ペナルティ (前編)
赤毛の幼馴染みは頭脳明晰で頭の回転も速く高等な戦術の組み立てなど計略面も優れているのだが、反面気が強く、認めた相手以外には安易に従わない。会社や組織という枠組みの中で生きていくには厄介な難点も抱えていた。それは彼の魅力のひとつであると同時に致命的な欠点でもある。上官の命令には従うのが鉄則のソルジャーとしては尚更だ。
そんな幼馴染みの気性の難しさに常々悩まされているアンジールの心の底には澱のように沈殿していく苛立ちがあった。ひとつひとつの苛立ちは些細なものでも積み重なると、幼馴染みといえども我慢の限界に達する。
せめて上司ぐらいには服従の姿勢を見せて欲しいものだが、例え上官相手であっても少しでも納得がいかないところがあれば、とことん反撥する。毎回必死に幼馴染みを宥めすかし、どうにか場を納めるこちらの身にもなって欲しい。いくら将来を嘱望されているソルジャーとはいえ、自分達はまだ2ndなのだ。十代後半の血気盛んな年頃ゆえに余計反撥心が強いというのもあるのだろうが、あまり上に反感を買うような真似をすれば、1stへの昇進も危うい。何しろ、1stに昇進するには1stからの推薦が必要なのだ。
ある日のミッションでも、彼は問題を起こした。ミッションのリーダーである上官の指示した采配が気に入らないと盾突いたのだ。
仮にもミッションのリーダーたる上官。階級は無論ソルジャークラス・1stである。指揮官としても非常に優秀で、慎重派なところはあったが、充分ミッションの内容に即した采配であった。確かに攻めるタイプのジェネシスとは相性は悪いだろうが、飽くまで指揮官は指揮官。納得がいかなくとも下位のソルジャーは黙って上官に従うものである。
やむを得ず、アンジールは揉める二人の間に強引に割って入った。もっと正確に云えば、我が侭を通そうとするジェネシスを遮り、無理矢理押し黙らせた。その指揮官は幸い温厚なタイプであり、普段からアンジールやジェネシス達には目を掛けてくれていた。本当に素晴らしい上官であった。そのため、アンジールの顔を立ててそれ以上はことを荒立てずに収めてくれたのだが── それは、たまたま運が良かったとしか言えない。
何故ジェネシスはこんなにも立派な、尊敬に値する上司にすら盾突こうとするのか。幼馴染みのよしみで仕方なく庇ったが、全くもって理解に苦しむ。この一件からアンジールの苦悩はよりいっそう深まった。
2ndであるアンジール達には、まだ個室は与えられておらず二人部屋を割り当てられていた。もちろん二人は同室であった。というのも、男ばかりの職場である軍隊ならではの特殊な事情があったのだ。
とかくジェネシスという人物は反抗的で、上官だけではなく同僚である他の2nd達に対しても反感を買うような言動が目立つ。その為、機会さえあればジェネシスを懲らしめたいと考えている血の気の多い輩も多く、迂闊に他のソルジャーと同室には出来なかったのだ。多少なりともジェネシスに不服を抱いている連中の誰かとうっかり同室にしてしまえば、なかにはえげつない報復を企てる者もいるだろう。
下手をすれば貞操の危機だって有り得る。実際に先輩達の中には、そういう意味でジェネシスにちょっかいを出したがっている者もいた。ジェネシスの態度が、その強い鼻っ柱をへし折ってやりたいというどす黒い嗜虐心を煽るのだ。いくら男同士とはいえ油断は出来ない。寧ろ息抜きの少ない男ばかりの軍隊だからこそ、そういった危険をも孕む。
幼馴染みの周囲に漂う不穏な空気から危惧を抱いたアンジールは、一計を案じ適当な理由をつけてジェネシスとの同室を希望した。無論アンジールの本心をジェネシスにそのまま吐露する訳にはいかないので、彼には本当の理由は伏せてある。上官もジェネシスの気性を良く理解しているので、快くアンジールの希望を通してくれた。もしかしたら、体よく厄介払いが出来て安堵していたのかも知れない。あるいは、上官もアンジールと同じ危惧を抱いていたのか。どちらにせよジェネシスを誰と同室にするかは、上官としても悩みの種だったのだ。
