No repeat

その日、セフィロスは苛々していた。従順な神羅のソルジャーなんていくらでもやってやるが、時折使い捨てのモノの様に扱われているように感じられて、面白くない。特に科学部門の連中。アイツらは酷い。人の身体を実験台か何かだと思っている。俺は特別だというのに、代えが利くとでも思っているのか──
苛々しながらソルジャーフロアの廊下を歩いていると、ふと一人の2ndが目に入った。マスクを外して頭を振ると、綺麗な赤みがかった明るいブラウンの髪がふわりと左右に揺れる。ちらりと見えた横顔は至極端正で、顔だけ見ればとてもソルジャーとは思えない。
ソルジャーになる方法は、大きく二つに分ける事が出来る。
ある程度腕が立つ人間をタークスが強制的にスカウトしてきた場合。そして、自ら志願してくる場合。
セフィロスは、どちらかと言うと華奢な身体付きの彼は恐らく後者であろうと踏んだ。
どうやらミッションから戻ってきたばかりらしい2ndの腕を、セフィロスは横から急に手を伸ばして掴んでやった。2ndは明るいブラウンの髪を揺らして驚いた表情でセフィロスの顔を仰ぎ見る。改めて正面からじっくりと見てもやはりその顔は端正で美しく、セフィロスの好奇心を刺激した。
「少し、俺に付き合ってくれないか?」
初めて間近で聞く英雄の低い声。こんな至近距離で顔を見るのも当然初めての事だった。
突然の不躾な誘い。断ったとしても無礼には当たらないだろう。だが、英雄の誘いを一介の2ndがそう簡単に断れる筈も無く、ジェネシスは渋々ながらも従うしかなかった。

「ここは……あんたの部屋なのか?」
英雄に連れて来られたのは神羅ビル内の、2ndでは入る事は出来ないフロアにある一室だった。生活感はあまり感じられないが一応キッチンやバスルーム等も取り付けられているようで、仕事関係の部屋では無く個人の私室のようだった。
セフィロスは質問に答える様子もなく、更に奥のベッドルームヘと先刻知り合ったばかりの2ndを誘った。
行き成りベッドの上に押し倒され、ジェネシスはあからさまに不快な表情をしてみせた。英雄とはいえ、あまりに失礼な態度ではないか。
「何が、したい? ── いや、何をする気だ?」
「ここまで、のこのこ付いて来ておいて、今更それを聞くのか?」
嘲るようにセフィロスは、口の端を上げてくる。
「何か勘違いしてるんじゃないのか? あんたは、1stでしかも神羅の英雄だ。此所まで大人しく付いて来たのは、俺がただのしがない2ndだからだ」
ばっさりと斬り棄てるように卑下の言葉を返す。果たして、卑下しているのは英雄なのか或いは自分自身なのか。
「勘違い? 少なくとも俺の読みでは勘違いではない筈だが……」
「何が……!?」
一方的に上から抑え付けられ、一方的に自分の解釈を否定され、一方的に向こうの理論を押し付けられる。あまりの不快さに、相手が英雄である事も忘れ思い切りめ付け、抑え付ける腕を振り解こうと暴れ始めた。だが、精一杯の抵抗は悲しい程にあっさりと、更なる暴力によって無力化されるだけだった。先程よりも強い力で抑え付けられた両腕は最早ぴくりとも動かせない。
「勘違いじゃない。お前は、俺の事を── 『好き』だろう?」
セフィロスは、ジェネシスの顔を覗き込み、その深い碧を湛えた双眸を捉え詰問する。
── 『好き』
碧玉の瞳が揺れる。
不覚にもジェネシスは、その言葉に僅かにではあるが、反応を示してしまった。
かつて子供だった頃、雑誌のインタビューで英雄への憧れを語った事がある。── まさか、あの記事がセフィロスの目に留まって、しかも未だ覚えている── という事なのか?
動揺のあまり全身から力が抜け、セフィロスから思わず目を逸らした。
その隙を突くように、奪われる唇。
唖然として声も出せずにいると、同意と受け止められたのか、唇だけではなく頬に、顎に、首筋に英雄の舌が這う。その感触に痺れにも似た感覚が身体中を駆け巡る。
英雄からの坑いにくい誘惑。だが、乗る訳にはいかない。2ndの身で英雄と関係を持つなど、後々面倒になるのが目に見えている。
拒否の意をはっきり示そうと、再度英雄の拘束を振り解こうとするも、やはり両腕は1ミリたりとも動かす事が出来ない。幾ら相手が英雄セフィロスとは言え、こうにも力差があるのかと、ジェネシスの胸中は焦りと敗北感に支配されていく。
思案の末、せめて口だけでも行為の拒否を訴えようと喚き立ててみた。
「くそっ! 離せ!! 何でこんな事っ── !」
「お前を気に入っている。それが理由だ」
思いも掛けない言葉に、再度ジェネシスは固まる。
だがやはり、セフィロスがあんなに古くて小さな記事を覚えているとは考えにくい。
しかし、セフィロスとは今まで任務が一緒になった事も無いし、ソルジャーフロアで擦れ違って挨拶ぐらいはした事があるが、まともに会話を交したのは今日が初めてだ。
一体、何時何処で自分を気に入ったというのか、皆目見当がつかない。知らぬ間に一方的に覚えられていたのだろうか。
まさか、そんな事が── とは思いつつも、幼い頃から英雄への憧れが強かった身としては、自分の気持ちが一方通行なものではなかったのかと思うと、不本意ながら嬉しくもある。
セフィロスヘの想いは、飽くまで憧れであって恋愛感情とは言い難かったが、このまま身を任せてしまいたい衝動に駆られてしまうのも事実だった。
葛藤に苛まれているうちに、再びキスが降りてくる。セフィロスの舌がジェネシスの口を割り侵入してくる。ゆっくりと、じっくりと絡められていく舌。少しずつ着衣を乱していく冷たい手。裾から密やかに忍び入るしなやかな指先。
じわじわと高められていく快感にジェネシスの四肢の力は次第に抜け、セフィロスの手の動きに時折びくりとその身を揺らす。
セフィロスの愛撫に容易く反応してしまう己れの身体に絶望を覚えながらも、抵抗を続ける事が出来ない。
既に拘束は解かれていたが、気が付くとジェネシスはセフィロスの名を呟きながらその背中に両腕を廻していた。

