たったひとつの我侭

久方ぶりにセフィロスがミッションを終えて神羅ビルに帰投した。たったそれだけのことでも、ミッドガルはちょっとしたお祭り騒ぎだ。
ミッションの報告を済ませたセフィロスは、ソルジャーフロアで早くも同僚や多くの後輩達に取り囲まれている。セフィロスを憧れの対象としているのは当然ながらジェネシスだけではない。むしろソルジャーのほとんどが、神羅の英雄たるセフィロスに憧れを持っていると云っても過言ではない。
今回のミッションはどうだったのか、はたまた自分の訓練方法やミッションへの取り組み方に関する質問など、特に2ndや3rdの後輩達にとってはいくら質問を投げても物足りないくらいであろう。あまりに質問が続くので、周りの同僚がそこそこにしておけと諌めてやる。いくら英雄とはいえミッションから戻ったばかりで疲れているだろうし、多忙な英雄にはまだこの後も予定があるのだ。
ジェネシスはそんなセフィロスの様子を、ソルジャーフロアの隅の方、セフィロスがぎりぎり見えるかどうかという距離から黙って見ているだけだった。
恋人としてセフィロスを出迎えてやりたいのは山々である。だが、堂々と皆の衆目の中で「おかえり」と声を掛けるのは躊躇われた。多分、恐らく、いや、どう考えても顔や表情や態度に出てしまう。このセフィロスへの想いを溢れさせない自信はない。そんなものは神羅の英雄にとって迷惑でしかないことも分かっている。
── ただ、元気な姿をひと目見たかっただけだ
そう自分に言い聞かせるとジェネシスは身を翻してソルジャーフロアを立ち去った。セフィロスへの想いを断ち切るように神羅ビルを出て、ソルジャー1st専用の宿舎へと戻って行く。いずれ落ち着いたら、セフィロスの方から連絡が来るだろう。それを待てばいい。
気にしないで会いに来いとセフィロスは云うけれど、そうはいかない。
ジェネシスはもちろん一人の人間としてセフィロスを好きだけれども、同時に英雄セフィロスも同じくらい大事だし好きなのだ。いや、思慕の年数を考えると英雄セフィロスへの気持ちの方が重いのかもしれない。そう自覚しているくらいには拗らせている。
一介のソルジャーである自分が英雄の邪魔になってはいけないと、わりと真剣に考えているのだ。恋人としてだけではない。同僚としてもライバルとしても、英雄の仕事を尊重したい。揺るがない英雄へのリスペクトがある。

宿舎に到着した頃に、親友であるアンジールから黒い携帯端末に着信が入った。メールではないところに緊急性を感じて、直ぐ電話に出る。
「いま、どこにいる?」
「ちょうど宿舎の目の前だが……どうした?」
「セフィロスが居なくなった──
「なんだって!?」
端末越しに幼馴染の溜め息が聞こえてきそうだった。恐らくは万に一つの可能性に賭けてジェネシスに連絡してきたのだろう。ジェネシスの反応でその可能性もついえたのだが。
「一時間後には、お偉方と会食なんだ……まさか、こんな短時間の隙にいなくなるとは、な」
セフィロスはどちらかと云うとミッション以外の雑事もきちんとこなす方ではあるのだが、時折気まぐれを起こすこともある。よって、アンジールを始め何人かの優秀なソルジャーが護衛という名の監視に就いていたのだが、見事に逃げられたらしい。
しかし、いくらセフィロスが韋駄天のごとく速やかに行動したとしても自分より早く宿舎に戻っているとは考えにくい。相手が英雄とはいえ、ジェネシスだとて同じクラス1st。さすがに追い抜かれたり近くにいれば気が付くはずだ。
「分かった。自室に戻って着替えたら、俺も捜索に参加する」
アンジールにはそう告げて通話を切った。
実は目立たないように、今日は赤い革のコートではなく普通のソルジャー服しか着ていなかったのだ。だが、セフィロスの捜索ともなると統括や上層部のお偉方連中と顔を合わせる可能性が高い。まずは自室に戻って1stの制服に着替えた方が無難だろう。

宿舎に入って自室の鍵を開けようとしたところで、すぐ異変に気が付く。鍵が開いているのだ。1st専用宿舎はセキュリティがしっかりとしていることもあって、短時間の外出なら鍵を掛けないことも多い。うっかり鍵を掛け忘れたのだろうか。
