氷華

近頃、セフィロスがトレーニングルームで熱心にブリザドの練習をしているらしいということは、たまにしか一緒にトレーニングをしないジェネシスにも何となく伝わっていた。と同時に、疑問でもあった。いったい何ゆえ、今さら神羅の英雄に基本中の基本魔法であるブリザドの練習などが必要なのか……と。

ある時、セフィロスの部屋を訪ねていった時。ドアを開け中に踏み込んだ瞬間、テーブルの上に大きめの受け皿を設置し、その上でブリザドの練習をしているところを目撃してしまい、ついにジェネシスは突っ込んでしまった。
「おいおい、自室でまで練習するほど難しい魔法じゃないだろう?」
云いながらづかづかと室内の奥に入り込み、テーブルの上を見る。と、普通のブリザドで現れるようなかくばった円錐状のものではなく、丸みを帯びた球体の氷が宙に浮いていた。しかも、ただの球体ではなく薄い氷の層が何枚も重なっている。まるで幾重にも重なり合う花弁のようだ。
「これは……!?」
「ああ、氷で花の形を作れないかと思ったんだが、なかなか難しいな」
「なんで、そんな面倒な真似を……」
ほぼ無意識でジェネシスの口許からこぼれた疑問に、英雄は気を悪くすることなく答えてくれた。
「ミッドガルは華やかで大きな街だが、花は咲かない。せめて、何か代わりのものでもあれば……と考えたんだがな」
上手くいかなかった……と言わんばかりにセフィロスは溜め息とともに苦笑した。確かに、花と言われれば花に見えないことはないが、蕾のように硬そうな花弁では永遠に花開きそうにない。
「じゃあ、もうひとつ魔法を掛けてみよう、セフィロス」
ジェネシスはパチンと小気味よく指を鳴らすと、ファイアの魔法を操り出した。セフィロスは一瞬、氷が融けてしまうのではないかと焦ったが、凝固した氷はそう簡単には融けない。
氷の表面だけが、緩やかな炎で溶かされて形が整えられていく。尖っていた部分は一度溶かされることにより、なだらかな曲線を帯びてから再凝固している。これだけで随分と花らしくなった。
「すごいな」
セフィロスも巧みなジェネシスの手腕に素直に感心している。
「そうだ! アンジールにも手伝ってもらおう!」
ジェネシスはそう云うと、家主の了承も得ずに部屋を飛び出し、数分後には幼馴染みを伴って戻ってきた。
アンジールは「本当はノミが欲しいところだが……」と云いながらも、アイスピックを使って上手く細部を削ってくれた。よく見ると雄しべや雌しべの部分まで細かく作り込んである。凝り性のアンジールらしい。

そうして、ついに完成した美しい氷の花は一旦冷凍庫にしまい──。
「それで、あの花はなんに使うんだ?」
作業を終え、一段落したアンジールは当然の疑問をぶつける。ジェネシスは疑問を受けると同時に英雄の方を見遣ったため、二人の視線は自然とセフィロスに集中した。
「いや、だから……花を──」
セフィロスは困ったように視線をさ迷わさせたのち、観念したような面持ちでジェネシスを見詰める。釣られるようにアンジールもジェネシスを見た。
「もしかして、ジェネシスへの──プレゼント、か?」
「俺に──!?」
セフィロスは結局二人に手伝ってもらったことが、後ろめたいのだろう。ばつが悪そうな表情でこくりと頷く。
「ジェネシスはいつも……故郷の花やら植物やらをプレゼントしてくれるだろう?」
「あれは、ただの土産というか、おすそ分けというか。そんな大したもんじゃ……」
「ああ、分かってる。だが、俺も何かジェネシスに故郷の、ミッドガルの美しいものを……と思ったんだ。でも、ミッドガルは花が咲かないし」
ミッドガルの名産が花や植物ではないことは周知の事実だ。補足をいえば、この頃は未だエアリスの花売りさえなかった。本当に、花がなかったのである。
だから、氷で花を作ってしまおうというアイディア自体は素晴らしいかもしれないが、もともと無いものを求めるのは本末転倒とも云える。ジェネシスはうっすらと笑みを浮かべた。
「なんだ。ミッドガルの特産品なら演劇、音楽、絵画……素晴らしい芸術がたくさんあるだろう」
そして、何より魔晄で妖しく光り輝くミッドガルの街並みそのものがミッドガルの魅力であることは間違いない。
「だが、セフィロスが氷の花を作ってくれたことはすごく嬉しい。あれこそ、他のどんな場所でも手に入れられない唯一の──極上の芸術品、だ」
わざわざセフィロスが練習に練習を重ねてまで作ってくれたアイスフラワーに、ジェネシスはすっかり気を良くしたらしく、いつもより饒舌だ。
一方で、セフィロスはジェネシスがプレゼントを気に入ってくれたことが、ただ素直に嬉しかった。
お互い満足したところで、さて、せっかく作ったアイスフラワーをどうしよう? ということになる。
それには、アンジールが素敵なアレンジを施してくれた。
上等な大皿に盛られたアイスフラワーの周りにサラダやツマミなどを色の配分まで考えて、華やかに盛りつけていく。こうなると、もう立派なオブジェだ。ただの飾りから芸術へと昇格し、ジェネシスも満足そうだ。
「さあ、出来たぞ」
完成したオードブルをメインに据えたテーブルに、グラスやシャンパン、ワイン等が次々に並べられる。
何かの祝い事があるわけではないが、自然とパーティーが始まった。
いや、ある意味今日は記念日なのだ。
完璧無比な英雄セフィロス。彼の能力をもってしてさえ造形の難しかったアイスフラワーも、無二の友人達の手によって素晴らしい完成品へと生まれ変わった。
セフィロスが努力し続ければいつかは完璧なアイスフラワーが出来上がったかも知れない。だが、この友人達に手伝って貰った作品ほど上等な物には成りえなかっただろう。

もとはといえばジェネシスのために──と作っていたアイスフラワーであったが、結果としてセフィロスはもっと尊いものを友人達から贈られたのだ。
掛け替えのない「友情」という名のプレゼントを──。

end
2015/2/23