漆黒の森 (4)

心の奥底で燻り続けるどす黒い罪悪感。それは決して小さくなることはなく、時間が経てば経つほど肥大していく。

アンジール側か、セフィロス側か。危うい均衡でその中心に立っていたジェネシスの意識は完全にセフィロス側に傾いてしまった、と── ついにジェネシス自身も認めざるを得ない。実に英雄らしい強引さでもって、無理矢理に引き寄せられたのだ。
これが完全にセフィロスからの一方的なアプローチだったというならばまだしも、ジェネシス自身も英雄に惹かれ求めてしまっていたのは紛れもない事実。あれほどお互いに求め貪り合っておいて、無かったことには出来ない。
そして、あのように激しくも強引にセフィロスに求められたという、その事実に歓喜している自分もまた確かにいたのだ。
英雄セフィロス── 永遠に憧れの存在であり、その憧憬の念が強すぎるあまり敢えて距離を置いていた相手が、自らジェネシスへと近付き求めてくれる。憧れの存在に手を差し延べられて、心が揺れぬはずがない。
「俺の部屋に来ないか?」
英雄へとジェネシスの心が傾きつつあるのを知ってか知らずか、セフィロスは時折ランチでも誘うような気軽さでジェネシスを私室に誘うようになった。
心では反発していても、やはりジェネシスにとって英雄の存在は特別なものだ。理不尽を感じながらも断ることは出来ない。
誘われるほどに、身体を重ねるごとに、心身ともに絡め取られ囚われていく。
身体と心は引き離せない。触れ合う機会が増えれば増えるだけ、気持ちがセフィロスへと傾いていく。引き寄せられる。
キスを重ねるほどに、身体を重ねるごとに、そう強く実感する。今ではもう肉体関係を交わすことに、ほとんど抵抗を感じない。加速度的に二人の関係は進展していった。否応にもジェネシスの裡で、みるみるセフィロスの比重が大きくなる。それと比例するように、アンジールへの罪悪感も大きくなった。自然とアンジールとの接触は避けるようになり、対照的にセフィロスからの求めは拒めなくなっていく。
もともと傍若無人な性質を備えたセフィロスは、ブリーフィングルームやトレーニングルームでも隙あらばジェネシスへの接触を試みた。時には、壁際まで追い詰められキスを迫られることもあった。
「ん……はぁ、セフィ、ロス」
結局は拒み切れなくて、いつしか従順にセフィロスを受け入れている自分がいた。

こうして、アンジールと疎遠気味になりセフィロスとの逢瀬が密になってくると、自分の気持ちに自信が持てなくなりそうで気が滅入る。単純にアンジールへの好意が強かった理由は、アンジールとの接触が多かったから……それだけのことだったのか、と。
セフィロスと接する機会が増えれば、気持ちもセフィロスに傾く。自分の想いはそんな単純で浅はかなものでしかなかったのか。
あれほど焦がれていたアンジールへの想いはどこへ行ってしまったのだろう。愛おしい気持ちは変わらないのに、それ以上に強いセフィロスへの情に押し潰され迷子になりそうだ。
日ごと増していくアンジールに対する罪悪感がアンジールへの思慕を曖昧にして、いずれ掻き消えてしまうのではないかと不安になる。
── 二人への気持ちを天秤に掛けるような真似はしたくない。
二人とも幼馴染みだとか憧れとか、そういう感情を超えてジェネシスにとっては大事な親友だ。どこかで、きちんとけじめを付けなければ……と思う。
まずは、アンジールと一度じっくり話し合うべきだろう。いつまでも距離を置いて、避けて逃げ回っている場合ではない。
ジェネシスは重い腰を上げ、本当に久方ぶりにアンジールへと連絡を取った。
── 時間が取れたら、会いたい……と。
たったそれだけの簡素なメール。だが、二人の間では充分すぎるほどの内容であった。今はアンジールも任務中で忙しいはずだ。いずれ落ち着いたら返事が来るだろう。
