約束の無い日

交わせない約束。
過ぎていく時間。
もう随分と長い間、あいつの笑顔を見ていない。

ソルジャー1stとして日々ミッションに追われ仕事が絶えないのは喜ぶべき事なのであろうが、ここ最近のジェネシスは特段と忙しいらしく恋人であるはずのセフィロスでさえまともに会話が出来ない状態が続いていた。
かたやセフィロスの方は逆にスケジュールに余裕があった。というのも、クリスマス間近のこの時期ともなると神羅カンパニー関連のイベント等も増えてくるものだから、突発的に社長から呼び出しが掛かる可能性が高いセフィロスのスケジュールはあまり密にならないよう調整されているのだ。
だから、今のところ特にクリスマス近辺に予定がないセフィロスとしては、出来れば早々にジェネシスとクリスマスを過ごすべく約束を取り付けたかった。だが、一方で肝心のジェネシス側が取り付く島も無いほどに忙しい。
ソルジャーフロアで時折見掛けるその顔は日増しに疲労の色が濃くなっているようで少し心配になる。
今もソルジャーフロアの一角で、恐らく次のミッションに関するなにがしかを同僚と真剣な面持ちで語り合っている姿が見えるが、明らかに顔色が悪い。あまり寝ていないのであろう。
もうずっとジェネシスの笑顔を見ていない気がする。
今日のところもジェネシスとクリスマスの予定について相談するのは無理そうだ。結局ジェネシスに声を掛けるのは止め、セフィロスは溜め息をひとつ零してソルジャーフロアを後にした。

そんな状態がずるずると続いて、気が付けばとうとうクリスマス当日を迎えてしまった。この調子ならば、恐らくクリスマス当日もジェネシスは忙しいのだろう、と。セフィロスはそう考えて今日という日を恋人と一緒に過ごすのを完全に諦めた。加えて、恋人と過ごせないと思うとそれ以外のクリスマス行事にも全く関心が持てなくなる。神羅カンパニー主催のクリスマスパーティーや同僚のソルジャー達が有志で開催する内輪のパーティー等にも参加する気になれず、全て断ってしまった。
実はジェネシスと付き合うようになってからセフィロスはクリスマスを一人で過ごした事が無い。神羅で育った英雄は家族や友人と過ごすという極々一般的なクリスマスの過ごし方を経験した事が無かった。それを知ったジェネシスが、付き合って以後はどんなに忙しくてもスケジュールを調整して毎年一緒に過ごしてくれたからだ。時にはアンジールなどの他の友人達と賑やかに、時には二人きりで静かに。
だが、今年は完全に一人きりだ。
以前と同じ……ジェネシスと付き合う前に戻っただけだと自身に言い聞かせながらも、自室で一人ソファへと身を沈めるセフィロスの表情は重く沈んでいる。
すると、その重い空気を破るように突如聞き慣れないメロディーが懐から零れてきた。セフィロスは己の懐から黒い携帯端末を取り出すと先ず着信者の名前を確認する。液晶に表示される名前に複雑な感情と訝しげな表情を纏いつつも、セフィロスは携帯端末を耳元にあてがった。
「いま、どこにいる── ?」
セフィロスが何か言葉を発する前に携帯端末の向こうから、良く知った声が投げられてくる。
幾日振りだろうか。久しぶりに聞く恋人の声が嬉しくもあり、その素っ気なさが悲しくもあり。
「どこ……と言われても、今日はずっと自分の部屋に居るが──
暫く放って置かれていた腹いせもあって、心持ちつっけんどんな声音で返す。ミッション続きで忙しかっただけでジェネシスが悪い訳ではないと分かってはいるが、詰まるところセフィロスは現状かなり拗ねているのだ。
それを── セフィロスの不機嫌を知ってか知らずか、ジェネシスは「じゃあ、今から行く」と短い言葉で返すとすぐに電話を切ってしまった。
これから来るという事は既に神羅カンパニーには帰投しているのだろうか? ミッションは──
まさかクリスマスに、今日という日に間に合わせる為に無理してミッションを終わらせてきたのだろうか。
そこまで考えを巡らせたところで思考の中断を要求するかのごとく室内にインターホンが鳴り響いた。
慌てて玄関のドアを開けてやると、くたびれた様子のジェネシスが億劫そうに入ってくる。特に挨拶も発せずどんどん居間の中心まで来ると、そのままソファに身体を預けるよう倒れ込んだ。そして、盛大な溜め息をひとつ。
「ああ、やっと帰って来れた──
云いつつ、ジェネシスの顔色は安堵よりも疲労の方が濃く、無理しているように見えた。
「すまない、ジェネシス」
すかさずジェネシスの隣に座り込んだセフィロスは取りも直さず謝辞を述べた。自分の為にジェネシスは相当な無理をしてクリスマスに帰れるようミッションを終わらせたのだろう。別段セフィロスが悪い訳ではないのだが、それでも申し訳なくなったのだ。
「何が── ?」
ジェネシスは本当に意味が分からないといった風情で、眉間に皺を寄せる。謝る必要が無いセフィロスが謝罪の言葉を口にしたのが気にくわなかったのだろうか。どこか不機嫌そうだ。
「いや、無理して帰ってきてくれたんだろう?」
取り繕うようにセフィロスが補足する。が、それでも未だジェネシスは意図を計りかねたような表情を崩さない。
「その……クリスマスだから── 。俺に気を遣って……」
セフィロスは機嫌の悪そうなジェネシスを煽らないように言葉を選んで追加していく。
「クリスマス?」
一度、視線を宙にさまよわせ、ハッとするジェネシス。
「あ……ああ、今日は── 25日、だったか」
今気が付いたと言わんばかりに、左手で眉間辺りを溜め息混じりに押さえる。
「クリスマスなんて、すっかり忘れてた。ただ、ミッションがようやく終わったから、あんたに逢いたくて……」
そう云うと、隣に腰掛けるセフィロスに身を預けるよう寄り掛かってきた。忙しさのあまり、日付け感覚さえ完全に失っていたようだ。
つまり、クリスマスなど関係なく、ただセフィロスに逢いたいが為の訪問だったらしい。
「クク……今日はクリスマスという特別な日だと言うのに、随分な言いようだな」
「だって、俺には……こうしてあんたと一緒に過ごせる日が『特別』だから──
疲れていて思考が麻痺しているのだろう。今夜のジェネシスは警戒という城壁が決壊し、無意識に本音を吐き出しているようだ。
疲労等の蓄積ゆえに隙が出来、ぽろっと零れる彼の本音。それがどんなクリスマスプレゼントよりも嬉しい。クリスマスなど関係なく特別だと言ってくれるジェネシスの本心が──
喜びのあまり、テンションの上がったセフィロスは強引にジェネシスを抱き寄せ口付けた。
「ん……ふぅ」
交わされる濃厚なキス。
キスの仕方ひとつとっても、ジェネシスが深く強くセフィロスを求めている事が伝わる。お互いクリスマスに逢えると想定していなかった為、どちらもプレゼントなど用意していなかったが、この長らくの渇望を癒すようなキスがお互いにとって何よりのクリスマスプレゼントであった。

クリスマスだとか、何かの記念日だとか、特定の行事のある日など二人には不要なのだ。
二人が一緒に過ごせる── ただそれだけの何でも無い日。
それが二人にとって何より特別な、最高のサプライズ。

end
2012/1/11