お前が好きだ
ここは、こんなにも静かな場所であったろうか?
よくアンジール、ジェネシス、そして自分の三人でふざけて遊んだトレーニングルーム。
今は、もういない。アンジールもジェネシスも……。セフィロスにとって唯一無二の親友達は神羅を捨て、もう此処にはいないのだ。
トレーニングルームに形成されるヴァーチャルリアリティ。
トレーニングルームのデータには、虚構の世界だけではなく、セフィロスを初めとする1st達の実戦データも再現する事が出来る。2nd等が、データとして再現された1st達と擬似ではあるが手合わせする事が可能となっているのだ。
セフィロスは、ジェネシスの擬似データを呼び出してヴァーチャルの世界に再現させる。すると、セフィロスは愛刀の正宗を構え、ジェネシスの擬似データに一戦を仕掛ける。
データであっても猶、ジェネシスの戦い方は美しかった。優雅で、舞うように流麗で、それでいて隙が無い。まるで、演武を見ている様だった。
ジェネシスは、戦いに於いて強さだけではなく、常に美しさヘの追究を怠らなかった。良く、自分の実戦データを呼び出しては動きをチェックしたり、実際に自分のデータと戦ったり……そうした事に余念がなかったように思う。
仕事に於いては、常に完璧を求めていた彼らしい。
セフィロスは、不意に戦いの手を休めてジェネシスの擬似データに近付く。
何故、俺に何も告げずに行ってしまったのか。恋人であった筈の自分に、何の相談もしてくれなかった事が心苦しかった。
ヴァーチャルリアリティの世界の中では、実際には其所に居ない虚構の存在に触れる事も可能だった。
セフィロスは、擬似データのジェネシスの頬にそっと手を触れた。虚構であっても猶滑らかな白い肌に、手を撫でるように滑らせる。データに過ぎないジェネシスは、身じろぎも拒否もしない。
頬に触れた手で、そのままジェネシスの顔を抑えてゆっくりと口付ける。
「お前が好きだ」
唇を寄せたまま囁く、本人には決して届かない最初で最後の告白。
そして、セフィロスは瞳にある決意を宿すと、ジェネシスの擬似データを鮮やかに一刀両断した。
斬り付けられたデータは人間の形を保っていられず、徐徐に崩れていき霧散していく。
── 俺は、神羅を捨てるかも知れない
だが、場合に依ってはお前を……──
end
2008/7/6