漆黒の森 (1)
そこは深い深い森だった。
迂闊に一人で出歩いたら、迷って抜け出せなくなってしまいそうな自然の迷宮。鬱蒼と木々が生い茂り、昼なお昏い暗澹たる黒い森。
だからこそミッションの拠点に選ばれたのだが。
やや大きめの規模のミッションがあって、珍しく1stであるセフィロス、ジェネシス、アンジールの3人が同行していた。赴任先はウータイの程近く。今回の任務は次なる更に大規模なミッション、つまりは戦争に向けた偵察。その為、拠点がこのような目立たない場所に設営されたのだ。
偵察任務とはいえ、いずれ勃発するであろう戦争に備えたもの。偵察というよりは侵入捜査、斥候に近い。かなり難易度の高いものだ。だが、あの類い稀なる実力と生来の才覚を兼ね備えたソルジャー1st達にとっては、さほど難しい任務ではなかったらしい。
その日も宵の口にはあらかた調査も終わって、簡素な夕食を終えた後にはアンジールが即席で作ってくれた肴を摘まみながら息抜きに酒盛りをしていた。とはいっても未だ任務中であることには違いない。酒盛りといっても酒量は微々たるものだった。
それ程酔ってはいないつもりであったが、久しぶりの飲酒であった所為か三人ともいささかテンションが上がり気味になっていたようだ。いくら三人にとっては難易度の低いミッションだとしても、しばらく緊張状態が続いていた中でのふとした息抜き。任務がほぼ終盤を迎えていた事も、より三人の気を緩みを誘った。
急ごしらえの酒席であった為、酒類や杯などは実に適当なものであった。ジェネシスは酒杯代わりのステンレス製マグカップを片手に、時折ワインを口に運んでいる。飲みやすく口当たりのいいハウスワイン。環境の悪い任地でわざわざ上等なワインを飲むのは趣味ではない。軽く酔えるだけの安酒で充分なのである。いや、それ以前にデリケートな高級ワインなどミッションに持ち込んでも管理が難しく駄目にしてしまうのが落ちだ。そういった案配で各々手近なカップと手軽な酒を手にし、ささやかな酒宴は進む。
この時、特に意図した訳ではないがジェネシスはアンジールの隣に座し、セフィロスは二人の対面に座っていた。いまや親友とも云える間柄となったが英雄の隣に座るのは未だに抵抗がある。それゆえジェネシスには無意識にアンジールの隣を陣取ってしまう傾向があった。アンジールはただの友人ではなく幼馴染みでもある。だから、アンジールに対する場合だけジェネシスのパーソナルスペースは極端に狭い。致し方ないところであろう。
この頃の三人はまだ完全に親友状態と云えるほどの親密さはなかったのかもしれない。否、周囲からはそう見られていたであろうが本人達は未だ親睦を深めている途上であった。だから、ただでさえ人見知りの激しいジェネシスはミッションに同行するような仲となっても、今ひとつセフィロスに心を許していない節があった。例え英雄補正が効いていても、それでもなおジェネシスの心の障壁は厚く高く聳える。ゆえに無意識にセフィロスを避けてしまう。
だが、ジェネシスのその無意識の行動がセフィロスの心奥にひずみを生じさせる。何故、同じ親友の筈なのに、こういう場では概してジェネシスはアンジールの隣を選ぶのだろうか、と。勿論、二人が竹馬の友だという事は充分に理解している。だが、セフィロスにもようやく友人として彼等の輪に受け入れて貰えたという喜びがある。誰かに同等の友人として扱われるという喜びが── 。その半面で、時折こうして見せ付けられるどうにも為らない距離感が羨ましくもあり、妬ましくもあり。一方で、自分に対する一向に縮まる気配のない距離感に虚しさや苛立ちを感じてしまう。彼等の輪に入れてもらったとはいえ、その実、ほんの外周部分までの立ち入りしか許されていないような歯がゆさ。セフィロスが疎外感を感じていたとしても、誰にも責められまい。
