甘美なる復讐
ソルジャーフロアのロビーで、ミーティングまでに少し時間があるな……と思ってソファに腰掛けて、少し油断していたようだ。疲れが溜っていたのかも知れない。
「……シス、ジェネシス……」
良く聞き憶えのある低い声で、耳元で囁かれる。ぞくりと身を震わせて、目が覚めた。── という事は、眠ってしまっていたのだろうか?
「── は、離れろ!」
セフィロスの顔が思いの外近くて、吃驚して拒絶した。人目に付くところで何をやっているのか……と、文句を言い掛けるがさっきまで雑然としていたフロアは今は酷く閑散としていて、誰も居ない。
「皆、ブリーフィングルームに向かったようだが……」
セフィロスの言葉に、思い切り良く立ち上がる。そう、ミーティングがあったのだ。慌ててブリーフィングルームに向かう背中に向かって「何度も起こしたんだぞ?」という声が投げ付けられる。
ブリーフィングルームには、ほぼラザードと同時に到着したので、辛うじて遅刻にはならなかった。
が、問題は、寧ろその後だった。
ミーティングが終わり、参加していた2ndや3rdが三三五五に散って行き、ジェネシスは自分も退室しようと歩き掛けたところをラザードに引き止められる。
「ジェネシス、ちょっと……」
周囲には、既にソルジャーは殆ど残ってなかったが、それでも声を潜めてジェネシスの耳許に顔を寄せる。二言、三言、何かを言われて、ジェネシスは顔を真っ赤にして左手で首筋を押さえた。
「── 君もソルジャー・クラス1stとして、神羅の表に立つ立場な訳だし、もう少し自覚を持って……。2ndや3rdの前とは言え、もう少し気を付けたまえ」
ラザードの説教を、ジェネシスは珍しくしおらしく大人しく聞いていた。そうして、ラザードが出て行った後に、わなわなと震えだしブリーフィングルームを出て真っ直ぐ、ロビーのソファにのんびり腰掛けるセフィロスの元に向かった。その硬質的な靴音に、ジェネシスの怒りが満ち溢れていた。
「セフィロス! 貴様っ……」
相変わらず、左手で首筋を押さえたまま。
「俺は、気を付けてたんだぞ!? 何で、貴様の所為でラザードにあんな事言われて……くそっ!」
「統括……? 何の事だ?」
「ふざけるな、貴様っ!」
一段と声を荒げたところで、周囲に居る他のソルジャーから好奇の眼差しが注がれているのに、はたと気が付いた。ジェネシスは歯噛みして、無言でそのままエレベーターホールへと怒りを乗せた足音のまま向かった。
慌てて背後から追い掛けて来るセフィロスを無視してエレベーターに乗る。セフィロスは、閉まり掛けのドアを強引に押さえて同乗した。エレベーター内でもジェネシスは終始無言のままで、全身から近寄るなオーラを発している。
ジェネシスの私室のある階に到着し、早足で私室へと向かうジェネシスをやはりセフィロスは追い掛けてくる。
「着いて来るな!」
振り返りもせず言うジェネシスに、私室のドアの前でようやく追い付いた。
「何を怒っているのか、せめて理由を教えろ!」
セフィロスの言葉に、キッと睨み付ける。まだ、分からないのかと言わんばかりの呆れた様な表情を見せて私室に入る。と、少し逡巡してから、セフィロスも招き入れた。
「で、何を怒っているんだ?」
勧めもしないのに、どっかりとソファに腰を落ち着けて、改めて聞いてくる。ジェネシスは、直ぐに答えず紅い革のコートをコート掛けに掛けてから、セフィロスの正面に立った。
左手で髪を掻き上げて、その白い首筋を晒す。
「残念ながら、俺にこんな真似が出来るのはお前しかいない」
晒された首筋には、赤く色付いた跡が小さく残っている。しかも、ハイネックですら隠れない位置だった。
「俺は、気を付けてたのに……。一体、何時の間に付けた!?」
「……それを、ラザードに見付かったのか?」
確かにハイネックでは隠れないかも知れない。だが、ジェネシスの長めの髪に隠れて普通なら気が付くような場所じゃない。目敏いにも程がある。統括の眼力の鋭さに呆れつつも、やはりこちらの分が悪い。
「── 分かった。それは俺が悪かった」
