特別な休日
久しぶりに少し長めの休暇が取れて、二人でのんびりと過ごす事にした。
疲労の蓄積した身体で遠出するのは煩わしいし、かと言って都会の喧騒に紛れるのはもっと鬱陶しかったから、ありきたりだけど宿舎の自室に引き篭る。
仮に何処かに出掛けるとしても、今は到底アウトドアな気分になどなれない。そういうのは、後回しで良い。
ジェネシスの部屋だと隣室がアンジールの部屋だからなんとなく落ち着かない。神羅のソルジャー用宿舎は例え1st専用の宿舎であっても意外に安普請だった。何しろアンジールの部屋の虫が頻繁にジェネシスの部屋に入り込んでくるくらいだ。神羅カンパニーに、いやプレジデント神羅などの幹部連中に直接関わらない部分には極力金を出し渋るという神羅の体質が透けて見える。そんな安っぽい構造だから、下手に大声など出したら隣に筒抜けという可能性も否めない。
心置きなく安心して真に二人きりの時間を満喫したかったから、場所は自然とセフィロスの部屋に決まった。
オフの時の最高の贅沢は、時間を気にせずゆっくりと眠れる事だ。
二人共、任務明けで疲れていたし、度重なる任務ですっかり寝不足に陥っていたジェネシスが、兎に角「先ずは寝たい」と駄々を捏ねたので、まだ寝るには少し早い時間帯だったが早々に二人でベッドに潜り込む。
キングサイズのセフィロスのベッドは、体格の良い1st二人で占拠しても充分な余裕があった。それこそ、ベッドの端と端に分かれても支障が無い程だったので、ジェネシスは敢えてセフィロスから距離を取った位置取りを選択する。
「ジェネシス……もう少しこっちに来てくれたって良いだろう」
心なしか悄気た様子で、セフィロスが英雄らしくない情けない声音を発する。
「ふざけるな。一緒のベッドで寝てやるだけ、有り難く思え」
セフィロスのベッドを使用しているとは思えない、いやそれ以前に恋人である事すら疑いたくなる冷たい物言いに、一緒に過ごす事の意義をセフィロスも見失いそうになる。
ジェネシスは一方的に言いたい事だけ言うと、さっさとシーツを引き寄せベッドに潜り込む。完全にセフィロスの方に背を向けるような半身の体勢に、ますます疑問を感じつつ。セフィロスも仕方なく、残りのシーツを遠慮がちに引き寄せ自身の身体もベッドへと滑り込ませた。
ジェネシスは任務中、碌に眠れなかったとぼやいていただけあって、ベッドに入って間も無くすやすやと寝息を立て始める。すると、離れて寝ていた筈の彼が幾度かの寝返りののち、いつの間にかセフィロスの間近にまで場所を移動してきた。
夢の中だと素直なのだろうか。甘えるようにセフィロスの胸元に額を擦り付け、気が付くとその片手には、しっかりとセフィロスのパジャマが握られている。
流石に、この状況ではセフィロスも下手に身動きが出来ない。身を離せば起こしてしまう可能性が高いし、出来れば良く眠っている様子のジェネシスを起こしたくはない。
ふと、以前ジェネシスが「セフィロスと一緒だと良く眠れる」と言っていた事を思い出した。きっと、それだけ自分に気を許してくれているという事なのだろう、とセフィロスは好意的に解釈していた。セフィロスにとってもジェネシスは、気を許せる特別な存在だから。
だから、このように身体を密着させて寝る事も不快では無い。寧ろ、歓迎すべき状況であった。だが、ひとつだけ困った事象が発生していた。ジェネシスを起こしてしまうのは本意では無かったが、なるべく控え目に声を掛けてみる。
「ジェネシス、俺の腕が下敷きになってるんだが……」
しかし、彼の眠りは相当に深いらしく、睫毛一本たりとも動かない。
