クリスマスの約束

季節は完全に秋から冬へと移り変わり、八番街に毎年恒例の白いツリーが飾られるとクリスマスが間近に迫っている事を実感させられる。

特に興味は無いが、会社への通り道だからツリーの近くを通る事は多い。
その日もたまたまツリーの近くを通り掛かると、そこに佇んでツリーを見上げる白銀の英雄の姿が目に止まった。
「珍しいな、お前がこんなものに興味を示すなんて……」
初めて見るとでもいうならば兎も角、幼い頃から神羅で育ったセフィロスには既に見飽きた代物であろう。改まって眺めているのが不思議でつい声を掛けてしまった。
セフィロスは少し驚いた様に振り返り、ジェネシスの姿を一度認めると、再びツリーに目線を戻す。
「ジェネシス……クリスマスの予定は決まっているのか?」
「今のところ、任務は入っていないな。だが、何時入ってもおかしくはない。それは、お前だって同じだろう?」
少し歩を進めて、セフィロスの隣に立って答える。
「俺の為に、空けておいてくれ── と、言ったら?」
「……考えてやってもいいが、任務が入った場合は諦めろ」
それは、本当に仕方がない事だと思う。何時仕事が入るか分からない以上確約は出来ない。
「1stの特権を使えばいい」
「ハッ── 俺に、クリスマスをお前と過ごす為に命令拒否をしろと?」
馬鹿馬鹿しくて、乾いた笑いが洩れる。ジェネシスにとって、仕事はそんなに安いものではない。
「冗談じゃない。任務が入れば、俺はそこに赴く。クリスマスだとか、そんな事は関係ない」
セフィロスの顔も見ずにツリーを眺めながら答えていると、いつの間にかセフィロスは黙ってその場を立ち去ってしまった。
「セフィロス── ?」
機嫌を損ねてしまったのだろうか? だが、任務を蹴ってまで逢い引きの約束など、今更過ぎる。今までだって、お互いの任務を優先してきた筈だ。

数日後。
一息つきたくて、隣室のアンジールの部屋を訪れた。この親友で幼馴染みの部屋は妙に落ち着いて、ここのソファで寛ぎながらアンジールが煎れてくれる林檎の紅茶を飲んで過ごすのが好きだった。
「セフィロスと── 何かあったのか?」
テーブルにティーカップを置きながら、やや鹿爪らしい顔でアンジールが尋ねる。
「別に、何も── ?」
そう言えば、あれから姿を見掛けていないが、数日会わないなんて良くある事だ。気にはしていない。
紅茶を啜りながら答えると、アンジールがひとつ溜め息を吐いた。
「何があったのかは知らんが、落ち込んでいたぞ」
「セフィロスが……?」
「お前が原因だろう?」
「どうして、俺が── !」
理由も知らないのに、自分の所為だと断言されて、怒りが生じる。
「あの英雄を落ち込ませる事が出来るのは、お前だけだ。ジェネシス」
言われて、思わず下唇を噛む。
まさか、本当にあんな下らない事で落ち込んでいるというのか?

アンジールに促され、渋々セフィロスの居室を訪ねる。
ドアの鍵は不用心ながら開いていて、セフィロスが在室である事を示していた。
勝手にリビングまで入っていくと、ソファに腰掛けるセフィロスの姿が目に入る。何処かどんよりとした雰囲気が周囲に漂い、成る程確かに落ち込んでいるらしい。勝手に入ってきたジェネシスを見咎める事もせず、英雄は俯いたままであった。その隣に腰掛けて、身体を密着させる。
「クリスマスは── 任務が入らない限りは、お前の為に空けておいてやる。そして、任務が入った時には……」
それまで無反応に思えた英雄の身体が微かに動く。
「何が何でもその日の内に任務を終わらせて、任務が終わった後で会ってやる。── これで妥協しろ」
ようやく顔を上げてこちらを見たセフィロスに、柔らかい笑みを見せてやって。その頬に軽く口付けを落とす。
ふと、昔の事を思い出す。まだ“恋人”ではなかった頃、こうして落ち込んでいたセフィロスを慰めてやった事があった。あの時も、もしかして自分が原因だったのだろうか?
「全く、クリスマスを一緒に過ごせないくらいで、そこまで落ち込まれるとは思わなかった」
呆れて、苦笑混じりに揶揄する。
「……クリスマスは── 『大事な人』と過ごす日なのだと、聞いた」
セフィロスは、ぽつりと低い声で呟く。誰が教えたのか知らないが、それを聞いてようやく得心がいった。
「俺が、お前の事を大事じゃないとでも思ったか?」
ジェネシスは、くすりと小さく笑いを零して。セフィロスの方を向いて、その顔を両手で挟む様に捉えると、今度は唇にキスをしてやる。
「前にも、こうして慰めてやった事を、覚えているか?」
「ああ」
「あの時からずっと、大事に思ってる」
普段なら絶対に、こんな甘ったるい言葉など与えてやる気はないが今回は特別だ。
それは、クリスマスの約束と共に捧げる、ジェネシスからの一足早いクリスマスプレゼントだった。

end
2008/12/7