鼓動
ミッションから戻ってきたセフィロスは、淹れてやったコーヒーに碌に口も付けず、新聞を拡げ睨むような目付きでもって読み耽っている。
任務完了の夜ぐらい、ゆっくり寛げば良いのに── と思うのだが、情報収集の時間が惜しいらしい。恐らく、既に次の任務も決まっているのだろう。
だが、それでも忙しい合間を縫って会う時間を作ろうとジェネシスに会いに来てくれたのだ。ジェネシスの方に一瞥をくれる余裕さえ無いようだが、会う時間さえ作ろうとしなかった過日を思えば随分進歩したものだ。放っておかれるのは少し寂しいが我慢してやろう。
無礼は許すことにして、ジェネシスは黙ってセフィロスの隣に腰掛けた。そうして、そのままセフィロスに寄り掛かる。新聞を読んでいるセフィロスの邪魔になるであろうことは百も承知だ。せっかく、一緒の時間を過ごしているのだ。体温を感じるぐらいは許されるだろう。
セフィロスは若干読みにくそうではあったが、隣に寄り掛かるジェネシスを追い払うことはなく、かといって新聞を読むのをやめるでもなく。
寄り掛かるジェネシスの身体は、重みで次第にセフィロスの身体に沈んでいく。セフィロスの方が体格が良いことも相俟って、セフィロスの胸筋辺りにジェネシスの頭部が埋まる。
耳元のすぐ近くに心臓があった。
とくりとくりと規則正しく繰り返す心音と、体温の暖かさでもってジェネシスは自然と眠気に誘われてしまう。
とくりとくり。
こくりこくり。
何時しか眠りに落ちてしまったジェネシスを認めて、ようやくセフィロスは新聞を畳みテーブルの上に放った。
とくりとくり。
こくりこくり。
心音と寝息が織り成すハーモニー。
この上なく優しい時間。
幼い頃から、戦場を縦横に駆ける事を生業としてきたセフィロスには、平和という概念が今ひとつ理解出来ていない節があった。
だが、いま目の前にある穏やかな光景、静謐なる空間、恋人と過ごすこの上なく落ち着く時間が「平和」という言葉に価するのではないかという事を、セフィロスは実感しつつあった。
平和という概念が理解出来れば、人々が平和を望む理由もいずれ理解出来るかも知れない。
そんな日がいつか訪れる事を願って、彼は赤毛の恋人の髪を優しい手つきでそっと撫でた。
「ん……悪い、寝てた」
不意に目覚めて目元を擦るジェネシスを、セフィロスはより深く自分の懐に囲い込み、抱く腕に力を入れる。
「疲れているんだろう? このまま、寝ていろ」
任務続きで多忙なのはセフィロスだけではない。「だが……」と反論仕掛けたジェネシスの言葉は、しかし睡魔に負けて宙へと消えゆく。
ジェネシスが再び寝入った事を確認すると、セフィロスもジェネシスに寄り掛かり睡魔の誘惑に乗った。
とくりとくり。
こくりこくり。
静かな室内でそっと奏でられる二人分の心音と寝息は、純真なる祈りを内包する。
願わくば、自分に寄り添い夢の世界に沈む恋人が、夢の中でも幸せでありますように── 。
end
2013/8/6