一方のジェネシスはというと、そんなアンジールや上官達の気遣いや気苦労も知らず、気心の知れた幼馴染みとの同室に建前上は文句を垂らしながらも満更ではなかったようで、二人の同居生活はなかなか順調だった。
だが、先日のミッションから戻って以来、アンジールの心奥にはぐずぐずと燻るものがあった。ついに呆れ果てたというか、堪忍袋の緒が切れたというか、今のジェネシスの現況を幼馴染みとしてこれ以上看過出来ないと、そう強く感じたのだ。
お仕置きが必要だ── と。
最初は少しからかってやろうぐらいの軽い気持ちだったのだが、ジェネシスに対する憤りが高まるにつれ自身の中の不満や欲望も肥大化していく。
自分達は同室とはいえ男同士だ。そんなにべたべたした付き合いではない。と、言いたいところであるがジェネシスという男はアンジールと二人きりだと普段のギスギスした近寄るなオーラはどこへやら、途端に無防備となる。まるで子供がえりでもしたかのように甘ったれなお坊っちゃんになり、機嫌の良いときだと尚更べったりと幼馴染みに甘えてくる。
幼馴染みの存在が彼の自立心を妨げているかのように、未だ色濃く残る幼さ。普段からも変に意地を張ったり我を通そうとしたりと幼く思える面も多少あったが、二人きりの時はより顕著であった。彼が本来良いところのお坊ちゃんであることも要因のひとつなのだろう。
その日もご機嫌だったのか、はたまたホームシックでも起こして寂しかったのか。ふたつ並んだベッドの境目を越境してきてアンジールのベッドにまで潜り込んできた。子供の頃、こうして一緒に眠ることが多かったせいか今でもこの方が落ち着くらしい。あと1、2年で成人という年頃であったが、どうやら独り立ちにはまだ遠いようだ。日頃は馴れ合いを厭う癖に人肌が恋しくなると、都合よく親友を利用する。実に我が侭なジェネシスらしい行動ともいえた。
だが、ジェネシスに何か悪戯を仕掛けたかったアンジールには実に好都合である。ジェネシスの方から進んでこちらの懐に飛び込んできたのだ。自ら罠に掛かりにきた狐も同然。
透かさずベッドに忍び込んできたジェネシスの腰に両腕を廻し、さりげなく引き寄せる。なんとなくアンジールに抱き締められるような格好になったが、ジェネシスは特に警戒や抵抗を示すでもなく大人しく抱かれている。下手をすればこのままアンジールの胸元に顔を埋めて眠ってしまいかねない。完全に油断しきっており、隙だらけであった。
腰に廻した腕を徐々に上半身へと滑らせ、片手をジェネシスの白皙の頬に添える。そうして、ゆっくり自分の方へと向かせると、息を止める暇も与えず自然に口付けた。さすがに予想外だったのか、ジェネシスは少し身じろぎをしたもののアンジールから離れようとはしない。恐らく、いつもの悪ふざけの延長とでも思っているのだろう。ジェネシスもその悪ふざけに便乗するかの如く、悪戯っぽくアンジールの背中に腕を廻し、縋り付いてくる。
無防備にアンジールへ身体を預け、抱き付き纏わり付く。逆に誘われているのかと勘違いしてしまいそうだ。
アンジールは口付けを再開すると、さらに両腕を動かしジェネシスの身体をまさぐった。もはや口付けもただ触れ合うだけの穏やかなものではない。ゆっくりと口を開かせると、舌を咥内に忍ばせ絡み付かせる。舌の動きは徐々に激しくなり、それに伴いキスも濃厚なものへとエスカレートしていく。
この辺りでようやくジェネシスも異変を覚えたらしく、戸惑いの色を滲ませた瞳で見詰めてきた。
「アンジール?」
戸惑いつつもアンジールの愛撫に感じてしまっているのか、頬はうっすら朱を帯びている。
しかし、これは単なる悪ふざけではない。個人的制裁、お仕置きなのだ。そして、警告でもある。多少はジェネシスに怯んで貰わなくては意味がない。
アンジールは再度ジェネシスの身体に両腕を廻し、今度はしっかりと力を入れて抱きしめた。先程までとは違う、深い抱擁にジェネシスも思わず身を固くした。今宵のアンジールはいつもとは様子が違うと、ようやく悟ったようだ。
