子犬のワルツ
任務が終わり、ソルジャー司令室に報告の為訪れると仕事に忙殺されたラザードが、ディスプレイを睨み、キーボードを叩き、書類を抱えながらも同時に子犬を抱えていた。
「何なんだ……その子犬は?」
聞くともなしに、思わず聞いてしまう。
ラザードは、眼鏡を中指で押し上げながら、嘆息して説明してくれた。知り合いが旅行中の間預かっているのだが、今日は仕事が忙しくて帰れそうにないので止むを得ず連れて来てしまったのだと言う。
オレンジ色のふわふわとした毛、ころころとした身体、つぶらな瞳。犬種はポメラニアンだろうか?
自分と同じ毛色に、妙な親近感を覚えて、一晩位なら預かってやっても良いとつい言ってしまった。
「いや、そうして貰えると非常に助かるが……しかし」
「どちらにしろ、それでは面倒をみているとは言えないだろう? ラザード」
渋るラザードの背中を後押ししてやって、餌やら水やらおもちゃやら様々な注意事項と共に子犬を預かった。
明日はオフだし、一晩位なら問題ない。ラザードもその方が仕事が捗るだろう。
子犬を大事に抱きかかえて自室に連れ帰り、少し遊ばせてやってから、餌をやったり水をやったり。
自分はこんな仕事をしてるから、とてもペットなどは飼えない。だから、一時的とは言え、動物の面倒をみるという事が内心楽しくて仕方がない。任務の疲れも吹き飛んでしまいそうだ。
しかし、ハードな任務で疲れている事には変わりがなく。ゆっくりと風呂に浸かってから、早々に身体を休ませる為にベッドに入る。が、預かった子犬が慣れない環境に興奮したのかなかなか寝付こうとしないので、結局遊んでやったり、あやしてやったりで、寝付いたのは明け方近くになってしまった。
朝になったら、ラザードが子犬を迎えに来てふらふらとした足取りで帰って行った。大丈夫なのかと心配だったが、今日にも飼い主が帰ってくるとの事で、それ以上は引き止めなかった。
◇◆◇
今日は、奇跡的に二人のオフが重なっていた。
それは勿論向こうも承知の上で、セフィロスは躊躇いなくジェネシスの部屋のドアをノックした。
未だパジャマ姿のジェネシスが、眠そうな顔でドアを開けセフィロスを招き入れるともてなしもせず欠伸を一つしてからソファの上に半身になって横になる。
「随分、眠そうだな?」
「……ん」
「昨夜は、遅かったのか?」
「いや、そういう訳じゃ……」
答えるのも億劫そうなジェネシスに、未だキスの一つもくれない事も加わって、苛々が募る。
ジェネシスは、再び欠伸を一つ吐いてから。
「── 昨夜、子犬を預かったんだが、コイツがなかなか寝かせてくれなくてな……」
溜め息混じりに伝えてくるのに、セフィロスの苛々は頂点に達した。
「アンジールから預かったのか?」
声に無意識に怒気が篭る。
「なんでアンジールが出てくるんだ? 統括から預かったんだ」
ジェネシスの声音にも、眠気の中に不機嫌さが混じってくる。
「統括から── ?」
意外な返答にセフィロスは僅かに眉を上げる。が、良く考えればアンジールは任務で不在だった。
「ああ、忙しそうだったからな。── 可愛かったぞ、ふわふわして、良い抱き心地だった」
気怠げに、艶っぽく、柔らかな笑みを湛えて言うのに、セフィロスは到頭耐え切れず、ソファに横たわるジェネシスに覆い被さるようにしてパジャマの襟元を締め上げる。
「俺というものが有りながら、惚気話か? いい度胸だな!」
ジェネシスは、少し咽せた。そして、呆れて言い放つ。
「……お前、まさか子犬ごときに妬いてるのか?」
「子犬ごときだと── !?」
怒りのままに、噛み付くように無理矢理口付ける。ジェネシスは驚いて、宥める様にセフィロスの長い銀の髪を撫でてやりながら。
「本当にどうしたんだ? セフィロス……」
「どうした、だと!? お前こそどういうつもりで、ザックスなんかと── !!」
「ザックス── !?」
── 子犬のザックス?
ジェネシスはセフィロスの下で思わず噴出してしまった。可笑しくて堪らなくて、笑いが止まらなくなる。
きょとんとするセフィロスに、腕を伸ばしてテーブルの上にある黒い携帯端末を取ると、中を開いて写真を見せる。
「俺が昨夜預かった子犬は、これだ」
オレンジ色の、ふわふわところころとした子犬。
唖然とした表情で携帯端末の画面を見詰めるセフィロスに、ジェネシスはくすくすと笑い続ける。
「疑うんなら、ラザードに確認するといい」
目の端に涙を滲ませ、更に言ってやると、ようやく納得したらしい。
未だ残る眉間の皺を延ばすように額を撫でてやってから、セフィロスの顔を引き寄せて口付ける。
ゆっくりと舌を絡ませ、唾液を呑み込んで、唇を離して見つめ合う。
「俺が、こういう事をしたいと思うのは、お前だけだ。セフィロス」
言ってしまってから、少し照れて顔を背けると、顎に手を添えられ再び口付けられる。
首筋に、鎖骨にと移動していくキスに、ジェネシスは午睡を諦めセフィロスの背中に両腕を廻した。
end
2008/3/31