宙を舞う

長めのミッションから帰投して間もなく、ジェネシスのもとにセフィロスから誘いのメールが入った。恐らく、彼が宿舎に到着するタイミングを見計らって寄越したのだろう。そう考えると、ジェネシスも満更ではない。
口では「帰ったばかりでせわしないヤツだ」と悪態をつきながらも、ジェネシスはいそいそと味気ない軍用コートとソルジャー用のインナーを脱ぎ捨て、洒落た外出用のシャツとコートに着替える。コートはどちらも赤い皮革なので下手をするとセフィロスは気がつかないかも知れないが、これはほとんどジェネシスの自己満足だからいいのだ。デートなのだから、相手に仕事を想起させるような格好はしたくない。
ややご機嫌な足取りでセフィロスの部屋に到着する。しかし、天の邪鬼なジェネシスは浮ついていることを相手に悟られたくない。ドア前でインターフォンに手を掛ける前に、ひとつ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。意識して仏頂面を作ってからインターフォンを鳴らす。いつもなら多少待たされるのだが、さすがにセフィロス側からの誘いだけあって、ほどなくしてドアは開かれた。
まるで長年の友人ではなく大事な客人でも迎え入れるがごとく、ジェネシスは丁重に中に案内される。ここで、若干嫌な予感が胸中を走った。
「お前がちょうど帰ってきたところで助かった。是非、お前の力を貸して欲しい」
セフィロスの言葉に、帰投後タイミングよく呼び出されたのは、久しぶりの逢瀬を楽しむためではなかったのだと悟る。
すると、たちまちジェネシスは演技ではなく本当に不機嫌になった。自室でのんびりと遠征の疲れを癒す間もなく駆け付けたというのに、何らかの用事があっての呼出しだったのだ。
しかし、一方であの神羅の英雄たるセフィロスに「力を貸して欲しい」と頼られるのも非常に自尊心をくすぐられるシチュエーションだ。余程のことが無ければ、英雄は他者を頼るような真似はしない。しかも、同じソルジャー・クラス1stであるジェネシスに頼らなくてはならないというのは如何ほどのことか、英雄マニアとしても好奇心が疼く。
肩透かしを喰らった不機嫌な気持ちはいったん横に置いておいて、セフィロスの話を聞くことにした。
「俺は普段のミッションとは並行して、各地でマテリアの採取もしているんだが、実は数ヶ月前に新種のマテリア原石を発見してな……」
そう言って、懐から大事そうにひとつのマテリアを取り出した。色から察するに魔法系のマテリアらしい。
「この間ようやく精製に成功したんだが、どうやらこの世界に今まで全く無かったタイプの魔法だったらしくてな。今のところ、この魔法を上手く扱える者が誰もいない状態なんだ」
説明を聞いて、ジェネシスは不思議そうな表情でセフィロスの顔を仰ぎ見る。
「誰もって、まさかお前も……か!?」
セフィロスは瞑目して頷く。
「早くこの魔法がどんなものか分析して更なる研究を進めたいのは山々なんだが、そういう訳で困っている。お前なら、もしかしたら扱えるんじゃないかと思ってな。試してもらえないか?」
「ええ!? いや……」
「嫌、か?」
「いや、そういう意味じゃないんだが──
驚きのあまり上手く言葉が紡げない。決して嫌な訳ではないのだ。嫌なものか。むしろ嬉しい申し出だった。だが、セフィロスすら扱えなかった魔法を果たして自分が操れるのだろうかとジェネシスは思う。あるいは、魔法が得手な知り合いに片っ端から声を掛けているのだろうか。
「その……仮に俺がその魔法を扱えたとして、だ。そのマテリアは実用化できるのか?」
「ふむ、それは恐らく大丈夫だ。確かにコントロールがかなり難しい魔法ではある。正直どんな効果がある魔法なのかさえ現状ではハッキリしていない。だが、逆にどんな魔法かさえ判ればもっと万人が使用できるようにマテリアを改良できると思う」
「しかし、セフィロスも試してはみたんだろう? どんな魔法かも分からないとは大袈裟だな」
