融解

早くも陽が落ち始めた夕暮れどき。神羅ビルへ向かって外界を闊歩していると、身を切るような風の冷たさに冬の到来を実感する。
寒い季節になると途端に人肌恋しくなるのは、人間のさがであろうか。
こんな夜は暖かい部屋で、恋人とふたり身を寄せ合いたい。不意に甘ったるいセンチな気分に襲われて自分でも気恥ずかしくなる。
らしくない思考だが、久しぶりにセフィロスの部屋を訪ねてみようか?
ふとした思い付きだったが、そう考えた時には既に足は迷いなくセフィロスの部屋を目指して動き出していた。果たしてなんの約束もなく突然訪ねていって大丈夫なのか。そもそも常日頃忙しい英雄は自室に居るのだろうか?
漠然と── 居るのではないか。という根拠の無い予感があってジェネシスの足は止まらなかった。それどころか、足早になった。
セフィロスの自室、ドアの前まで辿り着いて一呼吸入れる。早鐘を打つように響く心臓の音が煩い。
焦る気持ちを抑えて、ゆっくりと右手を伸ばしインターホンに触れた。鈍重なドアの向こうで微かに呼び鈴が鳴り響く。
一刻も早く出てきて欲しいのに、こちらの切迫感は相手に知られたくない。出てきたら出てきたで素っ気ない態度を取ってしまいそうで、苦笑が洩れる。
インターホンを鳴らして、しばらく待って出て来なければ帰るつもりだった。
だが、程なくしてロックを外す音が聞こえ、ついにドアは開かれた。
「どうした?」
ここで、『よく来たな、上がれよ』などとは決して言わないのがセフィロスである。
ジェネシスもセフィロスを押しのけるようにして、無言のまま堂々と室内への侵入を果たした。
「なんの用件だ?」
相変わらずのセフィロスに対して、ジェネシスはくるりと振り返って言う。
「用がなければ来ちゃいけないのか。俺達は、まがりなりにも恋人なんだろう?」
わざと「恋人」部分にアクセントを置いてやると、さすがのセフィロスも面食らった様子で言葉に詰まる。そんな無言のままの英雄に、ジェネシスは飛びつくように抱き着いたかと思うと、そのまま口付けた。
唇が離れたあとも、しがみついた状態でじっとセフィロスを見詰めている。
長いこと忘れていたキスの感触。そして、纏い付く冷気。
一瞬のことであったが、ジェネシスの唇は驚くほど冷たくて、セフィロスは僅かに身震いした。随分と長い間屋外にいたのだろう。恐らく身体も芯から冷え切っているはずだ。
左手を伸ばして頬に触れる。頬も耳もうなじに至るまで、長時間の寒気に晒され熱が失われている。
もっとキスをしたい。
もっと触れ合いたい。
そうして、熱を分け与えたい。冷えたジェネシスの身体を、頬を、耳を、唇を、全てを熱くとろとろに溶かしてやりたい。
ふつふつとセフィロスの裡にも滾るものが蘇り急激に胸が熱くなる。先程までの平静さが嘘のようだ。
「俺をどうしたい? セフィロス」
「もちろん……」
唐突に近くのソファにジェネシスを押し倒すと、その勢いのまま情熱的なキスを今度はセフィロスから仕掛ける。
触れられる度に熱くて、苦しくて、心地好くて、気持ちいい。

── ひとつになって溶け合いたい。

その時、セフィロスとジェネシスの気持ちは魔法のように綺麗にひとつに重なった。
もう言葉は要らない。ひとつになって溶け合って同じ温度になりたい。それだけなのだ。
キスをして、触れ合って、受け入れて、分け合って、二人の体温差が無くなるまで、精神の境界さえ曖昧になるほど溶け合うまで、互いに溺れ合うのみ。

end
2014/10/14