子守唄
任務が終わって手早く報告を済ませると、やはりセフィロスは真っ先にジェネシスの部屋へと向かった。
今日は、スケジュール通りならジェネシスは在室している筈だ。
少し慌てた様子で乱暴にインターホンを鳴らす自分にふと気が付いて、ジェネシスがドアを開ける迄に少し冷静になろうと暫し深呼吸をする。
ジェネシスが英雄のこんな姿を見たら、しかも、そうさせているのが他ならぬ自分自身なのだと知ったらどうするだろう。
そんな事を考えていたら、自然と口許が緩んでいたらしい。ジェネシスがドアを開けるやいなや、「何をニヤけているんだ?」と、冷たい非難を浴びせてきた。
室内に招き入れられて、早速リビングのソファに腰掛け寛がせてもらう。だが、いかんせん今回の任務は英雄セフィロスといえども些かハード過ぎた。一週間の強行軍で、途中寝る暇も殆んど無かったのである。
柔らかいソファに身を沈めると自然と瞼も重くなり、目を開けているのも困難だ。
英雄のあまりにも眠たそうな様子にジェネシスも呆れつつ苦笑を僅かに洩らして、セフィロスの横に倣って腰掛ける。と、セフィロスの身体を引き寄せ自身に凭れ掛けさせた。
「少し寝るといい」
ジェネシスは穏やかな声音で云うと、セフィロスの銀の髪を軽く梳いてからおもむろに歌い始めた。
ジェネシスは『LOVELESS』を吟じる事は多いが、歌そのものを歌う事は滅多にない。だが、勿論その歌声は透明感があって心地好く美しかった。
「何故、歌うんだ?」
ジェネシスに寄り掛り過ぎて、結局肩ではなく膝の上に頭を乗せた英雄はジェネシスを下から仰ぎ見て質問する。
「気に入らないか? この歌は、俺の故郷に伝わる子守唄だ。あんたが良く眠れるように……」
「いや、良い歌だ。だが、寝ようとする者に歌を聴かせるという行為自体が、俺には理解出来ない」
戦場などはその限りではないが、普段、眠る時には無音を好み空調さえ切ってしまうセフィロスには、眠りを妨げようとする行為としか認識出来ない。
それでなくても、セフィロスには幼い頃に子守唄を歌ってくれる人などいなかったのだ。
すると、ジェネシスは膝の上のセフィロスの頭をそっと撫でて微笑した。
「まあ、黙って俺の歌を聴いていろ」
ゆっくりとセフィロスの頭を撫でてやりながら、ジェネシスは歌を続ける。
朗々と低く優しく耳元に届く美しい歌声。水底から空を見上げているような透明感。
決して眠りの妨げになる事は無く、徐々に睡魔に捕われ、眠りという名の甘美な牢獄に囚われていく。
完全に瞼が落ち、眠りに堕ちる瞬間。
セフィロスは、心地好い音楽や歌声というものは、雑音とは全く異なるものだという事を学習したのだった。
end
2010/4/24