緋色のバーコード (前編)

恋人になったら、もっと簡単に物事が進むと思ってた。
付き合うようになったら、何もかもスムーズに上手く行くのかと思ってた。

「まるでウエスタンリリーだな」
真紅の革のコートに身を包んで荒野の崖っぷちに佇んでいると、幼馴染みが揶揄するように声を掛けてきた。任務を無事終えた充足感と解放感から一息つきたくて、何もないだだっ広いだけの無味乾燥な荒野を眺めていた時の事だった。

ウエスタンリリー
Western Lily(Lilium occidentale)
鮮やかな緋色の花弁が印象的な美しい孤高の百合。
その美しさ故に過剰に乱獲され、現在は数少ない生息地に僅かに種を残すだけの稀少な華。

写真が趣味のアンジールはその数少ない生息地にわざわざ赴き、ウエスタンリリーの写真を撮りに行った事もあるくらいだ。
真紅のコートを身に纏い荒野に立つジェネシスは、美しく力強く気高ささえ漂うその艶やかな緋色の百合を思わせた。
その艶やかな百合のように派手なセフィロスから貰った真紅のコート。
アンジールには、このコートがセフィロスからの贈り物だとは教えていない。なんとなく言いそびれて、自分がセフィロスと付き合っている事さえ未だ伝えていなかった。
だから、何故よりによってこんなに目立つ紅いコートを私服に選んだのかと問われても本当の事は言えず、いつも適当に答えを誤魔化していた。幼馴染みで親友のアンジールにここまで本気で隠し事をしたのは、これが初めてかも知れない。
アンジールが苦労して撮ってきたウエスタンリリーの写真を当然ジェネシスも見せて貰っていたが、確かに他の百合とは一線を画するような美麗な百合で、その華に喩えられるのは悪い気はしなかった。

任務から帰還すると、真っ先にブリーフィングルームへと向かう。
ジェネシスは慣れた手付きでミッションのコンプリートを入力すると、素早くタッチパネルを操作して次の任務のチェックをする。
次のミッションは少し長期になりそうだ。そうなると、自然、恋人のミッションも気になってくる。ジェネシスの指は流れるような動きでセフィロスのスケジュールを呼び出していた。
他のソルジャーの詳細且つ具体的なミッションのスケジュールを閲覧出来るのは1stだけだった。2nd以下が閲覧出来るのは飽くまでも簡易なものでしかない。それは1stの仕事の性質上必要な事であったのだが、と同時に1stに与えられた複数の特権の内のひとつとも言えた。
セフィロスのミッションの詳細を見てジェネシスは瞬時に固まり、恐る恐るといったていで先にミッションのチェックを済ませ待っててくれている幼馴染みを横目で窺う。
「どうした?」
アンジールは幼馴染みの常とは違う様子を容易く察して、自分から問掛ける。
「次のミッションなんだが……その、俺と代わってくれないか?」
── 構わんが……俺の任務は、正直お前にはツマランぞ?」
「何でもいい。代わってくれ!」
普段、面倒な任務ほど遣り甲斐があると意気込んで張り切る傾向にある幼馴染みが、ここまで嫌がる程の任務とは何なのか?
常なら任務拒否すらしようとしないジェネシスがこんな風に懇願する姿自体が珍しく、アンジールは率直に疑問をぶつけた。
「厄介な任務なのか?」
ジェネシスは即答出来ず、一瞬唇を噛み締めてから苦々しげに答える。
「いや、セフィロスと一緒なんだ……」
── ?」
「セフィロスと同じ任務なんだ!」
一度言っただけでは、今ひとつ要領を得ない様子の幼馴染みに、ジェネシスは重ねて説明する。
「なんだ? また、セフィロスとケンカでもしたのか?」
セフィロスとジェネシスが今や付き合っているとは知らないアンジールは、二人が付き合うまでに起こしたイザコザは単なる喧嘩だったと思い込んでいる。
「違う……が、セフィロスと一緒の任務は、もう御免なんだ!」
ジェネシスは吐き捨てるように言うと、忌々しそうにセフィロスのスケジュールを映し出すディスプレイを見詰める。ディスプレイの発する淡い光がジェネシスの碧い虹彩に反射して、独特の煌めきを形成していた。

