Diablo (3)

「美しいな」
眼下に広がる壮大な鋼鉄の街並みを眺めて、艶のある溜め息を落とす。余程ジェネシスはミッドガルというピザの形をした街そのものを気に入っているらしい。神羅ビルで勤務していれば幾らでも見ることの出来る風景なのだが、彼は何度見ても飽きないようだ。セフィロスの私室でも窓の外を眺めている事が多い。
突風に煽られたジェネシスが支えを求めるようにセフィロスに身を寄せてくる。二人の関係がセフィロスからジェネシスへの一方的なものではないかと常に不安を感じているセフィロスには、それだけで心が躍った。自身に寄り添ってくるジェネシスの肩に腕を廻して、更に引き寄せる。
ゆっくりとジェネシスは面を上げ、セフィロスの顔を見詰めた。短めの赤い髪が風で乱れる。
「セフィロス」
50階という高所かつ屋外というロケーションの所為だろうか。ジェネシスの口調はどこか心細げで弱々しい。
セフィロスは、躊躇いなく顔をジェネシスに近付けて唇を奪う。男同士、屋外で堂々と口付けを交わすなどただでさえ厭わしい。英雄なら尚更のこと憚れる行為だったが、此処なら誰も見ていない。誰も来ない。
深く舌を絡ませてから、優しく唇を舌先で撫で、もう一度強く吸う。じっくりと、ゆっくりと。
非常階段の踊り場で一頻りキスを愉しんだ後、セフィロスは階段に巡らされた鉄柵に手を掛けるよう、言葉ではなく態度でもってジェネシスに指図した。50階もの高さにおいて鉄柵の側に近寄るという行いは一般人なら恐怖する者もいるだろう。
ソルジャー・クラス1stであるジェネシスでさえ高所に慣れているとはいえ、任務でもない日常生活の一環としては、出来ればあまり近付きたくない場所である。だが、やはり彼はセフィロスに逆らうことなく大人しく指示に従った。寧ろ強風に煽られ身体がよろけてしまうため、しっかりと鉄柵に掴まり身体を支える必要さえあった。
両手で鉄柵を掴む体勢を強いられると、完全にジェネシスの背後は無防備となる。当然、両手も塞がれているので使えない。
その無防備な後ろ姿に回り込み、セフィロスの魔手が下半身辺りを執拗にまさぐってくる。高所である緊張と屋外での人目を憚ることのない所業にジェネシスは動揺しつつも紅潮し、言い知れぬ昂揚感に蹂躙されていった。
セフィロスの両手は、それぞれ全く違う動きをしながらもジェネシスのベルトのバックルを巧みに外し、サスペンダーも外すと次いでジッパーを下ろし、腰の辺りを緩めると最低限、必要な分だけ彼のレザーパンツを下ろした。同時に利き手で陰茎を握り込まれ、残りの手で臀部周辺をまさぐってくる。その手は徐々に内股へと入り込み、確実に後孔へと忍び寄る。
まるで正宗を振るっている時のような、的確かつ正確無比な動きに思わず息を飲む。後孔辺りを揉むようにしてから、いつしかしなやかな指が後孔に突き立てられ内部への侵入を試みてくる。少しずつ確かめるように入ってくる指先。次第に解されていく後孔は、早くももっと大きなモノを求めるようにひくつき始めた。それに応えるよう、セフィロスは自身もベルトを外し前を曝け出すと、躊躇いなくそこへ既にいきり立った陰茎を突き立てる。
