月齢 (1)
野営の準備も終わり、皆が明日のミッションに備えて各自就寝準備に入っていた頃。
人目を忍ぶように密やかに二つの影が、野営のテントから離れていった。
照明器具も使えない為、月明かりだけを頼りに数本の木が乱立する小さな林に辿り着く。
前方を誘導するように歩いていたジェネシスは、手頃な木を見付けると身を翻しその木に背中を凭れさせ、後続のアンジールを見詰める。誘うようにすっと両手を伸ばして、艶のある笑みを湛えて、アンジールを待ち構えるジェネシスに、アンジールは少し眉間に皺を寄せ渋々といった体で近付く。そして、ジェネシスに応えるように彼を自分の身体と木の間に挟むようにして包み込んだ。
「こういうのは、あまり感心出来ないな」
重い口調で戒めるアンジールの言葉が、まるで聞こえていないかのようにジェネシスはくすくすと笑いを零すとアンジールの頬に手を添え口付けを求める。その求めに応じてしまうところがまた甘いのだとアンジールは内省するのだが、拒否するという選択肢も無かった。
「ん……」
甘い声を洩らしながら、ジェネシスはアンジールと少しでも深く密着しようと両手を彼の背中や首に廻し、しがみつく。
「やっぱり、戻らないか?」
「嫌だ」
何とか宥められないかと説得を試みるアンジール。だが、ジェネシスは意に介さない。
「明日はミッションがあるんだぞ?」
「だからこそ── じゃないか。ミッション前で昂ぶっているんだ」
ジェネシスはアンジールのインナーの上からでも筋肉の形が分かる程の逞しい胸板に顔を埋ずめ、陶酔しきった表情を見せる。
「この高揚感を鎮めて欲しい。今のままじゃ、眠れそうもない」
更に、「ミッション前に眠れない事の方が問題だろう?」と、確信に満ちた笑みでアンジールの顔を見上げた。
この悪魔め── アンジールは心の中で悪態を吐いて、ジェネシスの顔を上向かせると濃厚な口付けを施した。同時に、彼の身体を胸元や腰回りを中心にまさぐって、サスペンダーをずらしベルトのバックルに手を掛ける。我が儘な割りにあまり乱暴にされるのを好まないジェネシスの為に、慎重にベルトを外しファスナーを下げ、必要なだけ下着ごとボトムを下ろしてやる。
曝け出された既に熱を帯びているジェネシスの中心をゆっくりと扱いてやりながら、残りの手でアンジールも自身のベルトを外し、やはり必要なだけ下半身を露わにする。
ジェネシスの身体を反転させ木の方にしがみつかせると、ジェネシスを扱いた時に指先に付いた先走りで以って後孔を少しだけ解し、早々にアンジールは自分のモノを突き立てる。ジェネシスは焦らされるのは嫌いなのだ。
碌に解していない状態では苦痛もそれなりにあると思うのだが、ジェネシスは貪欲にアンジールを呑み込むと直ぐに切なげな吐息を洩らし始める。何度も繰り返された行為により、ジェネシスの後孔はアンジールを容易く受け入れられる程に馴染んでしまっているようだ。
2ndや3rd達が就寝準備を済ませ、各自テントに収まった事を確認したセフィロスは、自身も野営のテントに戻り就寝準備に掛かろうとした。そこでようやく親友二人の姿が無い事に気が付く。
ジェネシスだけならば兎も角、アンジールも一緒なら心配する必要はないと思うのだが、もしかしたら居なくなったのはジェネシス一人でアンジールはジェネシスを捜しに行ったのかも知れない。気紛れなジェネシスなら有り得る事で、セフィロスも二人を捜しにテントの外に出た。