今まで、ジェネシスがセフィロスと同じ任務になったのは、たったの一度だけ。
1stを複数人投入した大きなミッション。
ある意味、二人が正式に付き合う切っ掛けともなった。あのミッションから、ジェネシスはセフィロスから贈られた紅い革のコートを身に纏うようになったのだ。

◇◆◇

馴染みの防具屋に、セフィロスから贈られた紅い革のコートにプロテクターを付けて貰って、準備は万端。
初めてのセフィロスと同じミッションに、仕事である事は解っていながらもジェネシスはどこか浮足立ってしまう自分を抑えられなかった。
今までずっと避けていた所為で、ミッションに従事するセフィロスの姿というものを見た事が無かったし、想像する事も難しかった。だが、恋人としては兎も角、幼い頃から憧れていた英雄の姿を間近で見る事が出来る。いや、それどころか一緒に同じ任務に就くのだ。
神羅に入社した頃から何時か叶うであろう事を願った夢が、遂に現実となる。多少、浮わついてしまうのも仕方がないだろう。
有り体に言えば、明日の遠足を楽しみにする子供の如くジェネシスは内心はしゃいでいたのだ。

1stが複数参加しているとは言え、A隊、B隊といった感じで別々の隊に別れて行動しているから、ジェネシスと一緒に行動を共にする1stはセフィロスだけだった。つまり、ジェネシスとセフィロスは同じ隊なのである。
これは、恋人としての贔屓目もあるのだろうが、ミーティングの時点でセフィロスがジェネシスを自分と同じ隊に……と希望してくれたからだ。ジェネシスとしては、セフィロスと同じ隊ならばより英雄の活躍を間近で見れるであろう事は確実で、嬉しく思う気持ちもあり、反面、仕事に私情を差し挟んでいるようで素直に喜べない気持ちもあった。これがまだセフィロスとの初めてのミッションでなければ、今までの実績を買ってくれたのかと、もう少し素直に喜べたのだが。
セフィロスは同じミッションに従事した事など無くても、過去のミッションデータを参照すれば充分にそのソルジャーの能力が分かる、と言ってくれた。セフィロスがわざわざ自分にその事を告げたのは、意味があるのだと思う。
英雄であるセフィロスは、それこそ、その場限りの何も知らないソルジャーと急遽同じミッションに就く羽目になる事も多いらしい。そういう時は過去のデータが役に立つのだと。
だから、単純に恋人だからという理由で自分をパートナーとして同じ隊に推してくれた訳ではない。キチンと自分の過去の実績を鑑みた上での事なのだと。
そうジェネシスは思いたかった。そう信じたかった。
だが、セフィロスの常と変わらぬ英雄ならではの行動様式が、単に自分を傍に置いておきたいが為に同じ隊に推薦したのではないのかと勘繰らせるには充分な程に行き過ぎており、ジェネシスを色々な意味で悩ませていた。

拠点に到達して安全を確認すると、先ずはテントを設営する。主にこれらの仕事は3rdが行う。2nd達は念の為、更に拠点周辺の安全確保を確固たるものにするべく、周囲の偵察と状況確認の為の情報収拾を兼ねて拠点周辺を徹底的に探索する。
指揮官に当たる1stである二人は、最初に設営された本営となる大きなテントで部下からの報告待ちや、何かあれば直ぐに新たな指示を出せるように待機をしていた。勿論、その他に今回のミッションに関する再検討や重要箇所の見直し、別動隊との連携を迅速に行う為、無線による更なる綿密な打ち合わせなども重ねていく必要がある。
必然、本営のテントではセフィロスとジェネシスの二人で過ごす事が多くなる。
いや、その事自体は全く構わないのだ。英雄が仕事に集中さえしてくれていれば。
まだミッションの初期段階である現時点では、部下からの報告や他部隊との打ち合わせはそれほど頻繁ではない。結果、特にする事もなく待機── という時間が多い。待機も仕事のうちであるから、ジェネシスなどは自分で持ち込んだ幾冊かの本を読んだりして時間を潰していた。ちなみに『LOVELESS』は持ってきていない。あれは本当にジェネシスにとって特別な本なのだ。だから、どうしても戦場には持ち込みたくない。
持ってきた本の中にはアンジールから借りてきたグラフィック系の雑誌もある。アンジールのように自分でカメラを構えて写真を撮りたいとまでは思わないが、写真を見るのは好きだった。美しい写真はさながら一流の絵画の様で、眺めているだけでも時間を忘れる。