「ああっ! はあっ……あ、んん!」
ジェネシスの大胆な嬌声も、たちまち50階の強風にさらわれ掻き消される。ここでは、どんな大声を出しても支障がないようだ。
「あっ、あっ! ああーっ!!」
声が拡散しないのをいいことに、セフィロスも遠慮の二文字を忘れ間断なく突き上げてくる。セフィロスの容赦ない責めに、ジェネシスの声は最早悲鳴に近い。
たちまち吐き出したい衝動に駆られるが、陰茎を握り込まれているため吐精も出来ない。セフィロスとのセックスだと感じ過ぎて、直ぐに達してしまうジェネシスに対しての常套手段、防波堤といったところか。焦れったい感覚がジェネシスを更に追い込む。
「あっ……はあ、も……無理── っ」
憔悴しきった様子で弱音を吐くジェネシスに、セフィロスは背後から耳許に唇を寄せ低い声で囁く。
「まだだ、我慢しろ」
冷たい口調で脅し付けると、ジェネシスの首筋に噛み付いた。歯形が軽く残る程度に歯を立てて、ジェネシスを牽制する。
とはいえ、セフィロス自身も既に限界が近い。身体の相性が良すぎるのも問題だ。一方的にジェネシスを凌辱し羞恥を煽りたいのに、下手をすると自分の方が先に達してしまいそうになる。
「あっ、はあ── っ、くっ……!」
柔らかい肉壁に締め上げられ、思わずセフィロスからも愉悦の声が洩れてしまう。幸い強風のためジェネシスの耳にまでは届いていないようだが、ここで終わらせてしまうのは惜しい。
もっと長く、もっと深く、もっと重いところで繋がって、もっともっと飽きるまで愉しみたい。
セフィロスは達してしまうギリギリのところで我慢して、己れの陰茎をジェネシスの裡から引き抜いた。
突如、責め苦から解放されたジェネシスはその場にへたり込みそうになるが、それをセフィロスが許すはずもなく。両の腋の下に腕を廻すと、強引に引き上げた。
「部屋に戻ろう」
そう提案すると了承の言葉も確認せず、なかば引きずるように非常階段からビル内部の自室へと導いた。
場所を変え、今度は落ち着いたベッドの上で、非常階段での続きを堪能する。屋外でのスリリングな行為に興奮したのか、いつも以上にジェネシスはセフィロスの愛撫に敏感な反応を示す。軽く刺激を与えるだけで簡単に絶頂に到達してしまうので、ついつい何度もイかせてしまった。一度達すると更に鋭敏になるようで、続けて吐精することもある。お互い体力のあるソルジャーだから、それでも長く愉しめるのだが。近頃はドライで達することも覚えたらしく、吐き出すモノが無くなった後もオーガズムを得ているようだ。しかし、幾ら1stとはいえジェネシスの体力も無限ではない。最終的にはベッドにぐったりと横たわり、放心状態となっていた。
ほぼ無反応となってしまったジェネシスにシーツを掛けてやり、窓の外に目を向けると、既にミッドガルの街並みは夜の顔へと変化していた。黒い鋼鉄の街が、あちらこちらに灯る仄かな魔晄の光で、美しく浮かび上がっている。街の至る処から吹き出す蒸気が柔らかく街の光を朧に包み、いっそう見惚れるほどに幻想的だ。
どうして自分はこんなにも、ジェネシスに執着してしまうのだろう?