腕が痺れる事も含めて全てを諦めたセフィロスは、それでもジェネシスを起こさないように、そっと彼のソルジャーとしては珍しい締まった細腰に手を廻した。
それからあまり間を置かず、やがてセフィロスもジェネシスの後を追うように眠ってしまったらしい。超人のような、時には敵方に化け物と罵倒されるセフィロスにも、連日のハードな任務に疲労困憊だったようだ。英雄といえども、どこまでも万能な訳ではない。
愛しい人の温もりを感じながら眠るという極上の至福を、セフィロスはジェネシスと付き合うようになってから知った。ジェネシスが傍らに寝ているという安堵感も加わって、すっかり熟睡してしまったようだ。
「うわ── !!」
突如、甘く陶然とした睡眠の世界から強制的に引き戻される。耳をつんざく、けたたましい叫び声。
この声の主が恋人でなければ、間違いなくセフィロスのリミットブレイクが発動していた事だろう。
「どうした、ジェネシス……?」
白銀の長い髪を掻き上げながら、寝起きの未だはっきりとしない、いつもより低い声で問掛ける。
「『どうした』は、こっちの科白だ! なんで、こんなに引っ付いて寝てるんだ!? 離れろ、バカ!」
これでもか、という暴言の数々が矢継ぎ早に投げ付けられる。
「あのな、お前がこっちに寄って来たんだぞ?」
諦め顔で、嘆息混じりにセフィロスは答えた。
「じゃあ、この手は何なんだ!?」
ジェネシスは自分の腰に廻されたセフィロスの右手を、わざとらしく抓ってみせる。
「それを言うなら、お前の右手はなんなんだ?」
言われて見てみると、ジェネシスの右手はがっちりとセフィロスのパジャマの襟元付近を握り込んでいた。
「こ、これは……その、何かの間違い……っ!」
ジェネシスの言葉が終わらないうちに、ジェネシスの腰に廻された手が更にジェネシスを身体ごと引き寄せ、煩い口を黙らせるかの如く塞がれる。
「う……ん」
途端に洩れ出る甘い声。念を押す様に更に舌をゆっくり絡ませる。
どうにか大人しくなった恋人に、セフィロスは彼の面目を潰さないように大義名分を立ててやった。
「お前が離れないように、捕まえてやってただけだ」
セフィロスは溜め息を洩らすと弱冠痛そうに眉をひそめ、続ける。
「どうせ目が覚めた時、俺が居なかったら大騒ぎする癖に……」
一方的に悪者扱いされ罵声を浴びせられた仕返しだろう。セフィロスはやや皮肉めいた言葉を返す。
「そんな事あるか! あんたなんて居なくっても……いや、その少しはアレだが……だが、そんな大騒ぎって言うほどには……」
ぶつぶつと文句を並べ立てながら、それでも決して完全否定はしないところが本当に可愛らしくて仕方がない。本人には全く自覚が無い様だったが。
「聞いてるのか!? セフィロス」
思わず微笑を浮かべながら言い立てるジェネシスを眺めていると、不服そうに睨め付けられる。
どこか納得がいかない様子のジェネシスに更に残りの手も使い、セフィロスは両手でもって改めて彼を抱き寄せた。
「折角の休暇なんだ。拗ねてるお前も可愛いが、こんな些細な事で争うなんて無駄な時間は過ごしたくない」
不毛な言い争いが虚しくなったのだろう。或いは、もう面倒臭くなったのか。セフィロスの言葉にジェネシスも遂に同意を示す。
「それもそうだな」
聞こえるかどうかという小さな声で呟くと、今度は遠慮する事なく堂々とセフィロスの胸元に顔を埋ずめてきた。
二人の間に再び訪れる、微睡みを誘う温もり。
引き摺り込まれ、抜け出す事が出来ない甘美。
それは、誰にも邪魔の出来ない静寂。
二人きりの悠久── 至福の時。
end
2009/12/4