構わず執拗にジェネシスの身体をまさぐるアンジールの両手は下半身にまで伸び、あからさまに尻の辺りを撫で廻し始める。決して柔らかくはない、適度に鍛えられ引き締まった男の尻を撫で廻して何が楽しいのか。訝る暇もなく、やがてアンジールの指先は布越しにではあるが双丘の中心にある窪みを捉えると、意図的であるとはっきり分かるほど明確な刺激を与えてきた。
この時点で、ついにジェネシスも焦り始めた。無論アンジールのことは好きだ。ハグでもキスでも全く抵抗なく受け入れられる。だが、それは飽くまで友人としてであって、性欲の対象として見られているなどとは感じたことも考えたことも無い。当然このように性的に求められた場合のことは全く想定していなかった。正直、現時点でもアンジールの真意が分からないでいるぐらいだ。至って大真面目なのか、あるいは行き過ぎた悪ふざけなのか。ただの悪戯であって欲しいという願望も加味されてジェネシスの判断も揺らぐ。
だが、決して迷うことのないアンジールの手際にジェネシスの思考は行き場のない迷路の奥へと容易く追い込まれていく。友情なのか恋情なのか、判別は付かなかったが拒否することも躊躇われた。悩んでいるうちに、とうとうアンジールはジェネシスのパジャマにまで手を掛け脱がし始めると、直接ジェネシスの地肌に触れてきた。
「あ、アンジール── っ」
どう考えても、とっくに悪ふざけや冗談などの範疇を超えている。幼馴染みだからこそ分かる。アンジールは本気なのだ。真面目に性的な行為をジェネシスに求めようとしている。問題はむしろ、アンジールがどこまで進める気があるのか── だった。お互いに触れ合い抜き合いなどして精を吐き出し、それなりに気持ち良くなれれば満足なのか。それとも、最後まで── を望んでいるのか。
逡巡しているうちにアンジールの愛撫の手は進んでいく。腹筋をなぞった指先は胸元まで這い上がり、突起の先端を摘まんだ。一方で身体のあちらこちらにキスをされ、舌を這わされた。困ったことに嫌悪感はほとんど無く、体温が上昇し血流が一カ所に集まっていくのが自分でも分かった。
それはアンジールにも悟られたらしく、アンジールの右手は下半身へと移動し容易くパジャマの内側へ滑り込んだ。そうして緩く勃ち上がったものを掴まれてしまうと、もう言い逃れは出来ない。明らかにジェネシスの身体は反応し悦んでいる。ただ、このまま流されるように受け入れるのも怖くて精一杯の抵抗を示した。
「やめ……ろ、アンジール」
力で敵わないことは解っているが、この状況をなんとか打破しようと必死にアンジールの身体を押し遣る。しかし、相手に急所を握られた状態で渾身の力を込めることなど不可能だった。アンジールの右手が動き前後に扱かれると、あっという間に力が抜けてしまう。
「はっ……あっ……!」
友人にこんな恥ずかしいことをされ、あまつさえ感じている。あられもない醜態を晒している自分が情けなくて目許が潤んだ。これは決して官能による涙ではない。羞恥ゆえだ。そう自分に言い聞かせながら、ジェネシスはぐっと目蓋を閉じる。
ジェネシスの困惑ぶりはアンジールにもよく伝わった。だが、これはほんの序盤。ジェネシスには、もっと深い混迷に陥って貰わなくては── 。アンジールは無情にも右手の動きを加速させる。
「あっ! や、はぁ……ああっ……!」
たちまちアンジールの手のひらがジェネシスの白濁でまみれる。堪えきれなくて吐き出してしまったことが恥ずかしくて、ジェネシスはアンジールから目を背けるように枕に顔を埋めた。相反してアンジールは何でも無いことのようにサイドテーブルに置いてあるボックスからティッシュを何枚か引き出すと右手を拭う。再びサイドテーブルの方へ手を伸ばすと、今度は一番上段の抽斗を開ける。そうして、ゆっくりとした動作で中を探るとひとつの瓶を取り出した。
その抽斗にはもともといろいろな種類のオイルが入れてあった。任務中、なにがしかのオイルを持っていると意外と役に立つ。加えて趣味のカメラを手入れする際にも必要なためアンジールは幾つかのオイル類を常備しており、その中から潤滑油になりそうなものを選び取ったのだ。