慎重に扉を開けて中に足を踏み入れようとした、その瞬間。何者かに腕を掴まれ、その勢いのまま身体を壁面に押付けられた。
── セフィロス!?」
どう考えても自分より先に宿舎に着いているはずのない人物の登場にジェネシスも驚嘆の声を上げる。長い銀の髪がジェネシスの頬に触れるほど距離が近い。
ある程度、予想はしていた。ジェネシスの部屋の鍵を開けられる人物は限られているし、気配からなんとなくセフィロスかもしれないとは感じていた。だが、物理的に不可能だとも思う。自分を追い抜いて先に宿舎に着くなんて、しかも気付かれずに──
「どうして? いや、どうやって!?」
素直な疑問を紡ぐしか出来ない口唇は、あっけなくキスで塞がれた。質問への回答はないままに、舌が深く絡まってくる。未だドアは開かれたまま。
この時間、宿舎に居るのは恐らく二人だけだ。もし手が空いている1stがいたとしても、英雄の護衛という名目で駆り出されているだろう。アンジールのように。それでも、ドアが開け放たれたままの状態でキスされるのは気恥ずかしかった。
だが、久しぶりの逢瀬、久しぶりの口付けにセフィロスを突き放すことも出来ず。キスはより深くより強く。求められるままじわじわと追い込まれ、部屋の内側まで引き込まれた。同時にドアもぱたりと閉まる。
「セフィロス……どうし……んんっ」
口内を舌で荒らされながら、上半身もまさぐられる。今日は普通のソルジャー服しか着ていないから、いつもより無防備だ。戦闘服であるはずのソルジャー服は、何故か薄手の生地で作られている。服の上からプロテクター等を装着することが前提なのだろう。生地が薄いために服の上からの愛撫でも充分に感じてしまう。
「ソルジャーフロアに来ていただろう?」
キスに蕩けて朱を帯びた頬、潤んだ瞳でセフィロスを見詰める。極力セフィロスには見付からないよう気を付けていたつもりなのだが、英雄にはお見通しだったようだ。
「お前の姿を見掛けたら……お前がわざわざ出迎えに来てくれたと思ったら、どうしても直接逢って触れたくなった」
言って、再度深く口唇を食む。
「んんっ……でも、あんまり時間がないんだろう? 皆お前を探しているぞ」
諌めるようにきつく指摘する。
もちろん逢いに来てくれたことは嬉しい。だが、英雄としての仕事もきちんとして欲しい。ジェネシスは無意識下で、恋人であることよりも英雄であることに重きを置いて欲しいと望んでいるのだろう。嬉しいけれど、素直には喜べない。
「大丈夫だ。まだ一時間もある」
セフィロスは口角を上げ、改めてジェネシスを壁に押し付けると、口付けを施しながら身体のあちらこちらをまさぐり始める。
服の上からではあるが胸筋から腹筋のあたりへと指を滑らせつつ、もう片方の手を腰にまわす。
「ふ……ン」
久しぶりの感覚にジェネシスの身体は震え、思わず声が漏れる。更には乳首のあたりを指で弾かれ、びくりと身体が跳ねた。柔らかい愛撫にジェネシスの熱も高まっていく。
「セフィ……ロス」
抑えきれない想いと熱とが溢れそうになって、ジェネシスの方からセフィロスにしがみついた。ジェネシスの方からセフィロスに口付けた。もう理性も理論も規律も倫理も、何もかもが瓦解していく。
一度理性が失われてしまえば、あとは脆い。英雄ではなく恋人としてのセフィロスを求める気持ちの方が容易く上回った。それだけジェネシス自身もセフィロスに飢えていたのだろう。
しかし、昂揚した気持ちに水を差すように、突如として携帯端末の着信音が鳴り響いた。甘い陶酔から一気に苦い現実へと引き戻される。
自分の端末だと気が付いたジェネシスは慌ててポケットから端末を取り出す。ディスプレイにはアンジールの名前が表示されていた。
先程、捜索に参加すると伝えていた事を今になって思い出す。肝心の捜索対象者はいま正に眼の前にいるのだが。
心配症の幼馴染はなかなか来ないジェネシスを案じて電話を寄越したのだろう。黙ってセフィロスにディスプレイに表示された名前を見せる。これで彼にも事態の深刻さが伝わるはずだ。ジェネシスにとっても現在の状況は完全にイレギュラー、不測の事態である。