野営のキャンプから少し離れた場所まで移動し、耳を澄ませる。セフィロスが意識を集中させれば常人では到底認識出来ないような微弱な音も拾い上げる事が可能なのだ。僅かに北東の方角から息遣いのような音が聞こえる。モンスターのものではなく、人間のものだ。セフィロスは真っ直ぐそちらの方角へと歩を進める。近付く程に、その息遣いは荒く苦しそうな乱れたものである事が分かった。これが、ジェネシスやアンジールのものだとすれば、二人の身に何事かがあったのかも知れない。セフィロスの歩みは無意識に速まった。
やがて前方に小さな林が見えてきた。息遣いの音もその場所から聞こえてくるようだ。セフィロスは更に歩を速め林に近付こうとした。が、その林の中で親友二人が重なるように身を添わせている事に気が付いて、咄嗟に近くの木に身を隠す。既の所で二人には見付からなかったようだ。
二人の姿が、月の光に照らされて幻影のように浮かび上がる。
荒い息遣いの主はジェネシスだった。木の幹に縋り付き、苦しそうに顔を歪めている。背後に立つアンジールの息も上がってはいるがジェネシス程ではない。
二人が何をしているのか、最初セフィロスには分からなかった。ただ、眉間に皺を寄せ息を荒げるジェネシスの姿は苦痛に耐えているようにしか見えなかった。だが、同時にアンジールがジェネシスに対しそのような負荷を強いるだろうか、という疑問も浮かぶ。
「ああっ……くっ、ふ……ン」
屋外での人目を憚るような行為に曲がりなりにも遠慮していたらしい。それまでは息を吐くだけにとどめていたジェネシスが、堪え切れなくなったのか突如艶のある声を洩らし始めた。木にしがみつく手にも力が入り、指先で木の肌を掻き毟る。そのジェネシスの様を見て、セフィロスはジェネシスの表情に顕れているのは苦悶ではなく恍惚なのだと閃くように理解した。
「あっ、アンジール……」
ジェネシスは振り絞るように名を呼ぶと顔だけを背後に向ける。その挙動だけでアンジールは幼馴染みの求めるものを理解したのだろう。片手を木の幹に添え身体を支えると、やや身をかがめ体勢を斜めにしてジェネシスに口付ける。この時、二人が少し身体の位置をずらした為、セフィロスの位置からも二人の結合部が確認出来た。
親友二人の生々しい情交の現場を目の当たりにして、セフィロスの深奥部も熱くなる。友人に対して欲情を覚えている自身に戸惑いを感じたセフィロスは途端に居た堪れない気持ちになり、それ以上二人の姿を見続ける事が出来ずそっとその場を立ち去るしか無かった。
ミッションを完遂し神羅ビルに帰投した後も、セフィロスの脳裏にはあの夜の二人の姿がこびり付き払拭する事が出来ない。
仄かな月の光を浴びて、紅い外套と黒い制服がまるで違う色に見えた。別次元で行われている事のように現実味が無く、それでいて非道く艶めかしい密事。
苦しんでいるように見えたジェネシスの愉悦に満ちた表情。揺さぶられて前後に揺れる朱髪。緩やかに撓る身体。木の幹に縋り付く赤い革手袋を嵌めた手までが官能的で悩ましかった。
以来、セフィロスは二人の姿を見掛けると無意味に困惑した。アンジールが何気なくジェネシスの肩や背中に手を掛けるのさえ一々反応して動揺してしまう。勿論、その動揺を悟られぬよう面に出す事はなかったが、努めて冷静を装うとして過剰に困憊していた。
「セフィロス、お前、俺に何か言いたい事でもあるのか?」
ソルジャーフロアのロビーで偶々二人きりになった時を見計らったように、ジェネシスから質問をぶつけられた。ロビーのソファで隣に腰掛けていたジェネシスは黒い携帯端末をいじる手を休めると、セフィロスの方を向いて質問を重ねる。
「最近、俺の顔ばかり見てるだろう?」