ジェネシスがそうやって様々な本の世界に没頭していると、自分の存在をないがしろにされているようで面白くないのか、単に何も考えていないのか。しばしば、不意に手元の本をセフィロスに奪われる。
当然、抗議の声を上げるのだが、あの英雄が聞く耳を持っている筈もなく。抗議の為に振り上げた右腕を容易く掴まれ抑え付けられて、挙げ句無理矢理、唇をも奪われる。
「……ン、っ」
どんなに拒絶しようとも、一旦、甘い声が唇から洩れてしまえば、完全にセフィロスのペースとなる。ジェネシスの理性を奪いながらも、唇だけではなく顎や首筋にまで口付けは巧みに移動し、更なる艶声を引き出していく。
「はぁ……ダメだ、セフィ、ロス」
言いながら、セフィロスの後頭部に縋りつくように両腕を廻すジェネシスは、残念ながら誘っているようにしか見えない。
椅子に座っていた筈が、いつの間にか床面に押し倒され、セフィロスの腕はジェネシスの下半身に及ぶ。
「ぅ……」
ボトムの上から固くなったモノを確認するかのように触られて、小さな呻き声が洩れる。それに呼応するようにセフィロスの口端が上がり、ベルトのバックルに手が掛けられ、暴かれていく。
「セフィロ……ス」
微かに名前を呼ぶジェネシスの淡い碧眼には、官能の為か懇願の為か、僅かに涙が滲む。
下着ごとボトムを引き擦り下ろされ、下半身を露にされて。ようやくセフィロスは最後までするつもりなのだと理解するが、その頃にはもうジェネシスに抵抗出来るだけの気概は無い。
唾液で濡らした指先で後孔を抉られる。
「くっ……ぅ!」
全身を突き抜けるような刺激が走って、身体を弓なりに反らせる。
呼吸が乱れ、身体が痺れ、視界の焦点が合わなくなる。
自分の身体が、セフィロスの思いのままに支配されていく感覚。何処をどうすればどんな反応を示すのか、何処にどういった刺激を与えればどんな快感をもたらすのか、この男は全て把握しているのではないのか? そんな錯覚にさえ陥る。
「や……ヤダ」
支配され追い詰められる感覚に、無意識に拒絶の言葉が口を衝いて出る。
しかし、無慈悲な英雄は後孔を責める手を休める事なく、散々喘がされた後ようやっと指が抜かれたと思った次の瞬間には英雄の固く吃立したモノが容赦なく肉壁を割って侵入してきた。
「ああっ! ぐっ、ぅ……セフィ……」
目を見開いて、宙を仰ぐ。
まるで酸素が足りないかのようにますます乱れる呼吸。激しくなる動悸。全身に滲む汗。熱を帯びていく身体。真っ白になる思考。
身体を繋いだ時点で、既にジェネシスは精神的にも肉体的にも疲弊しきっていた。

── その時、全ての思考も苦痛も快楽も絶望も一瞬にして薙ぎ払う、正宗の一閃の如き緊急を告げる無線の呼び出し音が、本営のテント内にけたたましく鳴り響いた。
セフィロスは銀の髪をさらりと揺らしながら顔を上げると、未だ鬱陶しく鳴り響く無線機を忌々しそうに見詰め、やがて仕方なく渋々といったていでジェネシスの体内から自身を引き抜くと、不快な表情を露にしたまま無線機を取った。

