涙
綺麗な碧い水晶が水の膜を纏い、目尻が朱を帯びている。
「泣いているのか?」
軽く揶揄うような口調で問うと、その表情とは裏腹な毅然とした態度で答えが返ってきた。
「フッ、知らないのか、セフィロス? 人間の身体は許容範囲を超えた情動を感じるとそれがストレスとなって、涙が出るんだ。単純な悲しいとか嬉しいとかいった感情だけじゃない、怒りや悔しさ、苦痛に快楽、喜び、恐れ……幸せ」
ジェネシスが最後の一言を言った瞬間、セフィロスは仰向けになった自分の上に跨っていたジェネシスを、自身が起き上がる反動でもって状態を反転させ、易々と下に組み敷いた。
「あっ……!」
一気に奥深くまで侵入されジェネシスの口許からは、明らかに余裕の無い声音が洩れた。同時に増量した涙が、眼球上に形成された表面張力の膜を保っていられなくなり、つ……と零れ落ちる。
溢れた涙を、セフィロスのしなやかな指がなぞるように拭い取り。
「じゃあ、この涙の原因は快楽か? それとも……」
「全部── だ。嫉妬、悔恨、快楽、苦痛、歓喜、絶望、諦念……。全ての情動など受け止め切れない。許容範囲を超えて、当然だろう?」
ジェネシスの目元から溢れる涙は、ますますその分量を増していく。だが、飽くまでその表情は穏やかだ。まるで、全てを受け入れる覚悟が出来ているかのような潔ささえ感じる。
人がこんな穏やかな表情を顕す時。それは、幸せを感じている時ではないのだろうか。
先程、ジェネシス自身が感じている情動を羅列した時、決して挙げてはくれなかった。多分、この先も決して云ってはくれないだろう言葉。
云わせてみたい気もする。
云われないのが良いのだ、とも思う。
全てが充たされているようで、いつも何かが足りない。
永遠に満ち足りないから、延々と求めたくなる。
明日にでも、直ぐに終わりを告げてしまいそうな刹那的な関係にどうしようもない居心地の良さを感じて、ますます深く嵌っていく。
垣間見える深淵。
涙の海に引き擦り込まれ、溺れる。
それも、また良い── と、セフィロスは思った。
end
2010/4/19