アンジールが多忙であろうことを分かっていて、敢えてこの時期にメールを送ったのはジェネシス自身も返事が来るまでにある程度の猶予が、心の準備が欲しかったのである。
本来であれば、アンジールとの話し合いが済むまではセフィロスとの接触は控えるべきであろう。もしアンジールではなくセフィロスを選ぶのだとしても、そうするべきだ。しかし、それは飽くまでジェネシス個人の考えであって英雄にも通じる訳ではない。
危惧していた通りジェネシスの想いとは裏腹に、セフィロスからのコンタクトは依然として頻繁に、いやむしろ頻度を増していた。適当な理由を付けて断るようにしていたが、限度がある。何より、英雄自らの突然の訪問は避けようがない。
セフィロスも避けられていることを自覚していたのか、ある日ジェネシスが自室に居るタイミングを見計らったように、アポ無しでやってきた。
当然、断ろうと追い返し掛けた、その時。
不意に抱き締められて、振り払うことが出来なかった。何度も逢瀬を重ねた結果か、セフィロスが仕掛けてくる肌に馴染んだ愛撫が心地良くて、ジェネシスの意志は容易く揺らいでしまう。しかし、いくらなんでもこのタイミングは不味い。恐らく、アンジールの任務もそろそろ終わる頃。いつアンジールから連絡が来てもおかしくない。
セフィロスに対する情も勿論あるが、とにかく今はアンジールを優先したい。セフィロスに邪魔されたくない。
「セフィロス、待ってくれ……」
英雄の腕に包まれながら懇願する。
「お前も分かっているんだろう? 俺がお前とアンジールとの間で迷っていることを──
セフィロスは抱き締める腕の力を僅かにゆるめる。少し身体の自由がきくようになったジェネシスは首を動かしてセフィロスの顔を仰ぎ見た。
「分かっているからこそ、近頃のお前はなにくれと俺にちょっかいを掛けてくる。あんたは自信家だ。俺にアンジールの事など考える暇も与えなければ良いと……そうすれば、いずれ俺はお前に夢中になると── そう思っているんだろう?」
セフィロスは首肯こそしなかったが否定的な表情は見せなかった。
「実際、俺の気持ちはあんたに傾きつつある」
そう溜め息まじりに告げるとセフィロスの胸元に埋めるように頭部を押し当てる。
「だけど、幼馴染みのアンジールも俺には大事な存在で、ないがしろには出来ない」
暫し瞑目してから、再度顔を上げセフィロスを見詰める。
「これ以上あんたに夢中になる前に、ちゃんとアンジールと話がしたい」
いつになく真摯な表情を見せるジェネシス。なにごとか既に約束でもしているのだろうか。
「もうじき帰ってくるのか?」
「はっきり返事が来たわけじゃないが、俺の勘では多分今夜にでも……」
そう答えるジェネシスの頬は若干、朱を帯びているように見えた。
その様子を見て、にわかにセフィロスの裡で苛々としたものがせり上がってくる。
ジェネシスの言うとおり、セフィロスは無理矢理にでもジェネシスを抱いて、囲い込んで、自分に夢中にさせてしまえば、いずれはアンジールへの依存もやわらぐのではないかと思っていた。セフィロスには幼馴染みという概念自体がよく理解出来ないものであったが、幼い頃からずっと一緒にいるから信頼や好意が強いだけで、それは飽くまで依存であって特別な感情ではないのだろうと、そう考えていたのだ。
だが、いまのジェネシスからはやはり友人以上の特別な感情をアンジールに抱いているようにしか思えない。気持ちがセフィロスに傾きつつあると告白されたにもかかわらず、そう感じるのだからセフィロスの胸中にくすぶる焦燥感は尋常ではなかった。幼馴染みの絆ゆえなのか、きちんとした約束をしているわけでもないのにアンジールが会いに来てくれると信じ切っているさまも腹立たしい。
セフィロスはジェネシスを抱き締める腕の力をさらに弛めた。ジェネシスはセフィロスが自分の説得に応じてくれたのだと思って安堵の表情をあらわす。だが、その顎にセフィロスの左手が掛かり上向きに固定されると、安堵は徐々に困惑へと変わっていく。
