リユニオン
何度でも巡り合って、何度でも繋がりたい。
お互いに、同時期に休暇が取れた時。近頃は神羅ビルを離れ、弐番街か参番街周辺のホテルを利用する事が多くなった。
特にジェネシスは、弐番街にあるデザイナーズホテルが気に入っているようだった。
神羅ビルから、会社から、仕事から離れた、外界からも完全に隔絶された小さな世界。洗練された調度品が並ぶセンスの良いホテルの一室が、どんな場所よりも広くて自由で、時間を忘れて過ごせる二人だけの楽園へと変容する。
ホテルの、大の男二人で入っても支障無い大きめのジャグジーにゆったりと浸かり、日頃の疲れを癒す。
バスから上がった後はルームサービスでも頼んで、行儀悪くベッドの上で軽く食事などを摂りつつ、普段なら見ないような下らないテレビプログラムを見る。真剣じゃないから、ああだこうだと好き勝手な意見や感想を交わし合い、気楽に見られるのが意外に楽しい。
そうこうしているうちに、どちらかが眠気を覚えてきて、少し仮眠を取ろうかと云う話になる。
テレビを消して、照明も落として、ベッドに潜り込む。が、直ぐに眠る訳では無い。ベッドの中でキスを交わしたり、身を寄せ合ったり、相手の身体を触ったり、お互いの心音を確かめ合ったり。
普段、会えない分を取り返すかのようにスキンシップを図る事に尽力するのだ。
その段階で、表面的な接触に留どまらず、セックスにまで発展する事もままある。
触れ合うだけでは物足りなくて、ひとつになりたくて。
相手の内蔵に直接触れれば、心の内面にまで触れ合えるような錯覚を起こしているのかも知れない。だが、相手を内蔵の奥深くまで受け入れる行為は生半可な気持ちでは出来ない。精神的な許容もかなり必要とするものだから、あながち間違いでもないのだろう。肉体をひとつにすると、心もひとつになったような気持ちに浸れるから。
セックスは怖い。
相手の剥き出しの肉塊の一部を、内蔵の中に直接捩じ込まれるのだ。
況してや、男同士なら尚更の事。本来、アナルは男性器を受け入れるようには出来ていない。
相手がセフィロスだからこそ、受け入れられる。
それが、どんなに恐ろしい事でも── 。
お前は知っているか、セフィロス?
お前を受け入れる度に、俺がどれ程の恐怖に怯え、俺がどれ程の幸福に充たされ震えるのかを── 。
ひとつになる前は、いつも怖くて。
ひとつになった後は、いつも離れ難い。
セックスが終わった後、虚しくなるのは、己れの欲望を吐き出した所為ではなく、きっと繋いだ身体を分かたなくてはならないから。
「セフィロス── 」
事後の気怠い雰囲気に身を任せつつ艶の残る声で、珍しくジェネシスが甘えるように擦り寄ってくる。セフィロスは黙して、魔晄色の瞳で見返す事で以って続きを促した。
「もし俺が、何か酷い大怪我でも負って、醜い姿に変わり果てたら……どうする?」
先程の甘い雰囲気とは打って変わって真剣な表情。鋭い眼光を帯びる淡い碧眼。
セフィロスはジェネシスに気付かれない程度に、僅かに眉をひそめた。
恐らくジェネシスがこんな、らしくもない質問を唐突にぶつけてきたのは、少し前にトレーニングルームで起きた不慮の事故の所為であろう。あの事故で、ジェネシスの左肩には折れた剣先が楔のように突き刺さり、結果彼は負傷した。当時、ジェネシス本人は大した怪我ではないと嘯いていたが、実際は輸血を必要とする程の重傷で、未だに傷は完全に癒える事が無く、彼の左肩には傷痕が残ってしまっている。
プライドの高いジェネシスの事だ。無惨にも残ってしまった傷痕に対して、英雄でもある恋人に引け目を感じているのだろう。つまりは、痕が残る程の怪我を負った自分は英雄の恋人にはふさわしくない、と。