セフィロスは顎に手をやり眉間にしわを寄せ苦笑を漏らす。そうとう苦戦したようだ。
「重力に関する魔法だとは見当を付けているんだがな。バランスが難しいというか……とにかく、お前も試してみれば分かる!」
改めてセフィロスに力説されると、そこまで英雄を翻弄した魔法がどんなものなのか、ますます気になってしまう。しかも、自分がその魔法を上手く操れたら、少なくとも魔力に関してはジェネシスの方がライバルを一気に引き離し優位に立てるのだ。
「分かった。お前がそこまで言うなら、やってみよう」
結局のところ、セフィロスへの優越感と未知なる魔法への好奇心を刺激されて、先程まで抱えていた不機嫌はどこかに吹き飛んでしまった。こうなれば、もう引き受けるしかない。
差し出されたマテリアを受け取って、先ずはしげしげと眺めやる。成る程、普通のマテリアであれば手にした瞬間にどういう系統のマテリアか感覚的に分かるのだが── それは、ジェネシスが特別ということではなく、ソルジャー1stであれば大概の者が分かるであろう── このマテリアは、直に触れてもどういう系統のマテリアかピンと来ない。この魔法に近い属性の魔法自体が未発見といって過言ではないだろう。
貴重なマテリアだ。ジェネシスは慎重にマテリアを掴み、左腕に装着したバングルに嵌め込んだ。さて、魔法を詠唱するには名前が必要だ。この魔法の名はなんというのだろう。ジェネシスがふとセフィロスを見詰めると、心得たように答えが返ってくる。
「名前はレビテト── だ。だが、まだ唱えない方がいい」
「何故だ?」
「言っただろう、バランスが難しいと。どこか、壁際とか支えになる物の近くでやった方がいい」
そうして、指し示されるままにジェネシスは壁際に移動した。一方でセフィロスは万が一に備えてと言って、自らのバングルにグラビデのマテリアを装着する。重力系の魔法ということだったが、グラビデ系と関連のあるマテリアとも思えない。一体どんな意味があるのだろう。セフィロスは、やってみれば分かると言わんばかりの表情で説明をする気はないようだ。
セフィロスからの細かい指示や対応が、それだけこの魔法に対する警戒の強さと取れてにわかに緊張する。こんな慎重なセフィロスは戦場でも滅多に見ない。
ひとつ深呼吸をして、呼吸を整えると壁に手を添えた。ジェネシスも万全の構えだ。
── レビテト」
静かに魔法を詠唱し、少しずつ魔力を放出する。
すると、身体から次第に体重が失われるような不可思議な感覚に襲われた。いや、それだけではない。浮力を感じる。微々たるものだが、それでも身体が浮き上がっていくのを感じる。
身体のバランスを取るのが急に難しくなる。確かに、何らかの支えがなければまともに立ってはいられないだろう。ジェネシスは慌てて壁に添わせた腕に力を入れる。だが、その時初めて浮力を得た身体に力を入れることの困難さに気が付いた。支えがあってもなお、真っ直ぐ立っていることが難しい。相当なバランス感覚が必要だ。
思った以上に難易度が高い。強いて言えば、無重力空間で力を入れて立とうとするようなものだろう。先程セフィロスが苦笑を漏らした理由をジェネシスはなんとなく察した。
身体が浮いたのは良いが、浮いた高さはせいぜい10センチかそこらだった。これっぽっちしか浮上しないのであれば、そもそもこの魔法の存在意義が感じられない。もっと強い浮力があるはずだ。ジェネシスはそう考えて、魔力の解放量を徐々に増やしていく。
案の定、地面からの高さが15センチ、20センチとどんどん増えていく。ついに30センチを超えようか……といったところで、ジェネシスは一気にバランスを崩してよろけてしまう。不様に転ぶその寸前、素早くセフィロスがグラビデを唱えた。
すると、あっさり浮力が減少し自然に床へと降り立つことが出来た。なるほど、グラビデならレビテトの効果を打ち消すことが出来るのだ。
「なかなか難しいな、この魔法は……」
誤魔化すよう苦笑いしながら、見詰めた先のセフィロスが発したのは意外や感嘆の声だった。
