雪の思い出
近頃のジェネシスは気が向いた時に限られてはいたが、街中を散歩する程度であればセフィロスと一緒の外出に付き合ってくれるようになった。
あからさまに恋人同士のようなデートコースは好まなかったが、親友として同僚として街をちょっと散策するくらいは不自然な事ではないし、あまり人通りの多くないところなら問題では無いと判断するに至ったらしい。
すっかり冬めいて、鉄鋼色から白い街へと変化しつつあるミッドガルを二人でのんびりと歩く。
今年は特に、例年よりも積雪が多いようだ。少なくとも、ジェネシスはミッドガルでこれ程までに雪が積もったのを見た事がなかった。
ジェネシスのお気に入りのコースは、中心部から少し外れたところにある公園だ。
緑の生えないミッドガルの公園は、規模こそは大きかったが遊具や噴水、味気ないオブジェなどがあちらこちらに点在しているだけで、殺風景で何とも言えない寂寥感が漂っていた。その所為か、利用者は普段からあまり多くない。特に、この季節だと訪れる人は極端に少なくなる。
敷地だけは兎に角広いから、まだ降り積もったばかりの新雪が公園一面を覆っていて壮観だった。
その一面の新雪を見てジェネシスの中に、ふとした悪戯心が芽生える。
その場にちょこんと屈むと新雪に手を伸ばし、何かを作り始めた。
不思議に思ったセフィロスが、近付いて覗き込もうとすると、突如ジェネシスは面を上げセフィロスに思いきり雪玉をぶつけた。
至近距離にいた為か、不意打ちだった為か、セフィロスにしては珍しく避ける事が出来ず、まともに雪玉を喰らってしまう。そのセフィロスの姿を見てジェネシスは、これまた珍しく声を立てて笑っている。
セフィロスも真似をして雪玉を作ってジェネシスにぶつけ返してやろうとするが、上手く雪玉を作る事が出来ず、不格好な雪玉は真っ直ぐ飛んでいかなかった為、容易くジェネシスに避けられてしまった。
「こうやって作るんだ」
ジェネシスは、セフィロスの傍に移動して隣に屈むと、雪玉の作り方を教示してやる。
先程、セフィロスが雪玉を避ける事が出来なかったのは、単純にセフィロスが雪玉という代物を知らなかった故の事だ。何も持っていないジェネシスの手から、そんな武器が生み出され繰り出されるとは全くの予想外だったのだ。
ジェネシスに教わって、幾らかマシな雪玉を作れるようになったセフィロスは早速ジェネシスに先程の仕返しを開始する。勿論、ジェネシスも黙って攻撃を受ける謂われはなく、更なる反撃を試みる。暫しの間、人気の無い公園で1st二人の壮絶な雪合戦が繰り広げられた。
ひとしきり、お互いに雪玉をぶつけたりぶつけられたりして満足した二人は、柔らかなまだ誰も足を踏み入れていない新雪をベッドにして、大の字になって寝転がる。
「コートがすっかり雪まみれで重くなったな」
セフィロスの言葉は苦笑混じりではあったが、声は嬉しげに弾んでいた。
革のコートは水分に弱い。幾ら表面に油を塗り込んであるとはいえ、二人のコートは駄目になってしまったかも知れない。が、それでも惜しくないくらい童心に返ったようで楽しかった。セフィロスには、子供の頃雪で遊んだ思い出など無いから、童心という言葉に当てはまるのかどうかは断言出来なかったが。
「面白かっただろう?」
「ああ、いつものトレーニングルームでの遊びも悪くないが、こういうのも楽しいな」
満足そうなセフィロスの笑顔を確認して、ジェネシスは安堵と慈愛に満ちた柔らかい笑みを湛える。
「良かった。お前は、雪を知らないと思ったから、教えてやりたかったんだ」
「雪くらい、知ってるぞ? ミッドガルにだって冬になれば降るし、アイシクルロッジに遠征に行けば万年雪が何時だって見られる」
「ああ、分かってる。でも……お前は知らなかっただろう?」
ジェネシスは、むくりと起き上がるとセフィロスにも起き上がるよう促す。
「例えば、さっきの雪玉だがな……」
言いながら、ジェネシスは新たな雪玉をこしらえると新雪の上に転がす。
「ほら、こうしてやるとどんどん雪玉が大きくなっていく。これを、二つ作って重ねてやれば『雪だるま』だ」
ジェネシスの説明を、セフィロスは何時になく熱心に聞き入る。セフィロスも同じように雪玉を転がして大きい雪玉を作り上げると、ジェネシスは自分が作った分の雪玉を上に乗せて小振りの雪だるまを完成させた。
感心したように出来上がった雪だるまに見入るセフィロスを見て、ジェネシスはくすくすと笑いを零す。
「セフィロス、お前は表面的な雪は知っていても、こういう本当の雪は知らなかっただろう?」
雪合戦をしたり、雪だるまや鎌倉を作ったり、まだ積もったばかりの足跡ひとつ付いていない新雪の上に誰かを突き飛ばして人型の形を作って遊んだり。
「そういう事を、お前に教えてやりたかった。ずっと……」
アイシクルロッジのような堅い万年雪では教えられない。今年のミッドガルが例年にない大雪だったから、今日というこの日に大量の新雪が降ってくれたから、ようやく叶った夢。
微笑を湛えて嬉しそうに見詰めてくるジェネシスに、セフィロスはその頬に手を添え礼代わりの口付けを落とす。
屋外でキスなどしようものなら、いつもは必ず飛んでくる筈の張り手は来ず、ジェネシスは大人しくキスを受けていた。
二人の間に暫し暖かい静寂が流れた後、ジェネシスはコートの雪を払いながら立ち上がる。
「濡れたコートが凍り付く前に帰ろう── 神羅の英雄が風邪を引いたなんて事になったら、とんだ大ニュースだ」
日が翳り始めると、気温が一気に低くなる。既に、コートの一部は硬い。
ジェネシスは濡れた赤髪を掻き上げると、「まあ、お前が風邪を引くなんて思えないけどな」と笑いながら付け加えた。
end
2009/12/28