アンジールに関しては、セフィロスに対しても気安く接してくれるので不満はないのだが、ジェネシスの態度は対極的でセフィロスの事を本心では嫌いなのではないかと不安を覚える程だ。
こういった局面── 自然とジェネシスがアンジールの隣に座るような── には慣れているつもりだったが、この時は無性に苛ついてしまい、セフィロスはおもむろに席を立ち上がると杯を持ったまま移動して、強引にジェネシスの隣に座り直した。
「おい! 待て……セフィロス。なんでこっちに移動してくるんだ!? 狭いだろう」
大男二人に挟まれて、ただでさえ狭いテント内が更に狭く感じる。反射的にジェネシスの口元から苦情が洩れ出た。だが、それでもセフィロスはお構い無しといった風情で無言のまま杯を傾けている。
傲岸不遜な英雄には如何な苦言を呈しても無駄なようだ。しかし、ジェネシスにとって英雄の隣席など今まで意識的に避けてきた場所。遠慮したい位置関係である。しかも、反対側には自分を誰よりも知る幼馴染みのアンジール。アンジールに対するのとは逆に、セフィロスに対するパーソナルスペースは広いのだ。居心地悪い事この上ない。最悪だった。
あまりの居心地の悪さにジェネシスは顔をしかめ、不快感を顕わにした。そして、その居心地の悪さを何とか誤魔化そうと、ついつい杯を傾ける回数が多くなる。会話も殆ど交わさず、飲酒に逃避したのだ。その為、酒量は控えめにするつもりだったのに、思いの外過ぎてしまったらしい。
一瞬、くらりと眩暈のような感覚が襲って思わず瞑目する。危うく杯を取り落としそうになって、さすがにジェネシス自身もまずいと感じた。
「悪い。少し酔ったみたいだ。酔いを醒ましてくる」
簡潔に吐き出すとジェネシスは立ち上がり、セフィロスの背後を抜けて窮屈なテントから脱出する。内心、セフィロスの隣から逃れる上手い口実が出来たと思った。そうして、そろそろと宵闇に包まれた漆黒の森の中へ足を踏み入れる。酔っているとは云え、普段の酒量よりはかなり少ない。幾らか森の中を散策すれば酔いも醒めるだろう。
ジェネシスは引き止める間もなく酒席を中座して、夜の森へと出て行ってしまった。だが、もう夜もだいぶ深い。この暗闇の中、多少なりとも酔っている上に独りで深い森に分け入るのは非常に危険だ。
幼馴染みで心配性のアンジールは幼馴染みが心配で気が気でない。どうにも我慢が出来なくなったアンジールは間を置かず立ち上がり、ジェネシスの後を追うようにテントを飛び出した。当然、ひとり残されたセフィロスは面白くない。だいたい三人だけの酒席から二人も中座されてはセフィロスが残る意味もなく。だから、彼も渋々仕方なく……といった体を装いながらも二人の後を追った。これは、純粋に二人が気になった── というのもある。
外に出ると少し風が冷たい。これなら、幾らか風に当たっていれば、そのうち酔いは醒めてしまうかも知れない。だが、風が冷たいと感じたのはテントの外に出た直後だけで、酔いによる身体の火照りを醒ますまでには、なかなか到らなかった。
些少とはいえ酔った身体で見晴らしの悪い森の中を歩き回れば、ますます酔いは回り体温も上がる。しかも、昼間でも薄暗く視界が悪い場所だというのに、今や時刻は夜半。ほぼ暗黒に近い世界。木々の合間から差し込む僅かな月の光だけが探索の頼りであった。
それでも、セフィロスは幾許かでも酔った二人がそう遠くに行ける筈もないだろうと楽観していたのだが――。意外にも、なかなか二人の姿を見付ける事が出来ず。ようやく二人の痕跡を発見し、捉え、辿り、追い付いた時には、かなり森の奥深くにまで入り込んでいた。
暗い森の奥深く。天を覆う雲の隙間から僅かな月明かりが差し込むばかりで、視界はすこぶる悪い。