「やはり、お前はすごいな。そこまで浮力のある魔法だとは今まで分からなかった」
思いがけない結果にはしゃぐセフィロスの姿にジェネシスはどきどきしてしまう。と、同時にもっとすごいところを見せ付けて、かの英雄をあっと言わせてみたいという欲も湧いてくる。まさしくジェネシスにとって、ここが英雄との差を縮める……いや、逆に引き離すことさえ可能な希有なチャンスだった。聞くと、セフィロス自身はほんの数センチしか浮くことが出来なかったらしい。最初はあまり乗り気ではなかったが、俄然やる気がみなぎってくる。
「今ので少しコツが掴めた気がするんだ。もう一度チャレンジしてみてもいいか」
恐らく、この発見されたばかりのマテリアは未調整のため、あまり過度な魔力を放出しても制御が難しいのだ。もう一度、ゆっくりと少しずつ魔力を解放していき、一番バランスがいいところで魔力量を固定すれば安定するはずだ。
ジェネシスは再びレビテトを唱える。
5センチ、10センチ、15センチ……。これくらいの高さがベストだろうというところで魔力の放出を抑える。案の定、今度は何とかバランスを保って立つことが出来た。壁から手を離しても大丈夫だ。
「よし、安定した。少し歩いてみる」
魔力を慎重にコントロールしながら、そっと宙の上を歩き出す。最初は不安だったが、身体が宙に浮いていても蹴った力はちゃんと地面に伝わっているようで── というか、それがこの魔法の特性なのだろうが── ちゃんと歩くことも出来た。不思議な感覚だが、地面を踏まずにふわふわと移動するのはなかなか楽しい。魔法の特性状、あまり高くは飛べないだろうが先程試した感じだと、マテリアの調整次第では30センチほどの高さを保ったまま空中歩行出来るのではないだろうか。
「ふむ、この魔法が実用化出来れば人間の足では歩いては入れないようなところも通行可能になるな。例えば、橋のない川なども簡単に渡れるだろう」
「なるほど、魔法の性質が分かればもっとマテリアを改良出来る。実用化するのは難しくないだろう」
セフィロスも満足げだ。
「これがあれば、川チョコボや山チョコボでしか行けなかった場所も人力で行けるんじゃないか。我々ソルジャーにはあまり関係ないかも知れないが、一般人にはかなり有効だろう」
ジェネシスは宙をふわふわと歩きながら一周して、またセフィロスのところに戻った。そうして、セフィロスの顔を見上げようとして思わず固まる。そう、いつもの癖で見上げそうになってしまったが、今のジェネシスは空中15センチほどの高さで浮いている。その為、見上げるまでもなく顔を向けただけでセフィロスと目線が重なった。つまり、セフィロスと同じ高さに顔の位置があるのだ。合わせるはずのなかった目線が不意に絡んで、どぎまぎしてしまう。誤魔化すように顔を背けると、周囲の景色が自然と目に入る。いつも英雄が見ている光景はこんな感じなのかと思うと感慨深い。
「川チョコボや山チョコボは手に入れるのも難しいし、マテリアで移動が楽になれば助かる人も多いだろう」
無理矢理目線を逸らして普通に会話を続けようとするが、顔が近すぎてどうしても意識してしまう。背の高さが同じだと、こんなにも距離が近くなるのか。さすがにあからさますぎたのか、ジェネシスが過剰に意識しているのをセフィロスは感じ取ったらしく逆に視線を合わせようと見詰めてくる。なんだか恥ずかしい。そうだ、もう魔法を解除してしまおう。
「セフィロス、もう実験は……」
充分だろうと言いかけたところで、さらにセフィロスの顔がぐっと近付いて気が付くと唇が触れ合っていた。
「ん……ふ、セフィ、ロス」
突然のキスに戸惑う素振りを見せると、ジェネシスの背中にセフィロスの腕が回され、さらに強く引き寄せてくる。
「いいだろう? 久しぶりに会ったのに、まだキスもしていなかった」
そう云われればそうだ。もとよりジェネシスだって、久しぶりの逢瀬を楽しみにしてセフィロスの部屋を訪れたのだ。むしろ、ようやく当初の目的に回帰したと云える。