そんな彼が望んでいる答えは、「受け入れられない」または「認められない」と云った旨の拒絶の言葉かも知れない。だが、セフィロスにとって既にジェネシスは、ただの恋人ではない。掛け替えのない特別な存在だった。
神羅カンパニーという特殊な環境、神羅の英雄という特異な立場。ソルジャーの中に於いても異質な存在。
そういった周囲の人間が敬遠し、或いは媚びへつらう状況の中で、この男だけは真正面から自分に対峙し、対抗し、切磋琢磨し、常に対等であろうとしてくれた。
「お前がどんな姿になろうとも関係ない。愛してる、ジェネシス」
それは、思わず零れた本音。無意識に衝いて出た本気の告白であった。
ジェネシスが望まないであろう答えを返してしまった英雄は、てっきり笑い飛ばされるかと思った。が、意外にもジェネシスは相好を崩して、嬉しそうにセフィロスの胸元に顔を埋ずめる。
「嘘でも、嬉しい」
反射的に「嘘じゃない」と、否定するセフィロスに、ジェネシスは何かを悟り切った様な穏やかな笑みを返した。
「俺も、お前がどんなに醜くなっても、どんな姿になっても……愛してる」
直接的な愛情表現など滅多にしないジェネシスにとって、初めての真っ当な告白であった。
本来なら喜ぶべき局面であろう。だが、その時、セフィロスはジェネシスの存在が非道く遠くに感じられた。思えば、それは胸騒ぎと云った類のものだったのかも知れない。
二人で恋人らしい時間を過ごしたのは、お互いに真剣に告白した、初めての日。それが、最後の時でもあった。
それから間もなく、ジェネシスは神羅カンパニーを裏切り離反したのだ。
如何な理由があろうとも、自らの意思で英雄の懐を抜け出し、飛び去っていった紅いカナリアを尚も恋人として想い続ける事は出来なかった。
救いを求められても、拒絶した。
単純に認めたくなかっただけかも知れない。自分の事ではなく、ジェネシスが造られたモンスターであるという事を。
英雄であるセフィロスに対して唯一、対等であろうとしてくれたジェネシスが、唯一、同じ高みに迫ろうとしていたジェネシスが、実は結局のところ自分と同じジェノバ因子によって造られた存在だった。その皮肉とも思える耐え難い事実を。
惹かれ合い、求め合ったのも、身体の裡に内包されたジェノバ因子が呼び合っていただけなのか。考えれば考える程、全てを否定し忘れ去ってしまいたい。何もかもが許し難い。
ジェネシスがもし失敗作ではなかったら、もっとセフィロスと拮抗した力を持ち得たのだろうか。
女神の贈り物により劣化しない完璧な身体を手に入れたジェネシスは、真にセフィロスと対抗しうるだけの存在と成り果てたのだろうか。
時は巡り、星は幾度かの危機を迎え、再び平穏を取り戻す。
繰り返される危機と平穏。目覚める事なき星の護人。
星を護る為に水牢の中で眠りに就き、世俗から忘れ去られた真紅のソルジャーが秘かに目覚める。
こうして目覚めたという事は、今までの危機とは比べものにならない程の何かが、真の世界の終焉が近付こうとしているのだろうか。或いは、他者には食い止められない、ジェネシスにしか阻む事の出来ない何かが。
世界の終わりを感じながら、ジェネシスはその何かを探して外界に出る。
かつての栄光は見る影もなく、荒れ果てた廃墟と化した神羅ビル。今や近付く者さえいない。
ビル内部はあちらこちらが崩れ、いくつもの瓦礫が積み上げられている。
そこに、亡き恋人の気配を感じたのは唯の未練であろうか。ジェネシスはその瓦礫の山を面倒臭そうに、それでも軽快に歩いていく。
此所の49階には、親友達と多くの時間を過ごしたソルジャーフロアがある。まだ何年も経っていないのに、遙か遠い昔の事のように思えて懐かしい。