「何だって── !?」
怒気の籠った声がベッドの上で響く。
情事を終えた後にセフィロスが何気無く放った一言が、ジェネシスの神経を逆撫でたのだ。
セフィロスは、ジェネシスの状態に気付きもせず、再度同じ質問を繰り返す。
「だから、お前の名前は── ? 教えてくれたっていいだろう?」
ジェネシスは、質問には答えず近くにあったティッシュの箱をセフィロスに向かって投げつけた。
「あんた、俺の名前も知らないでいて、よくもあんな事を── っ!!」
セフィロスは、あっさりとティッシュ箱を受け止めると億劫そうにベッド脇のサイドテーブルに置いた。
「何を怒ってる?」
セフィロスにとっては、2ndの名前を知らないという事は特別でも何でもない。極々当たり前の事で、それがジェネシスの不機嫌の理由だとは思いもしない。
一方ジェネシスとしては、セフィロスに気があるような事を言われたにも関わらず、名前すら覚えていなかった程度であった事が余計に腹立たしい。
ジェネシスは、セフィロスの質問に答える気も起きず、ベッドの上や下に散らばっている自分の衣服を掻き集め、手早く身支度を始めた。
本当ならバスルームを借りてシャワーでも浴びたいところだったが、一刻も早くこの部屋を飛び出したい気持ちで一杯だった。これ以上、この部屋に滞在する事が我慢出来ない。これ以上、この男の側に居る事が耐えられない。
着替えが終わると同時に即座に入口のドアへと向かう。
「おいっ?」
背中に投げ掛けられる言葉を無視して、ジェネシスは高い靴音を響かせて出て行った。

それっきり、セフィロスは名前も知らぬ2ndに会う事が出来なかった。1stと2nd。それほど意識しなくても、任務が一緒になる事は多い。にも係わらず、あの時の2ndは見掛けない。
意図的に避けられている。
セフィロスは、そう感じていた。

◇◆◇

数ヵ月が過ぎて、未だ名も知らぬ一度肌を合わせただけの2ndの事など、もう忘れてしまおうと殆んど諦め掛けていた頃。
セフィロスは、思わぬところであっさりと彼の名を知る事が出来た。

ソルジャー部門統括であるラザードに呼び出されて、ソルジャー指令室に赴いた、その時。
室内に足を踏み入れた瞬間、視界に飛込んできた赤みを帯びた明るいブラウンの髪にセフィロスの目は釘付けになった。柔らかそうなふわりと揺れる髪。その下に見え隠れする碧い瞳。端正な顔立ち。
間違いなくあの時の2nd。
だが、身に付けている制服は1stのそれだった。
「ああ、紹介しよう。セフィロス」
ソルジャー部門の統括であるラザードが席を立ちながら言った。
「彼は、ジェネシス。今日から1stだ。年も君と同じだし、仲良くやってくれ」
突如として眼の前に現れた想い人。
未練など抱いていないつもりだったが、ここ数ヵ月自分の思考時間の大半を奪い続けてきた人物をいざ目の前にすると、逸る気持ちを抑える事が出来そうになかった。