アンジールとジェネシスの事は出来るだけ意識しないようにしていたが、流石にジェネシスの事を完全に意識の外に追いやる事は出来なかった。どうしても顔を合わせる度に、あの夜の恍惚に浸りきった表情を思い浮かべてしまう。あの表情をもう一度見たいと思ってしまっているのかも知れない。セフィロスは質問に答えられず、また改めてジェネシスの顔に見入ってしまった。
「── セフィロス?」
小首を傾げ、確認するようにセフィロスの顔を覘き返し片手をその頬に添える。ジェネシスに直接触れられてセフィロスの鼓動は呼応するように逸った。この顔があの表情を表出し、この身体があの媚態を演じたのだ。
セフィロスを見詰める透き通ったペールブルーの瞳。純真無垢で穢れのない清廉さの奥に魔性を潜める。この瞳に魅入られたかのようにセフィロスの顔はジェネシスの顔に吸い込まれ近付く。すると、応えるようにジェネシスの顔も近寄り、自然に唇と唇が触れ合った。セフィロスはそのままジェネシスの唇に貪りつきたい衝動を抑え、ジェネシスの肩に手を掛けて押し遣ると、どうにか身を離す。
「どうした? 俺とキスしたいんじゃないのか」
セフィロスの煩悶を余所にジェネシスの口調はあっけらかんとして軽い。
「しかし、お前にはアンジールが……」
ジェネシスもそうだがアンジールも大切な親友だ。もし、ジェネシスとアンジールが特別な関係にあるというのならば、自分が今ジェネシスに行おうとした行為は親友への裏切りとなる。とてもアンジールに申し訳が立たない。
「── なんだ。俺達の関係に気付いてたのか」
ジェネシスはセフィロスの方を向くのをやめ、身を投げ出すように深くソファに腰掛け直し。
「ああ、だから最近、俺達の事を気にしてたんだな」
右手を口許に当て、得心顔で呟く。その言葉にセフィロスは微かに身を揺らす。やはり、平静を装っていたつもりでも気が付かれていたらしい。
「何時、気が付いた?」
ジェネシスは足を組みながら、セフィロスの方に目線を流し訊く。その顔は愉しげに笑んでいる。
何時── と、問われて当然セフィロスの脳裏にはあの夜のあの二人の情交の様が蘇ってしまう。ジェネシスの顔を見ていられず、らしくもなく目線を外した。俯くセフィロスを窺うように眺め、ジェネシスは意地悪く口角を上げ更に続ける。
「ここ最近だとしたら、この間のミッションの時くらいしか、俺には心当たりがないんだが……」
反射的に跳ねるように身を起こし、ジェネシスを見詰めるセフィロスの姿に、ジェネシスは確信を得る。
「クク……やはり、あの晩か」
ジェネシスは行為を見られた事自体は別段気にしていないかのように、さらりと種を明かす。
「残念ながら、アンジールとはベタベタした甘い関係じゃないんだ。あの晩以降はキスもしていない」
つまり、二人の関係性がばれるような事はあの夜以降はした事がなかった。そして、セフィロスの様子が若干おかしいと感じるようになったのも丁度あのミッションの後。
「それで── 英雄殿は男同士のセックスに興味が? それとも、俺自身に……?」
誘うような煽情的な瞳で見詰めながら、柔らかい栗毛をゆったりと掻き上げる。その妖艶な笑みに再びセフィロスは引き込まれ、吸い込まれるように顔を寄せる。加えて導くよう頬に片手を添えられ、今度は躊躇いなくキスを交わした。
夕闇で微妙な明度に包まれる誰も居ないソルジャーフロアのロビーで、じっくりと探るように舌を絡ます。
セフィロスも逃すまいとするかのように、ジェネシスの頬に手を添えその顔を固定する。このまま押し倒して、衣服を剥ぎ取り犯してやりたい衝動に駆られながら、貪欲に口内を荒らす舌の動きはますますエスカレートしていく。