二人の関係を誰にも知られたくないと思う一方で、誰かに見せ付けたくて堪らない。
現実的に考えて、あの非常階段での行為を見咎める者などいないだろう。だが、敢えて神羅ビルの外で行為を行うことによって、ジェネシスが自分の恋人だと周囲に誇示したかったのかも知れない。見ている者はまずいない。だが、屋外である以上、可能性はゼロではない。誰に見られるとも分からない場所での行為は、セフィロスの顕示欲を充たした。
しかし、目立つような行動を多く取れば取るほど、それ相応のリスクを抱えることとなる。

ある日。もう完全に日が暮れて神羅ビルが静寂と闇に包まれた頃。
任務を終えたセフィロスが一人でソルジャーフロアを通り掛かった時。偶然マテリアルームから出てきた宝条とかち合い、声を掛けられた。出来るだけ合わせたくない顔だから、振り向きざま、あからさまに不快感を露わにしてしまう。
「クク……そんなに渋い顔をしなくても良いだろう?」
「悪いが、お前に振り撒く愛想はない」
やけに好意的に接してくる宝条を冷たくあしらうセフィロス。
「まだ、懲罰房の件を根に持っているのかね?」
全く気に留める気配もなく飽くまで鷹揚な態度で尚も近付いてくる。ムッとした態度で睨み付けるセフィロスに、宝条は怯む様子もない。
「やれやれ。そんな恐い顔をしなくても、もうヤツを懲罰房送りにはせんよ」
宝条の意外な言葉に思わず、僅かながら目を見開いて反応してしまう。
「貴様の云うことなど信じられるか!」
どうしてもセフィロスは、この宝条に対して強い反抗心を抑え切れない。彼の何でも解っているかのような態度が余計に反発心を煽る。
「案の定、かなりヤツに御執心のようだな」
相変わらず、口端を上げただけの卑屈な笑み。何もかもお見通しだと云わんばかりだ。
隠していたつもりだったのはセフィロスだけで、宝条には筒抜けだったらしい。宝条自身がセフィロスに執心しているのだから、当然と云えば当然なのだが。すると、宝条は知っていながら二人の関係を見て見ぬ振りをしていたことになる。
「しかし、考えてみれば君がヤツを求めるのは必然── ならば、今後も経過を観察する必要がある」
宝条は眼鏡のアーチをぐっと押し上げ、意味ありげな笑みを浮かべる。実に楽しそうだ。彼が二人の関係に目をつむっているのには意味があるらしい。
「だが、セフィロス。あまり目立つ行動は避けたまえ。幾ら私の権限でも、握り潰せないこともあるのでな」
宝条は自分の云いたいことを、云いたいだけ云うと、また奥のマテリアルームへと引っ込んでいった。
── 必然?」
宝条の背中を見送りながら、セフィロスは無意識に彼が残した言葉を反芻していた。
あれ程ジェネシスとの騒動に立腹していたというのに、どういった心境の変化だろう。まるでジェネシスとの関係を知った上で、認めるとも取れる発言だ。なにか彼にしか分からない意図があるのだろうか。しかし、マッドサイエンティストの思惑など推測しようがないので、深く考えるだけ無駄である。だが、理由はどうであれ彼の心変わりは歓迎すべきだろう。
宝条になど容認されなくとも、自分とジェネシスの関係は一片たりとも変わったりしない。そう強く思う一方、先程の宝条の言葉に、セフィロスはどこか安堵していた。少なくとも、再び冷たく暗い懲罰房へとジェネシスが放り込まれる心配は無くなったのだ。思いがけぬ朗報である。
もう時刻は深夜。恐らくジェネシスもとっくに休んでいるだろう。それでも、セフィロスは無性にジェネシスに逢いたくなった。逢って顔を見るだけでいい。いや、せめてキスのひとつだけでも。
この腕の中に深く抱き締めて、飽きるまで唇を貪り味わい尽くしたい。容赦なく身体を穿ち、悲鳴を上げながら官能に打ち震え、あられもない醜態を晒して敗北を喫する姿を見たい。
