二人の時間
神羅ビルの屋上にあるヘリポートで佇むジェネシスの髪やコートを乱しながら一機の軍用ヘリが到着する。ヘリから降り立ったのは長い銀髪をなびかせた神羅の英雄セフィロスだった。ひと月ほどの長期任務を終えての待ちに待った帰還である。
「わざわざ出迎えに来てくれたのか?」
ジェネシスの姿を認めたセフィロスは少し嬉しそうだ。
「そりゃあ、お前のスケジュールが詰まっているからな。この後、すぐにミーティングだ」
英雄には久々の恋人との再会をゆっくり味わう時間も無いらしい。
統括がブリーフィングルームで待っているから── とジェネシスは付け加え、まるで自分の意志で迎えに来たのではないかのように振る舞う。一方で、やや恥ずかしそうにセフィロスから目を逸らす。
長期で不在だったとはいえ、英雄の姿はテレビや新聞、雑誌等で目にしない日など無かった。だが、こうして実物を目の前にするとその完璧な佇まいにどきりとしてしまう。
長い銀の髪、陶器のような傷ひとつ無い肌、すらりとした長身、均整の取れた肉体美。
なるべくセフィロスを見ないように背中を向け歩き出すジェネシスにセフィロスは背後から柔らかく抱きついた。
「俺は此処に帰ってきて一番最初に会えたのがお前で嬉しい」
不意打ちで囁かれて思わず頬が朱に染まる。セフィロスから顔が見えない角度で良かった。安堵する一方。
「まだ勤務中だぞ」
以前のセフィロスなら決して言わなかったような科白に戸惑って、素っ気ない態度をとってしまう。
「では、ミーティングが終わったら一緒に食事にでも行こう」
「俺と違ってお前はスケジュールが詰まっていると言っただろう。ミーティングの後はお偉いさん方との会食だ」
ジェネシスは携帯端末を開いてセフィロスのスケジュールを見せてやる。
「じゃあ、その会食はキャンセルだな」
「何を言っている。お偉いさんとの会食だってお前の大事な仕事だろう?」
あからさまに顔を顰めてジェネシスが非難するとセフィロスは当然のように返してきた。
「仕事ではあるが、お前と過ごす時間以上に大事ではないな」
予想外の回答にジェネシスが困惑していると、会食はキャンセルしてくれと重ねて念押しされる。
「仕方ないな── じゃあ、セフィロスは長期任務後で疲れているから会食はキャンセルしたいと伝えておく」
言いながら、ジェネシスは慣れた手付きで携帯端末を操作した。その様子をセフィロスは満足げに見詰めている。
近頃のセフィロスは多忙過ぎて、かつ今回のように急な予定キャンセルの場合『当たり障りのない適当な理由をつけて断る』などの配慮が出来ない質というのもあり、ジェネシスがスケジュールの管理や折衝を成り行きでやらされている。言い換えると統括であるラザードに懇願されたとも言う。
ヘリポートからエレベータールームに向かいながら考える。
以前のセフィロスなら些細な仕事でも蔑ろにすることなく真面目に遂行していた。それが、近頃は今回のようにプライベートを優先させる節がある。これは不本意ながら自分の所為ではないか── とジェネシスはつい自身を責めてしまう。
神羅の英雄の揺るがなかったはずの思考や行動原理を一介のソルジャーである自分が変えてしまって良いのだろうかという一抹の罪悪感と、恋人としての狂おしいほどの幸福感。
考えても仕方のないことだが、自分と付き合うことで確実にセフィロスは変わってしまったと思う。
そして、ジェネシス自身も変わった。
以前なら自分のために英雄が変わってしまうことを忌避していたことだろう。だが、自分へのセフィロスの想いがそうさせたのかと思うと、どうしても嬉しいという感情が抑えきれない。
恋愛をすると些細なことに幸せを感じるという。ジェネシスは今まさにその言葉が身に沁みていた。
エレベータールームへの僅かな道のりにも、セフィロスはジェネシスの手を握ってくる。その手は決して振り解かれることはない。ほんの少しの時間でも触れ合いたい。恐らくお互いにそう思っているのだ。
短い道のりはあっという間に終わりを告げ、エレベータールームに入ると下矢印が付いたボタンを押し、籠が上がって来るのを待つ。ヘリポートのある最上階は70階もあるから、籠が上がって来るまでも意外と時間が掛かる。
その暫しの二人きりの時間。
二人はお互いの想いを確かめるように、会えなかった期間を埋めるように、久方ぶりの口付けを交わした。
濃厚で、深い深いキス。
勿論、いくら深くて甘いキスを交わしても渇望が癒えることはなくて、続きは二人きりのディナーの後へ持越しされることとなった。
end
2020/10/28