重苦しい空気がまとわりつく。咄嗟に上手い弁明が思いつかない。アンジールになんと伝えればいいのだろう。電話に出るのを躊躇していると、渦中のセフィロス自身がジェネシスから端末を取り上げる。呆気に取られるジェネシスを尻目に、セフィロスは端末を操作して着信に応じた。
「アンジール、なんの用だ?」
── !? セフィロスか? お前やっぱりジェネシスのところに── !」
「心配するな。時間迄には戻る。お前は適当に時間稼ぎをしておいてくれ」
留守番でも頼むような気安さでセフィロスは告げると、御丁寧に端末の電源を切ってから遠くに放り投げた。
セフィロスの大胆な振る舞いに呆然としつつ、英雄でならではの不遜さに思わず胸が高鳴る。複雑な感情に翻弄されるジェネシスに構わず、セフィロスは再度ジェネシスを抱き寄せキスを施す。一度昂められていた身体はあっけなく熱を取り戻し、口許からは甘い吐息が漏れる。
再び熱を帯びた身体は既に敏感で、身体のあちらこちらを這いずり回る愛撫の手に簡単に反応し、容易く陥落する。昂ぶりを抑えきれない様子でジェネシスは先程のようにセフィロスに抱き付いてきた。
頃合いと見たのか、腰のあたりをまさぐっていたセフィロスの左腕が、ついと前の方に回り込んでボタンを外しジッパーを押し下げる。
既に熱くなっているであろう前の方には敢えて触れずに、背後から下着の内側へと手を忍ばせていく。やや強引に双丘の隙間に潜り込んでいくと、ついに後孔までたどり着いた。軽く触れられただけで身体がびくりと反応してしまい、ジェネシスは反射的にセフィロスにしがみつく。早くも呼吸は荒くなり、セフィロスの胸元に顔を埋めて喘いでいる。
戸惑い、畏れ、焦り。
後孔に近付いた指先は徐々にその裡へと侵略先を伸ばしてゆく。
「あぁ……っ」
周囲を解すような指の動きに、嬌声が漏れる。
「もう柔らかくなっているな。自分で『した』のか?」
熱く蕩けた瞳でセフィロスを見上げながら、ジェネシスは言い訳のように訴えた。
「だって……セフィロスに、お前に逢えたら……直ぐにでもひとつに……んんっ!」
遠慮なく内部に侵入していく指の動き。暴かれるほどにどんどん身体から力が抜けていく。最早ジェネシスは、セフィロスにしがみついているというよりは、ただ寄り掛かっているだけだ。
セフィロスはウエストを緩めただけのソルジャーパンツを、必要なだけ引き下げた。ジェネシスを抱きかかえ一旦自分の側に引き寄せると、深く口付けた後に身体を反転させる。するとジェネシスは背を向けて、壁に寄り掛かる体勢となった。息をつく暇も無く後孔に硬いものが押し当てられる。拒否したい訳ではないのだが、反射的に力が入ってしまう。慣れたつもりでも未だに緊張する。そんなジェネシスの身体を宥めるようにセフィロスは背後から耳許やうなじにキスを落としていった。
「あっ……ふ」
耳朶を甘噛みし、乳首や腹筋をなぞり性感帯を露骨に責める。もうジェネシスの身体には殆ど力が入らない。力が緩んだ隙に後孔に押し当てられたものが徐々に裡へと沈んでいく。
「ん── !」
充分に身体を脱力させたつもりだが、久しぶりの行為にジェネシスもなかなか上手く力が抜けないらしい。ハイネックの裾から手を潜り込ませて直接地肌に触れる。腰回りを撫で回し腹筋に指先を滑らせ乳首を摘む。その度に小さく震える身体。繰り返される丁寧な愛撫に少しずつ力が抜けていく、その頃合いを見計らってセフィロスは自身の侵攻を深めた。
「あぁっ……はっ……う」
徐々に身体を侵蝕していく懐かしい感触に身を打ち震わせながら、もっと深い繋がりを求めようとジェネシスは身をよじる。呼応するかのごとくセフィロスの動きも激しく強くなっていく。
最初は確かめ合うようにゆっくりとした動きだったのが次第に速くなり、二人の息遣いも荒く乱れる。もう歯止めは利かない。離れている間もお互い思いを馳せ、この時を待っていたのだ。セフィロスはジェネシスの腰に手を添えて支えてやると、自らの腰を進め一段と深く穿つ。