納得してキスの続きを再開する。同じ背の高さで交わす口付けは、いつもと違う角度からセフィロスの顔を間近で見ることが出来て新鮮だった。ついキスに夢中になっていると、不意にトンと身体を壁際の方へ押しやられる。
現在ジェネシスの身体は宙に浮き、体重がほぼゼロの状態になっているため軽い力でも簡単に動かせる。キスをしている最中は支えもなく不安定な状態だったのだが、壁に背中を押し付ける格好になると体勢がだいぶ安定する。そうしてセフィロスが仕掛けてくる口付けはよりいっそう深くなっていった。
図らずもジェネシスの呼吸は早まり、心音を刻むスピードも加速していく。
久しぶりの逢瀬、久しぶりのキスなのだ。興奮しないわけがない。ジェネシスも夢中になってキスに応えようとする。一方でセフィロスはキスの合間にジェネシスの着衣を脱がし始めた。ボタンをゆるめ、裾を捲くり上げ、シャツと肌の隙間に手を忍ばせていく。
室内なので寒くはないのだが、不意に素肌へ体温の低い手指が触れると思わず身を竦めてしまう。もちろん触れられるのが嫌なのではない。直接的なスキンシップに弱いのかも知れない。ゆえに無意識に身を固くして、抵抗に近い素振りを取ってしまうのだ。
ところが、身体が宙に浮いて力が入らない状態なものだから、全くなんの抵抗にもなっていない。容易くセフィロスの両手はジェネシスの素肌を捕らえまさぐり、更なる侵略を難無く進めていく。
背中側を壁にもたれ掛かることによって、ジェネシスはかろうじて体勢を維持していた。そうでなければとっくにバランスを崩し、よろけていただろう。
身体が宙に浮いている。たったそれだけのことで、こんなにも自身の身体に力を入れるのが困難だとは思わなかった。
跳躍などを利用して自力で宙に浮いている時は、それこそ宙を飛ぶように自在にコントロール出来るのに、魔法の力で浮くとなると想像した以上に勝手が違ってくる。完全に自意識の及ばない浮力だ。
バランスに重きを置こうとすると、むしろ適度に力を抜かなくてはならない。だが、力がほどよく抜けた身体に愛撫を施されるものだから、いつもよりも格段に感じてしまう。
「あ……あっ── くっ」
息はどんどん荒くなり、声も抑えられなくなってきた。一度感度が上がると、ますます敏感になっていく。じわじわと体温も上昇し、額には汗が滲む。
一応、よそ行きの── つまり、デートを想定して私服を着てきたものだから、コートの下はいつものハイネックではなく開襟のシャツだった。コートの前を寛げられると、すぐに首まわりがあらわになる。ちょうどジェネシスの背丈が空中浮遊によりセフィロスとほぼ同じになっているため、セフィロスの唇がジェネシスの首筋を辿るのも容易い。ほんの少しセフィロスが頭角を下げるだけで唇が触れる。抗う暇もない。
「セフィ……ロス」
荒い吐息とともに名前を呼ぶと、身体をまさぐる両手に力が入る。求めれば、こうして些細ながらも確実な反応が返ってくるのが嬉しい。もっともっと欲しくなる。
セフィロスはそれが分かって焦らしているのか、単に鈍感なのか。決して性急にはならない。ゆっくりとシャツのボタンをひとつずつ外し、あらわになった白皙にひとつまたひとつとキスの華を散らしていく。
「あっ……んっ!」
感じる度に身をよじらせるが、過度に反応してしまうと身体のバランスが崩れてしまう。なんとか背面の壁を支えにして体勢の維持を努めているが、ほどよいバランスを保つのは難しい。
身体のバランスに気を取られれば取られるほど、それ以外の部分がおろそかになる。ジェネシスの悪戦苦闘ぶりをよそに、セフィロスは胸元にキスを落としながらも着実に下半身への侵略を進めていく。ボタンを外し、ジッパーを下ろし、既に膝のあたりまでレザーパンツを引き下げつつある。
一度スイッチが入ってしまった英雄を止められる者はいない。いや、もとはといえばジェネシス自身もデートのつもりで出向いてきたのだ。この展開はむしろ望むところだった。中途半端に引きずり落とされたレザーパンツを、ジェネシスは自らの意志で脱ぎ捨てた。
