甘い水
── 喉が渇く。
ぐったりとした身体で、思考だけが段々はっきりとしてきて、次第にそれしか考えられなくなってくる。
「あー……」
何か声を出そうと試みるが掠れて上手く出ない。
全身から汗として水分が排出されている上に、散々喘がされた所為で喉はカラカラだった。
ベッドに身を沈めたまま、サイドテーブルに置いてあるピッチャーを取ろうと手を伸ばす。だが、力が抜け身を起こす事も出来ない状態では届く筈もない。ピッチャーが酷く遠くに感じられた。
「── み、ず……」
辛うじて、それだけを発する。と、隣からすっと腕が伸びてきてピッチャーを掴むと、脇に置いてあったグラスにトクトクと水を注ぎ始める。ジェネシスに半ば覆い被さるようにして腕を伸ばしてきたのは、喉を嗄らす原因を作った当人だ。
セフィロスは水の入ったグラスを握ると引き寄せて自らの口に含む。
てっきり自分の為に注いでくれたと思ったのに。思惑が外れたジェネシスはあからさまに顔を顰めた。確かにセフィロスだって喉が渇いていたのかも知れないが、順番というものがあるだろう。
拗ねて顔を背けるジェネシスの顎を不意に掴んで、無理矢理セフィロスに向き合わせる。何を……と、言う間もなく(どちらにしろ声は発せられないのだが)、セフィロスの唇がジェネシスのそれを塞いだ。口中に未だ含まれたままの水。ジェネシスはそれを口移しで受け取ると、どうにかコクリと嚥下した。
素直に飲み込んでしまうなどとは誤算であったが、不意打ちに加えて喉の渇きが既に限界に達していた。ついプライドよりも潤いを優先してしまったのだ。
「ン……甘い……」
いや、まさか── 。
そんな事がある訳が無い。ピッチャーに入っているのはただの水だ。
思わず呟いてしまった自らの言葉に、慌てて心の中で否定を返す。
「もっと……」
そう、ただの水。甘くなどはない。それを確かめる為に、再度水分の供給を求める。
要求に応えるように、再び繰り返される口付け。
「んっ……」
全てを口に含み切れなくて、飲み込めなかった滴が口端から溢れ顎へと伝い落ちていく。
白い首筋に舌を這わせて、セフィロスは伝う水滴ごと喉元を舐め上げた。ジェネシスは小さく嬌声を上げ、セフィロスは満足げに口許を緩める。
「セフィ……ロス」
切れ切れではあるが、名前を呼べる程に喉は癒されつつあった。
「……何か入れただろう?」
再び与えられた水分は、やはり甘くて。腑に落ちないジェネシスは、疑問を投げ掛ける。と、即座に英雄は不快そうに美しい柳眉をひそめた。
「何を言ってる。入れる隙など、無かっただろう?」
言われてみれば、確かにそうだ。
セフィロスはピッチャーを掴んでから直ぐにグラスに移し、ジェネシスに飲ませた。何か小細工など、出来よう筈も無い。
甘く── 感じたのは、ジェネシスの錯覚だったのだろうか?
だが、錯覚であれ何であれ、ジェネシスの脳髄は甘い液体に侵されて、陶然と深い酔いに陥っていく。
── セフィロスとのキスだから、甘いのだ。
何処か心の深い部分で、確信に近い結論に達しながらも認めたくはなくて。
無理矢理、原因は不明だが、何だか分からないけど甘いのだ。と、およそジェネシスらしくない不合理な結論を弾き出した後。
改めて、シーツの下でお互いの足を絡め合い、深みに嵌りそうな甘いキスを再度求めた。
end
2009/7/17