ジェネシスとの官能的な唾液の交換に夢中になったセフィロスは、勢いのままにジェネシスのコートの内にその手を忍ばし、まさぐり掛けた。その時。
ジェネシスの手が、インナーの裾の中にまで忍び入ろうとしたセフィロスの腕を徐に掴んで制止する。
「勘違いするな。俺は、『何時でも、何処でも、誰でも』オッケーな訳じゃない」
まさか、ここに来て拒絶の意を示されると思わなかったセフィロスは暫し固まる。飽くまでも不敵な笑みを保つジェネシスに、セフィロスはこの内なる衝動を抑えきれなくて、焦りと困惑を露わにする。その両の手は、ジェネシスの腕や腰を掴みかけたまま動かない。
「そんなに、この俺が欲しいか?」
平時の英雄であれば決して見られない表情と態度が珍しくて、つい揶揄いの言葉を掛ける。
「どうすれば、お前を手に入れられる?」
英雄らしい、不遜で迷いなき質問。思わずジェネシスも苦笑を洩らす。
「クク……そうだな。確かに、誰でもいい訳じゃない。が、あんたは『神羅の英雄』だ」
ジェネシスは、品定めでもするかのようにセフィロスの顎に指を滑らせ、その顔を上向かせる。
「一度くらいなら、試してやってもいい── 」
そうして、すっくとソファから立ち上がると一度背を見せてから振り返り、更に続けた。
「但し、場所はあんたの部屋にしてくれ」
神羅のソルジャーには専用の宿舎が与えられており、アンジールやジェネシスも其所に居室を構えていた。
二人は隣室で、且つ幼馴染みという気安さもあり、ジェネシスは良くアンジールの部屋を訪れた。
アンジールがソファに座り、次のミッションの為の資料と睨めっこしている一方。ジェネシスは、まるで自分の部屋で寛ぐようにブーツを脱ぎ、ソファの横に立て掛けると、アンジールに寄り添うようにして隣に腰掛ける。
相変わらず資料に夢中のアンジールは、寄り掛かるジェネシスに一瞥もくれない。ジェネシスはジェネシスで、アンジールの邪魔をする勢いでしなだれかかる。甘えたいのだろうと思って、アンジールもジェネシスの存在を無視するかのように放置していた。
だが、ジェネシスの右手は露骨にアンジールの股間辺りに指を這わせる。上下になぞるように行き来するそれは、アンジールを誘っているようだった。
「ジェネシス、今はそういう気分じゃないんだ」
明日のミーティングに備えて綿密なプランを立てなくてはいけないアンジールには、今ジェネシスを構ってやる余裕がなく素っ気ない態度を取ってしまう。それでも、常ならジェネシスは更なる攻勢を仕掛け、アンジールが屈服するまで粘るのだが、今日は違った。
あっさりとアンジールから身を離すと、ソファに立て掛けたブーツに脚を通し始める。
ブーツを履き終わり、ソファから立ち上がると、何でもない事のように軽い調子で言い放った。
「じゃあ、セフィロスの処に行ってくる」
アンジールの手元から資料がばさりと音を立ててテーブルの上に落ちる。
「どういう意味だ?」
ジェネシスの顔を見上げ、いつになく険しい表情でアンジールは詰問した。
「どうって、そのままの意味に決まってるじゃないか」
後ろ髪を掻き上げるジェネシスは答えるのさえ億劫そうだ。
「だって、アンジールはその気が無いんだろう?」
ならば、その気がある奴のところに行くと言わんばかりの挑発の言葉に、アンジールは思わず立ち上がりジェネシスとの間合いを詰める。ジェネシスの発言は本気であると感じたのだ。
ジェネシスが自分を求めてくるのには月の満ち欠けのように一定の周期がある。それは決して規則的ではなかったが、アンジールにだけは解る、アンジールにしか解らない周期。そして、確かにここ最近その周期に妙な間隔が空いていた。恐らく、その合間にセフィロスと関係を持ったに違いない。そう直感する。