瓶の蓋を慎重に開け、右手のひらに充分な量の潤滑油を垂らす。それから中途半端に脱がされたジェネシスのパジャマのズボンを、下着ごと残りの手で一気に引き下ろした。戸惑いの色を顔に滲ませるジェネシスに構わず後孔に右手を伸ばすと、躊躇いなく人差し指をそこに突き立てた。
「あっ、嫌だ……アンジール!!」
吐精したばかりで呆けていたジェネシスも慌てて拒否の意を見せる。いくら幼馴染みとはいえ、いくらお互い裸を見慣れている間柄とはいえ、いや、だからこそ一番触れられたくない場所だった。既に侵されたくない領域に踏み込まれてはいるが、さらに一線を越えてしまうのはもっと怖い。嫌悪感というよりは恐怖心が強かった。
ともかくアンジールを退けようとジェネシスは上半身を起こして、アンジールの肩口を掴んだ。しかし、それは一瞬のことで、次の瞬間には浮かした上半身を押さえ込まれて、再びベッドへと沈められていた。力が抜けているとはいえ左腕だけの力で簡単に押し倒されてしまうなど、到底信じがたい。それだけ、渾身の力を込めているのだ。改めてアンジールの真剣さがひしひしと伝わり、ジェネシスは戦いた。
「ジェネシス、お前は一度完膚なきまでに征服され支配される経験を味わうべきだ」
やけに落ち着いた諭すような、かつ反論など許さないような強い口調だった。自分に対し、こんなにも強硬な姿勢を崩さないアンジールは初めて見る。思わぬことに動けずに固まっていると、遠慮なくアンジールの指が奥へ奥へと分け入ってきた。官能によるものか恐怖によるものか、焦燥か期待か。ジェネシスの目許には涙が浮かび、額には汗が滲む。
後孔に差し込まれた指は一本二本と増やされて、徐々に拡張を進めていく。身を固くして拒否しているつもりでも、潤滑油の効果かアンジールの指はきわめて順調に後孔を解していった。ついにはアンジールの指先がジェネシスの敏感な部分に触れ、びくりと全身が跳ねる。抵抗しようと強張っていた身体も一気に力が抜けてしまう。ジェネシスの身体が弛緩した頃合いを見計らって後孔から指を引き抜くと、アンジールは自身のパジャマのズボンも下ろし屹立した雄を取り出した。
朦朧として半ばされるままになっていたジェネシスも、猛々しい一物を認めると咄嗟に腰を引いた。幼馴染みとはいえ勃起した状態のものを目にしたことは今まで無かった。初めて見たものが想像以上に雄々しく、すっかり怯んでしまったのだ。ジェネシスの引けた腰を両腕で押さえつけて、アンジールは強引に自分自身をあてがってくる。
「やめ……無理、そんなの無理だ、アンジール! やめてくれ……!」
後孔にあてがわれた陰茎は、ジェネシスの意思に反するようにじわじわと侵蝕を開始する。多少の苦痛は伴ったが、充分に解され潤ったそこはアンジールの侵入を拒むことはなく、括約筋を押し広げながら少しずつ沈み込んでいく。
「いや……だ」
往生際悪く身じろぎして逃れようとするジェネシスの腰を、アンジールはさらに両腕に力を込めて固定してやった。反動でずぶりと亀頭部分が一気に潜り込む。
「駄目……だ、アンジール。そんな、大き……の。嫌だ、無理……」
目許に涙を浮かべ懇願するジェネシスに対して、安易に絆されることもなくアンジールは飽くまでマイペースだった。
「大丈夫だ。もう一番太いカリの部分は飲み込んでいる。もう少し我慢しろ」
「んっ……くっ!」
アンジールに叱咤され、ジェネシスは涙目のまま歯を食いしばった。どうあがいてもアンジールは途中でやめるつもりなどないのだ。幼馴染みの頑固さは誰よりもよく解っている。こうなってしまった以上、ジェネシスも諦めて受け入れざるを得ない。圧倒的な質量を持ったものが自身の裡へと深く入り込んでくるのは、なんとも云えない奇異な感覚だった。経験したことのない圧迫感と痛みに、ただ息を詰めて耐えるのが精一杯である。
「全部、入ったぞ」
憔悴しきったジェネシスにはアンジールの言葉に返事をする余力さえなく、虚ろな瞳で見返すことしか出来なかった。