物思いに耽りながらエントランスの高い天井を見上げると、ジェネシスの脳裏にジェノバの頭部とそれを手にするセフィロスのヴィジョンが鮮やかに浮かび上がった。恐らく過去の映像が、思念としてこの場に残留しているのだろう。そのヴィジョンはやがて血に塗みれ、消えてゆく。
まだ、思念体としてのセフィロスがこの場に残っているのだろうか。彼が根城としていた神羅ビルなら、彼の思念が強く残っていても不思議ではない。そして、此所はジェノバ細胞を用いた実験が繰り返された場所のひとつでもある。加えて、ジェノバの首が安置されていた場所。この場所ならば、実体化の拠り所となるジェノバやセフィロス本人の細胞が含まれた「何か」が存在している可能性も否めない。
そして何よりも、自分が目覚めたのはセフィロスの存在── それも、ただの思念ではなく実体化に近い何か── によって呼び覚まされたような、ジェネシスはそんな気がしてならなかった。
夜も更けて、目覚めたばかりで行く当てもないジェネシスは、仕方なく神羅ビルの廃墟内に適当な場所を見つけて、其所を勝手に寝床として休むことにした。
夢の中の方が、過去のヴィジョンが入り込みやすいのだろう。特に近しい人物のヴィジョンの方が流れ込んでくるようだ。夢の中には、多くセフィロスが現れた。夢と解っていても、もう一度触れ合いたくて無意識に手を伸ばす。やはり手は届かなくて、嘆息混じりに俯いた。だが、それと同時に何か強い意識の存在を感じた。
反射的に目を開け、周囲を見遣る。
身に覚えのある圧倒的な存在感。威圧感。神々しい程のオーラ。カリスマ。
「セフィ、ロス」
震える我が身を抱き締めながら、ジェネシスは恐る恐るその名を呼んだ。その呼びかけに応えるように現れた揺らめく銀の影。魔晄の瞳が妖しい光を帯びてこちらを見詰めている。
思念体の滞留している場所にジェネシスが身を置いたことで、彼の実体化を促してしまったのだろうか。或いは、ジェネシスのセフィロスを想う気持ちが、彼をこの地に引き寄せ導いたのか。どちらにせよ、セフィロスの実体化の時は近かったのだろう。それが、ジェネシスの覚醒を引き起こしたのは確かだ。
「セフィロス」
万感の想いを込めて再び名を呼ぶ。最後は苦い別れ方をしてしまったが、決して嫌いになった訳ではない。セフィロスがどう思っているかは分からないが、ジェネシスは今も恋人のつもりだった。
しかし、近寄ろうとするジェネシスにセフィロスはあからさまに不審顔を見せた。
「誰だ、貴様は!?」
その瞬間、ジェネシスは改めて理解した。
彼はセフィロスの姿をしたジェノバ。人の心を失ってしまった英雄の傀儡。ジェネシスの事さえ覚えていない。
理解はしたが、同時にセフィロスの思念と意思により形成されたものであるならば、それは即ちセフィロスではないと断じてしまう事もジェネシスには出来なかった。第一、セフィロス自身の肉体はとうに失われてしまっている。
そして何より、ジェネシスは誓っていたのだ。セフィロスがどのような姿になろうと自分の気持ちは変わらないと。これは決してセフィロスと約束したからという訳ではなく、今でも揺らぐことなく熱い想いが心の裡に存在しているから。
確かに目の前にいるセフィロスは、自分が知っているセフィロスとは違うかも知れない。
人間だった頃の心や記憶を失い、ひたすらに憎しみだけを抱え、妄執に囚われ、モンスターと化したセフィロス。幼い頃から慕った英雄の醜く変わり果てた姿。
変わり果てたその部分が、例え外見ではなく内面であろうとも、自らに誓った気持ちに変わりはない。
それでもまだ、セフィロスの事を好きでいたい。好きだと、思う。