地肌が直接空気に触れる。曝け出されたジェネシスの下半身に、セフィロスは躊躇いなく指を絡めていく。前を扱き、後ろの秘部にもそれとなく指を伸ばす。手練れの錠前師が開かずの金庫を暴く時のように慎重だった。
ゆっくりと時間を掛けて解され慣らされ、じわりじわりと攻略されるのは、却って羞恥と焦燥を煽る。いっそ強引に捩込まれた方が気が楽だ。ジェネシスの気持ちは逸り、昂ぶる一方だった。もう後ろは充分に解されている。今すぐにでも繋がりたいのに、いつまでも後孔を嬲っているセフィロスがじれったくも憎らしい。早くセフィロスを受け入れたくて、とうとう彼の猛った雄を掴むと導くように自らの後孔にあてがった。
珍しくジェネシスの方もスイッチが入ってしまったらしい。そこまでされては英雄も、最早自身のペースを貫くことは不可能である。急くようにジェネシスの片膝を大胆に持ち上げると、入口付近で待機していたペニスにぐっと力を入れ、一気に捩込んだ。
「あっ! くっ……ぅ」
最初こそジェネシスは苦悶の表情を浮かべたが、一刻も早くセフィロスを受け入れたいという気持ちは変わらないようで、セフィロスの侵入を促すように必死に身体をよじっている。
じわじわと少しずつセフィロスの先端が沈み込んでいく。その度にジェネシスの苦しげな表情には、快楽の色が濃くなっていく。セフィロスを受け入れる── そのこと自体が大きな悦びであるようだ。セフィロスの雄が全て納まると、セフィロスと壁面の間に挟まる形となり、ようやくジェネシスの体勢は安定した。
立ったまま……というのはいささか語弊があるが、宙に浮いたままのトリッキーな体位で繋がるのもまた新鮮であった。未知の刺激にお互い興奮しているのが伝わる。実際に立ったままで同じ体位を試みようとしても、恐らく体重や体格の面でほぼ不可能であろう。
レビテトを使用しているがゆえの初めての体位。だが、レビテトで浮いているがために自重というものが無く、思いの外セフィロスを最奥まで導くのが難しかった。どうにも中途半端だ。
だが、その中途半端な体勢でもセフィロスから激しく突き上げられれば形無しである。
「ああっ……ん! あっ……あっ」
声を抑えることも忘れて、ジェネシスは大胆な嬌声を上げた。宙に浮いているという異常さが余計にジェネシスの昂揚感を募らせる。
自重が掛からないゆえに、セフィロスの攻め手が激しくとも負担は思ったより少ない。もしかしたら、ベッドの上でのセックスより楽かも知れない。身体への苦痛が少ないと、その分享受できる快楽も大きくなる。ジェネシスは無意識に両脚をセフィロスの腰に絡め、自らも腰を振っていた。
男同士のセックスだと、どうしても受け入れる側の負担が大きくなる。負担や苦痛が少なければ、ジェネシスだってもっと積極的に強い官能を求めたいのだ。
しかし、セックスの主導権がジェネシスに移っていくのが英雄にはお気に召さなかったらしい。突如、ぽつりと短い呪文を唱えた。
「グラビデ」
途端に、ジェネシスに掛かったレビテトがリセットされる。一気に自重が掛かり、セフィロスの穿った楔が、容赦なくジェネシスの最奥部に突き刺さる。
「き、貴様っ! セフィ…ロス…!」
たちまち襲い掛かってきた快感を凌駕するほどの大きな圧迫感と苦痛に、ジェネシスは息も絶え絶えに抗議を試みるが、あまりもの内圧に言葉が続かない。荒い息を吐きながら、セフィロスにしがみつくのが精一杯である。
急にジェネシスの体重を全て受け止めることになって、セフィロス自身に掛かる荷重も相当なものだと思うのだが、そこはさすが英雄。相変わらず繋がったまま、平然とジェネシスを抱え上げている。
「セフィロス……苦、しい……」
突如、与えられた最奥への刺激は快感も大きいが鋭角的な痛みも伴う。とうてい耐えられる範囲を大きく超えている。度が過ぎた快感は、必ずしも愉悦を与えてはくれない。快楽と苦痛が複雑に混じり合い、ジェネシスを混迷に陥れる。

もっと強い刺激を── もっと深い快楽を── 愉悦が欲しい!
苦しい、つらい── 耐えられない── 解放してくれ!