苦痛は覚悟していた所為かさほどではなかったが、自身の中枢を他者に貫かれているという事実はジェネシスの心を根元から折ってしまいそうだった。たったこれだけのことで自分の身体から自由が奪われ、思うように動かすことも出来ず他人の支配下に置かれてしまうのだ。否が応でもなく屈服させられてしまう。軍隊内部の制裁や拷問で、時にはレイプが行われる理由を身をもって思い知らされた気分だ。ふとしたことで自暴自棄になってしまいそうで、自分を律すること自体が難しい。
「どうした? まだ終わりじゃないぞ」
無意識に逃避していたジェネシスの思考を、アンジールの一言が一瞬で現実へと引き戻す。挿入だけでも許容範囲を軽々と越えているというのに、これで終了ではないという宣告を受けてさらなる絶望感を覚えた。
ぎちぎちという音がしそうなほどアンジールの肉塊は隙間なくびっちりとジェネシスの孔に収まっている。全てを飲み込んでびくりともしない。これを、さらに動かすというのか。── 無理だ。耐えられない。緊張と未知の行為への畏れから、ジェネシスの顔には止めどなく汗が伝う。
一応、アンジールもジェネシスの身体を多少は気遣っているのだろう。ゆっくりと、しかし、大きな動きでアンジールは腰を前後にグラインドさせた。途端に、咥えていただけで止まっていた時とは全く違う感覚がジェネシスを襲う。入り口ぎりぎりのところまで引き抜かれ、また奥深くまで押し込まれる。今までの苦痛とは比べるべくもない。思わず苦しげな吐息が洩れる。ジェネシスの状態を窺うようにアンジールは時には動きを止め、落ち着くとまた動かすを繰り返した。
皮肉なことに予め潤滑油で解されていた所為か、次第に苦痛以外の感覚も感じ取れるようになってきてしまう。アンジールの動きが挿入の時ほど強引ではなく、徐々に優しく緩やかになっていることも起因しているだろう。
押し込まれ、引き出された時に、カリの部分がジェネシスの内壁を擦る。すると自分の意思に反して腸壁の襞が、ねっとりと肉棒に絡み付いていくのが分かった。吸いつくように纏い付き、離さない。これでは、まるで自らアンジールを求めているようではないか。
実際、襞をカリで引っかくように刺激されてジェネシスの身体は熱く滾っていく。快楽など感じたくないのに、身体は悦びに打ち震えているのだ。幼馴染み、それも親友とのセックスだというのに── だ。自尊心が打ち砕かれるような思いと、この状況で快楽を覚えている自分の不甲斐なさに打ちひしがれ、涙が頬を伝い落ちる。
「あっ、ああ……はあっ……!」
ジェネシスの葛藤をよそに、アンジールはしっかりとジェネシスの両脚を抱え上げ結合を深くしながらも律動を続ける。応じるように室内に響く喘ぎ声。感じまいとしているはずなのに、与えられた愉悦を発露するかの如く勝手に嬌声が洩れ出てしまう。自分が発しているとは俄に信じられないほど淫らな声に、ジェネシスは思わず片手で己の口許を抑えた。
「意外に感じているようだな」
アンジールは観察しているかのように、一貫して冷静だ。それがまた悔しい。快楽は挿入している側の方が大きいはずなのに、ジェネシスだけが感じているような錯覚に陥る。
ジェネシスが感じていることを認めた所為か、アンジールの動きが少し変わってきた。規則的にただ同じ律動を繰り返すのではなく、内壁を探るように肉棒を円を描くように廻してくる。目まぐるしく変化する内部への刺激に目眩がしそうだ。試すように色々な箇所を刺激され、翻弄される。そうこうしているうちに、特に鋭敏に感じる箇所をアンジールの雄が掠めた。
「はっ! あっ……ああーっ!!」
あまりの刺激に堪えきれず絶叫してしまう。そこが弱いと自ら暴露するようなものだ。案の定、アンジールはその箇所を重点的に狙いながら律動を一段と激しくする。
前立腺への強い刺激にジェネシス自身も高く聳え立ち、先端からは愉悦の蜜がとろとろに滴っていた。もう、羞恥も躊躇いもない。なけなしのプライドなどとっくに瓦解している。それよりも、一刻も早く吐き出して楽になりたかった。
「あ……アンジール、い、イか……せて」