ひときわ大きな木の幹に背を預けるようにしてジェネシスは立っていた。恐らく、酔いが回った所為で支えがないと立っていられなかったのだろう。介抱しているのか、アンジールが何事か語りかけている。発見してもセフィロスは直ぐそばに近寄ることはせず、暫し二人の様子を窺っていた。どんな会話が為されていたかは分からない。だが、何事か語り合う二人の姿に再び疎外感を感じてしまい、近付くのを躊躇ってしまったのだ。
「わざわざ、お前まで来なくても良かったのに……」
「莫迦を云うな! こんな夜中に、しかも一人でだなんて」
「クク……全くお前は心配性だな、相棒」
悪態をつきながらも、ジェネシスの声音はどこか嬉しそうだった。アンジールはジェネシスの肩口近くの幹に手を付いて、真剣な面持ちで顔を近付ける。
「――心配性で悪かったな」
小さく反発するように吐き出したあと、表情を柔らかく変化させながら続けた。
「ジェネシス……お前のことだから、心配なんだ」
「アンジール?」
言外に、ジェネシスのことでなければ心配などしなかったと── そんな意を感じて、戸惑いを憶えた。何らかの違和感が場に漂っているのは、お互いに酔っている所為だろうか。
違和感の正体を探る間もなく、次の瞬間にはジェネシスの唇がアンジールのそれで塞がれていた。
キスされている── そのこと自体にさほど驚きはなかった。何故なら、アンジールとのキスはこれが初めてではない。幼い頃から神羅に入社するまで、ずっとそばにいた幼馴染みなのだ。今までも、ふざけてキスを交わしたことなど一度や二度ではない。
だが── 。
それは、明らかにいつもの『おふざけのキス』とは違う。戸惑うジェネシスの肩を抑え、身動き出来ないよう背面を木の幹に押し付けられた上で、それは続行された。ただのおふざけではない── 真剣なキス。
二度三度、食むようにジェネシスの唇を味わってから、次第に口腔内へと舌が忍びこんでくる。上唇をなで、歯列をなぞり、上顎にまで舌をすべらせる。
「んっ! ふ……っ」
一瞬の戸惑いこそあったが、ジェネシスも与えられる刺激を甘受し、また応じるように自分からも舌を絡ませていった。拒絶や嫌悪の気持ちは全くなかった。寧ろ自分を求めるように情熱的なキスを仕掛けてくるアンジールに対して、素直に嬉しいと感じていた。
長年ずっと幼馴染みで親友で、それ以上のものは無いと思っていた。だが、いま実際にこういう状況に陥って初めて、自分はただの友人以上のものをアンジールに期待していたのではないか、と── 。アンジールとこうなりたいという願望が潜在的に胸の奥底にあったのではないかと、そう思えてしまう程にジェネシスはアンジールを欲し更なる深い口付けを求めて彼の背中に両腕を廻した。
「ジェネシス! アンジール! そこにいるのか?」
不意にもう一人の親友から声を掛けられて、二人は少し身を離す。素面の時ならば、もっとはっきりと慌てて身を離したであろう。だが、二人は酔っていた。アルコールだけではなく、先程までの情熱的なキスが二人を更に酔わせていた。だから、身を離すといってもキスを中断した程度で、お互い相手の身体に這わせた両手を完全に引き離すまでは至らず。つまり、ほとんど抱き合っていた。
漆黒の闇夜の向こう、鬱蒼とした木々の合間から白銀の英雄が姿を現す。彼がこちらに近付く前にちゃんと身を離さなければならない。理解っているのに離れがたくて、なかなか腕を引っ込めることが出来ずにいた。ジェネシスの手が未練がましくアンジールの制服の裾をつまむ。
セフィロスの歩みは速い。例え足場の不安定な山道であっても英雄には関係ないようだ。地面に落ちた枝葉を踏み鳴らしながら、まるで街中の平坦な舗道を歩くか如く軽快な足取りで二人のもとへ近付いてくる。
「どうした? 悪酔いでもしたか、ジェネシス」
セフィロスが意地悪そうに悪態をつく。
恐らくアンジールから身を離せずにいたジェネシスが、具合が悪くてアンジールに身体を支えてもらっているように見えたのであろう。一応、心配しているらしい。
