質量保存の法則
「お前が欲しい」
突然のセフィロスのストレート過ぎる要求に、若干頬を染めながらも苦笑する。
「今更、何を言ってるんだ。もう、とっくに俺を手に入れて、好きにしてるだろう?」
現状に満足しない恋人に、眉根を寄せて窘めながら、首筋に手を廻して顔を寄せると軽いキスを与えてやる。
すると強引に手首を掴まれて、する気のなかったキスの続きを強要された。
無理矢理に口腔に舌をねじ込まれ、息継ぎが困難な程に舌を絡ませられる。
「……んッ!」
解放された後も、酸素が足りなくて忙しない呼吸音が室内に響いた。
「お前が欲しい」
繰り返される真意の見えない要求に、ジェネシスは最早黙ってセフィロスを見詰めるだけだ。
乱れた呼吸が少し落ち着いてきた頃。
セフィロスはまるで包み込むように、全身でジェネシスを抱き締めた。
「まだ、足りないんだ」
心の奥底から湧いて出てきたような言葉に、ジェネシスは己れの動悸が早まるのを自覚した。じんと胸の奥が熱くなる。
手に入れても、もっと欲しい──
飽くことなき、滾る熱い想い
他人から強い感情をぶつけられる事は、それが嫌悪であれ好意であれ、精神に重い負担を感じる。
だが、セフィロスから向けられるそれは、この上なく気持ちが良かった。恐らく、ジェネシス自身がセフィロスに向ける感情も同じ重さを持っているから。
バランスが取れて丁度良い。
「好きだ、セフィロス」
あまりの心地好さに告げるつもりの無かった本音が、ぽろりと口を衝く。
「クク、今日は随分素直だな」
「う……うるさい!」
揶揄ってくるセフィロスに、あっという間に気分を害したジェネシスはセフィロスの身体を突き放す。と、そのままセフィロスを置き去りにして部屋を出て行ってしまった。
残されたセフィロスは、身を崩しながら相変わらずくつくつと堪えきれない笑いを洩らし続ける。
だから、お前が欲しいんだ。
手に入れたと思っても、忽ちするりと腕の中からすり抜ける。
永遠に手に入らない恋人。
永遠に不足する恋人。
永遠に思い通りにならない── 愛しい人。
セフィロスは、両の掌を上に向けて広げると、その手に残る恋人の感触を反芻する。
残されたモノは、同じ重さ。
同じ質量。
同じ想い。
逃さないように、ゆっくりとセフィロスは両手を握り締めた。
end
2009/7/31