ソルジャー指令室を後にしてソルジャーフロアに降りた後、セフィロスは紹介されたばかりの新しい1stを強引に人気の無い廊下の壁に押し付けた。いくら辺りには誰もいないとはいえ、場所はソルジャーフロアである。他のソルジャー達の話し声が遠くから微かに聞こえてくる。ここで大声を出せば当然こちらの声も他のソルジャー達に聞こえる事だろう。
ジェネシスは、というと不機嫌そうな顔でセフィロスを見上げている。
「まさか、同い年だったとは……な」
セフィロスは、周囲に聞こえない程度の声量で囁いた。
「同い年じゃなかったら、なんだと思っていたんだ?」
ジェネシスは、棘のある言い方で返す。勿論、彼は英雄と自分が同年代である事は知っていた。
「てっきり年下だと思ってた」
年下という言葉に表情を歪めるジェネシスの頬にセフィロスは手を添え、上向かせると強引に口付けた。
「……んっ── !」
自分と英雄では力差がありすぎる事は前回の事で判ってはいたが、それでもジェネシスは抵抗を試みようと身を捩る。が、やはり容易く利き手で押さえ付けられ、口内に侵入した舌は無遠慮に口中を荒らす。的確に与えられる刺激に無意識に身体の力が抜ける。すると、セフィロスは当然のようにジェネシスの腰に手を廻し、更には黒のインナーをたくし上げ直接素肌を弄ってきた。
「なっ! こんな所で……正気か?」
流石に許容出来ず、ジェネシスは抗議と共に自分の身体を弄るセフィロスの手を慌てて押さえた。
「何を考えてる? 誰かに見られたら、英雄の名声も地に堕ちるぞ!?」
牽制の意を込めて非難の言葉を浴びせるが、セフィロスは怯む事なく悠然と構え、落ち着いた態度を崩さない。その口許には、僅かに笑みさえ浮かべている。
「俺は、誰かに見られようと一向に構わない」
牽制はあっさりと跳ね返され、その上更なる追撃を受ける。
「自分の立場を分かっていないようだな? 見られたら困るのは、寧ろお前の方だ」
自信たっぷりに断言され、意味が理解出来ないながらもジェネシスの胸中には動揺が走る。そんなジェネシスの内面を見透かすように、セフィロスは尚も言葉を続けた。
「俺は『神羅の英雄』で、お前は1stに昇格したばかりの……知名度も実績も無いソルジャーだ」
ゆっくりと、まるで言い聞かせるかのように。
「仮に俺が、この場でお前をレイプしそれが発覚したとしても、俺が── 『英雄』である俺が咎められる事は無い。そんな事実が、公になったら困るからだ」
セフィロスの指が、揶揄うようにジェネシスの輪郭を顎から耳の付け根辺りまで、すっと撫で上げる。
「神羅としては、英雄の名を貶める様な醜聞は排除したい。事実がどうであったかなど、この際どうでも良い。だから、この場合、一方的にお前が非難される」
「なっ── !」
ジェネシスは呆れて、それ以上の言葉が出ない。
「そうだな。1stになったばかりのソルジャーが、自分を売り込む為に英雄である俺を誘惑した。恐らく、そんなストーリーがでっち上げられるだろう」
セフィロスは、よりジェネシスを追い詰めるように一層笑みを深くする。
「その後は当然、お前は1stの……いや、ソルジャーの資格も剥奪されるだろうな。神羅の社員としてもクビを宣告される覚悟をしておいた方がいい。運が良ければ、一般の神羅兵として残れるかも知れないが……」
「つまり、全部俺の所為にして、俺に責任を負わせた上で馘を斬り、全て無かった事にする。そういう事か?」
「そうだ。英雄である俺は、絶対的に守られる」
恐らく、神羅ならこの男の為にそこ迄やってのけるのだろう。英雄を失なうくらいなら、一介のソルジャーなど斬り捨てる。神羅は、そういう会社だ。入社する前はそんな会社であるとは露ほどにも思っていなかったが、今はセフィロスの言っている事が口先だけの出鱈目では無いと理解出来る程度には、会社の実態を知っていた。
セフィロスは、絶望の色を隠せないジェネシスに最後通牒を突き付ける。
「今、此所で犯されたくなかったら── 俺の部屋へ来い」

◇◆◇

「……くっ……はぁ……あっ──
静寂の漂う部屋に響く空調の音と微かな息遣いの合間に、時折抑え切れなかった嬌声が洩れる。
ベッドの上に組み敷かれ、いいように喘がされ、陵辱される。セフィロスの部屋まで付いて来れば、こうなる事は予測出来た。だが、当然断る事など出来なかった。
しかし、ジェネシスにとってもっと最悪な事は、この状況が不快ではないという事だ。前回のセフィロスの態度に怒りを覚え、今まで意図的に顔を合わせる事さえ避けてきたが、どうやら嫌いになった訳ではないらしい。それどころか、未だに心惹かれている自分がいる。以前と同じく英雄としてなのか、或いは新たに別の感情が自分の中に芽生えてしまったのか、までは分からないが。
── ジェネシス」
低く耳元で囁かれて、裡から何かが蠢き全身がざわりと戦慄く。
「やっと、名前で呼べた──
セフィロスの言葉に初めて名前で呼ばれたのだと気付く。名前で呼ばれるというただそれだけの事が、こんなにも自分の心を乱すとは思わなかった。肩で呼吸するのが精一杯で何か言葉やリアクションを返す事も出来ない。戸惑いと焦燥感だけがじりじりと体内を這上がる。
「ジェネシス……」
再び名を囁かれて、身体の奥がじんわりと痺れる感覚に理性は奪われていく一方だ。
「セ、フィ……ロス」
下半身に力は入らない。なのに、今与えられている快感をより深く求めるかのように、ジェネシスの両の脚は更にセフィロスの腰に絡み付く。無意識の内に深い快感を逃すまいとしているかのように──