「セフィロス?」
何も言わずにセフィロスはジェネシスの唇を塞ぐように口付ける。最初は甘く食むように柔らかく、別れを惜しむかのようにも思えたのでジェネシスはおとなしく応じていた。しかし、次第に侵蝕は激しくなり舌で口先を割って口内深くまで押し入ってくる。舌と舌を絡ませ合い、唾液が混ざり合い、と同時にいつの間にかジェネシスの顎を支えていた左手は身体へと移動し、両手でもってジェネシスの背中や腰をまさぐり始めた。
「ん……セフィロス……っ」
さすがに様子がおかしい事に気が付き、ジェネシスは身を捩る。だが英雄はそんな簡単にジェネシスを手放してはくれない。紅い革のコートを脱がしに掛かると肩あたりを露出させ、肩口にもキスを落とす。コートとインナーの隙間に片手を差し入れサスペンダーを外すとインナーの上から広背筋をなぞるように刺激しつつ、もう片方の手でボトムの上から臀部を鷲掴みにする。
「くっ……」
ジェネシスは反射的に声を押し殺していた。下手に嬌声でも洩らしてしまったら、セフィロスの思う壷だ。かえって彼を昂ぶらせてしまう。そして、そんなささやかな抵抗しか出来ない自分がひどく非力に思えた。
いまはされるがままとなっているが、折を見て抵抗しなければ── 。恐らく、ただいたずらに拒否の意を示しても解放してはくれないだろう。
思案を巡らせているうちに、セフィロスの愛撫はより大胆かつ入念になってきた。革のコートはとうとう脱がされて床下に落ちていく。コートの下はノースリーブのインナーのみだから非常に無防備だ。薄手のインナーの上からまさぐられるのは素肌を触られるのと殆ど変わりない。インナーの上から乳首や腹筋などの敏感な場所へとセフィロスの長い指が辿っていく。
「ぁあっ……んっ!」
嬌声を抑えるのも難しくなってきた。もうすぐアンジールが帰ってくるかもしれないと思うと、最早ジェネシスも心穏やかではいられない。
相変わらずセフィロスの手際は鮮やかで、容易く二つのバックルは外され、ボトムの隙間からも愛撫の手が侵入してくる。下着の上から股間や双丘を柔らかく撫でられると、刺激の強さのあまり思わずセフィロスにしがみついてしまう。
「ま、待ってくれ── ! 駄目、だ。アンジール、が……」
もっと遠回しな言葉で拒否しなければならないと分かっていたのに、迂闊にもアンジールの名前を口にしてしまった。案の定、やめるどころかセフィロスの攻め手にいっそう熱が籠もる。
セフィロスはジェネシスの背後に回り込むと左手の革手袋を外した。そして、最初からそのつもりで持ち込んでいたのであろう、ローションをその掌の上に広げる。
右腕でジェネシスの上半身を抱き込むように拘束しながら、ローションに塗れた左手を下着の内側に滑り込ませる。そうしてジェネシスの双丘を割り開いて侵入していくと、ついには後孔にその指を突き入れた。
「ぐぅ── っ」
いくらジェネシスが身悶えてみせても上半身を捉える右腕は強固だった。セフィロスは容赦なくジェネシスの後孔を蹂躙しながらも、徐々に下着を引き摺り下ろしていく。どうにもならないという諦念に包まれながらも上半身をひねり、辛うじて抗おうとする。その意思とは正反対にジェネシスの雄はゆるく勃ち上がっていた。
── もう、セフィロスに全てを、この身を任せてしまいたい。
ジェネシスの心が折れかけたその時。ドアの方からノックの音が鳴り響いた。ノックの音だけでアンジールだと判ったジェネシスは慌ててセフィロスから逃れようと身をよじる。
「ジェネシス、居るんだろう?」
予想通りドア向こうからアンジールの声が聞こえて、いつものように勝手にドアを開けて室内に入ってくる気配を感じる。だが、こんなことでセフィロスはジェネシスを自由にしたりはしない。まるで今にもジェネシスの後孔に、己の屹立したモノを突き入れんばかりに押し当ててくる。
── アンジール、入って来るな!