こうして約束のない再会を果たせた事が、今は純粋に嬉しい。胸の奥底から湧き上がる昂ぶりを抑えられない。ジェネシスの目端から溢れそうになるアクアブルーの欠片。滲んでいく視界。
「セフィ……ロス」
もう二度と逢えないと思っていた恋人との思い掛けない邂逅に、歓喜のあまり震える声音。
感極まったジェネシスは目の前のセフィロスの正体など、どうでも良くなってしまい躊躇いなく駆け寄り、縋り付いていた。
拒絶されるかも知れない。そう思ったが、セフィロスは意外にもジェネシスを柔らかく受け止め抱き返してくれた。
暖かい抱擁に包まれて、ジェネシスの目許から溢れる水量が増加する。
不意に耳元で囁かれる低い声。
「貴様もジェノバ因子を持っているのか? お前とも、リユニオン出来そうだ」
当たり前のように淡々と紡がれるセフィロスの言葉に、怖気が走って碧玉で見詰める。
「お前の情報がどんどん私に流れ込んでくる。── ジェネシス」
ジェネシスの頭部を抱き寄せるように添えられたセフィロスの左手は、その朱髪を梳きながら、しなやかに指を絡めていく。ジェネシスの髪は肩に掛かる程に長く伸びており、紐でひとつに纏められていた。やがて絡められた指が、髪を括っていた紐を緩やかに解いていく。さらりと肩に落ちる長めの朱髪。
「お前は私とリユニオンする為に、此処に来たのだ」
どくりと、ジェネシスの心臓が脈打つ。逸る鼓動。乾く涙。
元々持つコピー能力ゆえか、自分の情報がセフィロスに流れ込んでいくのが自分でも分かった。身体の裡のジェノバ細胞が早くひとつになりたいと叫んでいる。
水牢で眠りに就いていた間、外界で何があったのか、詳しい事象までは知らない。だが、眠っている間、ジェネシスは夢を見た。
星の記憶が見せた夢。
繰り返された危機と平穏。幾度も復活と復讐を試みるセフィロス。
夢の中で、セフィロスは常にリユニオンを求めていた。劣化していくジェネシスが、女神の贈り物を求めるが如く。
今、この場にセフィロスが具現化したのは、ジェネシスが此処にいたからなのだ。リユニオンを求めるセフィロスは、ジェネシスの中のジェノバ細胞に惹かれてこの場に顕現した。いや、或いはジェネシスの方がこの場に呼び寄せられたのかも知れない。最早どちらが先かなど、考える事自体が無粋で愚かだ。
細胞が感応し呼び合う。今はただ、リユニオンしたい。ひとつになりたい。裡から沸き起こる衝動が抑えられない。
「ジェネシス」
往時のように名を呼んで、頬に手を添え、口付けを施される。
ジェネシスの情報が、失われたセフィロスの記憶を呼び覚ましていく。恋人だった頃のように名前を呼ばれ、恋人だった頃のように舌を絡ませ合う。
「はあ……セフィロス」
額と額を合わせあって、腕を互いに背中に廻し、より強くより深く抱き合った。二人の情報と思考が、お互いに流入し合い交錯していく。それが、ぞくぞくする程の陶酔感をもたらし瞼を伏せる。
リユニオンへの欲求は麻薬のように強くて深い。だが、ジェネシスはジェノバ細胞を持ってはいるがセフィロスコピーではない為、どんなに身を抱く腕に力を入れても、それ以上融合する事が出来なかった。
リユニオン出来ないもどかしさがセフィロスを苛立たせ、遂にはジェネシスをその場に押し倒す。
お互いに思考を共有しているから、ジェネシスにはセフィロスの意図が直ぐに分かった。セフィロスはジェネシスから得た過去の情報により、ひとつになる別の方法を見い出したのだ。
尚も口付けを交し合いながら、セフィロスはジェネシスの着衣を乱していく。
セフィロスは、リユニオンの一方法としてセックスを望んでいるのだ。ジェネシスは思わず身じろぎをして、セフィロスの腕の中から逃れようとした。
セックスは怖い。