精を吐き出した後というのは、急に頭が冷えて冷静になる。途端に、ジェネシスは自分の行動に愚かさを感じて自責の念に駆られた。一体、自分は何をやっているのか、と──
半ば、脅されて部屋に連れて来られたとはいえ、同意の上での行為だったと言われても反論出来ない。いや、確実にセフィロスはそう思っているだろう。
2ndの時は、セフィロスと顔を合わせないように逃げ回っていたが、同じ1stとなり名前も知られてしまった今となってはそれも無理だ。
きっと、また誘われる。
そして、自分もまたそれに応じてしまうのだろう。

ジェネシスの懸念は当たって、それからたまにセフィロスと顔を合わせると誘われるようになった。今更、断る事など出来ない。
いや、正直セフィロスに抱かれる事自体は嫌ではなかった。
何度か抱かれるうちに感覚が麻痺してしまったのかも知れない。もう、セフィロスとはそういう関係なのだと開き直った方が楽に思えて、ジェネシスはそれ以上深く考えないようにした。

◇◆◇

ある日、ジェネシスと同時期に1stに昇格した幼馴染みのアンジールに、セフィロスと一緒に食事でもしないかと誘われた。
どうやら、アンジールとセフィロスは任務で何度か一緒になり自然と親しくなったようだ。
幼い頃から神羅で育ったセフィロスは、手料理というものを殆んど食べた事が無いらしく、アンジールは自らの腕を振るって手料理を食べさせてやるのだと張り切っていた。
場所は勿論アンジールの部屋で、三人で集まったのはこの時が初めてだった。

共にソルジャー・クラス1stとして今後も神羅で仕事を続けていく以上、三人揃って顔を合わせるという事態は避けられるものではないだろう。
ジェネシスは、未だにセフィロスと同じ任務に就いた事はなかったし、挨拶程度の顔合わせしかした事がない。表向きには。
少なくとも、アンジールには自分達のそういった関係を教える気は全く無いし、アンジールに教える気が無いという事は、当然他の誰にも教える気は無いという事だ。
セフィロスがアンジールの部屋を訪れて、一緒に手料理をご馳走になる段になっても、ジェネシスはセフィロスと親しい素振りは見せなかった。実際、身体の関係があるだけで、それを除けば全く親しくなどないのだ。セフィロスも、そんなジェネシスの態度を察してくれたのか、下手に馴れ馴れしい態度を取ったりはしなかった。
極々表面上だけの言葉の遣り取り。上辺だけの関係。

そうして、セフィロスとジェネシスは、アンジールも加えた三人で表面上だけの友人関係を成立させたのだった。
表面上、上辺だけの友人関係。
そう思ってはいたが、予想外にもこの友情は非常にバランスの取れた良好とも言える関係を作り出してしまった。
三人で、2nd達の目を盗んでしばしばトレーニングルームを占拠した。其処でこっそりと子供が興じるような下らない遊びに夢中になったり、時には思い思いに読書をしたりバーチャルリアリティが造り上げた虚構の世界を楽しんだり、時には真剣勝負にまで発展するような、実力が拮抗している者同士ならではの高いレベルの手合わせが行われたり。
ジェネシスは、幼馴染みであるアンジールと憧れの存在だったセフィロスと、そんな友情、もっと言えば親友とも呼べる関係を築けた事が嬉しかった。
と、同時に、未だ続くセフィロスとの秘めた関係に不安を抱いた。
対等の立場で始まった友人関係とは違い、明らかな力差のもとで強要されるように始まった関係それ。友情や愛情などでは無い、一方的な。

こんな関係を続けても良いのだろうか?
こんな関係は、最早無意味ではないか?