セフィロスはミッションのコンプリート入力も忘れ、真っ直ぐソルジャー宿舎に戻ると、そのままジェネシスの居室へと向かった。

ジェネシスの部屋の前に立ちノックを数回鳴らすと、少しの間を置いてドアの隙間から光が漏れる。どうやら起きてくれたようだ。暫し待つと、パジャマの上から夜着を羽織ったジェネシスが眠そうな顔を覗かせる。
「どうしたんだ、セフィロス? こんな時間に──
幾らセフィロスが傍若無人といえど、こんな夜遅い時間の訪問は初めてであった。寝起きで上手く働かない頭を必死に巡らせて、ジェネシスは心配そうな表情でセフィロスを覗き込む。
セフィロスは質問に答えぬまま、ジェネシスのかさついた唇に自身のそれを押し当てる。深夜の突然の訪問にも係わらず、ジェネシスに不機嫌な様子は見受けられなかった。おとなしくキスを受け、セフィロスの背中に両腕を廻してくる。
「今夜は泊めてくれ」
唇を離すと、正面からジェネシスの顔を見据え、真剣な面持ちで訴えた。
軽く目を瞠り、驚きと躊躇いと疑問とが合わさったような、複雑な表情がジェネシスから返ってくる。躊躇いはあるが、断るのは本意でないようだ。結局、諦めたようにひとつ溜め息をついて、「俺のベッドは、お前のと違って狭いぞ」と云いつつ玄関口から部屋の奥へと招き入れてくれた。
思えば初めて彼を抱いた時以来、ゆっくりとジェネシスの部屋で過ごしたことなど無かった。寝室にまで入れてもらった事さえない。最初の頃こそセフィロスがジェネシスの部屋へと通っていたが、セフィロスに余裕がなさすぎてベッドまで辿り着けなかったのだ。大概、ソファか床上に押し倒していた。加えて、いざ事を進めようとするとジェネシスから場所変えを要求されてしまう。やはり、隣室のアンジールの存在がネックだったらしい。声が隣室に洩れるのをジェネシスがあまりに警戒するので、自然と二人の密会場所はセフィロスの私室に偏っていき、ジェネシスの私室からは足が遠のいた。
寝室に備えられたベッドはセミダブルで、二人で寝るとなるとセフィロスの居室にあるキングサイズと比べかなり狭い。図体のでかい男二人なら尚更だろう。
ジェネシスは言葉通りセフィロスが「泊まる」と解釈していたようだ。先程まで寝入っていた所為で、眠るという方向にしか思考がシフトしないのだろう。羽織っていた夜着を脱ぎ捨て早々にベッドに潜り込むと、目蓋を伏せ呼吸を整え完全に寝る態勢となる。慌ててセフィロスもコートを脱ぎ、追うように半裸でベッドへと潜り込んだ。
セミダブルのベッドでは余裕がなく、意図せずとも密着した状態となる。目蓋を伏せるジェネシスの頭髪や額の辺りを確かめるように撫でつけながら、さりげなくこちら側に向かせる。次いで、頬や顎に触れてから、唇をなぞる。どうやら眠気が勝るのか。おとなしく触れられているだけで、ほぼ反応は返ってこない。だが、嫌がるような素振りも見られなかった。セフィロスはそのまま軽く口付ける。
「ん……」
甘く、ほんの少し熱の籠もる声。ようやく返ってきた僅かな反応に、セフィロスの心も逸る。釣られて軽い触れ合いも濃厚なものへと深化していく。そうして、また少し反応が強くなる。これが罠なのだ。最初は顔を見るだけ、キスをするだけ、そう思っていたのに止まらなくなる。もっと強い反応を求めて、ますます行動は激化する。
もっと彼が欲しい。強く唇を吸って、舌を絡ませる。彼の身体を侵蝕するようにじわじわと手を這わせる。幾ら求めても、幾ら貪っても飽き足りない。どうしてこんなにも彼を求めて止まないのか。
── 必然。
癪に障るが宝条に告げられた言葉がぴったりと合う気がした。必然であるならば、仕方がない。
セフィロスの全身がジェネシスの細胞ひとつひとつを求めて、狂おしいほどにざわめいていた。
ジェネシスの動きが鈍いのをいいことに、巧みに彼からパジャマを奪っていく。直に触れる白皙の肌は手のひらに吸い付くようだ。適度に鍛え上げられた筋肉質な肉体は心地好い弾力を備えている。
