珍しくジェネシスの部屋に誘われて、訪ねてみると彼の部屋にはほのかな甘い香りが漂っていた。
テーブルの上には、苺を使ったタルトやケーキが並んでいる。ジェネシスは甘味に合わせて深煎りのコーヒーを淹れてくれた。
「すまないな。アンジールがこの時期になると苺が安いからと云って大量に買ってくるんだ。そのおすそ分けというか……つまり、一人じゃ食べ切れないから一緒に食ってくれ!」
科白の後半は懇願に近かった。
「アンジールは? 一緒に食べないのか?」
「もちろん、とっくに食べたさ。今は自室で余った苺をジャムにするためにキッチンで鍋に付きっ切りだ」
アンジールの現況を伝えてから、そっとセフィロスの顔色をうかがうように問う。
「苺は……苦手だったか?」
「いや、大丈夫だ。たとえ苦手でもアンジールが作ったモノなら食べられるだろう」
「そうか。大丈夫なら良かった。が、バノーラ・ホワイトのパイとかは絶対に食べないからケーキ類は苦手なのかと思ってた」
「バノーラ・ホワイト? ああ……あのバカリンゴか。あれはダーツの標的のイメージが強すぎて、食い物だと認識できない」
「クソッ、失礼なヤツだな。まあ苺がOKなら、一緒に食べよう」
そうして、未だに突っ立ったままだったセフィロスをソファーに座るよう促す。
甘い春の香り。甘酸っぱくて、でも甘すぎなくて、任務に疲れた身体に心地好く染みていく。
花の咲かないミッドガルでは季節を感じることは難しい。でも、こうして親友達が季節の食べ物をなんだかんだ理由をつけて食べさせてくれるようになってから、セフィロスにも季節感というものが理解できるようになってきた。
決して彼らは恩着せがましいことは言わない。さぞ、なにかのついでのように、さらりと饗してくれる。気を遣わない、暖かい空間。もし家族というものがあれば、こんな雰囲気なのだろうか。
ケーキを一口食べ、恋人の淹れてくれたコーヒーを飲むと、隣に座したジェネシスが満足そうに微笑んでいる。
セフィロスには家族が無い。幼少の折にはそれを寂しく思った時期もあった。だが、いまはとても満ち足りている。
一緒に過ごす誰かが、一緒に食事を摂り、雑談をし、笑い合う誰かがいることが何よりも掛け替えがなく尊い。
家族など居なくてもセフィロスは、もう寂しいと感じることはなかった。
もっと大切な存在が目の前にいて、彼を照らし続けてくれるのだから──

end
2016/03/18