◇◆◇

照明の落とされた暗い室内で、ベッドサイドに灯るルームランプだけがベッドの上で蠢く二人の陰を映し出す。
「あっ── ! はぁ……嫌……だ」
「理性が飛ぶのが怖いか?」
ジェネシスの上に覆い被さるセフィロスは、快楽の波から逃れようと身を捩るジェネシスの肩を押さえ付け、更なる深淵に自身を沈めた。
「はっ……あぁっ! ん……」
深く穿たれて、与えられた刺激を享受し切れず、苦しさに眉をひそめる。きつく閉じられた目端からは、汗とも涙ともつかない水滴が頬を伝い落ちていく。
セフィロスは、ジェネシスのそんな仕草全てから目が離せない。
最初は、単なる好奇心、興味の対象でしかなかった。元々、鬱憤を晴らすために半ば八つ当たりのように抱いただけ。深い意味など無い。無い筈だった。
だが、今は──

セフィロスは、俄かに自身の裡に沸き上がり始めたジェネシスへの感情に名前を付ける事が出来なかった。

◇◆◇

断ち切ろうと、終わらせようと、何度思っても拭い切れない。
会っていない時でさえも、セフィロスの影がジェネシスの身体を、心を支配する。無意識にセフィロスを求め身体が疼き、心は渇望する。
一方でアンジールとセフィロス、三人の友情が深まるに連れ、セフィロスとの秘めた関係が心に重くのし掛る。
対等でありたい。
だが、関係を続ける限りは対等には成れない。失われていく心の均衡。相反する想いにジェネシスの身はふたつに引き裂かれそうだった。

「もう、終わりにしたい」
セフィロスの部屋に呼び出され、室内に入った早々ジェネシスは強ばる表情でそう告げた。
セフィロスは一瞬険しい表情を見せたが、後は無言だった。
「お前とは、対等でいたいんだ」
ジェネシスが絞り出すように言葉を続ける。
「この関係は、対等ではない── と?」
「当たり前だ!」
セフィロスは、ジェネシスの身体を強引に壁に押し付けると、無理矢理唇を奪った。突然の事にジェネシスは反撃も叶わず、されるがままだった。
「っ……んン!」
強制的に舌を絡まされ、思わず声が洩れる。
「俺は、お前を抱きたい。── 俺に抱かれるのは、嫌か?」
ジェネシスは、眉根を寄せて困ったような表情を見せる。
「い……嫌じゃ、ない。……でも」
躊躇いがちに吐かれる言葉。俯いて逸らされる視線。
暫しの沈黙の後、セフィロスの腕の中から抜け出そうと身を捩った、その瞬間── 身体を反転させられ、今度はセフィロスに背中を向けた状態で壁に身体を押し付けられた。
「痛── っ!」
思わず苦痛を訴えるが、セフィロスによる拘束の力は弱められる事は無い。
背後から腰の辺りに廻された腕がベルトのバックルを外し、下着ごとボトムを脱がしに掛る。
「やめっ……嫌だ!」
拒否の言葉は当然のように無視されて、下半身を晒される。暴れようとすると背中を力強く押され、急激に圧迫された胸部が呼吸困難をもたらす。最早、声を上げる事も出来ず酸素を求め喘いでいると、徐に堅く屹立したモノが後孔にあてがわれる。
── っ!」
ジェネシスが反射的に息を詰め身構えた瞬間、無理矢理にソレは捩じ込まれた。
一気に体内を満たす圧倒的な質量。苦痛しか与えられない行為に、ジェネシスの額には汗が滲む。既に抵抗は諦め、逆に少しでも苦痛を和らげる為に出来得る限り自身の力を逃がすしかない。
「セフィロ……ス」
赦しを請うかのように必死に名前を呼び、肩越しに首だけで振り返り縋るような目線で見上げる。
セフィロスは、片手でジェネシスの腰を押さえ、残りの手を前方の緩く立ち上がり掛けたジェネシス自身に添えてやる。と、長くしなやかな指がゆっくりと前後し、時に先端をひっかくように刺激する。苦痛を和らげるかのように与えられる快楽。ジェネシスも苦痛を誤魔化す為に、与えられた快感に意識を集中させ、その身を委ねた。
次第に膨れ上がっていく快楽の波が遂には苦痛を凌駕し、律動により内壁に与えられる刺激もいつしか快感の方が上回る。
「はっ……あっ……ぅん」
とうとうジェネシスの口からは抑え切れなくなった嬌声が洩れ始めた。
その時、愉悦に溺れそうになるジェネシスを包み込むように、セフィロスが身を寄せた。背面に身体を密着させ両腕でジェネシスの身体を抱き締める。
「ジェネシス……」
耳元で囁かれる低い声。
今や、呪縛のように名前を呼ばれるとそれだけで身体の奥が熱く痺れる。

── セフィロスが欲しい
── もっと深く、もっと強く

「セフィ……ロス」
掠れる声で名前を呼び、顔だけで後ろを振り返ると直ぐに熱い口付けで唇を塞がれた。歓喜のあまり、身体は震え目元には熱さを湛えた水分が浮かぶ。
こんなにも強引に身体を奪われて尚、セフィロスを欲する自分にジェネシスは心底呆れた。
やがて、ジェネシスの裡に吐き出されるセフィロスの欲望。身体の奥底に染み渡る熱い感覚。それに不覚にも喜びまで感じている自身に危機感をも覚えた。

