君の還る場所
ジェネシスはトレーニングルームで一人、故郷であるバノーラ村をそのヴァーチャルな空間に再現して、なかなか還る事の叶わない故郷への想いを馳せていた。
虚構のバノーラ・ホワイトをひとつ木からもいで、手に取る。神羅のその技術の粋を集めて造り上げたこの虚構空間は、完璧だった。白い林檎の花弁が美しく辺りに舞い散り、バノーラ・ホワイトの仄かに甘い香りさえも漂ってくる。
一人、悦に浸っていると、空気音と共にドアが開かれ、長く美しい銀髪の持ち主がその銀の髪を優雅に靡かせ入ってきた。
それは、ジェネシスにとって憧れの英雄であり、生涯のライバルであり、愛しい恋人。
神羅の英雄である── という以上に、ジェネシスにとっては特別な存在だった。
「何をしている?」
英雄の無愛想で低い声がヴァーチャル空間に響く。
「この風景は、俺の故郷……なんだ」
ジェネシスは、感慨深げに語る。
「もう何年も帰ってないからな……気持ちだけ、里帰りだ」
言って、珍しく照れたように苦笑を洩らす。
その笑顔がやけに遠く感じられて、セフィロスは後ろから捕獲するようにジェネシスの身体を抱き締めた。
その反動で、ジェネシスの手からは虚構のバノーラ・ホワイトが転がり落ち、消失する。
「何処にも……行くな」
背後からそっと耳元に囁かれる。懇願するかのような、消え入りそうな低い声。
「急に、どうしたんだ? 別に実際に故郷に還ると言ってる訳でもないのに……」
ジェネシスは、心配症だな……と小さく呟きながら、くすりと笑いを洩らす。
セフィロスは、背後からジェネシスを抱き締めたまま、そのさらりとした赤髪に顔を埋める。
「俺には故郷と言える場所が無いから……お前には、還る場所があるんだな、と思ったら……不安になった」
ジェネシスは、セフィロスの腕を振り解どくとセフィロスの方に向き直り、艶のある柔らかい笑みを湛えた。
「お前にだって、還る場所くらい、ちゃんと有る」
セフィロスの頬に手を添えて、その魔晄を帯びた美しい翡翠の瞳を見詰める。
「何処だ? まさか、此処《ミッドガル》とは言わないだろうな── ?」
不服そうに眉をひそめるセフィロス。
ジェネシスは、少し踵を上げてセフィロスの頬に唇を寄せると、そのまま耳元近くにまで移動させて囁く。
「俺のところに還って来い。他の場所は── 許さない」
セフィロスは、瞬間やや驚いたように身を離しジェネシスの澄んだペールブルーの瞳を見詰めると、ふっと柔らかい笑みを零して、慈しむようにジェネシスの額に口付けを落とす。それから、少し顔を下方に移動させて、唇にもキスをした。
「お前こそ、俺の前からいなくなったら……許さない」
啄むようなキスの合間に囁いて、ジェネシスを抱き寄せると更なる官能を求め、全てを絡めとるような濃厚なものへと口付けを変化させていく。
誰にも渡さない、俺の還る場所。
俺の故郷。
俺の── 片翼。
きっと、失なえば正気ではいられない── 。
end
2009/3/11