いくら強い刺激と官能に苛まれているとはいえ、全く初めての男同士のセックスである。さすがに後ろだけで達するのは難しいらしく、ジェネシスは焦れったそうに身を捩らせていた。アンジールはジェネシスの下半身を抱え直すと右腕だけでジェネシスの片脚を抱え、残った左手でジェネシスの陰茎を握り込む。その体勢で腰をグラインドさせ、タイミングを合わせながら左手で扱いてやると、呆気ないほどあっさりとジェネシスは絶頂を迎え果ててしまった。
左手に溢れた白濁は、一度目の射精より多かったかも知れない。アンジールもジェネシスが達したタイミングで、彼の裡に欲望を注ぎ込む。だが、茫然自失となったジェネシスは中に出されたことすら知覚していないようだった。それどころか動くことさえままならない様子で、汚れた身を拭うこともせず黙って天井を見詰めている。
アンジールは手近にあったタオルを手に取り、ジェネシスの身体を拭いてやった。どうせ汚れてしまったシーツやパジャマもあとで洗濯しなければならない。少しくらい洗い物が増えても構わなかった。本当ならシャワーを浴びた方が良いのだろうが、今のジェネシスはとても起き上がれそうにない。もし、このまま眠れるのなら寝かせてやった方が良いだろう。
幸いパジャマの上着はほとんど汚れていないようだった。使用しなかったジェネシスのベッドも汚れていない。汗と汚れをタオルで拭い終わると、なるべく振動を与えないよう慎重にジェネシスを彼のベッドに移動させた。それから、アンジールはパジャマの上着だけをジェネシスに着せ、布団を掛けてやる。
茫然としているのか陶然としているのか、あるいはその両方なのか。未だジェネシスは虚ろなままだったが、ベッドに寝かせてその柔らかい赤髪を撫でてやっているうちに少し落ち着いた表情に戻り、やがて眠りに落ちていった。ジェネシスが寝たことを確認すると、アンジールはバスルームへと向かう。身体を洗いたいというよりは、気分を切り替えたかった。先程までの艶めかしくも可愛らしいジェネシスの表情や媚態を思い起こすと、シャワーでも浴びて火照った身体を冷まさなければ眠れそうにない。警告程度のつもりが結局最後までしてしまったことに後悔はなかったが、これ以上の深みに嵌まるのは危うい気がした。
翌朝、ジェネシスが目を覚ますと既にアンジールは身支度を終えていて、「起きたか? シャワーを浴びた方がいいぞ」と声を掛けながらジェネシスの頭をぽんと軽く叩いた。アンジールは演習でもあるのか早々に部屋を出て行ってしまい、一人部屋に残される。それからようやく身体の節々が痛いことに気が付いて、昨夜の出来事がありありと脳裏に蘇った。
途端に身体が熱くなり、頬が紅潮するのが自分でも分かる。大切で信頼していた幼馴染みであり、一番の親友でもあるアンジール。彼と越える気のなかった一線を越えてしまい、しかも嫌ではなかった。あまつさえ、かなり乱れた姿を晒してしまった自覚がある。
いくら好意を持っていたとはいえ、それは飽くまで友人としてだ。それ以上の関係など想像したこともない。これから、いったいどんな顔をしてアンジールとひとつ部屋で暮らせばいいのだろう。いっそ嫌悪感でもあれば、もう二度と触れるなと拒絶することも出来たかもしれない。アンジールを拒絶するなど想像するのも難しいが。
何より一番の問題は、あれだけのことをしてしまったのにアンジールの真意が分からない、ということだ。結局のところアンジールは自分のことをどう思っているのだろう。飽くまで友人として悪ふざけが過ぎただけなのか、あるいはもう友人としては見てもらえないのか。そもそも好意ゆえの行動だったのか。自分に対する嫌悪が募ったゆえの極端な嫌がらせという可能性もあるのではないか。
こんな風に思い悩んでしまうのは、アンジールならばもしジェネシスを友人以上に意識し、愛情ゆえに抱きたいと思ってくれたのなら、行き成り押し倒したりせず、先ずはきちんと告白してジェネシスの気持ちを確かめるはずだと思うからだ。