「はっ……ふ、ぅん」
地肌への愛撫が覚醒を促したのか、ジェネシスの反応はより確かなものへと変化していく。時折洩らす喘ぎ声にも色が充ちてきた。気怠そうでありながらも、悩ましげに身体を撓らせている。
そういう痴態が更にセフィロスを煽り追い詰めるのだが、既に止められる状態ではない彼には関係なかった。今はもう、一刻も早くジェネシスとひとつに成りたくて、それ以外の思考など完全に吹き飛んでいる。
あまりにもジェネシスを欲する気持ちが強すぎて、このままでは正気を失ってしまいそうだった。
正気と引き換えに手に入れられるものは狂喜か狂気か。
セフィロスの熱塊がゆっくりジェネシスの裡へと沈んでいく。
浅く、深く。弱く、強く。柔らかく、逞しく。
時には柔軟に、時には豪胆に。
どのように穿てば彼と真にひとつに為れるのか、試行錯誤しているようだ。
「ああっ……ぅん」
乱れる声がセフィロスを誘う。一体どんな官能を滲ませた表情で喘いでいるのか。暗い室内では確認しきれなくてベッドサイドのランプを灯す。オレンジを帯びた淡い光の中で浮かび上がるジェネシスの白貌。陶然として定まらない視線。目端は朱に染まっている。
控え目ながらも、こうして嬌声を上げるということは恐らく隣室のアンジールは不在なのだろう。しかし、時刻は深夜。あまり大きな音を立てると隣室以外にも届く可能性が高い。それを警戒して、一定以上の声量は超えないよう努力しているようだ。いじらしくもあり、意地悪したくもなり。
不意にぐっと腰を深く押し進めると、勢いびくんとジェネシスの身体が跳ねる。
「あっ!」
一段と高い喚声が響き、目元に溜まった水分が雫となって零れ落ちそうに震えている。堅牢な障壁にひびが入り脆くも決壊する寸前のような、崩れかけた表情にセフィロスの心はぐらついた。
ジェネシスが欲しい。彼を欲する気持ちは日増しに強くなる一方だ。初めてキスを交わしたあの夜から、飽きることなく彼を求め続けている。細胞ひとつひとつを余さず取り込みたいと切望するほどに── 。だが、英雄が求めているのは彼の肉体のみに非ず。寧ろセフィロスの執拗な責めに対し、あえかに乱れる恍惚と陶酔と緊張と後悔、そして畏れに震えるジェネシスの表情を見たい。知りたい。曝きたい。
好きなのだ、ジェネシスのことが。
未だに自分の裡で蠢くジェネシスに対する特別な感情に名前を付けることを拒んでいたセフィロスは、今になってようやく彼への想いをはっきりと自覚した。
単純に自分のものにしたいのではない。独占欲とは違う渇望があった。彼を己が一部として取り込みたい。彼を貪り喰らい咀嚼して自分の体内に隅々まで行き渡らせたい。そうして新たな自分からだを形成したいのだ。
だから、出来る限り深く濃く彼と交わりたい。彼を名実ともに侵したい。心身ともに犯したい。
「あっ、ああっ……う、んっ!」
ますますヒートアップしていくセフィロスの攻め手に、ジェネシスは嬌声を抑え切れなくなっていた。既に意識が混濁しているようだ。声を抑える程度の理性すら、もはや残っていない。セフィロスの支配下から逃れたがっているかのように、懸命に身を捩らせ藻掻いている。所詮、悪あがきでしかなかったが。
それから、ジェネシスが完全に意識を飛ばしてしまうまで、さほど時間は掛からなかった。お陰であまり彼の嬌声が周囲に響くことはなかったと思われる。だが、濃密なセックスは過度の疲労をもたらした。
翌日、ジェネシスの意識が戻った時には、すっかり日が昇ってしまっていた。眠っていたと云うよりは失神に近い状態だった為、かなり強い眠気が残っている。
ジェネシスは大きな欠伸を洩らしながら、背筋を伸ばしベッドサイドの黒い携帯端末を掴むと時刻を確認した。もう時刻は昼過ぎだった。夕べの記憶が途中までしか無い。
