バレンタイン・ラプソディ
「バレンタイン── ?」
「ああ、昨年は俺がやったんだから、今年はお前がくれたって良いだろう?」
「ふん、バレンタインなんか、興味な── っ!」
急激にジェネシスの息が乱れる。
「あっ……ンん! セフィ……ロス」
先程までゆっくりだった腰遣いが、脅迫するかのように激しい烈情を帯びる。
セフィロスは、ジェネシスの淡い栗毛を掻き上げるようにして、そのまま頭部を上向かせ固定した。
「今年は、お前から欲しいんだ── 」
飽くまでも静かに低く耳元で囁いて、ジェネシスの正常な判断力をあっさりと奪う。
「……っ、分かった! 分かった……から! ん……あぁっ!」
セックスの後、セフィロスが妙に勝ち誇った様な顔をしていたのが、本当に憎らしい。
── 卑怯者め!
忌々しく思いながらも、キチンとバレンタインプレゼントには何が良いのか物色しているジェネシスは律儀だ。
だが、そもそも英雄がチョコレートを食べる姿自体が想像出来ない。普段から、あまり甘い物を食べる方ではない事を分かっている。
別にチョコレート以外の物でも構わないのであろうが、そうなると今度は選択肢の幅が広がり過ぎて却って決められない。
無駄に悩まされるのも嫌だから、やはり無難に適当なチョコを選ぼう。中身も小さくて少量の物にすれば問題ない。多分、あの英雄は中身がなんであれ貰えれさえすれば満足してくれる……と、思う。
当日。
本当に無難な、トリュフが数粒入ったような物を用意した。上品でシンプルなパッケージ。細い縦長の箱。紅い革のコートに付いたポケットに簡単に入るサイズだ。
ポケットにプレゼントを納めて、見た目は手ぶらと言った体でセフィロスの部屋を訪れる。
今日は、約束してある。セフィロスはちゃんと部屋で待っていて、直ぐにドアを開けて招き入れてくれた。
部屋に入って、まずは軽くキスを交わす。
リビングに向かいながら、渡す物はとっとと渡してしまおうとポケットに片手を突っ込んだところで、テーブルの上に山の様に積まれた物体が目に止まって固まった。
大量のチョコレート。勿論、バレンタインの── 。
ここに来て、改めて自分の恋人は『神羅の英雄』なのだとジェネシスは気付かされた。
ジェネシスは、自分宛てのチョコレートは直接自室に持って来られても困るから、ファンクラブに届くよう管理して貰っている。
セフィロスも同様にしている筈だが、セフィロスはファンクラブだけでも複数あるから管理し切れないのだろう。それに、英雄ともなると色々なものをかいくぐって直接渡そうとする輩も出てくる。恐らく、此処に置いてあるのはほんの一部。断り切れずに受け取ってしまった物と思われた。
それでも、この量だ。
ジェネシスは、思わずポケットから抜き出し掛けた手を引っ込める。やはり、チョコレート以外の物にするべきだったか。
大量のチョコレートを目の前にして、セフィロスにこの僅かばかりのチョコレートを手渡すのを躊躇してしまう。英雄ならば大量のチョコレートを貰っているだろう事は簡単に予測が付く。だというのに、自分は完全に失念していたのだ。
ジェネシスは目線を落とし、表情を曇らせる。
「どうした?」
不意にセフィロスが後ろから覆い被さるように抱き付いてきた。声が耳元に近い。鼓動が逸る。
「何でも、ない」
顔を背けて身体を離そうと試みるが、セフィロスは両腕でしっかりとジェネシスを捉えて離さない。
「もしかして、コレを見て妬いてるのか?」
セフィロスは口端を上げ、顎でテーブルを指し示す。
「あんたは英雄なんだ。妬く訳がないだろう?」
それは本音で、本心である。
この程度のことで妬いていたら英雄の恋人など務まらない。
軽い溜め息と共にセフィロスの方を見遣ると目が合った。
ジェネシスは観念した風にポケットから右手を出して、その手に掴んでいる物を見せる。
「こんなに沢山チョコレートを貰っているなら、コレは要らないかと思っただけだ」
セフィロスは、徐にジェネシスの右手ごとその小箱を鷲掴む。
行き成りの行動に、ジェネシスはやや驚いて。暫し動けずにいると、そのまま口付けられた。
「コレ以外は、要らない」
セフィロスは、唇を離すと額と額をくっつけて至近距離のまま、囁く。
「お前以外は、要らない── 」
珍しくストレートな物言いにジェネシスは自分の頬が紅潮するのが分かった。
「セフィロ……」
名を呼び掛けた唇を、遮るように再び口付けられる。セフィロスの片手が後頭部まで伸びてきて、逃げられないよう抑え付けてくる。
深い深いキス。
舌を絡ませ合って、唾液を呑み込み合って。
淘然として酔いしれて、夢中になる。
唇を離して甘い吐息を洩らすと、ジェネシスはセフィロスの肩口に顔を埋めた。
「俺もお前しか── 要らない」
セフィロスの速くなる鼓動が伝わってきて、心地好くて、離れたくなくて。
二人は暫くそうして抱き合って、互いの呼吸と体温と鼓動とを重ね合わせた。
end
2009/2/12