だが、昨夜のアンジールは「好き」だとかそういう類いの言葉は一切発しなかった。それどころかジェネシスの意思を全く尊重せず、身体ごとねじ伏せるような不遜な態度ではなかったか。記憶が曖昧で定かではないが、アンジールは征服とか支配とかそんな言葉を使っていたような気がする。つまり、好意とは掛け離れているのではないだろうか。
好意ゆえ衝動を抑えられず、ああいう行為に走ったというならば許せるのに── 。
そこまで思い詰めてから、はたと我に返る。これでは、まるで自分がアンジールに恋慕しているようではないか。
そうではない。友人としてはもちろんアンジールは大切だし好きだが、それは決して恋情ではない……多分。
アンジールのことを考えれば考えるほど熱く滾ってしまう身体をジェネシスは無意識のうちに自分で抱き締めていた。
いつまでも昨夜の情交を思い起こして耽っている訳にもいかない。ジェネシスにだって任務があるのだ。1stでもないのに、放棄は許されない。まだ昨夜の気怠さを引きずった身体をなんとか起こして立ち上がると、重い下半身に鞭を打ちシャワールームへと向かった。
任務の間は、どうにか仕事に集中して、昨夜のことは考えないようにした。仕事は仕事と割り切ることが出来るので、その辺の切り替えは楽な方だ。しかし、任務が終わりプライベートな時間に変わると、切り替えは難しくなる。ソルジャーになってから初めてアンジールと同室であることを恨んだ。自室に戻れば嫌でもアンジールと顔を突き合わせなければならない。
恐る恐る自室のドアを開けると、既にアンジールは部屋に戻っており洗濯機を回していた。「おかえり」と声を掛けてくるアンジールは至っていつも通りだ。帰宅するまでに、散々逡巡していたジェネシスは却って拍子抜けしてしまう。しかし、アンジールが洗濯している物が昨夜汚してしまったシーツやパジャマであることに気が付いて、思わず身体が竦む。やはり、アンジールと一緒に暮らして今後、昨夜のことを意識しないで過ごすなど無理だ。みるみる頬が紅潮していき、嫌な汗が全身に滲んでいく。
一方で、意識しすぎるぐらい意識している自分が馬鹿馬鹿しくなるほどアンジールは普段通りに振る舞っていた。あまりにもいつも通りで昨夜のことは夢ではなかったか、とさえ思う。だが、室内に干されたシーツやパジャマが自然と視界に入ってきて、その考えを打ち消した。結局、アンジールは全く昨夜の事に触れず、ジェネシスもまた自ら問うことも出来ず消灯の時間を迎える。
いざベッドへ入ろうと思うと、無意識に身体が身構えてしまう。アンジールが普段通りに振る舞っているのならば、自分もそれに合わせるべきだと分かっているのだが、そう思う通りにはいかない。半分まで身体に上掛けを被せるのだが、なかなか完全には潜り込めないでいた。どうしても昨夜の情交が脳裏から払拭出来ない。また今夜も……という思いが心のどこかを占拠して、しぶとく陣取っている。焦燥と不安と緊張から、鼓動が逸り、忙しく脈打つ。
薄明かりの中、ベッドに入るのを中途半端に躊躇っているジェネシスにアンジールも気が付いたらしい。
「そんな顔をしなくても、今夜は何もしないから安心しろ」
優しいとも冷たいとも取れるような落ち着いた声音。ジェネシスは半端に被った上掛けを握り締めながら、アンジールの方を見た。
「あれはペナルティだ。一度きりの── 」
低い声が静かな部屋に響いて、反射的に身体が萎縮する。
「しかし、少々やり過ぎたな。もう二度としない。だから、お前も意識するな」
アンジールは嘆息混じりに告げると、深く布団を被り直してジェネシスの方へ背を向け、寝る体勢になった。
あまりにも一方的な態度にジェネシスは唖然としてしまう。もう二度としないと云われて、安心すべきなのに身体は却って硬直した。
怒りゆえか、焦りゆえか、悔しさゆえか。苛々したものが身体の下から上の方へと這い上がっていく。少なくともそれは安堵ではなかった。気持ちのやり場が見つからないまま、ジェネシスも布団を被り無理矢理に目を瞑った。
to be continued
2015/2/13-14
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