Very Hard
2nd達が出払ったタイミングを見計らって、1st三人セフィロス、アンジール、ジェネシスが人目を憚りながらもトレーニングルームに侵入する。
彼等にとってこっそりトレーニングルームを占拠する事自体が、さながらひとつのミッションをクリアーするかの如く大きな緊張感を伴っていた。だが、大の男三人がコソコソとしている姿は寧ろ滑稽さを漂わす。
よって、三人が人目に付かないよう細心の注意を払うのには、彼等の名誉を守るためにも大いに意義があった。
無事トレーニングルームへの侵入を果たした三人は早速ヴァーチャルリアリティの投影機を稼動させる。マシンの性質を考えると幻灯機と顕した方がイメージ的に近いのかも知れない。
今日は目下のところセフィロスのお気に入りとなっているゲームをする為、映し出された景色はアンジールとジェネシスの故郷でもあるバノーラ村であった。
村の名物でもある独特の半円を描いた幹を持つバノーラ・ホワイトの樹は、一年中その実を付ける。その為、ヴァーチャルで再現されたバノーラ・ホワイトも設定した季節を問わず、いつもたわわに蒼い果実を実らせていた。
虚構のバカリンゴは手に取ってみることは勿論、その芳しい香りを楽しむ事さえ可能だった。
しかし、虚構であるが故に実際に口にして味わう事は叶わない。
結果として、的当てゲームの標的として使われていた。
三人のうちの誰かの頭の上にバカリンゴを乗せ、遠くから剣を弓矢かダーツのように投擲し、誰が一番命中させるかを競うゲームだ。
一般人やソルジャーとしてはまだ拙い3rdなどが真似しようものなら、怪我の一つや二つは免れない。親友として深い信頼関係にあるクラス・1stの三人だから出来る、少し危険なゲーム。
ゲームはいつもセフィロスの勝利に終わった。
「クソッ! また負けた!」
とジェネシスが悪態を吐いて、アンジールが苦笑を交えながら宥める。そこまでが、このゲームに於ける様式美となっていた。
だが、その日は少し違った。
ゲームを終え、バノーラ・ホワイトの幹に背を凭れ掛け休息を取るセフィロスのところに、ジェネシスが虚構のバカリンゴを携え近付いてきたのだ。
セフィロスはいつもの様式美を崩され、僅かに眉間に皺を作る。が、ジェネシスはそんな事はお構い無しといった風情でバカリンゴを握った手をセフィロスに差し出した。
「なんの真似だ?」
セフィロスは不機嫌さを隠さぬ低い声音でもって対応する。
「ここはトレーニングルームだろう? 本来の使用目的に即した使い方を試みてるだけだ」
云いながら、ジェネシスは意味ありげに口端を上げる。と、更に右手を突き出しセフィロスの鼻っ柱近くまでバカリンゴを近付けた。
「どうしろと云うんだ?」
「良いから、受け取れ」
訝しそうにジェネシスを見遣るセフィロスに、ジェネシスは頑なにバカリンゴを突き付ける。
渋々ながら受け取ってやると、ジェネシスはセフィロスの隣に腰掛けた。そして、更なる要求を提示する。
「食べてみてくれないか?」
「何を言ってる? 食べられないだろう、コレは」
突拍子もない要望に、セフィロスはさすがに呆れてしまう。
「ああ、食べる振りだけで良いんだ」
穏やかな、しかし期待に満ちたペールブルーの瞳に見詰められ、セフィロスは無下に断る事が出来なかった。
恋人の我が儘には慣れたつもりだったが、これはただの我が儘とは違う。もっと、懇願に近いものを感じたのだ。
セフィロスは仕方なくバカリンゴを口許に運ぶと、一口かじってみた。案の定、虚構のバカリンゴは口中で崩壊するのみ。無論、味などしない。
だが、そんなセフィロスの様子を見詰めるジェネシスは至極嬉しそうだ。彼の隣で膝を抱えるように蹲まり、顎を組んだ両腕に乗せ、優しく柔らかな笑みを湛えている。
「全く、こんな事をして何になる?」
溜め息混じりに吐き出すと、ジェネシスは笑みを僅かに表情に残したまま真剣な面持ちで応えた。
「これは、シミュレートだ」
「シミュレート?」
このトレーニングルームは、実戦に備えてヴァーチャルな世界であらゆる戦闘を想定し訓練を積む為の設備。ジェネシスは先程、本来の用途に即した使い方だと云った。だが、これが何らかのシミュレーションだと云われても当然セフィロスにはピンとこない。
不可解そうな表情を浮かべるセフィロスに、ジェネシスは更に説明を続ける。
「そうだ。これは俺にとって最高難易度のミッションなんだ。Very Hardの……な」
クク、と軽く笑いを零すとジェネシスは立ち上がってコートの草を払った。この草も実際には存在しないものなのだが、つい無意識に払ってしまう。
いつか、その日が来た時の為のシミュレーションを達成し、ジェネシスはこの上なく満足げな笑みを湛え虚構が造り出す故郷の青い空を見上げた。
end
2010/6/14