しかも、今、目の前に居るのは記憶を取り戻しつつあるとは云っても、ジェネシスにとっては今日出会ったばかりの未知の存在。今のセフィロスに容易く身体を開く事が出来なくて、ジェネシスはその身を縮こませる。
冷たい指が身体の稜線を撫でるように辿り、徐々に暴いていく。その所作にジェネシスの細胞は打ち震え、肌が粟立つ。
「あっ……!」
咄嗟にジェネシスは己れの左手の甲を口許に当て、中指を噛んだ。
この未知のセフィロスに身体を委ねる事は恐怖でしかなかった。だからこそ、我が身を傷付けてまでもジェネシスは耐えようと決めた。如何に醜く変わり果てようとも、彼はセフィロスなのだ。相手がセフィロスなら我慢出来る。受け入れられる。
それが、どんなに恐ろしい事でも── 。
セフィロスのしなやかな指は、やがてジェネシスの下半身にまで到達し、更に深奥へと迫る。ジェネシスは、ただひたすらに固く目を閉じ、指を噛み、耐えた。
身体の内側から侵蝕される恐怖は、いつしか融合する歓びへと変わる。恐怖は次第に和らぎ、強張った身体は弛緩して力が抜けていく。
ジェネシスは時間を掛けて、身体と心、双方でセフィロスを受け入れた。張り詰めた緊張が一気に解けて、セフィロスの背中に両腕を廻し、抱き付くジェネシスの目端には安堵の涙が光る。
「やっと、ひとつになれた」
「俺も、ずっとこうしたかった。セフィロス」
セフィロスの低く囁かれる声が懐かしくて、嬉しくて、涙声になってしまう。が、そんな瑣末事になど構ってはいられなかった。
温かい。
人の温もりは、なんと優しいのか。
心音がダイレクトに伝わってきて、先程までの恐怖が瞬く間に消し飛ぶ。反面、触れ合える事の歓びが増大する。
今は、何時までもこうしていたい。ひとつに繋がっていたい。離れたくない。
二人の結合部分は、融け合うように密に絡み合い、互いに纏わり付く。
ジェネシスの情報はセフィロスに流入していたが、セフィロスからジェネシスへと入り込んでいくのは殆ど思考の流れだけだった。セフィロスにはコピー能力が無い所為なのか、ジェネシスがセフィロスコピーでは無い所為なのか。
交じわり合う内に、セフィロスの昂ぶりが限界に達し、熱い融解熱がジェネシスの体内へと注ぎ込まれる。
その時、熱と共にセフィロスの情報がジェネシスの内部へと送り込まれた。
「はあっ、セフィロス。病み付きになりそうだ」
とうにセフィロスへの恐怖など遠い彼方のものと成り果て、情報と肉体の融合は体験した事のない愉悦をもたらす。
気が付くと、ジェネシスは夢中になってセフィロスに縋り付いていた。深い蒼を湛えた瞳は、水面を思わせるが如く官能に潤んでいる。
肉体の結合と享楽。
情報の融合と共有。
同時に行われる肉体の交歓と精神の交感。
魂の一体化。
果たして、これに優る快楽があるだろうか。
陶酔と恍惚に溺れて、どれ程長く交合していただろう。このまま、ひとつになってしまえればリユニオン出来る。そう思うと、身を離す事さえ憚られて、上等の柔らかいベッドとは程遠く、洗練されたホテルの一室とは比べようもない、固い瓦礫の山の一角で一夜を明かした。
一晩中、抱き合って寝乱れて。目覚めた時には精液に塗みれていたが、セフィロスと自分の情報が混じり合った産物だと思うと不快ではなかった。
起き上がってみると、セフィロスが不服そうに眉間に皺を入れている。結局、何度交わっても真のリユニオンは叶わなかった。
ジェネシスの現在の身体は劣化しない。その為、いくらセフィロスに情報が流れ込んでも、ほぼ同時に情報の回収が行われる。それが、不満だったのだろう。そんなセフィロスの姿に、ジェネシスの口許は無意識に緩む。