気怠い身体を無理矢理起こして周囲を窺うが、セフィロスの姿は見当たらなかった。何やらリビングの方から音が聞こえてくるので、帰った訳ではないらしい。ベッドの上でぼうっとしながら、もう一寝入りしようか、はたまたシャワーを浴びるべきか、と暫し思い悩む。
やはり一旦起きてシャワーを浴びようと決めると、ベッドサイドのガウンを掴み取る。軽くガウンを羽織ると、寝室を出てリビングへと向かった。リビングのソファでは当たり前のようにセフィロスが寛いでいる。彼は既にシャワーを浴びたのだろうか。勝手にバスローブを身に纏っていた。
「起きたか?」
セフィロスの問い掛けに適当に相槌を打って応えると、彼の隣に腰掛ける。セフィロスの手にはマグカップが握られていた。何となくそれを眺めていると、「お前も飲むか?」と差し出される。中身はコーヒーのようだ。芳醇な香りが漂ってくる。恐らくキッチンも勝手に使用したのだろう。
まだ寝ぼけ眼だったジェネシスは、マグカップを有り難く受け取るとソファに一段と身を沈めた。貰ったコーヒーをひとくち啜って、ようやく人心地つく。思いの外、自室にセフィロスが居るという慣れない状況に緊張していたようだ。
シャワーはもう少し頭がはっきりしてきたら浴びてこようとぼんやり考えつつ。ふと夕べの事を思い出した。昨晩は時刻が遅いし眠かったのもあって深く追求せずセフィロスを招き入れたが、例え恋人であろうとも余程の事情がなければあんな夜更けに訪問しないだろう。
「何か、あったのか?」
敢えてジェネシスはストレートに聞いてみた。回りくどいのは却って英雄を不機嫌にさせる。
「何か── とは?」
ストレートとはいえ唐突すぎたようだ。寝起きということも相俟って、いまひとつジェネシスも頭が回っていない。仕方なく更に言葉をつなぐ。
「あんな夜中に突然訪ねて来るなんて……何事かと思うだろう?」
横目でちらりと隣を一瞥しながら尋ねるジェネシスに、セフィロスは鹿爪らしい面持ちで頷いてからジェネシスの顔を覗き込む。
「お前の顔が見たくなったから」
不意にセフィロスは身体を傾けてジェネシスに近付く。ジェネシスは取り落としそうになったマグカップを慌ててテーブルの上に避難させる。
「セフィロス、俺は真面目に……」
ジェネシスは少し憤慨した様子で返す。適当な理由を挙げて本心を誤魔化そうとしていると解釈したのだ。だが、セフィロスは更に身を乗り出しジェネシスに自らの顔を寄せると、柔らかく口付けを施す。昨夜、行為の最中にようやくジェネシスを好きであると自覚したセフィロスはいつにも増して積極的だった。
穏やかで優しい口付けは次第に激しく情熱的なものへと変化する。口付けを続行しながらも、ジェネシスの肩口辺りを押さえるとそのままソファの上に押し倒した。ジェネシスの羽織っていたガウンを寛げると昨夜の痕跡が白皙のあちらこちらに朱く残っている。ここまで彼を貪っておいて、まだなお物足りないと感じている自分に呆れながらも再度彼に舌を這わせ始める。首筋、胸筋、腹筋の辺りまで満遍なく嘗め、時折吸い付いては更に朱い痕跡を増やしていく。起きてきたばかりでまだシャワーも浴びていない。早々にもう一度身体を求められるとは思っていなかったのか、ジェネシスは僅かに抵抗の素振りを見せた。しかし、セフィロスの侵攻が深くなるにつれ抵抗は弱まり、ついには嬌声が洩れるようになる。
「ん……はぁ、ああっ……」
昨夜は早くひとつになりたいと逸るあまり、充分な愛撫をしなかったような気がして、いつになくじっくりと彼の身体を舌で味わい、手のひらで感触を楽しんだ。昨夜の痕跡を見れば、どれほどの愛撫を施したかなど一目瞭然。不足などあろう筈も無かったのだが、それでも尚セフィロスはかつえていたのだ。
「はっ……ああ、んっ!」
嬌声を引き出せるだけ引き出さなければ満足出来ない。理性など残っているうちは駄目だ。自意識など保てないほどドロドロに崩壊させてから、己れの裡に取り込まなくては──
