キスの価値
51階のソルジャー指令室には慌ただしい空気が流れていた。
セフィロスがアクシデントにより任務の予定から大幅に帰還が遅れたのだ。その上、既に次のミッションが入っている。
セフィロスは手早く任務完了の報告を済ませ、次の任務の概要説明を受ける。アンジールも同じ任務だった為、隣で同じく説明を聞いていた。説明を聞き終わると同時に真っ直ぐ任務に向かおうとする英雄に、アンジールが渋い顔で申し立てた。
「セフィロス、少しでもいいからジェネシスの所に寄ってやってくれ」
振り返った英雄の表情は心外とでも言いたげだった。
「俺の予定くらい、あいつは把握してる。会えない事くらい分かってるさ」
「それでも、まだ少し時間がある。会って安心させてやれ」
「安心……?」
セフィロスは、ますます理解不能といった表情を見せた。自分の存在がジェネシスにそんなに影響を与えているとは思っていない。
アンジールは、英雄の背中を焚き付けるように叩いて更に促した。
「とにかく今は部屋に居る筈だから、ちょっとくらい顔を見せてこい」
結局はアンジールの嘆願に根負けして、セフィロスはジェネシスの私室を訪れた。
ドアを開けてセフィロスの姿を認めると、ジェネシスは眉をひそめ不快そうな表情を露にしながらもセフィロスを中に招き入れた。
「何しに来た? 忙しいんだろう」
これで、会いたかったと喜んで抱き付いてくるぐらいなら可愛いのだが、相変わらずつれない。
「ああ、直ぐに出立しないといけない」
「だったら、さっさと行ったらどうだ?」
部屋の中には入れてくれたものの、ソファなどを勧めてくれよう筈もなく廊下近くのリビングの壁に寄り掛ったまま口端を上げ皮肉めいた笑みを浮かべる。
流石に少し苛ついて、セフィロスはジェネシスの肩を掴むと力尽くで壁に押し付け、強引に唇を奪った。
「ん……ふ」
頬に手を添え無理矢理上向かせると、噛まれない程度に乱暴に口内を荒らしてから唇を離す。
「たまには素直になったらどうなんだ。俺に会いたくない訳じゃないんだろう?」
「── あんたに会いたくない時なんか……ある訳ないだろ…………馬鹿」
僅かに潤んだ淡青色の瞳でキッと睨み付けたのち俯いて、表情を隠すようセフィロスの胸元に顔を埋めてきた。しがみつくジェネシスの伏せた睫毛が微かに震えているのが分かる。
綺麗な淡い栗色の毛をやんわりと撫で付けてやると、もう一度顔に手を添え上向かせる。伏せられたままの睫毛にそっと唇で触れ、紅く艶めいた唇にも柔らかく触れてやる。
今度は優しく愛おしむように── 。
再びの別れを惜しみながら啄むように僅かばかりのキスを交わして、セフィロスはジェネシスの居室を後にした。
ほんの僅かな逢瀬。
儚い刹那の口付け。
それらがセフィロスにもたらしたものは、また暫く会えないという淋しさと少しだけ垣間見れた恋人の素顔。
「アンジールに礼を言わないとな……」
ぽつりと独り言を零して、セフィロスは満足げな笑みを湛えながら足早にヘリポートへと向かった。
end
2009/6/12