引き止めなければ本当にジェネシスはセフィロスの処へ行ってしまうだろう。
アンジールは気が付くとジェネシスの身体をきつく抱き締めていた。ジェネシスとは恋人という間柄ではなかったが、幼馴染み以上であり親友以上の関係だった。例え相手が、幼馴染みが子供の頃から憧れ続けていた神羅の英雄であろうと、容易く他人に渡したくはない。
ジェネシスが僅かに身を捩らせ苦しそうな挙動を示したので、抱いた腕を少し緩めてやるとジェネシスの顎を捉えて上向かせる。
「ん……」
大人しくキスを受け、アンジールの背中に腕を廻してくるジェネシスは甘い歓喜を含んだ声音を洩らす。
そして、唇を外し再び深く抱き合うと耳元に唇を寄せ、アンジールの方から「ベッドに行こう」と誘った。ジェネシスは応えるようにアンジールを強く抱き返す。
その事があって以降、アンジールはジェネシスの周期を見計らって極力自分からジェネシスを誘った。そうすれば、取り敢えずジェネシス自ら積極的にセフィロスの処には行かないだろうという目算があったからだ。
だが、ミッションなど自由が利かないスケジュールも多々ある。どうしても、ジェネシスの相手をしてやれない時があった。だが、はっきり、セフィロスの処には行かないでくれ、と訴える事も出来ずにいた。
トレーニングルームで、それぞれが2nd達に訓練を付けた後。2nd達は先に退室し、ジェネシスとセフィロスだけが場に残った。
不意にセフィロスがジェネシスの背後から話し掛ける。
「一度試しただけで、後は音沙汰無しとはな。俺では満足出来なかったか?」
「別にお前に不満がある訳じゃないが、今のところ俺は充分満足してるんだ」
ジェネシスは後ろを振り返らないまま答える。
アンジールからの誘いが以前より積極的になって、実際ジェネシスはそれ以上を求める必要がないくらい充実し満ち足りていた。
セフィロスは後ろから更にジェネシスの側に近付くと、軽くその身体を抱き締め、耳元近くで低く囁く。
「俺は……まだ、満足出来ない。お前が── 足りない」
ジェネシスは斜め上方を見上げ、少し考えるようにすると、
「今は、アンジールが長期遠征中だからな。── 考えてやってもいい」
後頭部をセフィロスの胸元辺りに凭れ掛け、体重を乗せ全身で寄り掛かると、顔を上に向けて意味深な笑みを湛えセフィロスを下方から仰ぎ見る。その上向いた顎を捉えると、セフィロスは無理矢理にジェネシスの顔を後ろ側に向かせ強引に唇を奪った。
「フン、相変わらずな奴だな。だが、こんな場所じゃ御免だ。俺の……いや、お前の部屋なら行ってやっても構わないが── 。但し、するかどうかはまた別の話だ」
水面に浮かぶ浮き草のようにのらりくらりと躱し、すんなりと誘いに乗ってこようとはしないジェネシスに、セフィロスは苛々と渋そうに目を眇める。
「そんな顔をするな。考えてやるとは言ってるだろう? 後は、お前次第だ」
ジェネシスは、焦らすようにじっくりとセフィロスの頬に指を滑らせ、意味ありげに口角を上げた。
1st専用宿舎の最上階にあるセフィロスの自室に赴くと、ジェネシスは勝手にリビングのソファに腰掛け、脚を組み、寛いだ。
セフィロスが何かアルコールでも飲むか?と尋ねると、酒臭いキスもセックスも嫌だと突っ撥ねられる。
「アンジールなら、いつも林檎のフレーバーティーを淹れてくれる」
ソファの背凭れにしどけなく寄り掛りながら、セフィロスを煽るようにわざとアンジールの名を出し、妖艶な笑みを向ける。