無理矢理にジェネシスの両脚を大きく左右に開かせると、その間に自分の身体をねじ込ませる。後孔を指で解す間も惜しく、早々に陰茎の先をあてがう。抵抗されている訳ではないが、折り曲げた脚の膝頭辺りを押さえて身動ぎを制した。仮にこの状態から抵抗されたとしても、もはや中断という選択肢はない。とうにジェネシスの意思を確認する余裕など失われているのだ。無造作にジェネシスの脚や腰の辺りを掴み、拘束を強めた上でセフィロスは自身を突き立て内部へと侵入していく。
「ああっ! ん……ふっ」
陰茎の根元まで全て収まるまで、いつも落ち着かない。完全に呑み込まれてようやくセフィロスは息を吐く。やはりジェネシスも奥深くまで侵入を果たされると自我を保つのが難しいのだろう。表情筋は強張り目付きも虚ろになる。もう少し追い詰めてやれば、一気に崩れてしまうだろう。辛うじて、まだ限界ぎりぎりのところで一縷の理性を僅かに繋いでいる。
セフィロスはジェネシスの膝裏に手を差し込むと、より屈伸の体勢を強いる。そうしてから更に奥深くへと潜っていく。理性を奪い去るまで追撃の手を休めることなど出来ない。応えるようにジェネシスの嬌声も一段と大きく響いた。しかし、その瞬間。
がたりと隣室から物音が聞こえた。
気の所為でも聞き間違いでもない。朧気だった意識が瞬時に覚醒状態まで引き上げられると、ジェネシスは慌ててセフィロスの下から逃げだそうと暴れ始めた。もともと脚や腰の辺りを抑え込まれ半拘束状態だったのだから、そう簡単に抜け出すことなど出来ず、無駄な努力に終わったのだが。
「離せ! セフィロス!!」
身体による反撃が無効だった為に、言葉での抗議に切り替える。一方でセフィロスは、律動を止める気さえ無いようだった。
「あっ……く、やめ……あ、アンジールが……」
息も絶え絶えに訴える、その耳元に顔を近付けるとセフィロスは囁いた。
「分かってる」
「なっ……!?」
「お前が起き出す前から、とっくに戻っていた。今更だ」
全く聞く耳を持たず、それどころかいっそう律動を速めてくる。あまつさえ両手首を掴まれて、自分で口を押さえることも出来ない。
「あっ……くっ──
抵抗を諦めたジェネシスは、唇を噛み締め必死に嬌声を抑え込むしかなかった。
ようやくお互い吐精して解放された時にはジェネシスの唇は噛み締めすぎた所為で、切れて血が滲んでいたほどだ。
「怒ったのか?」
「別に……」
素っ気なく応えるが、明らかに不機嫌顔だ。ジェネシスは乱れたガウンを整え肌が露出しないよう身体に巻き付けると、不意にソファから立ち上がる。と、隣室を隔てる壁の方に寄って行き、いきなり壁をどんどんと叩く。
「アンジール、いるんだろう? 腹が減った。何か食わせてくれ」
暫し、空白の間があってから「わかった」とくぐもった低い声が響く。
それから、振り返ったジェネシスがセフィロスの方へ向き直り、硬い表情を崩さぬまま何か云いかけた瞬間。
「三人分用意してやるから、セフィロスも連れて来い」
再びアンジールの声が届いて、ジェネシスとセフィロスは無言で顔を見合わせた。

念入りにシャワーを浴び、簡単に身支度を済ませると、ジェネシスはセフィロスを伴ってアンジールの部屋を訪れた。
アンジールの手料理が並んだ食卓を三人で囲む。ジェネシスの対面にはアンジールが、隣にはセフィロスが座っている。二人が1stに昇格してから、それなりにセフィロスとも交流を続けてきたつもりであったが、こうして三人で一緒に食事を摂るのは戦場以外では初めてだった。その所為か、どこか落ち着かない妙な居心地の悪さが纏わり付いている。
「セフィロス、もし食べられない物があったら遠慮なく残して構わないからな」
普段のセフィロスの嗜好が分からないため、アンジールは彼が気を遣わないように言い添える。
