音が聞こえてくる。
そのまま音を辿ってバスルームに入って行くと、長い銀の髪が見えた。何も言わずに行き成りしがみつく。
セフィロスは冷静にシャワーを止め、こちらを向くと俺の髪を梳いた。驚きもしないのが憎たらしくもあり、愛おしくもある。
軽くキスをして、セフィロスのまだ熱が残る陰茎を握り込み、奴の耳許に唇を寄せる。
そして、「もっと」と俺は強請った。

end
2010/5/2