帰還の挨拶

ブリーフィングルームの前室で次のミッションを確認してから自室に戻ろうと、そう思っていた。ふと、ブリーフィングルームの中を覗いて見る気になったのは、偶然か必然か、或いは魔が差したのか。
ジェネシスは、ドアを開け中に足を踏み入れた瞬間、不覚にも固まってしまった。
「なんだ……。帰ってたのか?」
ブリーフィングルーム内の椅子に悠然と腰掛ける銀髪のソルジャーを見付けて、出来るだけ平静を装う。セフィロスは── と言うと、今回のミッションの報告書を纏めているのかノートPCに向かって黙々と何かを打ち込んでいる。
「ああ、予定より早く任務が完了してな……」
言い終わってから、ようやく顔を上げてジェネシスの方を見遣る。
「そんな処に突っ立ってないで、こっちに来たらどうだ?」
その言葉に一瞬身体が反応しそうになるが、何とか思い止まった。
「別に、お前に会いに来た訳じゃない」
踵を返し掛けるジェネシスの背中に向かって、セフィロスは苦笑混じりに言い放つ。
「久しぶりの再会に、おかえりのキスも無いのか? 相変わらず、つれないな」
── 此所で、か?」
躊躇いがちの質問に躊躇いの無い答えが即座に返ってくる。
「今は俺達の他に誰も居ない。別になんの問題も無いだろう?」
ジェネシスは憮然とした表情でセフィロスを睨み、小さく溜め息をひとつ吐いて、その赤い髪を鬱陶しそうに掻き上げた。それから、極力ゆっくりとセフィロスに向かって歩を進める。だが、いざセフィロスの前迄来ると、どうしたらいいものか改めて躊躇してしまう。こちらからキスを仕掛けた事くらい幾度もあるが、こうして改まって求められると何とも気恥ずかしい。
寸前のところで二の足を踏んでいると、セフィロスはまるで此処に座れと言わんばかりに自らの太股をポンポンと叩いて、ジェネシスを挑発する。
立ったままなら、額や頬に軽いキスくらいで誤魔化せたものを……。
「セフィロス……貴様。── クソッ!」
ジェネシスは、観念したように(開き直っただけかも知れないが)セフィロスの膝に腰掛け、首に両腕を廻す。顔を覗き込むとジッとこちらを見ているので、「瞼を臥せろ」と指示した。
ほんの少しの間があって、セフィロスの唇にジェネシスのそれが触れる。
触れた途端、ジェネシスも久しぶりの口付けについ夢中になって、浅く深く、啄むような軽いキスから口中の隅々まで味わうような濃厚なキスまで、じっくり堪能した。
ようやく唇を離した時、これ以上は流石に自分でも不味いと思って、慌てて身を離し掛ける。が、セフィロスの両腕がいつの間にかジェネシスの腰の辺りをがっちりと抱き締めていて抜け出せない。
「っ……セフィロス!」
今は誰も居ないとは言え、此所はソルジャーの出入りが多いブリーフィングルームだ。何時までも、この状態でいるのは得策ではない。
「は、離せっ!」
「嫌だ」
セフィロスは、静かに、だがキッパリと答える。
「もう少しお前の感触を……体温を、感じていたい」
ジェネシスを抱く腕により一層力が込められる。珍しい事に、どうやら彼なりに甘えているらしい。英雄ともなると、同じ1stであるジェネシスにも分からない気苦労も多々あるのだろう。そういう事をセフィロスは具体的に愚痴ったりはしない。が、たまにこうして自分に甘える事でセフィロスの抱えているものを少しでも軽くしてやれるのなら……。
「こんなトコ── 誰かに見られたら、殺してやるからな!」
ジェネシスは悪態を吐きながらもセフィロスに抱き締められるままにその身を預け、慈しむようにその美しい銀の髪を頂く頭部を優しく掻き抱いた。

end
2008/11/5