2ndからの緊急連絡は、ベヒーモス級のモンスターの出現。色や形状が既知のベヒーモスとは違っており、全く新しい亜種と思われた。
未知のモンスターは出来得る限り生きたまま捕獲するように── という要請が科学部門から出ている。その為、2ndでは手に負えず1st二人の出番となったのだ。
セフィロスは至って平常と変わりなく普段通りに振る舞っているが、中途半端なところでお預けを喰らって昂ぶったままの状態で放置されてしまったジェネシスの頬は未だ上気している。ソルジャーとしての仕事や責任といったモノを放棄するつもりは毛頭無いが、つい先程まで行われていた行為の影響でジェネシスの身体は存分に高められてしまった。無意識に英雄の姿を追うその碧玉の瞳には尋常ならざる熱が籠もり、ジェネシス本人も気付かぬうちに2nd達が思わず見惚れる程の秋波を周囲に四散していた。
ジェネシスがセフィロスの一挙手一投足をその熱い目で追うように、2nd達もジェネシスの挙動から目が離せず無意識に追ってしまう。
マスクを身につけて行動する事が多かった2nd時代から、ジェネシスのソルジャーらしからぬ美貌は本人の預かり知らぬところで時折話題にあがる程度には噂になっていた。が、1stに昇格しマスクを外し、私服の赤い革のコートを身に纏うようになってからは、ますますその美しさに磨きが掛かったのではないかというのが周囲の共通認識であった。いや、美貌がどうこうと言うよりはコケティッシュ、妖艶さ、艶めかしさ、そういったものが急激に増したように思われた。
それは勿論、ジェネシスがセフィロスと付き合い始めたのが遠因である事は間違いないだろう。セフィロスに身体だけの関係でもなく且つ友人としてだけでもなく、恋人として性的にも精神的にも求められるようになって例えようのない充足感がジェネシスに一層の艶やかさを与えていた。
そして現在、つい先程まで行われていた行為の所為でジェネシスが放つ妖艶さは更に増し、ただならぬ状態となっていた。