生憎、アップルティーなど持ち合わせていなかったので、代わりにアールグレイを淹れてやった。神羅の英雄が、誰かの為に茶を淹れてやる姿など、宝条辺りが見たら卒倒するかも知れない。
とにかくセフィロスは今、気粉れなジェネシスの機嫌を損ねたくなくて必死なのだ。どうしても、もう一度ジェネシスを抱きたかった。一度だけでは、満足出来なかった。
ジェネシスはゆったりとアールグレイを口許に運ぶと、満足そうな笑みを浮かべる。ベルガモットのすっとした爽やかな香りが辺りを包んで、場には甘い雰囲気が漂う。セフィロスはジェネシスの隣に腰掛け、自身も一口アールグレイを啜った。
ちらりと隣を見て、様子を窺ってからジェネシスの方を向くと彼の顎を捉え上向かせる。どうやら、英雄が淹れた紅茶をお気に召してくれたようだ。大人しくうっとりと瞼を伏せるジェネシスに、ゆっくりと顔を近付けると最初は軽く頬に、続いて唇にキスをした。
緩く舌を絡ませ合いながら、お互い忍びやかに相手の肩や背中に腕を廻す。セフィロスは、性急過ぎないよう自身を制しながら努めて慎重に、薄目を開けてジェネシスの状態を確認しながら事を進める。
唇へのキスで、幾分ジェネシスが軽い陶酔の表情を顕したのを認めて、首筋の方に唇を移動させる。じっくりと味わうように頸動脈に這わされる舌にジェネシスの表情は更に喜色めいて、僅かに洩れ出る艶声にセフィロスの中心も熱く昂ぶる。
心持ちジェネシスの衣服を乱して、半ばソファの上に横たえるよう彼の身体を倒すと、ジェネシスはセフィロスの首に腕を廻し縋り付き「ベッドに行きたい」と甘えた声で囁いた。
初めてジェネシスを抱いた時、セフィロスはただただ、もう一度あのジェネシスの恍惚と悦楽に満ちた表情を見たくて常に冷静な彼らしくなく、その事で頭がいっぱいだった。だから、ジェネシスの顔が良く見えるよう正常位で行為に及んだ。だが。
「今日は、後ろからしたい」
ジェネシスをベッドに横たえさせ、キスを交わし合いながらお互いの着衣を脱がしあった後。セフィロスはストレートに要求した。すると、意外にもジェネシスは大人しく身体をうつ伏せてから身を起こし、四つん這いの体勢になる。
セフィロスの望み通りに後背位でひとつになって、なんの問題もない筈であった。が、同時に妙な苛立ちがセフィロスの胸中に這い上がる。背後から突き立てながら、ジェネシスの朱い後ろ髪を掴み無理矢理上向かせて自分の方に向けさせた。急に苦しい体勢を強いられ、ジェネシスは煩わしそうに眉をひそめる。
「お前の、顔が見えない」
「何、当たり前の事を言ってるんだ。後ろからしたいと言ったのは、お前だろう?」
セフィロスの更なる要求に、ジェネシスは今度こそは大人しく従わず抗議した。すると、途端にセフィロスはジェネシスを拘束するのをやめ、自身のモノさえも引き抜いてしまった。
「どうしたんだ?」
ジェネシスは、セフィロスの方を向いて髪を掻き上げながら不満の声を洩らす。と、その質問に答える事もせず、セフィロスは徐にジェネシスの腕を掴むとそのまま腕を引いてベッドから移動しようとする。不承不承ながら、セフィロスに腕を引かれ連れて来られたのはバスルームにある洗面台だった。セフィロスは尚も強引にジェネシスの腕を引き洗面台の前に立たせると、そこに両手を付かせる。ジェネシスが顔を上げ正面を見ると、そこには当然の事ながら、磨き上げられた大きな鏡面があった。
両手を付いて身体を支えるように立つジェネシスの背後から、セフィロスはジェネシスの腰骨辺りを掴むと一気に己れのモノを突き立てる。
「う! クッ……はぁっ」