「いや、たいした事はないさ」
渇いた笑いと共に空いた手で赤毛を掻き上げ、いたって何でもなさそうな振りをする。
「大丈夫なら、もうテントへ戻ろう。偵察とはいえ、明日もミッションがある」
と、平静を装いつつ促すアンジール。
だが、いざアンジールがジェネシスの身体に掛けていた手を下ろし、完全に身を離そうとしたところでジェネシスは未だ裾を握りしめていた左手に力を込めて、引き止めた。アンジールが少し驚いてジェネシスの顔を窺うと、物足りなさげに見上げてくる。酔って目許が赤く染まっているのが泣き出しそうにも見えて── どうしてもアンジールはその手を振り払うことが出来なかった。暫し戸惑い、身動きすら出きずに固まっているとジェネシスは大胆にもキスを求めてきた。先程、途中でキスが中断されたのが余程未練だったらしい。
アンジールとてキスの続きをしたいのは、やまやまだった。が、今は至近距離でセフィロスが見ているのだ。この状況は、どうにも不味い。ジェネシスも多少酔いが廻っている所為か、冷静な判断が出来ていないようだ。考えあぐねたアンジールはキスを求めるジェネシスに対して、軽いキスで応じるのにとどめ、やんわりと身体を引き離した。
「悪いな、セフィロス。どうやらコイツはだいぶ酔っているらしい」
如何にも仕方ないという風を装い肩を竦め、眉尻を下げ苦笑を浮かべる。
「クク……そんなに酔っているなら、テントまで担いでいってやろうか?」
揶揄うように口角を上げながらセフィロスはジェネシスに近寄ると、ジェネシスが背中を預ける大木に手を掛けた。そして、ジェネシスの顔の両サイドに手を付く。セフィロスの両腕にジェネシスが挟まれる格好となり、今度はジェネシスの身動きが取れない。
セフィロスの介入により、不本意ながらアンジールと引き離されてしまったジェネシスは不服そうにセフィロスを睨めつける。そのジェネシスの唇は先程までのアンジールとのキスにより、やけに艶めいた潤いを含んでおり実に官能的であった。
その唇に誘われるように、セフィロスはジェネシスの唇に自身の唇を寄せる。
雲間から月明かりが僅かに差し込んでくるだけの、暗澹たる深い森。その奥深く。
アンジールはいま目の前で起こっている事象に驚愕の色を隠せなかった。
親友であるセフィロスが、同じく親友であるジェネシスと唇を重ねている。
どちらかと云うとセフィロスとジェネシスの仲は、それほど良好とは云えない。険悪という訳ではないのだが、セフィロスに対する過度な好意ゆえの裏返しなのだろう。天の邪鬼なジェネシスの英雄に対する態度は見ていて冷や冷やするほどドライなのだ。その二人が、まるで自然の摂理に従うかのように口付けを交わしている。
そんな光景を目の当たりにして、アンジールは困惑した。少なくともセフィロスは、酔っている友人に強引に口付けたりするような人物ではなかったはずだ。
いや、実際それほど酷く酔っている訳ではない。それは、先程アンジールの方からジェネシスにキスを仕掛けた時点で分かっている。ただ、その後も彼がキスを強請ってきたのでセフィロスに対して誤魔化す為に、「かなり酔っている」と誇張して伝えたのだ。だが、仮に思いの外ジェネシスの酔いが深かったとしても、それにつけ込むような真似をセフィロスがするだろうか。セフィロスの方こそ悪酔いしているのではないか。
どうにも判断がつかなかったが、アンジールにとって二人のキスシーンをまざまざと見せつけられるのは面白くなかった。ジェネシスも何故抵抗しないのか。やはり、普段は素っ気ない態度を取っていても、憧れの英雄を無下には出来ないのか。もしや本心ではセフィロスの事を── 。
「ん……アンジール」