ベヒーモスが出現したのは、ごつごつした岩場の多い荒れ果てた赤土の荒野。
とりあえず一旦2nd達は待避させ、1st二人だけで標的を岩場の奥に追い込む算段を立てた。
迷路のように入り組んだ岩場で、ジェネシスの放つ3連ファイガによってヘビーモスの逃げ道を塞ぎ、ある一ヶ所に向かうよう誘導する。岩場の奥の行き止まりまで追い詰めて、後はセフィロスの「心無い天使」を使えば生きたまま捕獲するのは容易だ。
だが、ジェネシスがセフィロスにOKのサインを目配せで送ったかどうかという迅速なタイミングで繰り出されたのは、あろう事か「八刀一閃」だった。勿論それを喰らったベヒーモスの亜種が耐えきれる筈もなく、あっけなく力尽きて崩折れる。いや、セフィロスなら例えこの亜種が上位のベヒーモスであったとしても、八刀一閃など使わず一撃で倒すことも造作ないだろう。
呆然として立ち尽くすジェネシスを後目にセフィロスは優雅な歩調でベヒーモスの死体に近付くと、徐に屈んで死体の一部を採取した。
「セフィロス……あんた、何を……」
全く予定の段取りとは違う事をやられたのだ。ジェネシスは呆れた口調で詰る。
「生きた個体を確保出来なくても、細胞の一部を採取出来れば問題ない」
セフィロスはどうでもいい事のように素っ気なく答える。
理屈の上ではセフィロスの言う事も間違いではない。但し、それは生きたまま確保するのが困難だった場合の話で、宝条の要望としては生きたままの、つまり生体サンプル確保が一番望ましく、現にそれは可能であった筈だ。セフィロスが段取り通りに事を運んでさえくれていれば……。
採取した細胞を専用のケースに入れ懐にしまうと、セフィロスは未だ不満そうな目で見詰めてくるジェネシスの腕を無理矢理取って、近くの大きめの岩場にその背中を押し付けた。
身動きが出来ない程度の力で固定されて、ジェネシスの眉間には皺が寄る。文句を言おうと口を開き掛けた瞬間、セフィロスの鋭い眼光に睨まれて思わず息を呑む。
「俺の前で他の奴に色目を使うとは、良い度胸だな」
「な、に言って……」
あまりに予想外の指摘に面食らってそれ以上の言葉も出ない。
「節操なく誰かれ誘うような瞳で見ていただろう? 皆、お前に釘付けだった」
セフィロスはジェネシスの顎を鷲掴むようにして無理矢理顔を上向かせる。
「セフィロス……ん、やめ──
そのまま唇を奪われ、ボトムの上から乱暴に股間辺りをまさぐられる。
「任務の最中に欲情していたとは……な」
冷淡な口調で詰められてジェネシスの額には汗が滲む。
「あ、あんたの所為だろう? あんな中途半端なところで……くそっ!」
「俺に欲情してたのか?」
「当たり前だ! あんた以外の奴なんて……」
続きを言うのを遮られて再び唇を塞がれる。粘着質な、濃厚なキス。頭の奥が痺れてまともな思考さえも奪われそうだ。
「んっ……クッ」
ジェネシスのペールブルーの瞳は更に艶を帯びた煽情的なものへと変化する。
「セフィ……」
切なげな声で名前を呟くと、驚く程耳元近くで低く囁かれた。
「さっきの続きをして欲しいか?」
忌々しくも悩ましい誘惑。
2nd達からは離れているとはいえ、今は任務の真っ最中だ。許される行為ではない。だが、セフィロスは囁いた直後からジェネシスの耳朶をねっとりと舐め上げてくる。ピアスの金属音がジェネシスの理性を奪った事を知らせる合図のように小さく鳴り響く。みるみるジェネシスの力が抜けていき、押し付けられた岩場に完全にその身体を預けた格好になる。こうなるともう殆どジェネシスの抵抗は望めない。
セフィロスは、ジェネシスの身体を反転させると岩場に向かって手を付くように立たせた。バックルを外し、ボトムを引きずり下ろす。
「ぁ、ああぁ……!」
ゆっくり後孔に忍び入り、二本、三本と増やされるセフィロスのしなやかな指に抑え切れなかった嬌声が上がる。セフィロスが静かに指を引き抜くと、後孔は強請るようなひくつきを見せる。それに応えるように当てがわれる異物。
眉間に皺を刻み目端に水分を湛えるジェネシスの裡に侵入してくる固く逞しいセフィロスの雄に、先程テント内で行われた行為によって高められた肉体の感覚が呼び覚まされ、急激に強度の快感をもたらす。
みっともなく喘いで、岩場にしがみつき身を捩りながら快感に翻弄され、果ては欲望を吐き出す直前まで追い詰められて。
「お前は俺だけのものだ。── 誰にもやらない」
後ろ髪を乱暴に掴まれ、耳元で囁かれる脅迫めいた束縛の言葉。その脅迫に屈服したかのようにジェネシスは己れの精を吐き出してしまった。

1st二人が2nd達が待つ拠点に戻った時、二人がベヒーモスの生体の捕獲に失敗した事に誰もが驚いた。
しかし、心身共に消耗しきったようなやつれた様子のジェネシスを見て、かくも強力なベヒーモスだったのかと2nd達は納得したのだった。