「あっ── ! お、奥に……っ!」
ジェネシスは壁に縋りながら身悶える。苦しげに息を詰めるが、やがて過度な刺激は快楽へとすり替わっていく。
「はぁ、はぁ……んっ、あっ…あっ」
口許から漏れ出る吐息もいつしか艶声へと変わる。瞑目し官能を享受することに専心しているジェネシスの背後から、セフィロスは耳たぶを甘噛みして妨害する。
「あっ、んぅっ……」
それはスイッチが切り替わって、どんな刺激も快楽として受け止めてしまうジェネシスへの追い打ちとなった。びくびくとジェネシスの全身が快感に震える。壁に手を付いて、呼吸も上手く出来なくなっているのか、ただ唇をはくはくと動かすだけ。
ジェネシスの顎に手を掛け、無理矢理後ろを向かせると、腰をひねった強引な態勢でキスをした。繋がったままの口付けにジェネシスが高揚しているのが解る。キスを交わす度に内壁がきゅうきゅうと締め付けてきて、さらなる刺激を誘っているようだ。
最早されるがままと云っても過言ではないジェネシスを、さらに追い込むようにセフィロスの律動はより深くより速くなっていく。深く突き立てられた屹立が最奥を責め立てる。
「ああっ! ん── !」
頬は一段と朱に染まり、目許には涙が溢れている。その姿が、セフィロスの嗜虐心をますます掻き立てる。
一度浅いところに戻っては、奥まで一気に侵入する。浅く深く、遅く速く。
幾度目かに奥まで突き立てたところで、とうとうジェネシスは崩壊した。
「ああぁーっ! あぁっ……はぁっ……」
白濁がぼたぼたとその場に滴り落ちる。壁や床、恐らく衣服も汚れているだろう。だが、絶頂の余韻に酩酊しているジェネシスには、何もかもがどうでも良かった。今はセフィロスのことしか考えられない。
「セフィロス……セフィ、ロス……」
無意識に名前を繰り返すジェネシスを引き寄せるとセフィロスは優しく口付けた。髪を撫で付け頬を撫でさすり、口唇以外のところにもひとつふたつとキスを落としていく。最後に全身で抱き締めるとジェネシスが耳許で懇願した。
「まだ足りない、セフィロス……もっとお前が欲しい──
「当たり前だ。これで終わりじゃない。俺もまだイッてないからな」
セフィロスはジェネシスの手を引いて、ドア付近からリビングへと移動するとソファに彼を座らせた。先程までとは違って向かい合って、お互いに見つめ合う。口唇が触れ合うのではないかと思うほど顔を寄せると、ふいと顔を背ける。
ほんの数刻前にはあんなにも熱烈に強請っていたくせに、こうして強引な感じで迫ると動揺と戸惑いが垣間見える表情をあらわすのが、また愛おしい。
惚れられていると思うのは決して自分の自惚れではないはずなのだが、なかなか素直に甘えては貰えない。どうしても壁を感じる。
陥落させたはずなのに崩れぬ牙城。煽られる支配欲。
セフィロスは無理矢理にジェネシスをソファの座面に押し倒すと、顎を片手で固定してから強引に口付けた。
中途半端に脱がせたままだったソルジャーパンツを全て脱がして、ハイネックも胸元が見えるまでたくし上げる。乳首を舌先で弄びながら、脇腹をさすり腹筋をくすぐる。
先程のセックスは背後からだったから、行為に集中出来たし甘えることも出来た。だが、正面からまともにセフィロスに迫られると困惑が強くなる。何しろ相手は只者ではない。あの神羅の英雄なのだ。
その不可侵の英雄が、自分の身体に夢中になっている様子が未だに慣れない。何かの夢じゃないかと思う。いや、多分夢なのだ。セフィロスと付き合うことになってから、多分自分はずっと夢の中にいるのだ。
ジェネシスは現況を認めたくないあまりに、脳内で逃避を始めた。現実でなければ平気だ。現実でなければ受け入れられる、多分──
まだジェネシス自身の気持ちの準備が出来ているかどうか、というタイミングでセフィロスの屹立したものが後孔にあてがわれ中に入ってくる。受け入れられるかどうか、確信のないまま受け入れざるを得ない。受け入れて、受け止めて、理性を保っていられる自信がない。
とっくに理性など打ち捨てられているというのに、ジェネシスは要らない心配ばかりしていた。でも、それもほんの束の間。