強い刺激を与えられれば、より深い官能を期待してしまうが、全体重を掛けて深く突き刺さっている現状では、甘い愉悦を味わえないことも解っている。一方で、快楽や官能とは別枠で深く繋がっている現状そのものに喜びを感じてしまっているのが問題だ。
快楽や苦痛などどうでもよくなってしまうほどに、英雄との深く重く鋭い物理的な結合がただただ嬉しい。
こんな体勢でも抜群の安定感を保つセフィロスは、この状態の上で容赦なくジェネシスを抱え上げ、揺さぶり強引な抽挿を繰り返す。あえなくジェネシスの理性は、彼方に吹き飛んでしまいそうなほど儚くなる。
「あっ……ああっ!!」
無意識にジェネシスはセフィロスの背中に回した両腕で、彼の背中を掻きむしった。革のコートとはいえ傷が入りそうな勢いだ。眼は虚ろで額からは汗が滴っている。さすがに、そろそろ我慢の限界だろうか。
「もう一度、浮いてみろ」
セフィロスにそう促されて、初めてジェネシスはレビテトのマテリアを装備していることを思い出した。
「レビ……テト」
絞り出すように、小さく呟く。
すると、再びジェネシスの身体は宙に浮き、過度な刺激からようやく解放された。とはいっても、半分だけだが。
ジェネシスの後孔に穿たれた楔は、決して彼を自由にはしない。まだまだ足りない。まだまだ満足出来ない。セフィロスの追撃は終わったわけではないのだ。
重苦しい感覚から一気に解放されて、鋭敏になったジェネシスの身体は微細な刺激すら全て快楽として吸収してしまう。それを、まるで狙っていたかのようにセフィロスのペニスはジェネシスの内壁をねぶりつつ掻き回し、ゆっくりと引き出しては再度ゆっくりと潜り込んでくる。ジェネシスの身体が浮いているのをいいことに、多少の体位の不自然さは無視して、自由自在に弄んでいるのだ。
まるでダンスでも舞うように、軽やかに体勢を変化させ内壁を擦られる。そのたびに、与えられる刺激も如実に変化する。目まぐるしく移り変わる刺激と官能。それは、今までに経験したことのない感覚であった。
英雄の好きなようにされて悔しい反面、英雄にそこまで求められているという充足感がジェネシスの理性を容易く奪い取る。恐らく自分は今だらしなく口を開き、恍惚の表情をあらわにしているだろうと自覚していてもなお、セフィロスに抗えない。むしろ、心身ともに犯して欲しいとすら願っている。重力からの開放感はジェネシスの高いプライドさえ軽くしてしまったようだ。
セフィロスは、宙に浮いたジェネシスの身体を壁面に押し付け固定すると、ゆっくりと行っていた抽挿を否応もなく加速させた。甘ったるい愉悦が次第に膨れ上がり、ジェネシスの怒張した先端からは白濁混じりのものが抑え切れずにだらだらと滴り落ちている。
「あ……あっ……セフィロス…っ」
ここまでくると、セフィロスの裡にはジェネシスの理性、いや忍耐がどこまで持つのか試したいという悪戯心さえ芽生えてくる。苦しげに首を左右に振っているが、その表情には隠しきれない愉悦が滲む。彼のプライドも理性も意地も、なにもかもが瓦解した暁にはどのような表情を見せてくれるのだろう。
いま現在、セフィロスは両手でジェネシスの身体を支えている。だが、レビテトの浮力により重力の影響を受けていないジェネシスの身体を支えるのには、片手で充分だった。
セフィロスは支える手を右手のみにして、利き手でジェネシスの陰茎を握り込む。はっとしたジェネシスが次の反応を示す前に、利き手を上下に動かした。ジェネシスの身体がびくりとのけぞる。それでも、結合部はしっかりとジェネシスの身体を繋ぎ止めていた。
セフィロスはジェネシスの前を扱きながらも、同時に腰もグラインドさせる。ジェネシスの身体が宙に浮いているからこそ出来る攻め手だった。通常のセックスであれば、ここまでの激しい動きは出来ない。
「あっ! セフィ……あ、ああーっ!!」
予測していなかった突然の強い刺激に、ジェネシスはとうとう敗北した。溢れ出した白濁が、ジェネシス自身の腹を汚し床にまで滴り落ちる。セフィロスは満足げに、利き手に纏わり付いた精液を舐め取った。