◇◆◇

ジェネシスにとってセフィロスとのセックスは勿論嫌であろう筈もないのだが、精神的にも肉体的にも追い詰めてくる内容のものが多く、ミッションの合間にさえお構い無しに行われるそれらにジェネシスはすっかり疲弊してしまっていた。ほとほと困り果てたジェネシスは、二度とセフィロスと同じミッションには就くまいと心に誓ったのだ。
幸いにして、今回のミッションはアンジールが代わってくれた。その代わってもらった、本来はアンジールが行く筈だったミッションについての説明を受ける為、ジェネシスは51階のソルジャー指令室を訪れる。
現れたジェネシスを見て、統括であるラザードは訝しげな表情を見せた。意図を察してジェネシスは訊かれる前に答えてやる。
「アンジールと代わって貰ったんだ。この任務は俺が行く」
ラザードは眼鏡を片手で軽く押し上げ、少し意外といった様子の反応を見せた。
「あ、ああ、そうだったのか……。それは、その、構わないが……」
どこか煮え切らない態度の統括に、ジェネシスは質問をぶつける。
「俺じゃ、不味かったか?」
「いや、君達がそれで良いならこちらは一向に構わないよ。ただ、このミッションはアンジールの希望で入れたものだったからね」
「アンジールの……!?」
予期せぬ言葉に、今度はジェネシスが戸惑いの声を発した。任務を代わって貰った時のアンジールの様子からは、そんな事情は微塵も感じられなかった。しかし、今さら問い質す訳にもミッションを変更する訳にもいかない。
どうやら、このミッションはそれ程難易度が高いものではないらしく、ラザードも淡々とした様子でミッションの説明に入る。
「この任務自体は、そんなに難しいものではないんだ。ただ、上位のモンスターが多く出現する地域だから1stじゃないと少し心もとなくてね」
説明しながらラザードは滑らかな手付きでキーボードを叩き、ディスプレイに必要な情報を表示させる。
「このミッションの目的は『DNAバーコード』の収集だ」
「DNAバーコード?」
「そう。今、科学部門が総力を上げて取り組んでいるプロジェクトがある。それが、DNAライブラリの構築だ」
DNAバーコードライブラリの構築。
それは、ミトコンドリアに含まれるCO1遺伝子をDNAバーコードとして利用し、DNA断片から即座にモンスターや動物等の種別を識別出来るようなシステムの構築、並びにDNAバーコードのデータベース化という一大プロジェクトであった。
簡単に言えば、採取した細胞の一部をDNAバーコードを読み取る専用の機器に取り込みライブラリに照会すれば、それが何という種類のモンスターや動物であるかが直ぐに分かる、というシステムなのである。
このシステムが構築されればライブラ等のマテリアが使えない一般の科学者でも直ぐにモンスターや動物の種別の判定が出来るし、もしライブラリに無いバーコードであれば、それは新種であるとの判定も容易に出来る。
その為には、まずDNAバーコードの収集とライブラリの充実が必須なのだ。
「だから、まあ、内容的には大仰に聞こえるかも知れないけどね、要は色々なモンスターや動物の細胞を採取してきて欲しい、という事なんだ」
「つまり、生体じゃなくて構わない……という事か」
「そうだよ。細胞の一部で良いんだ。簡単なミッションだろう?」
成程、アンジールがつまらないミッションだと言っていたのも納得出来る。
ひょっとすると、セフィロスはこのプロジェクトの事を知っていたのかも知れない。だから、生体サンプルを持ち帰る事に拘わりが無かったのか。
だが、どれほど退屈なミッションだろうと、ジェネシスにとってはセフィロスと一緒のミッションと比べれば数段マシだった。

ミッションに赴く前に、ジェネシスはアンジールの居室に顔を出した。このミッションが、元はアンジールが希望していたミッションだったというラザードの話が気になったからだ。
部屋を訪れると、アンジールは次のミッションの為の準備で忙しそうにしていた。
「どうした? ジェネシス」
この幼馴染みは、自分の顔を見ただけで何かを察したのだろう。ジェネシスが口を開くよりも先に聞いてきた。
「いや、その……今回のミッションなんだが、本当に代わって貰って良かったのか? お前が希望していたミッションなんだろう?」
躊躇いがちに疑問を投げ掛けると、アンジールは容易く破顔して「お前になら良いんだ」とジェネシスの肩を叩きながら、全く気にも留めていない様子で言った。
「いや、寧ろお前に行って欲しい。そう思ってる」
アンジールの意味深な発言にジェネシスは理由を問うた。が、アンジールは「行けば分かる」と言って、それ以上の事は決して教えてはくれなかった。

to be continued
2009/5/22‐6/26
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