「いや、大丈夫だ。どれも美味い」
満足そうな笑みでセフィロスが返す横で、ジェネシスは相変わらずの仏頂面で食事を口に運んでいる。
「いつから知ってたんだ?」
唐突にジェネシスはアンジールを睨みつけ、詰問を始める。
「昨日今日知ったというツラじゃないだろう」
「ジェネシス。アンジールはずっと前から俺の気持ちに……」
「俺はアンジールに聞いているんだ」
セフィロスが擁護の手を差し出そうとも軽く一蹴されてしまう。
アンジールは軽く咳ばらいをしてから、
「そりゃあ、ジェネシス……お前は必死に隠していたつもりかも知れんが」
ちらりとセフィロスの方を見遣って
「見ていれば分かる。その……セフィロスの気持ちは以前から知ってはいたし、な」
なんとも歯切れが悪く言いにくそうだ。
「よく一緒に居なくなったり……かと思えば一緒にソルジャーフロアに戻って来たり、お前達が親密な関係になったのは気付いていた」
懲罰房事件の後にささやかながらそういった噂もあったのだが、敢えてその件については言及しなかった。却ってジェネシスの逆鱗に触れてしまう。アンジールに感付かれていたことに関してはやむを得ないとしても、周辺その他にまで怪しまれていたなどとは夢にも思っていない。赤毛の幼馴染みは困ったところで自信家なのだ。
アンジールの説明を聞いて幾らか納得は出来たらしく、ジェネシスの表情からは少し硬さが取れる。
「まあ、お前には隠し切れるとは思っていなかったからな……仕方ない。しかし……」
握っていたフォークを皿に突き立てて、質問を重ねる。
「セフィロスの気持ちを知っていた、というのは?」
「言葉通りの意味だ。セフィロスはお前に特別な感情を抱いている」
「ふん、大袈裟だな。単なる身体だけの関係に決まってるだろう」
「ジェネシス……?」
名を小さく呟きながらもセフィロスは二人の会話に口を差し挟んでいいのかどうか、迷ってしまった。ジェネシスは二人の関係を誤魔化す為に敢えてそういう言い方をしているのか、本気で身体だけの関係だと思っているのか。セフィロス自身にも判別が付かなかったのだ。
「何を云ってる。お前だってセフィロスのことは以前から──
幼馴染みの言葉を遮るようにジェネシスは、バンと大きな音を立ててテーブルを叩く。
「アンジール! 余計なことは云うな!!」
思い切り歯噛みして乱暴に立ち上がる。
「くそっ! お前のそういうところが、嫌いなんだ!」
吐き捨てるように云うと、そのまま背中を向け、ジェネシスは部屋を出ていってしまった。
「すまない、アンジール。俺の所為で……」
セフィロスは、自分の所為でアンジールとジェネシスが喧嘩をしてしまったと思って恐縮してしまう。
「ん? ああ、気にするな。いつものことだ」
アンジールは先程のジェネシスの科白を本気だとは捉えていないようで、至って鷹揚に構えている。彼にとっては幼馴染みとの口喧嘩など日常茶飯事なのだ。いま気に留めるべき事は他にある。
「それよりもセフィロス。お前達が真剣だろうが遊びだろうが、それはさておき。今のままの状態ではまずい」
それはセフィロスにも思案どころであった。ようやく手の内に収めたと思ったジェネシスを怒らせてしまったのではないか、という危惧。アンジールとジェネシスの仲にさえ亀裂を入れてしまったのではないか、という罪悪感。もう以前のような関係には戻れないのだろうか。少し前に感じた満ち足りた気持ちとは真逆の焦燥感に苛まれ、不安ばかりが募る。
「そこで、ひとつ提案があるんだが……な」
テーブルに肘を付いた片腕で顎を支えながら、アンジールは真剣な面持ちで静かに切り出した。


to be continued
2013/12/23-2014/3/28
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