ジェネシスは周囲に散らかった衣服を適当に集めると、コートを羽織ってセフィロスの隣に腰掛けた。コテンと首を横に傾けて、頭をセフィロスの肩に乗せる。
こうして身を寄せているだけで、情報が流入し合って心地良い。
「また、試してみればいい。何度も繰り返せば、何時かリユニオン出来るさ」
実際、情報の交換は交わった後の方が格段にスムーズになった。
ジェネシスの言葉に応えるように、セフィロスはジェネシスの肩を掴んで更に抱き寄せる。ジェネシスが顔を上げると、直ぐに口付けが降りてきた。
「ん……っ」
あまりに濃厚な口付けに、全てを受け止め切れず甘い声が洩れる。
「リユニオン出来るまで、お前を離さない。ジェネシス」
一方的に束縛を誓う不遜な言葉が嬉しくて、ジェネシスはセフィロスの胸元辺りに顔を埋ずめた。
荒涼とした大地に乾いた風が吹き荒れる。はためく紅い革のコート。風に煽られて長い朱髪が乱れるが、ジェネシスはその風に身を任せるように佇む。
星はメテオの影響で壊滅状態に陥った。だが、その命を賭けて少女が唱えたホーリーが何時かこの星を癒してくれるだろう。幾星霜の年月が掛かろうとも。
そして、ジェネシスはこの星の行く末を見守っていきたいと思う。
星を護る為、愛しい人を守る為、憎しみに囚われたセフィロスを救う為に── 。
荒野を見下ろす高台に降り立ち思考を巡らせていると、同じ場所に舞い降りてきたセフィロスに背後から突如抱き付かれる。
片時も離れたくないと云わんばかりに身を摺り寄せてくるセフィロスは、「これがかつての英雄か」と、ジェネシスでさえ呆れる程だ。
そのセフィロスの背に生える漆黒の片翼。ジェネシスの片翼とは反対の位置に存在するそれが自分の翼と対になっているようで、あれ程忌み嫌った醜い黒翼が今では愛おしい。
「セフィロス……お前、引っ付き過ぎだ」
苦笑混じりにやんわり窘めると、更に強く抱き締められた。
「良いだろう? 私はお前と離れたくない」
寄り添って顔を覗き込んでくるセフィロスと額を付け合わせる。
「まあ、良いか。俺が生かされたのは、多分この為だから……」
柔らかく笑んでみせてから、ジェネシスは軽く口付けた。
この星で生きて幸せだった頃の思い出をひとつでも多く思い出せば、何時かセフィロスも憎しみだけを抱えた存在ではなくなるだろう。
セフィロスの身近に居て、セフィロスの事を知っていて、且つジェノバ細胞を保有しているのはジェネシスだけだから。それが恐らくジェネシスが星に生かされた理由。
幾星霜の年月が掛かろうとも、ジェネシスはセフィロスの傍にいてリユニオンを繰り返し、セフィロスの記憶を取り戻してやりたい。
何時か真のリユニオンが叶った暁には、この身はセフィロスと融合して失われるかも知れない。それでも構わないと思う。
相変わらずセフィロスは背後からジェネシスを絡め取るように捉え、風で靡いた長い銀糸がジェネシスの身体に纏わり付く。同時に、流れ込んでくるセフィロスの思考。感応する精神。
ひとつになりたい。リユニオンしたい。
身体を添わせているとセフィロスの思考が入り込んでくる事が頻繁にある。だから、出来るだけ気にしないようにしているのだが、あまりにも真っ直ぐな思考につい、くつくつと笑いを零してしまう。
「そう、焦るな。セフィロス」
身を捩り、振り返ると、ジェネシスは宥めるようにセフィロスの頭を撫でてやった。
「きっと、後500年位したら、リユニオン出来るから……」
ぽつりと呟くように放った言葉は風に流され、セフィロスの耳まで届かず空中に散る。
「今、なんと言ったんだ?」
僅かに目を眇め、大真面目に問い質してくるセフィロスに、ジェネシスは誤魔化すように軽くいなすと、「何でもない」と、大袈裟に笑ってみせた。
end
2010/2/1