そう叫ぼうと口を開こうとする、刹那。突如として口元が革の手袋が嵌められた右手で覆われてしまう。すこし蒸れた皮革の匂いが鼻孔に充満する。呻き声を洩らす事が出来ないほど強く口元を押さえられた状態で、無遠慮にセフィロスの陰茎がずぶりと後孔へと押し入ってくる。
「ぐっ……! うぅ……っ」
ジェネシスの額に汗が滲む。アンジールが間近に迫っていることが分かっているのに抵抗出来ない。右手は口許から外されて、より深い挿入を促すように肩口を押さえ込んだ。久方振りの交合にセフィロスも昂揚しているのだろう。余裕のない抽挿がさらにジェネシスを追い詰めていく。
受け入れがたい恍惚をひしひしと感じながら朦朧とした意識の中で、視界の端にアンジールの姿を認める。
── 見られてしまった。セフィロスに抗う事も出来ず、背後から犯され、あまつさえ愉悦を覚えているあられもない姿を──
果たして、アンジールの胸中は如何ほどであろう? 呆れているだろうか、あるいは嫉妬に狂い怒りを露わにしてくれるだろうか?
長い沈黙に耐えられず、ジェネシスは救いを求めるようにアンジールに片手を差し伸ばす。
「っ……アンジール……!」
かようなジェネシスの行動をアンジールはどう受け取ったのか、ゆっくりとジェネシスに近付き彼の頬に右手を添えると濃厚な口付けを交わした。セフィロスに犯されるジェネシスを目の前にして、アンジールも理性のたがが外れてしまったようだ。あの漆黒の森での一夜を思い出したのかも知れない。濃厚な口付けは続く。
「んっ── ! ふっ……ン!!」
背後からセフィロスに突き上げられながら、前面からアンジールに焦れったいほどにじっくりと口内を舌で掻き混ぜられる。その瞬間、ジェネシスの全身を上から下まで電撃が駆け抜けるような強い衝撃が走った。
それはまさしく、初めて経験する深い深い愉悦であった。
誰に犯されているのだとか、誰の愛撫を受けているのだとか、そんな些細なことなどどうでもよくなる。
脳髄が痺れ、全身の感覚が鋭敏となり、全ての細胞という細胞がざわつく。
ジェネシスは思わず目の前のアンジールに抱き付き、縋り付いた。
「アンジール……アンジール!」
後孔はセフィロスを強く求めるようにひくつきながらも、唇はアンジールを求めるように何度もキスをねだる。
やがてアンジールが右手をジェネシスの陰茎に伸ばし軽く扱いてやると、いとも簡単に吐精した。
脱力したジェネシスに休むいとまも与えぬように、セフィロスは激しい律動を続けジェネシスの裡に己の白濁をぶちまける。さすがに立っていられなくなった様子のジェネシスを、二人は近くのベッドへと横たえた。
虚ろな瞳を湛えたジェネシスはもはや正気ではないだろう。いや、この状況下では三人のうち誰一人として正気とは言えまい。
漆黒の森のあの晩のごとく、異質な空気が場を支配していた。
異質でありながらも、その空間に場にいる全員が馴染んでいる。そんな異常さがあった。
横たわったジェネシスを仰向けに組み敷いて、次は自分の番だと言わんばかりにアンジールはジェネシスの膝を抱え上げ自らの屹立した陰茎をその後孔にあてがうと、迷いなくじわじわと侵入していく。一度セフィロスを受け入れているため、あまり抵抗感は無い。
「は……あぁ」
ジェネシスは吐息を洩らすだけでも精一杯といった様子だ。
怒りだろうか、嫉妬だろうか、失望だろうか、あるいは諦念であろうか。
ほんの少しだけ残った理性が、ジェネシスに再度アンジールの胸の内を思案させる。だが、そんな僅かな理性さえむしり取るようにセフィロスが上半身に覆い被さってきて、口付けを求めてくる。ただでさえ脱力して抵抗出来る状態ではないのに、濃厚に舌を絡み取られて瞬く間に理性は失われ、愉悦が全身を支配し蝕んでいく。
「ん、セフィロス……っ」
先程アンジールに口付けられた時のように、脳髄の奥まで痺れるような快感に襲われ、危険信号のように脳内で何度もスパークが閃く。
── どうして?