距離を── 置かなくては……。

このままでは、友人でもいられなくなる──

ただの友人でいたい。
身体だけの関係になってしまうのは絶対に嫌だった。例え、セフィロスが求めているものが、身体だけであったとしても……。

◇◆◇

ジェネシスは、再びセフィロスを避けるようになった。とは言っても、二人きりになるのを避けるだけで、その他は極力今まで通り振る舞っていたのだが。
これ以上、セフィロスに溺れてしまうのが怖かった。身体の関係は、もう持たないつもりだった。

トレーニングルームで何時ものように三人で居た時。
アンジールの携帯が不意に鳴り響いた。
「ああ、どうした? ── 分かった。今、行く」
アンジールは、黒い携帯端末を折り畳みしまうと、済まなさそうな顔を見せる。
「ちょっと、後輩にトラブルがあったらしい。悪いが、行ってくる」
手短にそう告げるとアンジールは慌ただしくトレーニングルームを出て行った。
不意に、英雄と二人きりにされて慌ててジェネシスも「俺も用事を思い出した」と見え透いた言い訳をしながら、アンジールの後を追うように部屋の出口へと向かう。
「待て、ジェネシス」
静かに、が、怒気を孕んだ低い声がジェネシスの足を僅かに止める。その一瞬の隙を突いて、セフィロスはジェネシスの腕を掴み、物理的にもその場に引き止めた。
「最近、俺を避けているだろう?」
「それが、どうした?」
ジェネシスは、身を固くしながらもキッとセフィロスを睨め付ける。
「何が気に食わない?」
「何が── ? ハッ、今まで散々な事をしておいて、良く言う」
苦笑混じりに呆れたように吐き棄てて、セフィロスの手を振り解く。
「無理矢理俺を脅して、無理矢理関係を迫って、嫌だと言っても暴力で押さえ付けて……。気に入られているとでも思っていたのか?」
ジェネシスは、一歩後退して更に距離を置き身構えると、続けて言い放った。
「お前とは、終わりにしたいと言った筈だ。もう、俺に触るな!」
だが、セフィロスは常人とは掛け離れた身体能力で以って瞬時に間合いを詰めると、今度はジェネシスの二の腕ごと身体を捉える。
「離せ! 大体お前は俺の身体にしか興味が無いんだろう? 俺自身の事なんて──
どうでもいい癖に……と、続く筈の言葉は紡ぐ唇が唐突な口付けによって塞がれた為に途絶えた。
セフィロスを拒絶しようと必死に罵倒の言葉を浴びせていたのに、こんなキスひとつで揺らいで躊躇って、受け入れたくなる。そんな己れの浅はかさが呪わしい。
だが、唇が離れた瞬間、発せられたセフィロスの言葉にジェネシスの揺らぎ掛けた心は一気に冷え上がった。
「愛しているんだ……お前を──
思ってもみなかった告白に、ジェネシスは瞠目してその場に竦む。不快感を覚えるほど心が異様にざわめいて、冷たい汗が背筋を伝う。
「今更……そんな言葉、信じられるか!」
ジェネシスは身体を震わせ身を捩り、再度セフィロスの腕の中から逃れると、今度こそは立ち止まらずにトレーニングルームを出て行った。

信じたくなかった。
気付きたくなかった。
自分の気持ちなんて──

ジェネシスは、告白されて気付いてしまった。ずっと目を逸らし続けていた自分の本心に。気が付きたくなかった自分の想いに、呻いて頭を抱える。

── 俺は、セフィロスが好きなんだ

◇◆◇

セフィロスへの自分の想いを自覚して、ますますジェネシスはセフィロスとの距離を置き始めた。二人きりで会う事だけではなく、三人で友人として会う事も避けるようになったのだ。
友人でいたいと思いながら、自分のセフィロスへの想いは既に友情の域を越えていた。その認め難い事実がジェネシスを更なる苦悶に陥れる。
好きだと気が付いてしまった今、セフィロスから身体の関係を求められたら拒み切れる自信が無い。セフィロスが今になって愛しているなどとほざいてきたが、そんな言葉信じられる訳がない。身体を求められては、気持ちも無いのに抱かれて、しかも皮肉にも身体は喜んで。
もう、こんな愚かしい行為は繰り返さない。
繰り返すものか、決して。
頑ななジェネシスの心は、凍土のように固く冷たく閉ざされる。

「お前達、喧嘩でもしたのか?」
流石にアンジールが気付いて探りを入れてくる。
アンジールの部屋でお茶を啜りながらソファに座って寛いでいるところで、英雄の話題を出されジェネシスは不快を露にした。
「何の事だ? 元々、アイツとは大して親しくもない」
アンジールは、ジェネシスの対面に腰掛け足を組む。
「セフィロスが困っていたぞ? 話したい事があるのに、口も利いてくれないと……」
「困ってる? まさか── !?」
嘲笑めいた口調で驚きの声を上げる。実際、驚いたのだ。あの傍若無人な英雄が困っているなど、とても想像が付かない。
何を困る必要がある?
俺を抱きたいなら、いつものように無理矢理抱けば良い。

