束の間

珍しく1st三人が揃い、セフィロス、アンジール、ジェネシス、それに統括のラザードを加えてソルジャーフロアのブリーフィングルームでミーティングが行われた。今後の任務に関する打ち合わせ的なものだ。
ジェネシスには明日の午後からの任務が入り、アンジールとセフィロスは明日はオフとなった。

ミーティングも終わり、三人揃って廊下を歩いていると、後ろから慌てた様子でラザードが追ってくる。
「セフィロス! 済まないが、たった今、緊急で任務が入った。行ってくれないか?」
その瞬間、幼馴染みの機嫌がみるみる悪くなるのがアンジールには分かった。ジェネシスは、あまり感情を表に出す方ではないから、恐らくラザードは全く気が付かなかっただろうが、幼馴染みのアンジールには嫌というほど伝わってきたのだ。
セフィロスとジェネシスは付き合っている。勿論、その事を公にしている訳ではないから、知っているのはアンジールくらいだろう。そして、1stは単独で、或いは2nd等と組んで任務に就く事が多い為、1st同士で顔を合わせる機会はどうしても少なくなる。今回、1st三人が揃ったのも本当に久しぶりなのだ。セフィロスとジェネシスが一緒に過ごす時間を得られたのも当然久方ぶりの事だろう。この後、一緒に過ごす約束をしていたであろう事は想像に難くない。
「ラザード、その任務、俺が行こう」
幼馴染みの発する負のオーラに耐え切れなくなったアンジールは、思わずそう口走っていた。が、残念ながらその提案は却下された。
「悪いが、アンジール。社長はセフィロスをご指名なんだ」
社長からの呼び出しでは、セフィロスも命令拒否はしないだろう。
「分かった、行こう」
セフィロスは、短く告げると踵を返す。その際、ジェネシスの横を通り過ぎざま、そっと耳打ちをする。
「俺の部屋で待ってろ」
同時にジェネシスの手にはさりげなく部屋の鍵が握らされる。── と、セフィロスは、何事も無かったかの様にラザードとブリーフィングルームへ戻って行った。
ジェネシスは、右手に握らされた鍵を複雑そうな面持ちで見つめていた。
「どうした?」
「部屋で待ってろ、だと。……勝手な事を!」
「さっさと任務を終わらせてくるつもりなんだろう? 待っててやれ」
何とか宥めようと声を掛けるが、幼馴染みは相変わらずぴりぴりとした空気を身に纏っている。
「……どうせ、英雄がお帰りの頃には、俺が出ないといけない。入れ違いだ」
「だったら明日の任務、俺が変わっても……」
どこか寂しげに吐き棄てるジェネシスにアンジールは透かさず提案する。が、ジェネシスは瞼を伏せて首を横に振った。
「お前にだって、もう次の任務の予定が入ってるだろう?」
そして、もういい、とでも言うかの様に手を振って去って行った。

◇◆◇

ジェネシスは、自室に戻りシャワーを浴びると、パジャマに着替えソファで寛いだ。髪は完全には乾かしておらず、バスタオルを頭に被ったままだ。
ちゃりと音を立てて、セフィロスに渡された鍵を摘む。合鍵くらい普段から渡しておけ、と思う一方、逆に自分の部屋の合鍵をセフィロスに要求されたら鬱陶しい事この上ないので、やはり合鍵など要らないと思い直す。
タオルでくしゃくしゃと適当に髪の毛の水分を取りながら思案する。
セフィロスの言う通りにするのは、本当に癪で嫌なのだが、セフィロスの部屋で待っていれば、僅かにでも一緒の時間が持てるかも知れない。
ソルジャー・クラス1stには、有事の際に何時でも動けるよう神羅ビル内に個室が与えられている。セフィロスの部屋は、ジェネシスの部屋の上階にあった。
ジェネシスは、鍵を握り締めるとぶつぶつと文句を言いながら、パジャマの上からコートを羽織り部屋を出た。1stの個室のあるフロアは、他の関係者が出入りする事は殆んどない。だから、パジャマ姿を見咎められる心配は先ず無かった。

セフィロスの部屋の前まで来て様子を窺うが、未だセフィロスが帰って来ている気配は無い。大体、社長からの呼び出しなんて面倒な案件が多いのだ。それでも、英雄と呼ばれるセフィロスは軽々とこなしてしまうのだが、さすがにまだ片付いてはいないらしい。
ジェネシスは、受け取った鍵で部屋を開けると勝手に中に入っていく。
自分にも、明日の任務がある。起きて待っている気など到底無くて、コートを脱ぎ捨てると携帯端末のアラームをセットして、さっさと英雄のベッドに潜り込んだ。
── あいつの匂いが、するな……
ぼんやりとそんな事を考えながら、ジェネシスは妙に安心した気持ちになって何時しかウトウトと眠りに就いていた。

◇◆◇

ドアが開く音、閉まる音。
硬い靴音。水が流れる音。

夢とうつつを彷徨いながら、ジェネシスはそれらの音を聞いていた。
── 誰かの居る音。温もり。心地好いまどろみ。
ジェネシスの頬を優しく撫でる手。軽く触れられる口付け。
ごそごそとベッドに潜り込んでくる存在に、ジェネシスは目も開けられないまましがみつく。目を閉じたままでも、カーテンの隙間から日の光が射しているのを感じる。
── 遅い。もう、朝だ」
ようやく目を開け、不満の声を零しながらも、ジェネシスはセフィロスにしがみついたまま、深く口付けてくる。
寝起きのジェネシスは、機嫌が悪いようでありながらも、妙に素直なところがあった。そんなところを可愛く思いつつ、セフィロスは上に覆い被さる様に体勢を変え、更に深く口付けてやる。
「まだ、時間はある……」
セフィロスの唇は、頬に触れ顎を辿り喉元から鎖骨へと降下していく。ジェネシスの口元からは吐息が洩れ、セフィロスの背中に廻された腕には力が籠る。
パジャマの前をはだけられ、ゆっくりと侵蝕されていく身体はセフィロスの全てを感じ取ろうとしているが如く敏感だった。
「ひとつに……なりたい」
濡れた瞳で訴えられ、英雄が逆らえる筈もなく、身体を繋ぐ。
溶け合って、本当にひとつになってしまうのではないかと思う程の充実感が、二人の身体を巡る。

── 離れたくない……
ずっと、一緒にいたい──

でも、それは許されない願い。
二人は、短い逢瀬を惜しむかの様に、お互いを貪り合った。

二人がお互いの精を吐き出した頃、無情にもジェネシスの携帯端末のアラーム音が鳴り響く。
「もう、行かないと……」
ジェネシスが慌てて飛び起き、パジャマとコートを身に付けている間にセフィロスはすっかり眠りに落ちていた。
無理もない。
恐らく、昨日招集が掛ってから一睡もしていないのだ。それでも、自分を抱いてくれた。
英雄に感謝の意を込め額にそっと口付けると、ジェネシスは音を立てない様に部屋を後にした。

◇◆◇

キチンとソルジャーの制服と紅い革のコートを身に付け部屋を出てきたジェネシスと隣室のアンジールが偶々かち合った。
「これから、任務か?」
「ああ」
「気を付けろよ」
「言われなくても……」
幼馴染みと交されるいつもと変わらぬ遣り取り。だが、ジェネシスからは昨日のぴりぴりとした雰囲気は消え、柔らかい空気が漂う。
── どうやら英雄は、上手くやったらしい。
アンジールは、内心安堵すると余計な事を言わないようそのまま黙って幼馴染みを見送った。

end
2008/2/25