未だ、ジェネシスの後孔はセフィロス自身に深く穿たれたまま。達した後で、さらに敏感になったジェネシスは身をよじり英雄から逃れようと試みる。だが、達したのはジェネシスのみ。そうやすやすと英雄がジェネシスを解放するわけがなかった。
再度、両手でもってジェネシスの腰を捉えるとセフィロスは容赦なく突き上げる。もう既にジェネシスはふらふらで起き上がる力さえ無かったが、なまじレビテトで浮いているものだから倒れ込むことさえ出来ない。為す術もなく空中で英雄の意のままに翻弄されるだけであった。

セフィロスが満足いくまで吐き出して、ようやく解放されたジェネシスはソファーにぐったりと沈み込んでいた。コートは羽織っていたが、下半身は裸のままである。着衣を身につける気力さえない。
一方でセフィロスはひどくご機嫌であった。
「まだまだ調整の余地があるが、このレビテトという魔法はなかなか使えるな」
レビテトのマテリアをかざしながら、ちらとジェネシスの反応を窺うが全くの無反応である。
「……お前の意見も聞きたいんだが、協力してくれないのか?」
「うるさい! こっちは体力と精力と魔力を同時に消耗したんだぞ!?」
しかも、任務から戻ってきたばかりでもともとの体力値自体が低くなっている状態だったのだ。ジェネシスが動けなくなるのも致し方ない。
「その魔法は一定の魔力を放出し続けなければならないから、長時間の使用は気をつける必要がある……な」
悪態をつきながらも、きちんと意見も提示してくれる。
「なるほど。そういえば、さっきお前をソファーまで運ぶ時に気が付いたんだが、負傷者を運ぶ時にも有効だと思わないか? 担架要らずで簡単に運べる」
実際、セフィロスが完全に力が抜けてしまった状態のジェネシスを肩に抱えて運んだわけだが、スポンジでも運ぶように簡単であった。
「そうかもな。負傷者に魔法を使えるほどの元気があれば……の話だが」
「そうか。そうなると、軽傷の場合に限られてしまうな」
ジェネシスには先程の余韻が色濃く残っているというのに、早くもセフィロスはレビテトの運用方法を考えるのに夢中だ。いささか面白くないが、こういうテンションの英雄を見られることも滅多にないことなので嬉しいような、複雑な気持ちになる。
ジェネシスは火照った身体を隠すように、コートの前をきつく合わせ直した。自分の身体が未だ昂ぶりを抑えられないでいることを悟られたくない。
しかし、そういう些細な挙動こそを見逃さないのが英雄である。
「どうした── まだ物足りないか?」
ソファーの上で横たわるジェネシスの顔を覗き込むようにセフィロスは近付く。
「ば、馬鹿! いまの俺にそんな元気があるか」
朱に染まった頬を隠すように、セフィロスから顔を背ける。物足りない筈がない。あまりにも過ぎた快感だったゆえに、興奮が冷めやらないのだ。
セフィロスはソファーの前に屈んでジェネシスに顔を寄せる。唇が今にも触れ合いそうだ。
「セフィロス……さすがに、もう──
体力の限界だと訴えようと言葉を紡ぎ掛けたところで、唇を塞がれる。柔らかく触れるだけの優しいキス。
「分かってる。ただ、もう少しだけ……」
そう云って、セフィロスは唇に、頬に、額にと優しく口付けを落としていく。一方で赤い革のコートに包まれた身体を優しく撫で付ける。
柔らかい刺激の数々に、昂ぶり過ぎたジェネシスの身体も少しずつ落ち着きを取り戻す。セックスではない温もりの交換は心の渇きを癒してくれる。なにものにも替えがたい充足感。触れるセフィロスの唇が、指先が、先程までよりもずっと熱い。
「セフィロス」
ジェネシスも僅かに身体を起こし、キスをしてセフィロスに触れていく。
そう、もう少し。
もう少しだけ、こうして触れ合っていたい。
セックスじゃなくていい。
ただただ触れ合うだけで、レビテトの魔法などではかなわないほどに、二人の心は空高く舞い上がった。

end
2016/2/14