── 愛しているんだ

まさか、あの時の告白が本気だったとでも言うつもりか──

しかし、なんと言われても信じ難い事には変わりなく。
自分なんかよりも、余程セフィロスと上手く友情を築いているらしいアンジールには悪いが、どちらにしろジェネシスから英雄にコンタクトを取ってやる気は一切無かった。

◇◆◇

人生に於いて不測の事態というものは、常に起こる。
2ndの時は、ある程度ミッションの状況をチェックして、セフィロスとかち合わないよう自分で調節していた。
1stになってからは、一度もセフィロスとは任務が被った事が無い。そもそも、1stが二人以上動員されるようなミッション自体が少ないのだ。その所為で、同じ任務に就く事など無いと錯覚し思い込んでしまっていた。
そんな時、突如舞い込んできた1stを複数人投入する大きなミッション。
流石に任務が一緒となると、セフィロスの事を避けようがない。一瞬、任務を拒否する事も脳裏を掠めたが、ジェネシスには野望も野心も有り、プライドも有った。

ブリーフィングルームで行われるミーティングには、当然セフィロスも参加している。今まで避けてきた分、久しぶりに間近で見る英雄の姿に思い出したようにずくりと身体の奥が疼く。顔を見ただけで、反射的に反応してしまう自分の身体が、ジェネシスには厭わしい。
だが、これからミッションが終了するまでは、嫌でも顔を合わせ続けなければならないのだ。ジェネシスは、無意識に唇を噛む。

居心地の悪いミーティングが漸く終わり、参加していたソルジャー達がそれぞれソルジャーフロアからも引き上げ退散していく中、ジェネシスは一人誰も居ないロビーの一角に腰を落とした。
自分で思っていた以上に、セフィロスと同じ任務、同じミーティングに参加する事が精神的負担となっていたらしい。たかだか小一時間のミーティングが酷く疲れて、少し休みたかった。

誰も居ないと思ったソルジャーフロアに、コツリと足音が響き。横目でチラと確認すると、長い銀糸と黒い革のコートが見える。場の空気がピンと張り詰めたものへと変わり、ジェネシスも僅かに身を固くする。
セフィロスは、少し間を空けてジェネシスの隣に座した。お互いに何も言わぬまま時が過ぎ、差していた夕陽が翳っていく。
長い静寂を破って、唐突にセフィロスが口火を切る。
「俺の言う事が、信じられないと言ったな……」
「ああ」
それぞれに正面を向いたまま顔を合わせずに。
「悪いが、今でもお前の言った事は信じられない」
「何故だ?」
透かさず低く鋭い声が飛んでくる。
「何故? こっちこそ聞きたい。お前の今までの行動から、俺の事を……好き、だとか、本当に思っているとは考えにくい」
「信じて貰えなくても、俺の気持ちに変わりはない」
キッパリとした物言いにジェネシスは面食らって、思わずセフィロスの横顔を窺う。表情から察する限り、どうやら真剣らしい。
「一体、何時から……?」
呆れた様な声音で言うともなく洩れる呟き。
セフィロスが本気だと言うのならば、ジェネシスは真剣に何時から英雄が自分を想っていてくれていたのか、皆目見当が付かなかったのだ。
「最初から、お前の事を気に入っていると、言っただろう?」
サラリと、当然のように言ってのける。
「ふん、俺の名前も知らなかった癖に……」
ジェネシスは、出会った頃の事を思い出して不快に眉をひそめた。
「確かに、名前も知らなかった。だが、お前を初めて見た時から、俺は……」
セフィロスは、感慨深げに一度瞼を閉じて、再び目を開くと真っ直ぐにジェネシスの方を見据えて言った。
「こういうのは、『一目惚れ』とでも言えば良いのか?」
「一目……」
思いもよらぬ言葉に絶句して。俯いて頭を抱える。指の隙間からセフィロスを覗き見つつ。
「全然、そんなふうには思えなかったぞ……」
抗議の意を込め、溜め息混じりに愚痴をこぼす。
「そうだろうな。俺自身もお前に対するこの気持ちが何なのか、分からなかった。自覚が── 無かった」
ジェネシスは、真摯に語り続けるセフィロスの顔を黙って見詰める。
そう言われれば、自身もセフィロスの事を好きだと自覚したのは、先日のセフィロスの告白を受けてからだ。
「最初は気晴らしのようなつもりで、執着も無かった。その癖、お前に避けられるようになったら、未練たらしく引き止める事ばかり考えて……。失ないそうになってから、漸く自分の気持ちに気が付いた」
一拍、呼吸を置いて。
「お前が好きだ、ジェネシス。無理矢理にでもお前を繋ぎとめたいと、思う程に──
セフィロスの真剣でストレートな言葉と態度に、ジェネシスの心は融解していく。それに、自分もセフィロスヘの想いを自覚していなかったという意味では、同じ穴の狢だ。
「セフィロス、お前の言う事を信じてやっても良い」
ジェネシスは、セフィロスの側に身体を寄せると流れるような美しい銀髪を軽く梳き、そのまま後頭部に手を廻し軽く抑えながら、顔を近付けキスをした。
切なげにセフィロスを見詰めて。
「俺も、お前が好きなんだ。── だから、お前の言葉を信じたい。信じ……させてくれ」
セフィロスがジェネシスの顎を捉え上向かせると、詰問を浴びせる。
「これ以上、俺に何を望む?」
ジェネシスは、セフィロスの首に両手を廻すと真剣な面持ちで顔を覗き込んで、要求を提示した。
「俺を抱け。セフィロス── お前が俺を好きだと分かるように……」

