最果
ジェネシスはセフィロスの自室のドアの前に立ち、苛々とした様子でインターホンを鳴らした。暫し待って反応が無いと見るや、あっさりと踵を返し早々に立ち去ろうとする。ジェネシスがドアに背を向けて片足を前に出した瞬間、セフィロスの部屋のドアが開いた。
「お前は、もう少し待とうという気はないのか?」
自室内に招き入れながら、セフィロスが珍しく苦言を呈す。ジェネシスの訪問はいつも突然で、その癖すぐに出てやらないと今みたいに待たずに立ち去ろうとする。
「大した用事じゃないんだ。居ないなら帰った方がいい」
「用事? 俺に会いに来てくれたんじゃないのか?」
「ちょっと違うな」
セフィロスがわざと皮肉めいた質問を投げると、ジェネシスは軽く否定したのちジェスチャーでソファに座るように促した。指示通りにセフィロスがソファに腰掛けると、ジェネシスも続いてセフィロスの隣に腰掛ける。そして行儀悪く足をソファの上にあげると、蹲るようにしてセフィロスに寄り掛かってきた。
「甘えに来たんだ……」
そう言って、更にセフィロスの肩口の辺りに顔を埋ずめる。
セフィロスは流石に少し反応に戸惑った。ジェネシスがこうしてストレートに甘えてくる事自体珍しかったし、通常ならその事について揶揄ったかも知れない。だが、ジェネシスが纏っている雰囲気は明らかに重かった。何事があったのかは窺い知れないが、恐らくこれは「落ち込んでいる」という状態なのであろう。
セフィロスは自身の少ない経験を遡り思い返して、対処方法を探った。ジェネシスが、自分が落ち込んでいた時にしてくれた事。
明るめの柔らかい栗毛を軽く撫でてやると、ほんの少し前髪を掻き分けてその額に口付ける。
すると重い雰囲気が少しだけ融解して、ジェネシスがくすりと僅かに笑いを零した。
「慰めようとしてくれてるのか?」
「……俺は、他に方法を知らない」
素っ気なく答えてやると、ジェネシスの纏う雰囲気は随分と穏やかなものへと変化した。一応効果はあったらしい。セフィロスも安堵を覚える。
「お前が……こういう時に行くのはアンジールのところだと思っていた」
不意になんとなく、ぽつりと口を衝いて出た言葉。自分でも不可思議だった。恋人が甘えに来てるのに素直に受け止めてやれない。
ジェネシスにも可笑しかったのだろう。微かに肩を震わせて、くく、とまた小さく笑う。
「お前に甘えたい時もあるんだ」
ジェネシスの手がしっかりとセフィロスの利き手に巻き付いてきて、より体重を掛けてくる。
「お前の体温しか感じたくない時が……」
ジェネシスの吐露に近い呟きが、セフィロスの心に共鳴を起こす。
以前は他人の体温さえ苦手だった。何時しかジェネシスの体温なら平気になった。今もきっとジェネシスの体温以外は受け入れられない。ジェネシスの体温だけが欲しい。
セフィロスにも何となくジェネシスが自分に甘えに来た理由が、ジェネシスが本当に自分を必要としてくれている事が分かってきて、ジェネシスの額にもう一度口付けを落としてやる。
体温の共有と魂の共鳴。
長い長い時間を掛けて、二人で辿り着いた名前の無い何処か。
二人だけの場所。
ずっと、この場所に居られると良い。
セフィロスはジェネシスの体温を感じながら、密かにそう願った。
end
2009/6/3