ジェネシスを宥めるように両手を上げて、溜め息混じりに全面降伏を宣言する。
「何時、付けた?」
冷ややかに再度問われ。
「いや、だから、お前を起こそうとした時に……だな。その……なかなか起きなかったから、つい……」
「つい……だと?」
ジェネシスの声に更なる怒気が篭り、レイピアを掲げると魔法の詠唱まで始めかねない勢いで、その刀身を光らせる。
「ま、待て! ジェネシス、此所はお前の部屋だぞ?」
セフィロスの言葉にはっとしてジェネシスは直ぐにレイピアを下ろした。此所が自分の部屋じゃなくて本当に良かったとセフィロスは心底思う。恐らく止める間もなく破壊されていただろうから。
「とにかく、俺が悪かった。謝る。だから── 機嫌を直せ」
「謝って済むと思っているのか?」
ラザードに注意されたのが余程癪に障ったのか、どうやらちょっとやそっとじゃ怒りを収めてくれそうにない。
「じゃあ、どうしたら許してくれるんだ?」
ソファから立ち上がり、窺うようにジェネシスの傍に寄る。お互い忙しい身で、一緒に居られる時間は限られている。一方的に折れてやって構わない。だから、早く機嫌を直して欲しいのだ。
暫しの沈黙の後、ジェネシスはくるりとセフィロスの方へ向き直り。その後のジェネシスの行動にセフィロスは内心酷く動揺した。
ジェネシスはセフィロスの身体に身を寄せると、壮絶に色っぽい仕草でセフィロスの首に両手を廻し、ゆっくりと口付けたのだ。最初は軽く、二度三度と合わせを変えて繰り返される口付けは、次第に深くなっていく。口付けの合間に交わされる視線は熱っぽく、洩れる吐息は荒く、首に廻された手は背中に移動しセフィロスのコートを脱がしに掛かっている。
怒りの捌け口を性欲に切り換えたのかどうか知らないが、尋常ではない秋波を発して迫ってくるジェネシスに、セフィロスはあっさりと白旗を上げベッドへと縺れ込んだ。
今日は自分が主導権を握りたいのか、ジェネシスは仰向けに横たわるセフィロスに跨って、煽るように上唇をぺろりと舐めると口付けを再開する。
唇に、頬に、額に、口付けを落とし。続いて耳朶に甘噛みを施すと、首筋に吸い付いてくる。頸動脈に沿って唇を下降させると鎖骨の辺りをなぞるように舌を這わせ、同時に固くなったセフィロスの中心を確かめるように服の上から触りながら、もどかしそうに吐息を零す。身を捩らせ煽情的な濡れた瞳で見上げてくるのに観念して、セフィロスは自らベルトを外してやり下半身を晒した。
ジェネシスも自ら服を脱ぎ捨てていく。セフィロスに支えて貰いながらも、ゆっくりと腰を落とす。圧倒的な質量に必死に息を吐きながら、それでも全て受け入れるにはかなりの時間を要した。
腰を動かし息を荒げ、時には俯き眉を顰め、時には身を撓らせ遠慮がちに嬌声を洩らすその姿は、セフィロスをますます煽る。堪らず下から突き上げると、突然の衝撃にジェネシスは力が抜けセフィロスの胸元に倒れ込む。快楽に溺れたジェネシスはそれでも動きを止めず、妖艶な笑みを湛えると貪るようにセフィロスの胸元に吸い付き、下からの突き上げに合わせて自らが果てるまで腰を振った。
◇◆◇
アンジールがやや早めの時間にブリーフィングルームを訪れると、珍しく同じミーティングに参加予定のセフィロスが既に着席していた。だが、それよりもアンジールの目を引いたのはセフィロスの格好だった。
「今度の任務先は、寒冷地なのか?」
セフィロスは、神羅社支給の黒いハイネックのソルジャー服を来ていたのだ。
「いや、ちょっと猫に噛みつかれてな……」
口角を上げ、軽く嘆息するが、表情は柔らかい。
セフィロスの普段の格好なら完全に見える位置の首筋や胸元には、これでもかと言う程にジェネシスに付けられたキスマークが散乱していた。どうやら、あれはささやかな……と言うには、やや度が過ぎるジェネシスの復讐だったらしい。
だが、あんな媚態を拝めるのなら、復讐されるのも悪くない。
セフィロスは、アンジールに見せないように、ひっそりとほくそ笑んだ。
end
2008/4/23