◇◆◇

その日、ジェネシスは初めて自分の意思でセフィロスの部屋を訪れ、初めて自分の意志でセフィロスに抱かれた。
久しぶりにセフィロスを受け入れて、身体が歓びに打ち震えているのが解る。
「……ふ……セフィ、ロス」
片手を延ばし、その顔に触れる。魔晄を帯びた翡翠の瞳に見詰められるだけで、胸が高鳴る。好きだと自覚して抱かれる事による高揚感がジェネシスをより深い淫蕩へといざなう。
銀の髪ごとセフィロスの顔を引き寄せ、口付けを強請って。形容しがたい、深淵に嵌って脱け出せない感覚。このまま、囚われていたい。
「セフィロス……。は……離れたく、ない」
瞼を伏せて嘆願する。
応えるように律動が深くなる。離れたくないのに、追い立てられるディレンマに眉根を寄せる。
「あっ……セフィ……ん、……イ、ク──
高みに到達しかけた瞬間、突如セフィロスの動きが止まった。目を見開いて戸惑うジェネシスに、低い声が冷たく降りそそぐ。
「離れたくないんだろう? 安心しろ。そう簡単に、イかせはしない──
達しそうで達せないもどかしさに身を捩り、襲い来る浮遊感に眩暈を覚える。
「う……あっ……ぁあっ──
その後、何度も絶頂に到達しかけては引き戻されて。その度に、ジェネシスの嬌声とも悲鳴とも付かない声が室内に響く。
「セフィロス……も、もう……」
「どうして欲しい── ?」
返ってくる声は、飽くまでも冷静で癪にさわる。
「イか……せて……」
セフィロスは、その言葉を聞くと満足したように口端を上げ、一気にジェネシスを追い立てた。

散々じらされた後に到達させられて、あまりにも強い刺激と悦楽にジェネシスは意識を手放してしまったらしい。
気が付くと、一人ベッドの上で寝そべっていた。
まだ身体に力が入りそうにもなくて、身を起こすのを諦めうつ伏せに枕を抱えた。一体、どれ位気を失なっていたのか?
暫し経って、ドアの音と靴音が続けて聞こえて、セフィロスが姿を見せる。
「気が付いたか?」
「……何処に行ってた?」
不機嫌そうな掠れた声。
「お前に渡したい物があってな。── 取りに行っていた」
そう言うと、ジェネシスの背中に掛けるようにばさりと革のコートを広げた。
見目鮮やかな真紅のコート。
「思った通り、赤が似合う」
セフィロスはベッドの端に腰掛けて、続ける。
「1stは、私服の着用が認められている。今度のミッションには、コレを着てこい」
ジェネシスは、掛けられたコートをまじまじと見詰め顔を顰める。
「こんな悪目立ちしそうなコートを、俺に着ろと?」
「何を言っている。戦場では、目立った方が良いだろう? イチイチこちらから出向くよりは、向こうから来てくれた方が楽だ」
成程、英雄の思考ではそうなのだろう。
「じゃあ、あんたが着ろ!」
「俺に赤は似合わない。それに、これはお前の為にあつらえた物だから、お前にしか合わない」
セフィロスは、ふっと軽く笑みを零して、前髪を揺らす。
「まあ、自信が無いのなら無理に着なくても構わないが……」
「いや、着る── !」
脊髄反射的につい返してから、はっとする。まんまとセフィロスの策略に嵌った気がして、面白くない。
不機嫌顔でいると、セフィロスはジェネシスの上半身を引き起こし抱き竦める。
「もう、俺から逃げるな」
「……セフィロス」
セフィロスは、擦り落ちた赤いコートを再びジェネシスの肩に掛けてやって。
「これを着てれば、何時でも何処でもすぐにお前を見付けられる。── 見付けたら、逃さない」
「俺を捉える為の楔のつもりか?」
こんなものなど無くても、とっくに囚われているというのに──
可笑しくて、苦笑を洩らす。
「分かった、着てやる。その代わり、俺を見失うなよ?」
揶揄うように言ってやると、答えるように口付けが返ってきた。

永く深く。それは、まるで誓いのキスのように──

end
2008/10/20―11/26