アンジールともセフィロスとも、二人きりのセックスの時にはここまでの快楽は感じなかった。まるでジェネシスの全身は、最初から三人でのセックスを望んでいたかのように悦び打ち震えている。
あの漆黒の森で、不本意ながら三人でのセックスに及んでしまったのは酔っていた故の不可抗力だと、そう自分自身に言い訳していた。しかし、今は無論酔っている訳ではなく明確な意識が有りながらも、セフィロスとアンジール二人同時に犯されるという状況が、堪らないほどの悦楽をジェネシスにもたらしている。あまりの刺激の強さに抵抗も出来ない。いや、より深い愉悦を求めるジェネシスの身体は最初から抵抗など放棄しているようだ。
快楽に溺れるとは、こういうことを言うのだろうか──
下半身をアンジールの猛々しい肉棒に貫かれ、上半身── 首筋や乳首や脇腹などの敏感なところをセフィロスに唇や手先で丹念に愛撫される。先ほどセフィロスとのセックスで達したばかりだというのに、すでにジェネシスの身体は強すぎる快楽に負け、二度目の絶頂を迎えそうだ。息が荒いし、喘ぎ声も全く抑えられていない。
アンジールとセフィロスもジェネシスの限界を感じ取ったのか、抽挿は激しくなり愛撫の手にいっそう熱が籠もる。戦場以外でも── ベッドの上でも変わらず発揮される二人の絶妙なコンビネーションが恨めしい。何故打ち合わせもしていないのに、息の合った連係プレイが出来るのか?
耐える余裕もなく、たちまち追い詰められてジェネシスは呆気なく精を吐き出してしまう。もはや三人でのセックスに溺れているのはジェネシス一人ではない事は明確である。どう考えても、ジェネシス以外の二人もこの状況を愉しんでいるとしか思えない。二人はジェネシスを取り合うというのではなく、共謀して愉悦の沼に引きずり込み陥落しようとしている。アンジールもジェネシスの裡にたっぷりと白濁を注ぎ込み満足げに肉棒を引き抜いた。
それからの事はよく覚えていない。快楽が強すぎると記憶も朧気になってしまうのだろうか。
ただ、その後も入れ替わり立ち替わりアンジールとセフィロスの屹立した欲望を受け入れ、それに合わせるよう交互に執拗な愛撫を受け続けていつの間にか気を失ってしまったようだった。その間、いったい何度吐精させられたのだろう。気が付いたときには、ジェネシス一人でベッドに横たわっていた。

さすがにソルジャー・クラス1stとはいえ、同じ1st二人に責められ続けて果てたのだ。身体が重くて、起き上がるのも容易ではなかった。何とか身を起こして、覚束ない足取りでリビングに向かう。
リビングでは昨夜の出来事が嘘のような穏やかさで、アンジールとセフィロスがコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「大丈夫か、まだ休んでいてもいいんだぞ?」
ジェネシスの姿を認めたアンジールが直ぐに優しい声音で気遣ってくれる。わざわざソファから立ち上がり、ジェネシスに近付いてきたアンジールにジェネシスはよろけながらも縋り付くように抱き付いた。
「アンジール」
弱々しく名前を呼び、潤んだ碧玉で見上げる。
「俺は……アンジールが好きだ」
少し離れたソファに座るセフィロスに目線を移してから続ける。
「でも、セフィロスも好きなんだ」
ひとつ溜め息をついて、瞳を滲ませる。
「どちらかを選ばなくてはと、ずっと思ってた。だけど、選ぶことなんて出来ない──
昨夜の出来事で、ジェネシスにはアンジールもセフィロスもどちらも必要不可欠なのだと教え込まれた気分だった。
やっとの想いで自分の胸の内を明かして悲壮感さえ漂わせているジェネシスを、アンジールはそっと抱き寄せた。
「俺もお前が好きだ── ジェネシス」
耳許で低く囁くと、ジェネシスの顎を上向かせて口付けた。すぐそばにセフィロスが居るというのにまるで躊躇いが無い。
「ん…ふっ」
濃厚なキスに思わず声が漏れる。
そんな二人の様子を見て、何を思ったのかセフィロスもソファから立ち上がると近付いてきて、ジェネシスの背後に回った。そして耳許に唇を寄せると耳朶を甘噛みする。
「好きだ、ジェネシス──