セフィロスの雄が奥へ奥へと侵蝕を深めるごとに、ジェネシスの深奥も心奥も、内壁も内情もぐずぐずに蕩けてゆく。ジェネシスの身体が、ただ快楽を享受するための肉の器と成り果てるのも時間の問題だ。
あまりの官能に、いま自分を犯しているのが神羅の英雄なのだということも忘れそうになる。
── 今は、今だけは『神羅の英雄』ではなく、俺の……俺だけの英雄で、いや、俺だけのセフィロスでいて欲しい
── っ、セフィロス……!」
一度陥落してしまえば、身体も精神も脆くて、弱い。そもそもセフィロスに抗おうというのが無理な話なのだ。神羅の英雄に抗える者など一人として居ないと、何よりもジェネシス自身がっている。心も身体も一方的に奪われ、湧き立つほど夢中になる。気が付くとジェネシスは必死にセフィロスの身体にしがみついていた。

お互いに精を吐き出し、暫し呆ける。しかし、ゆっくりと余韻にひたるいとまもない。
セフィロスは身体の汚れを簡単に拭き取り、既に身支度を整えている。
夢中になって文字通り何もかも忘れていたが、セフィロスにはこの後もまだ予定が詰まっているのだ。今だって何も知らない1st達は必死に彼を探し、アンジールはどうにか誤魔化そうと奔走しているだろう。一時間と言っていたが、もう時間はぎりぎりなはずだ。
まだ身繕いもせずソファに横たわっていたジェネシスは、上半身だけ起き上がり不安げにセフィロスを見上げる。
「大丈夫だ、まだ間に合う」
セフィロスはジェネシスの懸念を察したのか、不敵に笑ってみせる。
「まだ、カラクリを教えてなかったな。これはトップシークレットだから他言無用だが、同じ1stのお前には話しても支障がないだろう」
そう断ってから、セフィロスは続けた。
「神羅ビルには、プレジデントや一部の重役しか知らない隠し通路があるんだ。そのうちのひとつがココ、1stの宿舎に通じている。もし身の危険を感じて、周囲に護衛すら居ない危うい状況でもココまで来れば、ソルジャークラス1stが居る」
今は特殊な状況で、英雄を始め1stのほとんどが神羅ビルに居ることになっている。よって宿舎に居るのは表向きジェネシスともう一人くらい誰か居るか── といったところだが、普段なら少なくとも4、5人は待機しているはずだ。例え護衛の居ない状況で命の危険を感じるほどのピンチに陥ったとしても、ココまで辿り着けばどうにか助かるだろう。
「なるほどな。その隠し通路を通ってお前はココに来たという訳か」
セフィロスが自分よりも先に宿舎に着いていた謎が解けて、ようやくジェネシスは得心がいった。
「でも、その……重役専用の隠し通路をお前が私用で使っても大丈夫なのか?」
神羅のことだから、誰が何時、どのように隠し通路を利用したか、記録を取っていてもおかしくはない。
「なんの問題があるんだ? 俺は俺の緊急事態にやむを得ず隠し通路を使った。それだけだ──
英雄は不遜な笑顔で、軽く言ってのける。実際、英雄にそう言われたら咎められる者など居ない。明るみに出ることもなければ、ましてや罰されることもない。何もかも承知の上でやっているのだ。
それからセフィロスは時計を確認すると、さすがにもう行かないと不味いと言ってジェネシスの部屋を後にした。
「後で落ち着いたら、もう一度来る。待っていろ」
残された言葉を脳内で反芻しては、ジェネシスは赤くなったり青くなったり。英雄セフィロスとの付き合いは駆け引きの連続だ。自分の方が優位に立とうと足掻いても、なかなか敵わない。あっという間に主導権を握られる。そのスリリングな関係をやめられない。やめたくない。
恋人ではなく、飽くまでライバルでありたいと思い関係を解消しようと考えたこともあった。だが、恋人となってもなお容赦ない、決して油断できないこの関係から、ジェネシスはもう抜け出せそうにない。
そうして、部屋に残されたジェネシスは自分が我侭を聞いてやれるただ一人のひとと、自分の我侭を叶えてくれるただ一人のことを考えるだけの、苦くも甘ったるいひと時をゆっくりと噛み締めた。

end
2023/8/27