悶々とした心地でいたところ、不意に名前を呼ばれる。酔ってセフィロスをアンジールと誤認しているのか、あるいは自力で英雄を振り払えずアンジールに助けを求めているのか。どちらとも計りかねたが、どちらにしろジェネシスがアンジールを求めている事に変わりはない。すぐさまアンジールは二人を引き離すよう、間に割って入った。
セフィロスが漆黒の森を抜け、暗闇の中、ようやく二人の姿を見つけた時。親友同士であったはずの二人は、到底友人関係とは思えぬような濃厚なキスを交わしていた。その時、セフィロスは自身がいつも感じる疎外感の正体を見た気がした。そもそも二人はただの友人では無かったのだ。もっと親密な仲だった。だから── 。
だから、二人の間には自分には踏み込めない領域があるのだ、と。だから、自分もジェネシスと口付けを交わせば何かが変わるのではないか、と── 。
自分も同じように口付けを交わせば、彼らとの関係性が、ジェネシスとの関係が今とは違うものになるのではないか、と。そう考えた。一度そういう考えに至ったら、どうしてもジェネシスにキスをしてみたくなってしまった。衝動を抑えられなかった。
二人はまだキスの最中であったが、二人を邪魔してしまうとか、驚かせてしまうだとか、そういった気遣いも出来る余地を失うほどに余裕を無くしていた。英雄らしからぬ情動であるが、ある意味セフィロスは動揺していたのだろう。彼は物陰から盗み見るのをやめ、わざと大きな声で呼び掛けてから二人に近付いていった。
セフィロスの声に気付いた二人は一旦離れた。しかし、なんと今度はセフィロスの目の前で二人は口付けを交わしたのである。ごくごく軽いキスではあったが、充分親密さの伝わるキスだった。しかも、酔っているから── そんな安易な理由で……。
セフィロスも親友で、そして酔っている。だから、自分もキスをして構わない。そんな思考にナチュラルに到達してしまったあたり、セフィロスも相当酔っていたのかも知れない。
ゆっくりとジェネシスの背を木の幹に押し付けるようにして両腕で囲い込むと、セフィロスは躊躇いなくジェネシスに口付けた。
突然のキスにも動揺する気配はなく、意外やジェネシスはおとなしく受け止めている。言い知れぬ高揚感がふつふつと沸き上がり、セフィロスを満たす。口付けを交わす事で、ただの友人から今まで踏み込む事が決して許されなかった特別な関係にまで一気に昇格したかのような浮上感。
もっと、深いところまで忍び入りたい。
もっと深いキスを── 。
たかがキス。そこまでの効力が無いことくらいは酔った頭でも分かっていた。だが、そのように錯覚してしまうほどにジェネシスとのキスは魅惑的で、チャームの魔法でも掛けられたようにセフィロスは夢中になって貪った。
「ん……アンジール」
それまで、おとなしくセフィロスからの口付けに応えていたジェネシスが、不意に幼馴染みの名を呼ぶ。
混濁の末、セフィロスの事を間違ってアンジールだと認識していたのか。抵抗の素振りも見せなかったのは、深酔いの為だったのか。セフィロスもさすがに聞き過ごせなくて一旦唇を離すと、その隙に透かさずアンジールが割って入ってきた。すると、すぐさまジェネシスを奪い返すように自分の側へと引き寄せる。
深夜の森の奥深くという事もあり、視界はかなり悪い。ジェネシスも行き成りセフィロスから引き離されて暫し、どちらがアンジールでどちらがセフィロスなのか咄嗟に判別出来ずに呆然としていた。
「アンジール……?」
不安げな表情で問い掛けるジェネシスに、アンジールは改めて口付けを施した。最早セフィロスが見ているだとか、明日に控えるミッションの為に早く帰らなければ……等とといった事は、重要事項から瑣末事へと転落していた。
ジェネシスがセフィロスとキスを交わしているのを目の当たりにして、アンジールはよりいっそう自分のジェネシスへの想いの深さを思い知ったのだ。今まで、ジェネシスは内心はともかくとして表面上はセフィロスに冷たく当たっていた。だから、余計にジェネシスがセフィロスと親しげに接している姿が見慣れなくて苦痛に感じたのかも知れない。