内耳に響く低い声音に文字通り腰が砕けそうだ。足腰に力が入らなくなるが二人で支えられているため、かろうじて崩れ落ちることはなかった。背面をセフィロスに預けた状態のジェネシスに、目の前のアンジールが落ち着いた口調で話し掛ける。
「さっきセフィロスとも話し合ったんだがな……俺達は二人とも同じくらいお前のことが好きらしい── ということで意見が一致した。だから、お前も無理にどちらかを選ぶ必要はないんじゃないかな?」
幼馴染みが何を言っているのか理解出来なくて、暫し呆気にとられてしまう。
「それは、どういう……」
言い終わらないうちに背後から回された手がジェネシスの顎を捉え上向かせると、口付けを強要してきた。
「んん── !」
舌先を歯の隙間へねじ込まれると、強引に侵入してくる。舌と舌が絡み合い、口内を荒らされる。頭の奥まで痺れるようなキスに、思わずセフィロスを押しやって逃れようと足掻いた。アンジールは構わず話を続ける。
「お前の身体はひとつしかないからな。二人でシェアしようと思う」
「シェア!? 待て! お、俺の意思は……?!」
「だから、いま確認してるんじゃないか。この方法になにか異論はあるか?」
突飛な二人の提案にジェネシスは瞬時に思考をフル回転させ葛藤した。だが、実際のところ二人のうちのどちらかを選べない現状では、その提案が最適解なのではないか。倫理的なことは抜きにして、否定する理由が見付からない。そして、この現状では倫理を問うのも馬鹿げている。
「……その方法がベストなのかどうかは分からないが、その方法で二人とも納得が出来るなら── 俺も……受け入れる」
逡巡しつつもジェネシスはどうにか答えを出した。全く迷いや躊躇いが無いわけではない。しかし、いまのこの三人の関係を崩したくないという想いが強いのも確かだった。
二人と同時に付き合うなんて考えたこともなかったが、二人の方から提案してきたことなので二人の間ではもう折り合いが付いているのだろう。ジェネシスも二人のことが選べないくらい好きなのだから、少し異常な状況ではあると思うが嫌ではない。だが、同時に不安に感じる部分もある。
そもそもこんな提案をしてくるなんて、セフィロスとアンジールは仲が良すぎるのではないか。ある意味、度を越している。三人でセックスをしている時もそうだ。二人の息が合いすぎて、ジェネシスは一息つく余裕もない。事前になんの打ち合わせもしていない。途中でなにか会話する訳でもないのに、だ。
ともかくジェネシスが同意したことにより、二人はアイコンタクトを交わし満足げな笑みを浮かべる。そんな二人の様子にジェネシスは早くも二人の提案を了承した事を後悔した。昨夜のセックスもなかなかハードであったが、二人が完全に結託して且つヒートアップしてきたら── と考えると空恐ろしい。
二人と付き合えるのは嬉しい。だが、少し怖い。それがジェネシスの正直な本音であった。
一般的な価値観で考えれば、好きな相手が同じ── つまり恋敵ライバルであるのだから多少ギスギスしていてもいいくらいなのに、どうしてそんなに仲が良いのか。だが、それだけ二人の意思疎通が図れているからこそ出てきた提案であり、この三人だからこそ、この非常識な関係を良好に保てるのではないか、とも思う。

この三人で付き合うという関係がいつまで続くのかは分からない。
肉体的にはどうしてもジェネシスの負担が大きくなるだろうし、そういう面で不安が無いわけではないが、これだけ仲の良い二人なら、そこのところも上手く取り計らって調整してくれることだろう。二人を信じよう。信じなければきっとこんな関係は続けられない。
そして、この三人の関係を出来るだけ長く続けたいとジェネシスは願った。その気持ちはきっとセフィロスとアンジールの二人も同じだろうと心のどこかで確信していた。
あの漆黒の森で三人で交わった時から、三人ともあの闇に侵され囚われたのだ。それは呪縛のような絆。それでいて、大事で愛おしくて永遠に守りたいような絆だった。

end
2020/11/01
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