一度受け入れたばかりとは言え、堅く大きな質量を一気に受け入れるのは負担が大きい。ジェネシスは出来るだけ自身の力を抜いて、息を吐きながら苦し気に身を捩り、セフィロスの全てが侵入し終えるまで耐えた。
セフィロスの雄が根元までしっかりと入ると、徐々に律動が開始される。正面の鏡には勿論ジェネシスの悩ましい姿が鮮やかに映し出されている。その姿を、じっくりと余すところなく観察しようとしてるが如く、セフィロスは乱暴に腰を動かすのではなく飽くまでもジェネシスの反応を確かめるようにゆっくりと腸内を探索し掻き回す。
ジェネシスよりも背の高いセフィロスに、立位で背後から突き立てられるとセフィロスの堅く屹立したものがより鋭角的にジェネシスの最深部まで突き刺さる。抉るように前立腺とS字結腸を同時に擦り上げられ、ジェネシスはたちまち追い立てられ直ぐにでも達してしまいそうだった。
「あ……ああっ、セフィロス! もう、やっ……め」
あまりに刺激が強すぎた為か、ジェネシスの声には許しを請うかのような懇願が含まれている。
しかし、セフィロスはセフィロスでそれどころではなかった。
鏡面の中であえかに撓るジェネシスの麗しい肢体。艶めかしい透き通るような雪肌。恍惚と愉悦、過ぎた快感故の苦痛さえ混じった表情。それら全てに夢中になったセフィロスには、ジェネシスの懇願など殆ど耳に入っていなかった。
ミッションの前日、あの晩見たジェネシスの官能的な仕草、声、表情。
あの時見たものよりも格段に刺激的なものが、今セフィロスの目の前にあった。しかも、ジェネシスをそこまで追い立てているのは自分なのだという征服感が更にセフィロスを行為に没頭させる。
「あ、あっ! イ……イク、セフィ── っ!」
ジェネシスの絶叫に近い嬌声が、バスルーム内に何度も響き渡った。床面には、汗と精液が混じり合った物がぽたぽたと滴り落ちる。
セフィロスが心ゆくまで満足を得、ジェネシスの中に己れの欲望を吐き出した頃には、既にジェネシスは何度も達せさせられており、流石に少し不快の表情を露わにしていた。事が終わって冷静になったセフィロスは、そこでようやくジェネシスの機嫌を損ねてしまったかも知れない可能性に気が付く。
「済まなかった」
洗面台の冷たい大理石の床の上にへたり込むジェネシスの近くに膝を落として座り込み、慌てて謝辞を述べる。気の強いジェネシスの事だ。平手の一発でも飛んでくるかと覚悟したが、意外にもジェネシスは媚笑を湛え抱きつくようにセフィロスの首筋に両腕を廻してきた。
「ジェネ……シス?」
戸惑いの声を発する英雄の耳元で、ジェネシスは甘く囁く。
「こういうのも、たまには良い。アンジールと違って……ゾクゾクした」
その悪魔のような蠱惑的な囁きに、セフィロスの方が完全に陥落してしまいそうだった。セフィロスは、尚も縋り付いてくるジェネシスをしかと抱き返し、彼をどうしたら完全に手中に収める事が出来るのかと思案する。
セフィロスは自分の立場を正しく理解していた。今はまだ、ジェネシスにとって自分は所詮アンジールの代わりに過ぎない。
誰かの代わりではなく、自分だけのものにしたい。自分だけを見て欲しい、自分だけが彼の全てを知りたい。
我欲のままジェネシスを思い通りに抱いた事により、却って新たな欲望の渦がセフィロスの胸中に嵐のように突然湧き起こり渦巻く。それは、望む物なら何でも手に入る、物欲的には何不自由ない生活を送ってきたセフィロスにとって、初めて芽生えた独占欲であった。
to be continued
2009/11/2-8
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