ヒートアップしたアンジールはキスだけに止どまらず、勢いジェネシスの上半身にまで手を伸ばした。キスをしながら上半身を万遍なくまさぐる。時折、ジェネシスから遠慮がちに甘い声が洩れ出てくる。次第に舌を吸い絡ませ合う濃厚なキスへと変化するのに比例して、上半身への愛撫も大胆なものになっていく。加速する愛撫は、ついに服の上からでは飽き足らず、おもむろにジェネシスのハイネックをたくし上げ、素肌を冷たい夜気に晒す。
「ふ……んんっ」
唇を塞がれながらも、胸の突起を摘み上げられ苦しげな艶声が零れる。
アンジールは唇を外すと、ジェネシスの首筋や鎖骨に舌を這わせていった。そして、ジェネシスの紅い革のコートに手を掛けて、ゆっくりと脱がせる。ジェネシスのインナーはノースリーブだ。暗闇の中、顕わになった白い二の腕が艶めかしく浮かび上がる。
鎖骨から肩、そして二の腕の方にまでアンジールの愛撫は及ぶ。同時に胸筋や腹筋、臍のあたりまで指先で辿っていく。
「はあ……ああっ! ぅ……ん」
ジェネシスの口許からは、抑え切れなかった色を含んだ音が次々と溢れ出す。
セフィロスに、このジェネシスの嬌声を聴かせてしまうのはアンジールとて不本意だったが、今や暴走を始めた本能と渇望を止めることは不可能だった。
その時、ふとジェネシスのカナリアの如き美しい歌声が途絶えた。
セフィロスが口付けによって、ジェネシスを黙らせたのだ。目の前であのような蠱惑的な痴戯を繰り広げられれば、セフィロスも我慢の限界。黙って見ている事が出来なかったのだろう。
セフィロスが再びジェネシスに口付けている── その事は二人の様子から察する事が出来たのだが、アンジールはアンジールで愛撫の領域を下半身の方にまで広げようと侵略中でそれどころではない。
ジェネシスのベルトのバックルに手を掛けながらも、アンジールは自身のハイネックも脱ぎ捨て上半身裸となった。アンジールがひとつひとつベルトのバックルを外す一方で、セフィロスは口付けを深くしながらもジェネシスの胸の突起を摘んだり、腹筋や脇腹付近を掌全体でまさぐっていく。
「んン……ふ」
あまりの刺激の強さに、キスでは塞ぎ切れなかった甘い吐息が洩れる。セフィロスに上半身を押さえ付けられ身動き出来ない状態にされた上で攻め込まれている為、下半身にまで及ぶアンジールの攻勢には全く為す術もなく甘んじて受けるしかない。バックルを外し終えたアンジールは、難無くジェネシスのレザーパンツまで引きずり落としてしまった。
謀った訳ではないが、結果としてアンジールとセフィロス、二人同時に攻め込まれているジェネシス。彼が受ける愉悦は計り知れないほど大きいだろう。現に、顕わにされた中心部は下着の上からでも分かるくらい、はっきりと隆起している。
アンジールが揶揄うように下着の上からジェネシスの陰茎を握り込み、弄ぶように軽く揉んでやるとジェネシスの身体はびくりと震えた。その反応を見て満足げな笑みを微かに浮かべると、アンジールは躊躇いなく下着も一気に下まで引きずり落とした。外気に晒されたジェネシスの雄の先は、既に先走りがぬらぬらと滲んでいる。
愛撫がキスや上半身だけではなく下半身にまで及んでくると、さすがにジェネシスも不安の念を禁じ得ない。親友達と、このまま流されるように一線を越えてもいいものか── と。だが、上半身をほぼ拘束された現状では抗う事も出来ず、逡巡している間にアンジールがジェネシスの陰茎を咥え込んだ。
「んんっ── !」
想像以上の快楽と強い刺激にジェネシスは思わず目の前にいるセフィロスにしがみつき、更に深い愉悦を求めるよう自ら積極的に舌を絡めた。
