二人の始まり
まだ夜も明け切らぬ暗く静かな空。冷たい空気が二人に纏い付く。彼等の他には誰もいない小さな孤島。断崖から絶海を望む。
「新年早々ミッションだなんて……ツイてないな」
ジェネシスは苦々しい面持ちで愚痴る。反してセフィロスは満更でもないらしく、微笑を添えて応えた。
「そうか? 俺は今回のミッションを楽しみにしていたんだがな」
「そうなのか!?」
「どちらにしろ、俺達ソルジャーにはクリスマスだのニューイヤーだのは無縁だろう?」
「それは、そうだが」
正論で返されて、ジェネシスは反撃の言葉も出ない。しかし、年明けぐらいは暖かい自室でのんびり過ごしたいと思っても罪は無いはずだ。
少し悄気た様子のジェネシスに構わず、セフィロスは明るい口調で続ける。
「第一、こんな任務でもなければこうやってお前と二人きりで初日の出を見るなんて、難しいからな」
セフィロスはジェネシスの肩にぐっと手を廻して抱き寄せた。英雄らしい真っ直ぐな態度と言葉に、ジェネシスは俯いてしまう。
「そ……そんな事は── 」
ジェネシスだって、出来る限り二人で過ごしたいとは思っている。決して、セフィロスを蔑ろにしている訳ではないのだが、上手く伝えるのはこれまた『難しい』のである。
「だいたい宿舎でだって、よく二人きりで過ごしているだろう? わざわざ、こんな辺鄙な場所に来なくたって……」
もっと幾らだって静かで暖かくて落ち着ける場所があるのだ。
「でも、この場所の方がずっと『二人きり』だ」
こんな自分達には縁も所縁も無い場所を、何故そんなにも特別視するのか。ジェネシスは怪訝に思う。
確かに、周囲には人っ子一人居ない。人間など立ち入る隙さえ無いのだ。だが。
「セフィロス、確かに人間は居ないが……なっ!!」
突如襲い掛かってきたグリフォンを、鮮やかなレイピア捌きで葬ってから。
「二人きりという訳には、いかないようだぞ?」
もう一頭、背後から現れた別のモンスターをあっさり倒しながらセフィロスは応える。
「クク……ならば、二人でこの島にいる全てのモンスターを駆逐すれば良い」
セフィロスの場合、冗談ではなく本気で云っている節があるから恐ろしい。
「それに……」とセフィロスが続ける。
「やはり宿舎や神羅ビルよりも、此処の方がずっとお前を独り占め出来る」
そうして、ジェネシスの背後から両腕を廻してしっかりと囲うように抱き締めた。
「何を云ってるんだ。自室でだって、ビルの中でだって充分俺を独占しているだろう?」
時間が合ってセフィロスと一緒にいる時は、いつもそうだ。一人きりになんて、させて貰えない。その英雄ならではの独占欲も込みでセフィロスに惚れているから、拒否も出来ないのだが。
「いや……」
意外や返ってくるセフィロスの声は、どこか淋しげだった。
「宿舎や神羅ビルで過ごすお前は、いつだって心の何処かでアンジールを意識している。隣室のアンジールのことを考えている。だが── この場所なら、アンジールのことを思い出さない。そうだろう?」
「!? セフィロス── お前、まだ……」
「此処で、俺との……俺とだけの思い出を重ねて作っていけば、いつか此処は俺とお前だけの場所になる」
セフィロスの熱の篭った言葉にジェネシスは二人が付き合い始めたばかりの頃を思い出す。
『どうして、お前達はそんなに仲が良いんだ?』
突如しかつめらしい顔でセフィロスが、親友二人に対し質問を投げ掛ける。
『そりゃあ……俺達は、親友で幼馴染みだからな』
そう答えたアンジールに対して、セフィロスはすかさず応酬した。
『では、俺達は親友で恋人だ!』
勝ち誇ったような顔でそう告げられて、セフィロスに肩を抱かれた瞬間、ジェネシスは初めて自分達の関係が「恋人」なのだと知ったのだ。
そう、あの頃からセフィロスはなにくれとなくアンジールに対抗意識を燃やしていた。今にして思えば、ジェネシスとアンジールの度が過ぎるほどに親密な関係に嫉妬していたのだろう。そして、それは今も変わらず。いや、寧ろあの頃以上に根深くなっているのかも知れない。
指摘されるまで気が付かなかったのは迂闊だったが、確かに宿舎などにいる時は常にアンジールの動向を気に掛け、スケジュールをチェックしていた。いつ帰ってくるのだろう。いつ出掛けるのだろう。食事は一緒に食べられるのだろうか── と。
付き合い始めてから今まで、英雄は心まで支配し切れない恋人にいったいどれ程やきもきしていたのだろう。もうとっくの昔に、幼馴染みよりも恋人の方がずっとずっと重くて大切な存在となっていたというのに── 。
気が付けば東の地平線から、神々しい朝の光が満ちてくる。二人きりで見る初日の出だ。平凡な日の出も二人で見ると全く違った印象を受ける。
「これで、お前との思い出がまたひとつ加算されたな」
満足げな笑みを浮かべるセフィロス。それに応えて、
「そうだな。でも、これは始まりだ。これから、もっとたくさん二人の思い出を作って行くんだろう? 二人だけの思い出を── 」
そう云ってから、ジェネシスは隣に立つ英雄を見上げると踵を上げて、彼の頬にキスを捧げた。神聖なる新年の誓いを込めて── 。
end
2014/1/1