アンジールによって施されている口淫により官能を得ているのに、より強い官能を求めてセフィロスに縋り付きキスをねだる。この不条理な状況にジェネシス自身戸惑いながらも、未知の快楽にこのまま嵌まって溺れたくなる。
思えば、突然セフィロスに口付けを迫られた時。酔いで意識が混濁していたのは確かだが、完全にセフィロスをアンジールと誤認していた訳ではない。混濁と明瞭の狭間、朧げな意識の半分では相手がセフィロスだと理解していた。だが、理解していながらも抵抗する事が出来なかった。
それは、やはりジェネシスの裡に少なからずセフィロスへの想いが潜んでいた、という事に他ならない。憧れの英雄であるから……というのは勿論のこと。本当はもっと親しくなりたい、もっと親密な関係になりたいという想いがいつも根底にあった。普段素っ気ない態度をとってしまうのも、その気持ちの裏返しに過ぎなかったのだから当然と云えば当然である。本当はもっと素直になって、セフィロスと気兼ねない関係を築き上げたかった。
最初にアンジールに口付けされて、それを嬉しく感じたのも確かだ。嘘や思い込みではない。だが、セフィロスに口付けを求められた時も同様に嬉しかったのだ。セフィロスが自分に近付き、あまつさえキスまで求めてくれる。理由がなんであれ、その事象が単純に嬉しかった。
自分はアンジールだけではなく、同じくらいセフィロスも欲している。酔って朦朧とした意識の中、不思議とクリアーな思考でジェネシスは自己分析を果たしていた。
冷静に内省を試みるジェネシスをよそに、アンジールの丁寧な口淫とセフィロスから万遍なく施される上半身への愛撫は執拗に続けられていた。
上にも下にも逃げ場は無く。ひたすら、追い詰められるのみ。とうとう、セフィロスとキスを続けるのもつらくなって身を捩ると、どうにか口付けは外れたものの、今度は首筋、頸動脈に沿って舌を這わされる。
「はあ……はあ……、ああ── っ!!」
アンジールによる口淫とも合わさって今までに感じた事もないような強い快楽が、電流のように全身を走り抜ける。強い官能のあまりジェネシスはセフィロスに更に縋った。この押し寄せる快楽の波から逃れようと、助けを求めるかのように── 。
ジェネシスは縋った両手をセフィロスの黒い革コートの内に忍ばせ、セフィロスの素肌に触れる。確かめるように、セフィロスの素肌をまさぐっていく。すると、セフィロスももどかしそうに自らのコートを脱ぎ捨て上半身裸となった。
セフィロスは普段からインナーを着用せず、素肌の上から直接コートを身に付けているので裸は見慣れている心積もりであった。だが、改めてその均整の取れた美しく且つ隆々とした筋肉を纏った裸身を目の前にすると、不覚にもどきりと胸が弾んでしまう。動揺したジェネシスは慌ててセフィロスから目を背けた。
そこへ、まるでセフィロスに心奪われるジェネシスに対する仕置きのように、アンジールは一層深くジェネシスの雄を喉奥まで咥え込み、同時に後孔まで手を伸ばして入口付近を指先で掠めた。
「あっ、あっ!!」
びくりと身を反らし、背後の大木に寄り掛かる。そうやって体重の殆どを木の幹に預けなければ立っていられなかった。呼吸が乱れ、荒く息を吐く音だけが、黒い森の静寂に響く。
アンジールは、かろうじて木を支えに立っている状態のジェネシスに対して、無情にも木の幹から離れるよう誘導し引き寄せると180度方向転換させた。そうしてから、木の幹を両手で掴み、背面をアンジール達の方向に向ける── つまり、アンジール達に尻を向けるような、はしたない格好を強要したのだ。
その時、上空では強い風が吹いていたのであろう。雲間から覗いていた僅かな月明かりさえも徐々に黒雲に呑み込まれ、辺りは真の闇に包まれた。
to be continued
2012/7/13-24
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